死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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あざざざざざーっす(●ꉺωꉺ●)!




30話 「決死の攻略」

 

 

 

 並び立った黒と白の影が静かに上空の《ザ・ノーブル・モス》を見上げる。

 

「キリトくん。どうにかしてあの巨体を大斧や両手剣の攻撃が届く位置まで下ろせないかしら? このまま空中戦で少しずつダメージを与えていたら埓があかないわ」

 

「手がないわけじゃない。けど、うまくいくかは正直出たとこ勝負だ」

 

「でもそれさえできれば、あとは皆の総攻撃でHPを削り切れる。飛ばれると連撃系のソードスキルは当てられないけど、うまく地上戦に持ち込めればどうにかなる」

 

「なら、ここは一丁どうにかしてみるか」

 

 キリトは一人、《ザ・ノーブル・モス》の攻撃範囲内に躍り出た。全身を猛毒の瘴気が蝕み、HPがみるみる減っていく。

 

「キリトさん! なにを...?」

 

「あの巨体を地上に引きずり下ろすのさ」

 

 キリトは《回復結晶》を手に部屋の中央に立つとボスと相対した。徐々に減っていくHPバーがやがてイエローゾーンにまで差し掛かると、それに反応した《ザ・ノーブル・モス》がキリトに向かって突進する。

 

「危ない!」

 

 慌ててカバームーブと叫びかけた口を脳裏に蘇ったキリトの言葉が止めた。

 〝任せてくれ〟と。

 

「来い...!」 

 

 キリトは《回復結晶》で半損したHPを回復すると剣を振りかぶり、ソードスキルのモーションに入った。

 剣に青いライトエフェクトが帯びて、キリト自身の運動性能とスキル熟練度で極限までブーストのかけられたソードスキル《バーチカル・スクエア》がボスの頭に激突する。

 

「ぐううっ!」

 

 ボスの攻撃に押されて両足が部屋の地面を削るように後退しながら、それでもキリトは攻撃の手を止めない。

 4連擊の《バーチカル・スクエア》がきまってからは片手直剣を横に構えて防御姿勢を取り、少しずつ突進の勢いを削いでいく。

 その間もキリトのHPは毒と防御姿勢への許容超過ダメージによってグリーンからイエローゾーンへ減少を続け、やがてそれがレッドゾーンを迎える。

 

(くっ...! このままじゃあ、ボスの攻撃を殺しきるより先に俺のHPが尽きるな...)

 

 キリトは片手で剣を支えたまま、左拳を振り上げた。

 黄色いライトエフェクトを帯びた正拳突き。体術スキルの《閃打》が《ザ・ノーブル・モス》の頭に炸裂する。ソードスキルほどの威力はないにしても、スキルをキャンセルさせるために必要なダメージの蓄積はあるはずだった。

 

(まだだ! まだやれる!)

 

 二発目、三発目の《閃打》を打ち込んだところでキリトのHPは残り数ドットまで陥る。

 

「...っ! はああああああっ!」

 

 そして四発目の《閃打》が命中したところで、先ほどの《バーチカル・スクエア》のダメージと合わせてどうにか攻撃をキャンセルできるだけの威力に届いたらしい。ボス部屋の床に夥しい足をつけて《ザ・ノーブル・モス》は静止した。

 

「今だっ! 全員で囲め!」

 

 キリトの声に呼応するように攻略組の全員はそれぞれが持つ最大威力のソードスキルを発動。これまで思うように攻撃できなかった羽や頭などのクリティカルポイントに重攻撃、連撃系の強力なソードスキルを加え、《ザ・ノーブル・モス》のHPはこれまでにないほどの急激な速度で減っていく。

 しかし《ザ・ノーブル・モス》の全身がダメージエフェクトによってトラ模様のようになり、最後のHPバーがレッドゾーンを迎える頃には、スキルキャンセルによるスタンから立ち直った。

 周囲に群がるプレイヤーを蹴散らすようにひときわ大きく羽を広げて再び飛び上がると、それによって取り付いていたプレイヤーのうち三人のHPバーがイエローゾーンに入る。

 このままでは次に《ザ・ノーブル・モス》が攻撃モーションに入ったとき、ターゲットになるのはいずれの誰かだ。 

 

(まずい! イエローゾーンに入ったプレイヤーが複数いるせいでボスの進路が読めない)

 

 さきほどはイエローゾーン、つまり《ザ・ノーブル・モス》の突進攻撃の対象になるプレイヤーがキリト一人だったからこそ、ソードスキルを放つタイミングを正確に計ることができた。しかし今はレッドゾーンのキリトを含め、ダーゲットになり得るプレイヤーが四人いる。

 

(これじゃあフォローに回れない!)

