死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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あと0.19
あと0.19で調整平均が8を超える......
あと0.19で俺もレッドプレイヤーだ(●ꉺωꉺ●)


29話 「フォーメーション」

 

 

 

 メイプルたちがボス部屋に足を踏み入れると、そこは不気味なまでの静寂と暗闇が支配していた。

 今回のボスは飛行するというだけあって、設定されている天井の高さはこれまでのボス部屋に比べるとかなり高いように思える。部屋の松明の灯らないうちは暗さでそれがはたしてどこまでのものかキリトは測りきれないでいたが、おそらく壁や天井のどこかにボスは潜んでいるのだろうと当たりを付ける。

 

「皆、上空を警戒して」

 

 そんなアスナの声とともに部屋の松明が火を発して、それは徐々に部屋の奥、そして天井一帯を隈なく照らし出すと、壁に張り付いたその巨体が姿を現した。

 

「......っ!」

 

 大きく広げた斑模様の羽がメイプルの瞳に映る。それが上空に身を放ったかと思うと羽を羽ばたかせて攻略組の頭上を旋回するように飛んだ。

 

「毒攻撃が来るわ! 総員対毒防御!」

 

 盾持ちの壁役の後ろに槍装備や跳躍力の高い俊敏性のあるプレイヤーが隠れる。壁役に遮られた毒粉はプレイヤーに届くことなく、その攻撃での被毒者はゼロで済んだ。キリトも盾を構えたメイプルの後ろに陣取って攻撃をしのいでいる。

 

「すごい...誰もダメージを受けてない......」

 

「毎回こうはいかないだろう。ボスに攻撃しながら咄嗟にこの陣形を作るのは簡単なことじゃない。だから結局はこっちの解毒アイテムが尽きる前に削りきるきるしかないんだ」

 

 充満した毒の霧が引いていくのを確認すると、キリトはそう言ってメイプルの後ろから部屋の端に向かって駆け出すと地面を蹴り上げて壁に飛び移った。

 垂直に伸びる壁を文字通り走り、キリトが持つ《体術スキル》の一部である《壁走り》の熟練度上の限界まで上がると《ザ・ノーブル・モス》に向かって跳躍。繰り出したソードスキル《スラント》で袈裟掛けに切りつけた。

 他の攻略組もリーチのある槍で突く。短剣特有の俊敏性を活かして跳躍して斬るといった方法で上空を飛び続ける《ザ・ノーブル・モス》にダメージを与えていった。

 それでいて同パーティの壁役とはある程度の距離を維持して、ボスの攻撃にいつでも対応できるように注意を払っている。攻撃を受けても素早く後衛と入れ替わり、解毒している間のタゲを他のプレイヤーが引き受けて陣形を維持するといった一定の動きを繰り返している。

 そうした組織立った行動もそうだが、なによりメイプルが驚いたのは攻略組の中でもキリトの実力が頭一つ抜きん出ていたことだろう。

 

(キリトさんが強いのはわかってたけど、もしかして他のプレイヤーさんと比べてもすごく強いんじゃ...)

 

 最前線で戦う攻略組、たったそれだけでキリトは相当な実力者なのだろうと思っていた。しかしその認識がどれだけ甘いものだったのかを思い知った。

 これまで見てきたプレイヤーがキリトやアスナといったトップ中のトッププレイヤーだったせいで気がつかなかったが、戦いにおける立ち回りはその他の攻略組の一歩も二歩も先を行っている。それは動きが早い、攻撃が強いといった次元ではない。前衛の交代、的確なスイッチ、それらすべての無駄なく洗練された動きは、まさにモンスターと戦うために最適化されているようだった。

 

「毒粉の攻撃に備えてくれ! 来るぞ!」

 

「はい!」

 

 メイプルは上空に向かって大盾を持ち上げる。つかさずキリトもその影に飛び込んだ。

 ボスの羽がはためくのと同時に辺一帯は毒の瘴気に包まれて、攻略組は一旦攻撃の手を止める。毒に完全な耐性を持っているメイプルは気楽なものだが、他のプレイヤーはそうではない。

 事実今の攻撃で数名、負傷したメンバーがいた。毒のバッドステータスを受けたプレイヤーはHPに余裕があるものの後退して《解毒結晶》を使っている。

 

「HPはそんなに減ってないのに、状態異常になったらやっぱり後ろに下がらないとなんですね」

 

