死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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26話 「ビーター」

 

 

「あのときは、このゲームは絶対クリアできないって思ってたからよ」

 

「...え?」

 

 その言葉が攻略組を取りまとめるほどのプレイヤーであるアスナの口から出てきたのは、メイプルにとってあまりにも驚きだった。

 

「デスゲームが始まってから一ヶ月で一千人もプレイヤーが死んだ。それなのにまだ第一層のボスすら倒せてなかったんだもの。全員いつか死ぬなら遅いか早いかの違いだけ。だったら自分の培ってきた全身全霊を注いで戦い抜いて、力尽きて動けなくなったらそのまま倒れて死んじゃえばいいってね。本気で思ってた」

 

「な、なんか激しいね。アスナって」

 

 まるで燃え尽きる前の流星のような、強い輝きがあるのに刹那的な寂しさのある生き方だ。

 しかしメイプルの言葉にアスナは慌てたように両手を振った。

 

「もちろん今は違うよ!? SAOも半分近く攻略できて、今は死ぬ人もどんどん減ってきた。今は一日でも早く100層を攻略して現実世界に戻りたいって思ってるわ」

 

 それから一拍間を置くと、再びアスナの表情がかすかに悲壮めいたものに変わる。

 

「でも、あのときは違った。はじまりの街で死ぬことに怯えて待っているくらいなら、すべてをぶつけてこの世界と戦おうって思ったの。まあキリトくんには『そんな戦い方してたら死ぬぞ』って言われちゃったりもしたけど、でもそうすれば少なくとも過去の気まぐれを悔やんだり未来を惜しんだりしないで済むから」

 

 アスナだけではない。いつだって誰だって命懸けの戦いだ。そんな世界のもっとも危険な場所で戦うプレイヤーであればなおさら、アスナのようになにかしら思うところを持って最前線に身を投じている。

 ここはそういう世界で、自分たちはそういう世界に居るしかないのだから、そうするしかない。

 

「まあ、だからかな。そんな私にお説教しておいて、今のキリトくんは無茶なレベル上げばかりしてどういうつもりよって思ってたのだけどね。でもこの前キリトくんがメイプルちゃんを連れてホームに来たとき、少し安心したの。なんていうか、表情が柔らかくなったって言えばいいのかな。あのとき久しぶりに見たキリトくんの印象が初めて会ったときの印象に近かったの。ここ最近はもっと張り詰めた様子だったから」

 

「張り詰めてるって......昔のキリトさんは今みたいじゃなかったの?」

 

「えっ...ああ、そっか」

 

 アスナななにやら納得したように頷くと、メイプルに向き直る。

 

「メイプルちゃんは《ビーター》って言葉、知ってるかな?」

 

 その言葉にメイプルは引っかかる記憶があった。血盟騎士団のホームでキリトが門番のプレイヤーに声をかけたとき、門番の男がキリトに向かって確かにこう言ったのだ。

 《ビーター》と。

 

「うーん聞いたことはあるけど、そういうネット用語にはあんまり詳しくないからわからないなぁ。どういう意味なの?」

 

「ああ、うん。ネットスラングとはまた違うのだけれど......」

 

 珍しく歯切れの悪い答えを返すアスナ。

 メイプルの言葉を聞いたアスナは、キリトの過去について何も聞かされていないであろうことを悟った。しかしそれを自分の口から話してしまうことはなにか違うと思ったのだろう。未だサンドイッチの残ったバスケットをストレージにしまうと、座っていた大樹の根っこから立ち上がる。

 

「まあ、そういう個人のことは本人に聞くのがいいかな。あんまり人の過去のことを話しちゃうのもマナー違反だろうし」

 

 

 

 

 

 

《ビーター》、メイプルにとってまったく聞きなれない言葉だった。

 もちろんネットゲームですら初心者のメイプルには、そういった界隈で使われるスラングのようなものはたびたび耳にすることはあっても、意味までは理解できないことの方が圧倒的に多い。事実、門番の男の口から出た《ビーター》というのがまさにそれだ。

 普段ならよくわからないネットスラングのひとつ、と一括りにまとめて深く考えることもなく聞き流していたかもしれない。

 ところが、先日改めてアスナから改めてその単語を聞いたとき、それがキリトを知る上でなにか重要な言葉のように感じ始めた。

 思えば第一回目の攻略が失敗したという号外を目にして、数日ぶりに最前線の街について行ったときにも気づいたことがある。

 それはキリトと出会い、初めて街に来た時に感じたものと同じ違和感。奇妙な視線が変わらずあちこちから注がれていた。そのときは見るからに初心者のメイプルが最前線にいることが珍しかったからなのだと思っていたが、《黒薔薇ノ鎧》を纏ってなお、その視線は変わらなかった。

 さらに正確に言えばその視線の先にいたのはメイプルではなく、その正面を歩くキリトに向けられていたようにも思える。

 

「なるほど。それで、いきなりオレっちを頼ってきたわけだナ」

 

「あは、あはは......」

 

 事の詳細をアルゴに話したメイプルは頭を掻いた。

 メイプルのいる場所はアルゴが指定してきた第一層の街トールバーナのカフェだった。扱う商品が商品なために、その手の仕事の話はこちらで場所を選びたいのだとのこと。それを承諾する旨を返信し、待ち合わせの三十分前に送られてきた詳細な場所を一緒に添付された地図を頼りにどうにか到着して今に至る。

 てっきり人の少ない外れの村や街でも選ぶのかと思いきや、以外にもアルゴが指定してきたのは第一層でも一番大きな街、それもメインストリートに面したかなり人通りの多い場所だった。

 いわく、人を隠すなら人の中ということで、そもそも情報屋が人の出入りの少ない場所にわざわざ行くとかえって目立つのだとか。そうでなくてもプレイヤーの恨みを買うことも少なくない商売だ。単純に交渉時にトラブルが起きた時に人の目がある場所の方が都合がいいという自衛的な意味も多分に含んでいる。

 

「それで、具体的にキー坊のどんな情報が欲しいんダ?」

 

 単刀直入な切り出し方にメイプルは一瞬どう話したものかと迷う。

 

「キリトさんって...どうしてソロプレイヤーだったんですか? アスナに聞いたんですけど、わたしと組むまではずっと一人で攻略してきたって。それにみんなから《ビーター》って呼ばれてる理由も」

 

 その質問にアルゴの表情が曇ったように見えたが、それもほんの一瞬のことだった。すぐにいつも通りの表情を取り繕う。

 

「そいつは...個人的に安売りはしたくない情報だナ。いや、もうかなり広く認知されてるし、情報としての価値はもうないカ」

 

 アルゴは少し考え込むような仕草をすると、NPCによって運ばれてきた飲み物を一気に飲み干した。

 

「いいゼ。初回サービスってことで特別にタダで教えてやるヨ」

 

 

 

 

 




酷評でも最後まで作品読んで何が悪いか言ってくれる人が1人か2人ほしい。
そういう人いないと話がブレそう

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