 

「逃がさないわ!」

 

 そのとき、アスナは壁役にいた同パーティの団員を足場に高く跳躍した。

 その高さは飛び立ったばかりの《ザ・ノーブル・モス》の高度を優に追い越して山なりの軌道を描きながら迫ると、その手に握られたレイピアが細剣カテゴリにおける最上位ソードスキル《フラッシング・ペネトレイター》の眩い光を放つ。

 

「せあああああっ!」

 

 一閃、鋭い光が天と地を繋げるように暗闇を穿った。

 その切っ先は《ザ・ノーブル・モス》の胴体を貫き、HPが全損したことによって砕け散ったボスのポリゴンを突き抜けるようにアスナは地面に降り立つと、レイピアを腰の鞘に納める。

 

「この戦い、私たちの勝利です」

 

「「「うおおおおおおおっ!」」」

 

 勝利を宣言すると同時にあちこちから注がれる歓声を一身に受け、その身に今だ最上位スキルによるライトエフェクトの残滓を帯びた姿にメイプルはある言葉が脳裏に浮かんだ。

〝閃光のアスナ〟

 

「......すごい」

 

「今回のLAはアスナか...」

 

「き、キリトさん! 大丈夫ですか? さっきHPが赤いところまで減って!」

 

 メイプルが見ると、ボスの攻撃を真正面から受けたキリトの姿はあちこちがボロボロで、右手に携えた片手剣に至っては耐久値が摩耗して所々が小さく欠けている。

 

「ああ、もう大丈夫。《解毒結晶》は使ったし、ポーションも飲んで今回復してる」

 

 キリトの言葉のとおり、視界の端に表示されたキリトの名前の下にあるHPバーは毒の状態異常が消えていてHPも徐々に回復している。

 この世界のポーションとは飲んですぐHPが一定数回復するのではなく、決められた時間、断続的に一ドットずつHPが回復していくもどかしい代物で、未だキリトのHPはレッドゾーンをようやく脱してイエローまで戻ったところだった。

 

「まだ黄色いじゃないですか! 今《回復結晶》を出しますから...!」

 

「いやいや、もうボスは倒したしポーションで十分だよ」

 

 そんなキリトの言葉など耳に入らないといった様子でメイプルはオブジェクト化した《回復結晶》をキリトに使う。一瞬にして半損状態だったHPが満タンになった。

 

「大げさだなぁ。これ以上ダメージを受ける心配なんてないのに」

 

「それでもです。いつもこんな無茶してるんですか?」

 

「......いや、今回はああでもしないとまともに攻撃が通りそうになかったし、仕方なく」

 

 キリトはそう言って頭を掻くが、少し前まではボス戦に関わらずこれくらいのピンチは日常茶飯事だった。もちろんキリト自身も無茶をしているのは承知だったが、こうして自分の命を危険にさらすことに麻痺しているのかもしれない。

 メイプルも薄々そのことに気がついたのだろう。

 手当を終えたその瞳はどこか悲しげな色をたたえていた。

 

「そうだそうだ。もっと言ってやれメイプルちゃん。まったく相変わらず無茶なことしやがって...見てるこっちもさすがに肝が冷えちまったぜ」

 

「そう言うお前はどうなんだよ。クラインのアジリティじゃあ飛んでる間、ボスにほとんど攻撃を当てられなかったんじゃないか?」

 

「うるせえなぁ。その分、やっこさんが地上に落ちてきてからはバッチリダメージ稼いでやったっての。まあ、それもキリトが体張ってボスの攻撃を受けきったおかげなんだけどよ」

 

 そう言ってクラインはキリトの背中を力任せにバシっと叩く。ストレングス型の筋力値によってきれいにもみじ型のダメージエフェクトが刻まれると、そのままキリトの身体が軽く二、三メートル飛ぶ。

 

「痛った! おいクライン! ちょっとは手加減を...!」

 

 文句を言うキリトをよそに、クラインは小さな声でメイプルに耳打ちした。

 

「メイプルちゃんよ。キリトのこと、よろしく頼んます」

 

「え?」

 

 おそらくキリトの位置からでは聞こえないであろうその声に、メイプルは思わず聞き返す。

 

「今でこそああだけどよ。昔はもっと暗いっつうか、冷めたやつだったんだ。そのくせどうしようもねえ戦闘マニアで口下手で無愛想なんだけど、ホントはすげえいいやつなんだよ。あいつは」

 

「なんだよ。なんの話してるんだ?」

 

「なんでもねえって。ほれ、とっとと次の層のアクティベートを済ませちまおうぜ」

 

 背中をさすりながら寄ってくるキリトを押して上の階層へと続く階段に向かうクラインにメイプルは心の中で力強く言った。

 

(はい! 任されました!)

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