死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います 作:くぼさちや
四十九層の街はアクティベートされてからそれなりに時間が経っているということもあって今や攻略の鉄火場ともなっている。
そんな最前線の階層で最も大きな街、ミュージエンの酒場には攻略の最前線で活動するトッププレイヤーや、それを相手に鍛治やアイテム雑貨などの生産職、商店職を営むプレイヤーで大いに賑わっていた。
「なんか、私たち周りからすっごく見られてるような気がするんですけど、やっぱり私って悪目立ちしちゃってます?」
「気にしなくても大丈夫だよ。ここに限った事じゃないけど、特に最前線は女性プレイヤーの数が少ないから」
キリトの言う通り、ゲームそのものの男女比が極端に男性多に偏っているというのも原因ではあるが、見るからにルーキーのメイプルと悪評の多いキリトの組み合わせは嫌でも人の目を引くものだった。
二人はテーブルにつき、NPCに注文を済ませると、ようやく一息つく。
「それよりまずは確認なんだけど、ログアウト画面は表示できるか?」
「ログアウトですか? はい、やってみます」
メイプルは言われるままにメニューを開き、それらしいアイコンをタップしていく。
「ログアウト......ログアウト......うーん見つからないです」
「そっか。俺たちとは仕様がまったく違うから、あるいはと思ったんだけど......」
遠くの景色でも見るように、グググッと目を細めながら画面をスクロールするメイプルにキリトは落胆したように肩を落とす。
メイプルは運ばれてきたドリンクに口をつけてから言った。
「あの、これってゲームを中断したいときどうしたらいいんですか? 私学生なんですけど、まだ明日の宿題終わってなくて。今日はそろそろ戻らないと」
「中断はできないんだ」
「え?」
「誰もログアウトできないんだよ。このアインクラッドの一〇〇層を攻略するまでは絶対に。それだけじゃない。このゲームでの死はそのまま現実世界の俺たちを殺すんだ」
それからキリトはこの世界について話した。
正式サービス当日に起こったこと、開発者である茅場晶彦の言葉。そしてプレイヤー全員がログアウトできる唯一の方法についても。
「どう?」
「どう...と言われましても、なんか壮大すぎていまいちピンとこないというか、話にちょっと取り残されちゃってるような...あはは」
曖昧な返事をして笑うメイプル。しかし、深刻な状況なのは理解しているのだろう。伏し目がちに笑うメイプルの表情には微かに影が差して見えた。
「......俺たちが攻略を始めてもう一年になる。だけど二週間前にようやく四十八層のボスを倒したところで、アインクラッド全層攻略の折り返し地点にも届いていないんだ」
それまでに二千人以上のプレイヤーがゲームオーバーとなって死んだ。今こうしている間にもどこかでプレイヤーが死んでいるかもしれない。
「.........」
「.........」
黙りこくってしまったメイプルにキリトはなんと声をかけようか決めあぐねていたが、意を決して口を開いたのはメイプルの方だった。
「あのっ、迷惑じゃなければこのまま私としばらくパーティを組んでもらえませんか?」
「そ、それは......」
メイプルの言葉にキリトは迷った。その頼みは事と次第によっては今のキリトにとっては安易に受けられる頼みではない。
(ある程度レベルを上げていけば、それこそ第一層ならレベル20くらいまで上げさえすればソロでもまず死ぬことはない。VRMMO初心者だって生活に必要な分のコルを稼ぐくらいなら命の危険なくモンスターと戦えるようになる。だけど、俺もそう長くは前線を離れられない)
なにせ四十八層攻略から二週間も経っているのだから、いつボス部屋が発見されて攻略が始まるかわからない。
それこそ頼れる相手のいないソロプレイヤー、それも忌み嫌われたビーターのキリトにとっては最前線で戦っていち早く次の層での狩場やクエストの確保をすることがその後の生死を分けるかもしれないのだ。
だからこそ悩んだ。このままこの少女を1人にしていいものなのかと。
しかし答えは簡単だ。いきなり命懸けのゲームに放り出されて、ろくにフルダイブ型のゲームの経験もなければ、頼れる相手もいないメイプルがたった一人で生き残れるほど、ここは甘い世界ではない。
それはキリト自身が痛いほどよくわかっていた。
「......すみません。こんなこといきなりお願いされても困っちゃいますよね」
そんなキリトの様子を察したのかメイプルは飲み物を一気に飲み干すと、席を立った。
「キリトさん、ありがとうございました。あそこ強いモンスターがたくさんいる場所だったんですよね? 私キリトさんに会ってなかったらなにも知らずにゲームオーバーになっちゃってたと思います」
そう言ってぺこりとお辞儀するとその場を後にしようとキリトに背を向ける。
振り返り際に見た横顔にふと、ある人の面影を感じた。
サチだ。
「...っ!」
一瞬見せたメイプルの表情には恐怖を押し殺そうとするような、人として当然の脆さが浮き彫りになっているような危うさを感じた。
死ぬのが怖い、そう言っていつも隣合わせにある死に怯えていたあの時のサチの姿が、そして守ると約束したはずだったサチが目の前で消えていった情景が脳裏から離れない。
そんなサチと今のメイプルの姿が重なって見えると、込み上げてきた言いようのない後悔がキリトの手をつき動かした。
「キリトさん...?」
立ち去ろうとするメイプルの袖を掴むキリト。
「長く最前線を離れることは正直難しいかもしれない。けど、君が自分の身を守れるくらいになるまでは一旦ここを離れてもいいと思ってる」
「えっ? それって─────」
メイプルが言い終えるよりも一足早く、キリトが言葉を続けた。
「しばらく俺と一緒にパーティを組もう」
このくらいのやさぐれたキリトが1番かっこよかった
そうは思いませんか?
ではまた次回〜
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