死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います 作:くぼさちや
(落ち着け俺...ここは冷静にいこう)
‘ステイクール’キリトはそう自分に言い聞かせた。
SAOであれば本来、鎧の耐久値が尽きたところでこうはならない。プレイヤーには武装とは別にカットソーやロングパンツのようなインナー装備がスロットに装着されていて、少なくともメインメニューのウィンドウで《衣服解除》のボタンを押さない限りこんな大惨事にはならないはずだった。
「あ、ホントだ全然痛くないですね!」
全身を破壊エフェクトに包まれる中、目を閉じたままのメイプルの能天気な声だけがある意味でキリトの救いだった。
寝巻きと色は同じ、パステルピンクのショーツ。あまりに衝撃的な出来事に、薄く彩られたストライプのラインからワンポイントで添えられたリボンの装飾までしっかりとキリトの脳裏に焼き付いてしまった。
「大丈夫そうなので、このまま続けてお願いします」
そう言ってメイプルが目を開けた時には幸いにも防具の再生は終わっていた。しかし一歩間違えば数瞬前のあられもない姿のままメイプルと目を合わせていたかもしれない。そう考えると、キリトにしてみれば冷や水に当てられるような思いだ。
(さすがにメイプルのいたVRMMOでこんな某格ゲーみたいな仕様があるとは到底思えないし、おそらく装備の設定ミスかなにかだろうな。けど、こんなのどうやって教えたらいいんだ?)
さすがのキリトも『防具の下にインナー装備し忘れてるぞ』などと無神経な指摘の仕方はできない。しかし見てしまったということを踏まえて、さりげなくメイプルにこの事実を伝えることはキリトにとってアクションゲームの一撃死初見プレイに匹敵する難易度にすら思えた。
「どうかしましたかキリトさん?」
「いや、なんでもないんだ。うん......」
咄嗟にごまかすキリト。しかしそれが良くなかった。一度『なんでもない』と言い切ってしまった手前、余計に指摘しにくくなってしまったのだ。
(どうする? うっかりなんでもないとか言っちゃったぞ)
それに気がついていない本人は防具の破壊成長を続ける気満々だった。どうやら低層のモンスターと戦っているときと同じようにまるで痛みのないことがわかったからだろう。今度は目を瞑ることなくキリトに腕を差し出してくる。
だが、当然このまま続けるわけにはいかない。
一方で、装備のミスをこの場ですぐ打ち明けるわけにもいかない。
「わかった。じゃあもうちょっと腕をこっちに頼む...そうそう」
そんな板挟みのまま、何もしないでいるわけにもいかずキリトは片手直剣を振り上げた。
一撃目、二擊目、三擊目。メイプルの開いたメインメニューで鎧の耐久値を示すバーが剣を振り下ろすたびに減っていく。
(誰か......誰か頼む)
四擊目、五擊目、六擊目。
(誰でもいいんだ...誰でもいいから、早く......)
やがて差し掛かった二十二擊目。キリトが横目でメイプルが開いていたメインメニューのウィンドウを確認すると、《闇夜ノ写》の耐久値は限界一歩手前まで削られていた。
キリトの筋力パラメータでこのまま剣を振り下ろせばまず間違いなくこの一撃で耐久値はゼロを迎える。
(早く...俺を止めてくれ!!)
―――トン...トントン
そんなキリトの念が通じたように、ひとつの光明が部屋の外へ通じる扉の向こうに見えた。
「誰か来たみたいですね?」
「ああ、そうみたいだな......」
緊張の糸が切れて一瞬、膝から下が消えてなくなったかのように力が抜けて崩れ落ちかけたが、キリトはどうにか踏みとどまってドアの前に立つ。
ノックは三回。それも一定ではなく不規則な叩き方で、それを聞くだけで相手がNPCや他のプレイヤーではなく、ある特定の人物であると理解できる。
部屋の外を確認することもなくキリトはドアを開けるとやはり、想像した通りの人物がそこにいた。
「よう、キー坊。直接のやりとりは久しぶりだナ」
「アルゴ。そっちから訪ねてくるなんて珍しいじゃないか」
いつも通りのやや冷めた語気で、けれども内心では両手の平を合わせて拝み込むかのように感謝しながら言った。
十代半ばという年齢もあって長身とは言えないキリトだが、訪ねてきたプレイヤーはそれよりも頭一つ小さい。武器は小型のクローと投擲用の針だけといかにもすばしっこそうで、目深にかぶったフードの影から覗く両方の頬には特徴的な三本髭のようなペイントが施されていた。
「なに、要件はいつも通りオレっちの本業の話ダ。ただし今回用があるのはそこのお嬢さんだけどナ」
メイプルに視線を向けて言うアルゴに、私に? といったように首をかしげるメイプル。用事がある心当たりなどないのはもちろん、それこそアルゴとは初対面のはずだった。
「アルゴさん...って、ああ! キリトさんが話してた情報屋さんの人!」
「どーも、情報屋さんだゾ」
つい昨日の夜にアルゴの新聞を読んだばかりでまだ記憶に新しかったメイプルは、即座に目の前の人物がキリトが懇意にしている情報屋のアルゴであると結びつけた。
しかし、本業の話ということはつまり、プレイヤーとしてではなく情報屋として話があるということだ。
キリトに付いてクエストをこなし、モンスターと戦うことでメイプルもそれなりにコルの持ち合わせはあるが、アルゴが主に相手にしている攻略組や中層ギルドのプレイヤーに比べれば雀の涙ほどもない。アルゴがそうした事情も知っているのであれば、情報の価値はメイプルにあり、情報料の宛はキリトと言ったところだろう。
「情報か...内容と額によっては俺が買ってもいいけど」
本音を言えば、このまま無条件にアルゴの情報を言い値で買い付けてしまってもいい衝動に駆られるキリトだが、相手が情報というものに対してどれだけ貪欲で狡猾なのかを知っている。ここでうっかり下手な事を口にしてしまえばたちまちつけ込まれることだろう。
「どうする? メイプル」
ひとまずメイプルに伺い立てると、こくりと頷いて返してきた。
「私に関わることなんですよね? だったら何についてかだけでも聞いてみたいかなぁーと」
キリトは咳払いを一つ挟んでから、アルゴに向き直る。
「というわけだ、どういう情報なんだ?」
ニヤリ、と頬の両端を釣り上げてアルゴは笑う。すると、ゆっくりと持ち上げられた指先がメイプルに向いた。
「お前さんの連れているそこの初心者についての情報を買いたがってるやつがいる」
自粛に一花添える思いでバリバリ執筆してます(●ꉺωꉺ●)
アルゴ実はけっこう好きなんですよね〜
プログレッシブで君の圧倒的な性能に私は心奪われたw
この気持ち、まさに間ぁぁぁ!!
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