死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います 作:くぼさちや
この作品お気に入り数の割には投票者数めっちゃ多いんやね(笑)
あざ(●ꉺω......ありがとうございます
二度目のボス戦に集められた48人のプレイヤー。一度攻略が失敗したということもあり、今回参加したプレイヤーは誰も彼もが言わずと知れた歴戦の猛者ばかりで、それは携える強力な装備ひとつとっても明らかだった。
隊列を組み、ボスの待ち受ける部屋に向けて薄暗い迷宮区を突き進む一団の中に、ともすれば緊張感を著しくそぎ落とす二人のプレイヤーがいた。
「なんだか恥ずかしいですね...キリトさん......」
「メイプルの速度に合わせて移動してもらうわけにはいかないし、仕方ないだろ」
「そ、そうですよね〜...わたし、アジリティゼロだから」
黒いプレートアーマーとそれと同じくらい黒い大盾を背負った女性プレイヤーを、これまた黒いロングコートに身を包んだ少年がおんぶしながら隊列に参加している。
他のプレイヤーからしてみればこれから命懸けの戦いを控えているというのにのんきなものだと思うかもしれないが、これには深い深い理由がある。
四十九層の街で攻略会議を終えて、いざフロアボス攻略へと勇んでフィールドへと繰り出したまでは良かった。しかし隊列を崩さないようにゆっくりめに行軍する攻略組の足にすら追いつけなかったメイプルが涙目でキリトを見つめたのはかれこれ一時間ほど前のこと。
一人だけ列から外れるわけにもいかず、かといってその速度に合わせて全体の速度を落とすわけにもいかない。
そこで、同パーティメンバーたるキリトがメイプルを背負って同行することとなった。
「......」
こうしているうちにも、キリトは周囲からの視線を感じずにはいられない。別に攻略に支障をきたしているわけでもなければ誰に迷惑をかけているわけでもないのだが、時折聞こえてくるクスリという笑い声を耳にしてしまえば早く最上階に着いてくれと願うばかりだった。
「こりゃボス部屋に着く頃には精神的に疲弊しきっていそうだな」
「そんな羨ましい状況で、なぁに辛気くせえ顔してんだキリトよぉ」
「なんだ、あんたも参加してたんだな」
キリトが振り返ると赤い武者鎧に身を包み、腰には《曲剣》から派生したエクストラカテゴリのカタナを差したプレイヤーが列の後方から抜けてきたのか、キリトに話しかけてくる。歳は二十代半ばもそこそこ。顎の無精髭がいかにもそれっぽく、サービス開始時はまるで野盗のようだった風貌も今ではサムライ風の装備品がすっかり板についていた。
「...? キリトさんの、おともだち?」
「おうとも! 俺はキリトのダチにして風林火山のリーダー、クラインだ。よろしく頼むぜ嬢ちゃん」
メイプルはその問いに迷うことなく頷いてみせるクラインに、まるでひまわりを思わせるような笑みを浮かべる。これまでキリトの知人といえば懇意にしている情報屋だったり攻略組での付き合いがある相手だったりと、親密な間柄なプレイヤーは誰ひとりいなかった。
それが目の前にいるプレイヤーはなんとフレンドリーなことかと、メイプルは喜びを通り越して興奮気味にキリトに迫った。
「キリトさん! 聞きました? ねえ今の聞きました!?」
「聞こえてるよ。クライン、まだ生きてたんだな」
「相変わらず無愛想なやつだなぁ...ったく」
クラインはそう言うと頭を掻いて列の先頭に視線を向けた。作戦の陣頭指揮は前回と同じで血盟騎士団、アスナをはじめとして同ギルドの有力プレイヤーがそのあとに続くように行軍している。
「前回の攻略じゃあ二人も前衛職が死んじまったってことらしいからな。ここは俺たち風林火山も参加しねえわけにはいかねえってもんだ。ところで」
クラインの声色が鬼気としたものに変わったのは、まさに一瞬のことだった。
ネットゲーマー特有の妬み嫉みとはまた違った、独身男性だからこそ出すことのできる凄みがそこにはあったのだった。
「お前みたいな一人もんが、こんな可愛い子と一緒にパーティ組むとかどういうことか説明してもらおうか? こっちは最近フィールドでも見かけねえなと思って心配してたのになんと羨まけしからん!」
「いや、別になにもけしからんことはないだろ?」
そう言うキリトにクラインは悲しげに首を振った。
「わかってねえ...わかってねえよキリの字!」
「いいからそろそろ後方に戻れよ。隊列を崩すと副団長様がうるさいぞ?」
掴みかかるクラインをキリトは手で制した。なにせ規律を乱すことに関してなにかとうるさい御仁が先頭にいる。
「っとっとっとそうだな。じゃあ俺はメンバーのとこに戻るけどよ、今日はお互い頑張ろうぜ」
〇
やがて迷宮区の最上階まで上り詰めると、巨大な扉を前にして48名のプレイヤーは各々攻略前の最終準備にかかる。
アイテムのストックを確認する者、装備を持ち変える者とさまざまでキリトも予備の武器から耐久値の充実した攻略戦用の剣に装備を変えていた。
「ここが、四十九層のボスの部屋......」
メイプルは目の前にあるボス部屋を見上げる。
床から天井までの壁一面が巨大な扉になってそびえている。三十層の最奥で見たそれとは少し雰囲気が違ってみえるのは周囲のプレイヤーの鬼気とした様子がその場の緊張感を何倍にも高めているからだろう。
これから命懸けの戦いが始まる。
肌に張り付く空気がメイプルにそう告げているように思えた。
「緊張してるのか?」
「い、いいえ!」
キリトの問いかけに引きつった笑みで返すメイプル。
いかにコミュ症のぼっちゲーマーとはいえ、その言葉が嘘だとわからないほどキリトも浮世離れはしていない。ガチガチに緊張したメイプルをその場から連れ出すと誰もこちらに注目していないことを確認してキリトは声をひそめた。
メイプルのスキルについても話をするかも知れない。誰にも聞かれないことに越したことはなかった。
「ボスの情報を確認するぞ。ボスの名前は《ザ・ノーブル・モス》。名前のとおり巨大な蛾の姿をしたモンスターだ。基本上空を飛び回って毒粉で攻撃してくるけど、これは状態異常の効果しかないから物理ダメージはない。ただし参加プレイヤーの誰かのHPがイエローゾーンに突入したことをAIが察知すると強力な突進攻撃を仕掛けてくる。まあこれはHP管理をしっかりしていれば抑えられる。だから俺たち前衛の仕事は対空攻撃ができるプレイヤーを守りながらボスのタゲを維持することだ。ここまではオーケー?」
「は、はい...!」
「よし、メイプルには《毒無効》があるから今回の戦いじゃあ前衛の要になるだろう。それ自体はもう皆知ってるから遠慮なく毒攻撃に耐えてくれて構わない。だけど、他のスキルはダメだ。いいか?」
心して頷くメイプルに、ただしキリトはふと思った。
(まあ、強力なスキルを出し惜しんで死ぬくらいなら思いっきり使ってくれた方がいいんだけどな。でもそれは使わせない。俺がきっちりメイプルを守ればそれで済むことだ)