「ある程度ボスの情報があるとはいえそれが全てじゃない。万が一、それこそ想定外の動きにもちゃんと対応できるように警戒するならこれくらいがちょうどいいんだ」

 

 それが命を懸けるということなのだと、メイプルは理解した。同時にキリトやアスナのようなプレイヤーですら一歩間違えれば死にかねない相手がフロアボスなのだとも。

 

「だけど昆虫型のモンスターってこともあって、今回のボスはHPの総量でいえばそこまで高くないよ。きちんとソードスキルで攻撃を決めれば多少ストレングスの低いプレイヤーでもダメージが通る」

 

 今回は攻略組のメンバーでも比較的少ない短剣装備のプレイヤーが多く参加している。

 リーチと攻撃力を削った結果、扱いやすさと素早さに特化したとも言える《短剣》カテゴリは上級者からあまり好まれない。どうしてもボスなどの強敵を相手にすると決定打に欠けるからだ。

 しかしその俊敏性は跳躍できる高さに大きく影響し、今回のような飛行するモンスターを相手にすればこれ以上ないアドバンテージを持つ。

 

「うわぁーみんな早いなぁ。それにあんなに高いところまでジャンプして...わたしも一応短剣持ちなのに、なんだか戦い方が正反対ですね」

 

「そりゃメイプルみたいにそんな大きな盾を持ってたらそうなるよ。片手武器の長所は盾を持てることだけど、アスナみたいに俊敏性重視で持たないやつだっているくらいだからな。けど、そういうプレイヤーがいるおかげで今回のボス攻略はだいぶスムーズだよ」

 

「確かに、今のところ順調ですよね」

 

 キリトの言う通り、戦闘はかなり安定していた。

 アスナを筆頭に、アジリティとある程度の攻撃力を有したプレイヤーの活躍で、四段あったボスのHPは今や最後の一段にさしかかっていた。これまでの攻防の中で最低限の被害で攻撃を与えられるパターンのようなものを掴んだ攻略組は着実にダメージを重ねている。

 

(よし、このままうまくいけば......)

 

 しかし、プレイヤーが気がつかないうちにじわじわとHPを削っていく毒の恐ろしさがここで牙をむいた。攻撃に気を取られて回復の遅れた壁役のプレイヤーが一人、後衛に下がって《解毒結晶》を使う途中でHPがイエローゾーンにまで陥ったのだ。

 

「...っ! ボスの攻撃モーションが変わったわ! 気をつけて!」

 

 そんなアスナの号令の通り、途端にこれまでとは様子の違うモーションで《ザ・ノーブル・モス》が羽を羽ばたかせた。HPがイエローになったプレイヤーに向かって急降下すると、陣形を縦に割くように巨体が地面を滑空して盾越しに衝突する。

 

「ぐあっ!」

 

 盾で守ったことで全損は免れたものの、ノックバックを食らってHPがレッドゾーンにまで落ちる。攻撃進路上に巻き込まれた他のプレイヤーも各々の回避行動によってダメージを避けることはできたが、そのせいで先程までの陣形は崩れてしまっている。

 

「大丈夫か!」

 

 キリトは盾役のプレイヤーに駆け寄るとすぐさま《回復結晶》を使う。毒状態も放置できないがまずはHPを安全圏まで回復させるのが先だ。

 回復時のエフェクトに包まれて、HPバーがグリーンに戻るのを確認すると周囲の状況を見やる。

 

「くっ...あと少しなのに」

 

 キリトは唇を噛んだ。

 今なお崩れた陣形に毒の粉が降り注ぎ、攻略組全体の頭上に迫ってきている。

 各々は後退したり盾で身を守ったりと身を守るが、ボスのヘイトが散り、崩壊した陣形はもはや後衛と前衛の役割が機能していない。少なくとも毒を被ったプレイヤーが素早く解毒できるように連携できる状態ではなかった。

 

「キリトさん! 使うなら今しか!」

 

「メイプル!」

 

 メイプルが《ヒドラ》を発動しようと短剣を掲げたとき、キリトは喉も裂けそうな声で名前を呼んだ。

 いきなりのことで発動を中断したメイプルは反射的に声のする方を見る。 

 

「まだだ、俺たちに任せてくれ」




陣形は崩壊し、NWOのスキルを使うか否かの選択を迫られるメイプル。
しかしキリトの起死回生の攻撃によって危機を脱した攻略組は、ついにその本領を発揮する!
はたして49層攻略なるのか!!

次回、「裸でバナナを持つ男」
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