死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います 作:くぼさちや
1番多い評価9ですけど次に多いのが1という(●ꉺωꉺ●)
アイテムストレージを操作して最前線の攻略に使っている装備に切り替えるキリト。普段と違って一切の余裕が感じられないその様子にメイプルは黙ったままキリトから渡されたアルゴの新聞記事を見ていた。
第四十九層のボス攻略戦。攻略組と呼ばれるトッププレイヤーたちがレイドを組んで挑んだその戦いは、二人のプレイヤーが死亡したことを受けて、あえなく撤退を余儀なくされたという。
速報ということもあって詳細は書かれておらず、どんなボスだったのか、それこそどこのギルドの誰が死んだのかも定かではない。
(これ...ほんとに死んじゃったってことなんだよね。普通のゲームオーバーとかじゃなくて本当に)
改めて今自分のいる世界がどんな世界なのか、突きつけられた思いだった。
やがて支度を整えたキリトは肩越しにメイプルを見る。
「上の階層で状況を把握してくる」
たったそれだけ、短く言ったキリトになんと声をかけようか決めあぐねていたメイプルだったが、意を決したのかそのあとに続く。
「あのっ! 街の外に出なければ安全ですし、一緒に行きます」
〇
「これからどこに行くんですか?」
「とにかく知り合いの攻略組をあたって話をしてこようと思う。今回の攻略は血盟騎士団が指揮を執ってたはずだから、まずはそこの副団長からかな」
キリトはそう言ってある建物の前で足を止めた。
ヨーロッパの王城を彷彿とさせるような、白く流麗なギルドホームにはその威厳を示すかのように、剣の文様を象った赤い旗が各所に下げられている。アインクラッドのトップギルドの一つである血盟騎士団のギルドホームだ。
キリトはその門の前で番をしていたプレーヤーに声をかけた。
「お前たちの副団長に話がある。中にいるんだろう? 取り次いでもらえないか?」
「アスナ様は今、団長にボス攻略戦の報告をなさっている。だいたいどこの誰とも知らん貴様に我々の副団長を会わせるわけがないだろう」
伸ばしっぱなしの長い髪を後ろにまとめている、三十代半ばにも見えるプレイヤー。前衛独特の分厚い鎧を身に纏い、華美な装飾が施された両手剣を背にして見下すようにキリトとメイプルを一瞥していた。
「俺の名前はキリト。攻略組だ。ボス戦の陣頭指揮を執っていたのはアスナだろう? 今回のボス攻略について直接話が聞きたい」
「キリト? そうか、貴様ビーターの...!」
団員の警戒したような視線が、明らかに好戦的なものに変わる。次の瞬間には背にしていた両手剣を抜き放って矛先をキリトに向けた。驚いたように委縮したメイプルをかばうようにキリトが手を伸ばす。
「待ちなさい!」
そんな一触即発の状況に透き通るような声が響き渡った。
「あ、アスナ様......」
団員が振り返るとそこにはキリトのよく見知った姿があった。
見た目の年の頃は十代半ば。長い亜麻色の髪は絹のように滑らかで、血盟騎士団のイメージカラーとも言える白でカラーリングされた装備服に腰にはエメラルドグリーンの細剣。
それはまさしく数多くのプレイヤーから“閃光”と囁かれる、血盟騎士団副団長その人だった。
(お人形さんみたいな子がいる...!)
メイプルが息を呑んだのはその美しい容姿と凛とした佇まいが、どこか非現実めいているように感じたからかもしれない。流れ星のような儚さと鋼鉄の鋭さが同居した、不思議な雰囲気を纏っていた。
団員はすぐさま剣を鞘に納めて姿勢を正し、恭しく頭を下げた。
「構わないわ。その人たちを客室に通してちょうだい」
「し、しかしアスナ様、このような得体の知れぬ男をギルドホームに立ち入らせるなど...!」
「クラディール!」
突き刺すように、鋭く名前を呼ばれて団員の男は押し黙った。
「もういいわ。彼らは私が案内します。下がりなさい」
クラディールは舌打ちすると、恨みがましい視線をキリトに向けて立ち去った。
「...大丈夫なのか?」
「平気よ。それより私に聞きたいことがあるんでしょう? こっちについてきて」
アスナに連れられて、血盟騎士団のギルドホームに足を踏み入れるキリトとメイプル。ホームといっても血盟騎士団の持つそれは外装から察しが付く通り、大理石や彫刻の類などがそこかしこに見て取れるような絢爛な造りになっていた。
メイプルは落ち着かない様子でキョロキョロとあたりを見回しては、その内装に感嘆のため息を漏らしていた。
やがてアスナは客室と思われる一室にキリトたちを招き入れると、ガラスのテーブルを挟んで対面するように置かれたソファの一つに座った。
キリトとメイプルは促されるままアスナの正面に腰掛ける。
「それで、話っていうのは今日行われたボス攻略戦のことよね」
「そうだ。ボス戦で一体何があったのか、実際に指揮していたアスナに状況を聞いておきたい」
アスナは静かに目を細めると再び口を開いた。
「ボスの名前はThe Noble moth。飛行する昆虫型のモンスターで、左右の羽から毒の状態異常を付与する範囲攻撃を仕掛けてきたわ。そのせいで前衛についていたプレイヤーが2人死んで、陣形が崩壊する前に引き上げたの」
「毒の範囲攻撃? そんな情報......」
「ええ、事前の調べではそんな情報はなかった」
キリトは顎に手を当てて考え込むような姿勢を取った。
「なるほど、つまり今回の攻略は極端にボスモンスターが強かったというより情報不足で対策が取れてなかったっていうのが大きいのか」
アスナは攻略の準備不足を指摘されて、一瞬むっとしたような表情をしたが、おそらくその自覚はあったのだろう。言い返すでもなくため息をついた。
「そうね。キリト君も知ってると思うけど今回の四十九層はダンジョン攻略にかなり時間がかかっちゃって、攻略組全体が少しボス戦を急いでしまっていたのはあると思う。けれど、それにしたってあの毒の範囲攻撃は強力だったわ。多分あれは確率付与じゃなくて確定付与なんだと思う」
「つまり、攻撃を受ければこっちの耐性に関係なく毒が付与されるってことなのか?」
「ええ...そうじゃなきゃ、あんな一瞬で前衛が消耗するなんて考えられないもの」
「でも対策となったら解毒結晶をできる限り用意するか、前衛の火力を上げるくらいしか取れないんじゃないか?」
毒の恐ろしさとは、時間がかかれば時間がかかるほどHPを削がれ、知らぬ間に思わぬダメージを受けてしまうことだ。そうなると後衛が前衛の解毒を受け持ち、高い火力を持つ前衛でもって短期決戦に持ち込むのがこの場合のセオリーといえる。
「うちの団長も同じことを考えてるようだったわ。でも今回の攻略で前衛を二人失ったのが響いてるの。補充要員の前衛職を確保するのにあと何日かかるか......」
「あの...それでしたら」
これまでただキリトとアスナのやり取りを聞いていたメイプルが初めて口を開いた。
二人の視線が同時にメイプルに向く。
「私とキリトさんの二人が前衛で参加すれば、人数は合うんじゃないでしょうか?」
次回、「ドライアイスをスナック感覚で食う女」
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