死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います 作:くぼさちや
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オーケーわかったそっちがそう来るならやったろうやないかい。
1位獲ったろうやないかい!!
ポカン、と口を開いてアスナとメイプルは見つめ合った。
薄味な幕引き、というより二人ともどうしてこんなタイミングで決着したのかわからなかったのだろう。しかしその理由はメイプルのHPバーを見ればすぐにわかることだった。
「あれ!? いつのまにか減ってる。一度も攻撃は受けてないはずなのになぁ...」
メイプルのHPはすでに半損、イエローゾーンを迎えていた。
「盾越しに攻撃を受けても少なからずダメージは発生するんだよ。今までは盾で受けるどころか直撃食らっても平気だったから気にしてなかったかもしれないけど、まあこのレベル差であれだけ畳み掛けられたらな」
「あちゃー...」
がっくりと肩を落とすメイプル。結局、終始守りに徹していただけで肝心のアスナには一撃は愚か掠ることすらなかった。もう少しHPが残っていれば最後の一撃が決まったかもしれなかったが、アスナのプレイヤースキルを考えるとそれも確実だったとは言いきれない。
「気を落とすことないぞメイプル。血盟騎士団の副団長相手にあそこまで粘れただけでもすごいことだ。でもアスナの言う通り、やっぱりボス攻略に挑むにはステータスが足りない。だから」
「ストップよキリトくん」
メイプルをたしなめるキリトをアスナが手で制した。そしてメイプルの方を見やる。
「ボスモンスターはプレイヤーがレイドを組んで戦うことを前提にステータス設定がされているわ。当然、私一人なんかよりずっと強い。HPが全損すれば死ぬし、実際先日の攻略戦ではあなたよりずっとレベルの高いプレイヤーが二人死んだ。それでも戦おうと思える?」
アスナは真っ直ぐにメイプルの瞳を見つめて言った。それは攻略組を束ねる立場としての最終確認だったのかもしれない。それだけアスナの目は真剣そのものだった。
「......ボスと戦うのは怖いです。命懸けで戦うのも、痛いのも嫌だし...でもそれより嫌なものがあって、あはは...うまく言えないんですけど、でも―――」
うまく言葉が探せずに、不器用に話すメイプル。現実世界に戻る。そんなアスナのように確固とした意思があるわけではなかったがそれでもこの世界に来てなにを感じたのか、メイプル自身もはっきりと自覚していた。
アスナの目をまっすぐに見直して、メイプルは口を開く。
「私にできることがあるならやります。私が死ぬのも他の誰かが死ぬのも嫌だから」
「そう...」
アスナはメイプルの発した言葉の意味をじっくり嚥下するようにうなずく。やがて勝敗が決してから握ったままになっていた木剣を鞘に納めた。
「よろしい。あなたのボス戦参加を認めます」
「いやちょっと待てそれはおかしいぞ?」
メイプルを連れて帰る気でいたキリトは間髪入れずにそう言った。
「勝敗の条件はメイプルがアスナに一撃入れられたら、だろ? メイプルはこの前までレベルも一桁だったんだ。それにレイド戦どころかパーティ戦だってほとんど経験がない。どう考えたって危険すぎるじゃないか!」
「別に決闘の勝敗で決めるだなんて一言も言ってないわ。決闘で実力を測ると言ったの。この子は私に十分な実力を示して、私もボス攻略に参加できるだけの実力があると判断したんだから、あとは彼女の決断次第でボス戦には連れて行きます」
アスナとキリトの間で火花が散った。
ボス戦の攻略会議に参加したことのあるメンツからしてみればこの二人の意見が対立するのは、もはやお馴染みの光景だ。キリトにしてもアスナにしても慣れたものだが、メイプルにしてみれば唐突に起こった一触即発の雰囲気に戸惑うばかりだ。
アワアワとした様子で見守っていたかと思えば、どこか助け舟を求めるようにキョロキョロと周りを見始める。
そんなメイプルの視線の先で、血盟騎士団の団員と思われる赤い鎧を身にまとった青年が闘技場に足を踏み入れたのが見えた。
「珍しい来客だと思って少しばかり見させてもらったが、なかなかに楽しませてもらったよ」
メイプルが助けを求めるよりやや早く、男は口を開いた。その声に真っ先に反応したのはアスナだった。すぐさまキリトとの口論を切り上げると恭しく頭を下げる。
「お疲れ様です。ヒースクリフ団長」
「だんちょー? 団長......団長!?」
漠然とエライ人、というカテゴライズをしていたアスナの青年に対する態度を見て、メイプルは素っ頓狂な声を上げた。
(アスナさんのギルドの団長...このお城で一番エライ人...!)
そんな凡庸な格付けがメイプルの頭の中で成されたことなど露知らず、ヒースクリフは落ち着き払った様子で一同を見た。
「それで、これはいったいなんの騒ぎだったのかな? アスナくんも先の攻略戦の件で多忙な立場のはずだが」
「再攻略にあたって前衛職の選定をしていました。二度目の攻略戦ではこの二人をレイドに加える予定です」
ふむ、とヒースクリフは顎に手を当ててキリトに、そしてメイプルへと順に視線を向けた。
「そこの片手直剣を持った少年は攻略会議の場で見た覚えがあるが、大盾使いの君は初めてだね。なんにせよ、アスナくんが決めた人選なら実力に問題はないだろう。期待させてもらおう。なにせ全層の中間である五十層を目前にしてこの状況だ」
強力であろう五十層のボス。その一つ手前の階層でボス部屋捜索が難航し、あまつさえ死者まで出したのだ。ヒースクリフの言葉からもそれが攻略組にとってどれほど打撃であったかが伺えた。
しかし、そこまで話が進んだところでキリトは気がついた。
メイプルのボス攻略戦参加がヒースクリフという大人物を巻き込んだことで、もはやなし崩し的に近い勢いで決まりつつあるということに。
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