死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います 作:くぼさちや
強力な装備や高いレベルがプレイヤーの強さに直結するように、情報の有無がプレイヤーの生死を分かつことも珍しくない。
それこそゲーム開始時に数値的なステータスに差がない一般プレイヤーと元βテスターの間に隔絶があったのも、その情報量に差があったからにほかならないのだ。それだけこの世界では情報というものが時として一級装備以上に価値を光らせることもある。
そんなこの世界で情報を商品に扱うアルゴが提示してきた内容は、メイプルに関しての情報を欲しがっているプレイヤーがいるという情報。金額はそのプレイヤーが口止め料としてアルゴに支払っている10万コルにプラス100コル。当然支払ったからといってすぐに情報が得られるわけではなく、キリトの支払額を当人に通知した上で口止め料を上乗せするかしないかという交渉に入り、そこからは大抵金額の競り合いが始まる。
「そのクライアントは俺じゃなくてメイプルの情報を欲しがってるのか......」
ビーターの異名を持つキリトの情報を欲しがる連中は大勢いる。それこそ第1層攻略からしばらくはその手の話がいくつもアルゴからなされていた。
普段ならまったく相手にしないことだが今回の場合、引き出そうとしている情報がキリトではなくメイプルであるという点が気がかりだった。
(どういうことだ...? そもそもメイプルの存在を知っているプレイヤーというだけでもかなり限られてくるが、わざわざ情報屋を使うほどのボロを出していたとも思えない。となると、まさかフィールドで戦っている時にメイプルのスキルを見られたのか? だとしたら相手は俺の索敵スキルを掻い潜るほどの隠密スキルを持ったプレイヤーということになる)
いずれにしても、今キリトが得ている情報の範囲内でだけで考えても数える程しかプレイヤーをリストアップできない。だからこその高額な口止め料だと思うが、それは裏を返せばこちらにそれを悟られると不都合な事情があるとも考えることができる。
「オーケー、その情報を買うよ。先方に連絡してそれ以上積み返すか確認してくれ」
「わかっタ」
アルゴは頷き、さすが情報屋といったところか、慣れた手つきでインスタントメッセージを高速タイプしていく。その僅か一分後、戻ってきたメッセージを見てアルゴは肩をすくめた。
「今返信があったゾ。口止め料を20万コルまで引き上げるそうダ」
「20万っ!?」
異常なまでの金額の釣り上げにキリトは開いた口が塞がらなかった。
100コルから1000コル程度の胃の痛くなるような積み上げ合戦を予想していたキリトだったが、その予想を大きく超えていきなり20万コルまで金額を引き上げられた。転移門のある中央街区付近さえ避ければ、下層にちょっとした家が買えるだろう。
絶対にこちらの正体を掴ませないという依頼主の意思が現れているように思えた。恐らくこのままそれに付き合ってこちらが金額を上げたとしても先方は譲らないだろう。
「どーするキー坊? オレっちとしてはこのまま泥沼化してくれた方が嬉しいけどナ」
「うーん......」
キリトとしてはメイプルの情報についてそこまでする相手を把握しておきたいところだったが、今はボス戦を控えている身だ。こんなことに数万単位での情報のつかみ合いなどしていたらあっという間に手持ちがすっからかんになってしまう。
「...ホールドアップで」
「なんダ、張り合いがないナ。おねーさんはがっかりだゾ」
両手のひらを上に向けながら、やれやれといった様子で肩をすくめてみせるアルゴ。
「そりゃお前は口止め料が上乗せされて儲かるかもしれないけど、いきなりベット10万だぞ?」
「わかったわかっタ。とりあえず上乗せに応じなかった旨を相手方に通知しておくゾ。こっちも面白い情報を得られたことだしナ」
「情報?」
新しいおもちゃを手にした子どものような笑みを隠すように、フードの裾を引いて踵を返す。
「《黒の剣士キリトは宿屋に女性プレイヤーを連れ込むような男》だって情報ダ。きちんと裏の取れた情報を得られた上に口止め料も増えて万々歳ダナ」
「なっ!? ちょっと待て! お前それをどこに売る気だよ!」
そう言ってキリトがアルゴの服の袖に手を伸ばすより数瞬早く、フード付きのローブを翻すとAGI極振りのスピードをフルに活かして走り出していった。すぐそばにあった玄関の窓に身を乗り出したアルゴはそのまま真正面の建物に乗り移り、ものの数秒で夜の街の薄暗闇に溶けて見えなくなる。
呆気にとられるキリトを残して。正確にはアルゴの言葉に今の状況を意識して赤面し始めたメイプルの二人を残してだ。
「......あの、メイプルさん?」
「ひゃ、ひゃぃ...!」
おおよそ予想していた通りのリアクションで返すメイプルに、キリトは若干の頭痛を覚えた。
「俺、そろそろ寝るから......メイプルも自分の部屋に戻って休んでくれ。明日は三十層でレベリングだ。ゲームの中とは言え睡眠はしっかりとったほうがいい」
「はい......」
そう言って椅子から立ち上がったメイプルの動きはまるで油の切れたロボットのようで、絵に書いたようにぎこちない。それこそ右手と右足が同時に前に出るような有様で部屋の外に出ていく。やがてドアが閉じられ、その後ろ姿が見えなくなるのを見届けると、キリトは胸中でそっと呟いた。
(もう、言えないだろ......)
キリトは膝をついて両手で顔を覆った。
「インナー装備が外れてるなんて言えない!」
口を突いて出たキリトの言葉はシステムによって
もうちょっと番外っぽい話書いたら攻略戦突入します(●ꉺωꉺ●)
次週、『火災保険の入り方』
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