死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います 作:くぼさちや
第三層、探求の草原。
メイプルの周りにはゴブリン、スライム、パワーボアがそれぞれ複数体と、多くのモンスターで囲まれていた。
キリトはその様子をモンスターからタゲの取られない距離から見ている。手出しをせずメイプルひとりにその場を任せるつもりでいた。
しかしレベルだけで言えばあと二、三層上だろうと問題なく戦える値でも、ヒドラ戦で急激にレベルアップしたばかりのメイプルだ。プレイヤースキルの伴っていない今のメイプルはモンスターの数に対応しきれず、たびたび後ろから攻撃を食らっては追い払うように短剣を振るっている。
(そろそろきつそうかな?)
キリトは索敵スキルを展開して周囲の様子を確認した。周囲の地形を映し出す地図がより明確な情報を映し出す。同時に付近のモンスターの位置はもちろん、その名前、レベルまでもがはっきりと示された。
そしてメイプルとキリト以外にプレイヤーの姿はない。キリトのスキル熟練度を考えると、この階層のプレイヤーでキリトの索敵スキルから逃れられるほど高い隠密スキルを持つ者はいないだろう。
「よし、メイプル! 今なら魔法を使っても大丈夫だ」
「待ってました!」
メイプルは短剣である新月を掲げた。
「ヒドラ!」
その掛け声とともに抜き放たれた短剣から紫色の影が伸び、三つの竜の首になって頭上に現れる。赤い瞳が周囲のモンスターを威嚇するように光った。
「行っけええええ!」
ヒドラの口から毒液が放たれ、メイプルもろとも周囲のモンスターが猛毒に包まれる。しかしメイプルだけは状態異常にかかることなく、追撃とばかりに正面にいたゴブリン三体にヒドラを食らいつかせた。
三つの首がそれぞれゴブリンの頭を捉え瞬く間にポリゴンとなって散る。
「うわわっ!」
その瞬間、急な衝撃がメイプルを襲った。背後からパワーボアが突進攻撃を仕掛けたのだ。そのままパワーボアの背中に乗り上げるようにして収まったメイプルはまっすぐ突き進むパワーボアに必死にしがみつく。
(この距離なら...!)
大盾を固定した左手でパワーボアの毛並みを掴んだまま、メイプルは新月をいったん鞘に納めるとそのまま鍔を鳴らす。
「パラライズシャウト!」
金属音とともに発せられた黄色いエフェクトが広がる。その瞬間、突進していたパワーボアが胴体を地面に引きずるようにして静止した。麻痺の状態異常でそのまま動けずにいる背中にメイプルは新月の矛先を突き立てる。
「えいやーっ!」
突き刺す、というよりは逆手に持った新月で穴を掘るような動作でダメージを与えていく。
幸い突進するパワーボアの背に乗っていたおかげで、偶然にもモンスターの包囲網を突破していた。生き残っているもう一体のパワーボアと二体のスライムとの距離が開いているのをいいことにザクザク背中に新月を突き刺していくと、やがてそのHPがゼロを迎える。
「よし、あと三体だね」
メイプルは大盾を正面に構えてその場に留まる。自分から距離を詰めるようなことはせず、あくまでガードによるカウンターの態勢だ。そこに向かっていち早く突進攻撃で突っ込んできた最後のパワーボアが衝突すると、ダメージを反射して一気にイエローゾーンまでHPを削ることができた。
「ありゃりゃ、さすが第三層。一回ガードするだけじゃダメなんだ」
そのままの態勢で二度、三度と防御を繰り返すことでようやくHPを削りきる。
残るはスライムが二体だけだ。
自身の体を流動させるようにしてゆっくりと近づくスライムをメイプルは盾を構えてじっと待つ。
「あ、そっか。別に近づく必要はないんだよね」
そう思い直したメイプルは再び新月を掲げる。
「ヒドラ!」
再び現れたヒドラが一方的にスライムに攻撃を仕掛ける。あっという間にスライム二体はポリゴンになって散った。
「勝った~! 勝ちましたよキリトさん!」
「おめでとう。第三層とはいえ街に近いフィールドのモンスター相手ならもう余裕だな」
キリトによる指導が始まって一週間。NWOのスキルがなければまだまだ頼りないメイプルだが、こうして普通に戦えば多勢に無勢でも勝利を収めて戻ってくる。
(そろそろ、俺もお役御免かな。あれから何度かフィールドに出ているけど、前みたいにいきなり高レベルモンスターとエンカウントするようなこともない。なにせあんなに高いバイタリティがあるんだ。これならもう自力で生きていくこともできるだろうな)
戦っているモンスターのレベルがメイプルより低いこともあって、レベルはヒドラ戦で上がった14のまま変わっていない。
相変わらずのVIT極振りのステータスだが、それが四倍ともなれば、ステータス値自体はそのレベルからは想像できないほど並外れて高いはずだ。この世界でも、十分に強いプレイヤーといえる。
「よし、街までそう遠くないし結晶は使わず歩いて戻ろうか」
「了解です!」
元気よく、それでいてどこかふにゃりと丸みのある敬礼で返すメイプル。
そんなとき、キリトの目の前でフレンドからのアイテムの受信を通知するメッセージが視界の端に映った。送り主は情報屋のアルゴからだ。
「...? どうしたんですか?」
「ああ、俺が世話になってる情報屋だよ。たぶん不定期で発行してる情報新聞じゃないかな?」
キリトは通知からアイテムを受け取ると、それはやはり思った通りのもので特に急いで確認するでもなくアイテムストレージを閉じる。
「そこまで大したことは書いてないけど初心者にはいろいろ便利な情報もあるし、帰ったら見せるよ」
お得意様のよしみで回してもらっているだけのもので、キリトにとって有益な情報は数えるほどもない。それこそ攻略組ですら知りえないようなものは新聞とは別に相当な金額で取引されるからだ。
そういう取引が成立することからもこの世界において情報というものがどれだけ価値があるものなのかが伺える。
そんな話をキリトがメイプルにしているうちに第3層の街を囲う外壁が目に入り、門の前まで歩み寄ると二人を街の中へと転送した。
「なんだかずいぶん騒がしくありませんか?」
「ああ...そうだな。普段からここらは人通りが多いけど、今日はちょっと異常だ」
メイプルの言う通り、街にいたプレイヤーはただ事ならない様子で広場に集中していた。中央の転移門では先ほどから頻繁に人が出入りし、どこか慌ただしい様子が見て取れる。
「なにかあったのか...?」
メイプルに比べ、キリトの声色はどこか緊張感を感じさせた。
周囲の話を注意深く聞き耳を立て、街中のプレイヤーから断片的に聞こえた“四十九層”という言葉に、キリトはハッとなって先ほど送られてきたアルゴの新聞をストレージから呼び出した。
するとキリトの目が驚愕に見開かれる。
「第四十九層ボス攻略失敗......死者二名」
次回をお楽しみにー
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