死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います 作:くぼさちや
なんかですねー
この前来た感想が嬉しくってねー
そのおかげで
―――〝筆が乗った〟―――
薄明かりで照らされたそこは、一見これまで歩いてきた迷宮区と変わらない道に見えた。やや暗く感じるのは隠し通路だからというより、毒液から立ち上る瘴気が狭い空間に充満しているせいだろうとキリトは思った。
メイプルがうっかり手を突いたことで開いてしまった扉は閉められていて、キリトが触れてみても反応はない。恐らく他に出口があるのか、なんらかのキーアイテムが必要なのかはわからないが、取れる選択肢は前に進む以外にないようだ。
「バッドステータスの心配はいらないだろうけど、無事か?」
「ううぅ、流されたせいでちょっと気持ちが......」
そこまで言いかけたときメイプルの押さえた口元から、うっぷ、という声が漏れる。流されたこともそうだが紫色の濁流が足元を流れる様子はお世辞にも気分のいいものとは言えない。
「とにかく、こんなとこにずっといても仕方ない。毒液が届かないところまで進んでみてから休憩しよう」
そう言ってキリトは通路の先へと進み始める。
異様なほどに狭い通路は一本道で、人が二人並べば埋まってしまうほどに狭い。短剣のメイプルはともかく片手直剣のキリトが横に剣を振りかぶれば壁に衝突してしまうほどだ。
しかし短剣でもない限り戦闘困難なほど狭いとなると、逆にモンスターのポップが設定されているとも思えない。キリトの片手直剣も武器カテゴリの中ではリーチの短い部類に入るのだが、それですらも戦闘に窮するほど狭いのだ。
少なくともいきなりモンスターの群れに囲まれる心配はないように思えた。
「この通路で戦闘はないだろうけど、罠の類はあるかもしれない。気をつけて進もう」
「すみません」
「......え?」
予想だにしていなかったメイプルの一言にキリトは足を止めて振り返った。
「私のせいでこんな......いえ、そもそも今日一日変に緊張しちゃって...いっぱいミスしちゃってて」
キリトはメイプルの頭にポンと手を置いた。
「いくらレベルが上がってバイタリティが高くなっても初心者には変わりないんだ。言ったろ? プレイヤースキルは重要だって。今回はボス戦があるからこういう方法を取っているけど、本当ならこの層にメイプルを連れて行こうと思ったら一ヶ月は様子を見るところだ。それを技術が伴っていないのを承知で、俺は無理に連れてきている」
キリトに手を乗せられて、初めは萎縮していた身体も徐々に和らいで、メイプルは気持ちよさそうに目を閉じる。それを機に、ゆっくりとその頭を撫でていく。
「あぅ......」
キリトの手の動きに合わせてメイプルの頭がわずかに左右に揺れる。
ときどき寝言のような声が漏れて、うつむきながらもほのかに嬉しそうな様子で顔を綻ばせた。
「むしろよく頑張ってついてこれたな。エライぞ」
身長差のほとんどないメイプルの頭を慣れない手つきで左右に撫でる。キリトが現実にいた頃の、妹の直葉にそうするようにとはいかなかったが、それでもキリトの思っていることを伝えるには十分だった。
「それに考えようによっては俺たちはラッキーなんじゃないか?」
「...え?」
今度はメイプルが聞き返す番だった。
「俺の知る限り、この階層の迷宮区にこんな隠し部屋があるだなんて情報はアルゴのところにはなかった。この先が効率のいいクエストや狩場につながってくるなら独占しようとする奴もいるかもしれないけど、三十層のボス攻略前に徹底的に捜索されても噂ひとつなかったんだ。もしかしたらここは未踏破エリア、まだ誰も来たことがない手つかずのダンジョンかもしれない。当然それならレアなアイテムや装備が眠っている可能性だってある」
キリトはメイプルに笑いかけた。
「むしろ、メイプルのお手柄じゃないか」
そう言って歩き出すと、いつのまにか二人の間に流れていた微妙な気まずさは消えていた。メイプルはようやく普段の調子を取り戻すと、自分の両頬をペちんと叩いて喝を入れた。
「よーし! そうと決まったら、探索頑張りましょう!」
「...プスッ、はははははっ!」
キリトは堪えきれないといった様子で笑う。
そしてスクリーンショットでメイプルの顔を撮影すると、ウィンドウを横にスライドしてメイプルに見えるように位置を調節する。強く叩きすぎて発生したダメージエフェクトが真っ赤な手形になってメイプルの顔に張り付いていた。
「くくくっ...よし、じゃあ先に進もうか」
「ちょ、ちょっとキリトさんっ! これどうすればいいんですか?」
「しばらくしたら消えるさ。それより、先に進もうぜ。どんなモンスターがいるかわからないけど、それと同時にどんなアイテムがあるかもわからない」
ワクワクした様子で通路の先を目指すキリト。そのあとをやや遅れてメイプルがついて行く。
道は一本しかないのでわざわざ手間をかけてマッピングする必要もない。ただし用心のため武器は鞘から抜いたまま、奥へと進んでいくとそこには鉄扉が一つ。
重々しい扉を開けると、そこそこ広いスペースがあり一気に視界が開けるが、それ以上にキリトは目に映った光景に息を呑んだ。
「どうしたんですか?」
キリトの肩ごしにその空間を見るとメイプルも同じく言葉を失った。
大勢の武装した人々があちこちで散らばるようにして座り込んでいる。見るからに疲弊、というより負傷しているのだろう。腕に革布で当木を巻いているだけの軽傷者から、全身に巻かれた包帯に血が滲み、今にも死にそうな重傷者まで、ざっとその数20人。
「た、大変! 早く治療しないとっ!」
飛び出していきそうなメイプルを手で制して、キリトは静かに一言告げた。
「一般のプレイヤーじゃない。ここにいるのは全員、NPCだ」
「NPC...?」
中央にいたリーダーと思しき屈強な戦士の頭上にクエスト発生を示す《!》のマークを見つけたキリトは即座にそう断言した。おそらくここはなんらかのイベントの開始地点なのだろう。
「ノンプレイヤーキャラクターの略だよ。メイプルも街にいるとき見たことあるだろ? あらかじめシステムに決められたアルゴリズムで行動する、本当の意味でのこの世界の住人だ」
「ノンプレイヤー...宿とかお店の店員さんと同じってことですか?」
「そういうこと。どうする?」
それが、クエストを受けてみるか? という問いであることはすぐにわかった。
イベント内容を聞いてから受諾か否かを選択できるクエストが大半だが、中にはイベントに遭遇した瞬間、そのまま戦闘に入るようなものも少なからずある。とくにダンジョン内のような圏外でのクエスト受諾にはそういったリスクは特に考慮しなければならない。
メイプルは静かに頷いた。
「受けてみましょう。せっかく見つけた隠し部屋ですから」
「わかった。じゃあ任せてくれ」
キリトはリーダーと思われるNPCに近づいた。
「あんたたち、一体どうしたんだ?」
その言葉にシステムは反応して男の視線がキリトに注がれる。
「俺はレジスタンスのリーダー、ガナードだ。この迷宮の最奥にいる魔物の討伐に来たんだが、ごらんの有様だよ。仲間もかなりの数がやられてしまった」
“最奥にいる魔物”その言葉にキリトの背筋に緊張が走った。
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