死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います 作:くぼさちや
面白い、絶対面白い、ホント面白い。
そんな友達の誘いで始めたVRMMO、ニューワールドオンライン。それは私、本条楓の人生を大きく変えた。
慣れない手つきでアバターをクリエイトして、本名の楓を英語に置き換えてキャラ名はメイプル。ゲームとはいっても攻撃を受けたらちょっと痛いって聞くから、それが恐くて初期装備は盾持ち短剣。それに合わせてVIT、防御力にステータスポイントを全部振り分けて私の初めての冒険が始まる。
はずだった。
「へぇ〜! 最近のVRMMOってこんな感じなんだぁ」
初ログインを果たすと目の前では大勢のプレイヤーが思い思いの武器や防具を纏って行き交っている。緑が豊かなその村には中心に大きな木があって私はそのすぐそばにいた。
「じゃあさっそくモンスターとか倒しに行きたいな。けどどっち行けば......あの、すみません」
そう言って私が近くを通りかかったプレイヤーに歩み寄って、声をかけた時だった。
「...え?」
まるで処理落ちしたPCゲームのようにカクつく視界。接続が良くないのかな? そんな風に思っていると、やがてそれは背景グラフィックの歪みにまで状況を悪化させた。
穏やかな始まりの街が一転、まるで世界が崩れるように目の前がポリゴンに埋め尽くされて、全身が重力に従って落下するような感覚だけが残った。
そう、私は落ちている。真っ暗な仮想空間のどこか深くに、その先が数千人ものプレイヤーが生死をかけて戦うデスゲームであることすら、あのときの私は知らなかった。
○
キリトは改めて少女の姿を見てみる。
身につけているレザー系統の防具は、おそらくゲーム内で最低ランクのものだろう。武器も飾り気のないダガーナイフに木製の大盾とで、盾持ち片手剣士をイメージさせるような攻防一体とはかけ離れたアンバランスな組み合わせ。
誰がどう見ても、まだろくな戦闘も経験していないのが見て取れる。
少なくともこんな上層の迷宮区にソロで潜るようなプレイヤーには到底見られなかった。
「君は......いったいどうやってここに来たんだ?」
あまりに不自然な状況にキリトは言った。
あれこれ考えるより聞いてみるのが早い。そう思ったのが半分、もう半分は警戒していたからだと言ってもいい。
「えーっとですね。実は今ログインしたばかりなんですけど、どうしてかな? 急に景色が変わって......あ、でももしかしてこれってチュートリアルなのかな?」
「いや、ちょっと待ってくれ! まさかこんな状況のSAOに今になってログインしたのか?」
キョトンとした様子でキリトを見つめる少女。その表情にはHP0=死のデスゲームに自ら進んでログインしたような緊張感も危機感も伺えない。
「SAO? あの、私がログインしたのはNWOってゲームのはずなんですけど...あれれ?」
困ったようにメニュー画面を呼び出して確認をする少女。
それも明らかに操作に慣れてないようで 、たどたどしく指を動かす少女の横からキリトはメニューを覗いた。
「っ!? これは......」
驚愕に、キリトは顔を歪ませた。
その画面はキリトたちSAOプレイヤーが使うものとは仕様がまったくの別物だったのだ。それこそ、レイアウトからスキル欄の表示まで全く別のゲームのように異なっている。
なにより片手直剣、細剣などの武器カテゴリの熟練度やソードスキルの欄がない。あるのは異常に多いパッシブスキル、そして剣の世界には存在するはずのないものがキリトの目に止まった。
「魔法詠唱スキル...?」
「はい? どうかしました?」
そのスキル欄はまだ空白でなんのスキルも習得していないようだったが、そこには確かに“魔法”という文字があった。
(まさか、他のVRMMOからなんらかのバグでSAOサーバーに紛れ込んだのか? だとしたらこの状況も納得はできる。少なくともSAO開発者がこんなゲームバランスを狂わせるような要素を組み込むはずがない)
少しずつ状況を把握してきたキリト。しかし一方で少女はなにがなんだかわからないようで、そのことに気がついたキリトは思案顔を解いて笑いかけた。
「あ、ごめん。いきなりこんなこと聞かれても驚くよな。俺の名前はキリト」
「はじめまして。名前はええっと、メイプルって言います。ごめんなさい、私このゲームまだ始めたばかりで全然よくわかってなくて」
「いや、ここは君がプレイするつもりだったNWOとは全く別のゲームなんだ。ここはSAO、ソードアートオンラインというVRMMOで─────」
そこまで話したところでキリトはここが四十九層、攻略の最前線のフィールドであったことを思い出す。
「とにかく街に戻ろう。ここだといつモンスターがリポップするかもわからない。転移結晶は......持ってるわけないよな」
SAOの初期装備でも転移結晶のアイテムボーナスはない。キリトがログインした時もせいぜい最低限の通貨とHP回復用のポーションがある程度だった。
そうでなくても転移結晶とはフィールドから街に転移するアイテムだが、転移先に選べるのは一度訪れたことのある街に限定されるという制限がある。
メイプルにとってログインして初めて来た場所がこの迷宮区だ。仮にキリトがストレージから転移結晶を分け与えても 、第一層のはじまりの街ですら転移できるかどうか怪しい。
(となると、あとはこれしかないか)
キリトは転移結晶とは別の結晶アイテムを取り出そうとアイテムストレージをスクロールするが、ふとその手が止まった。
「そうだ。パーティ申請はできるかな?」
「パーティですか?」
キリトはメニューを一旦閉じると、マップ画面を呼び出す。そこにはキリト本人の位置を示すアイコンがひとつ。その正面にパーティ外のプレイヤーを示すアイコンがひとつあった。
それをタッチすると《メイプルをパーティに加えますか?》というシステムメッセージが表示される。
「よかった。どうやら仕様は違ってもパーティは組めるみたいだな。そっちにメッセージが飛んできただろ?」
「この《kiritoからパーティ申請が届いています。承認しますか?》っていうのがそうですか?」
キリトが頷いて答えると、メイプルは人差し指で《Yes》のボタンをタッチする。
視界の端にあるキリトのステータスの下にメイプルのHPバーと名前が表示され、マップのアイコンもキリトと同じ色を示した。
「こういうシステムはきちんと動作するのか。よかったそれなら......」
キリトはアイテムストレージからもうひとつの転移手段、回廊結晶を取り出す。使用者を含め、パーティメンバー全員を設定した街に転移させるアイテムだ。これならメイプルを連れて四十九層の街まで転移できる。
「転移、ミュージエン」
キリトのボイスコマンドとともに二人の姿が青いエフェクトに包まれると、迷宮区から姿を消した。
評価、してあげて?
感想、言ったげて?
では次回〜
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