死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います 作:くぼさちや
その日の晩はミュージエンの宿屋で夜を明かすことになった。
キリトはメイプルの部屋を数回ノックする。少しして返事をしたのを確認するとドアノブに手をかけた。
「少しいいかな? 明日からのレベル上げについて話しておこうかと思うんだけど」
中ではレザーメイルを解除して、パステルピンクの寝巻きに着替えたメイプルが椅子の上でちょこんとかしこまったように姿勢を正している。変に緊張しているのか、力んだ肩に首が埋まっていた。
キリトの言葉に意を決するように大きく息を吸うメイプル、そして叫んだ。
「どうぞ!」
(うん、間違いないこの子天然だ)
まるで初めてボス攻略会議に参加した新参の攻略組のような、鬼気迫る様子でキリトを見るメイプル。どんな艱難辛苦を想像しているのかわからないが、これから行く場所はSAO内でもっとも安全度の高い場所だ。
「明日には第一層に拠点を移して、なにかクエストを受けよう。できれば五十層のボス部屋が見つかるまでにはそれなりのレベルにするつもりだから、簡単な討伐系のを取っておいて、クエストを進行しつつ明日一日はメイプルのスキルの取得具合とか、細かな仕様を確認する」
「五十層のボスが見つかるまで...それって期間的にはどれくらいになるんでしょうか? もしかして私、とんでもないハイペースでレベルを上げなきゃいけなかったりとか...?」
「いや、四十九層の探索も難航してるし、さらにその次のボス戦は五十層、アインクラッドのちょうど折り返し地点になる。そういうときは大抵ボスモンスターも強力になりがちだし、攻略組もいつも以上に準備に時間をかけると思う。だからそこまで気を張らなくても大丈夫だろう」
しかし実際のところキリトはメイプルのレベルの上がり方次第では次のボスか、さらにその次の五十層のボス攻略くらいまでは参加を見送るつもりでいた。絶対に死なせないように用心するなら、今までのキリトのような無茶なレベル上げはできない。
クエストもそれなりの安全度を見た上でコツコツ時間をかけて上げていくのがベストだろう。なにせメイプルとキリトではゲーム性が全く違うデータなのだ。
(それこそ、SAOとレベル上限が違うだけで一大事だ。そうなったら各フィールドに設定してる推奨レベルは参考にならない。安全マージンがわからないというのはこのゲームでは致命的だ)
例えばレベル上限が50のゲームと200のゲームでは、当然レベルがひとつ上がるまでに必要な経験値や上昇するステータスの数値が違う。だからといって、単純にメイプルのレベルの四倍がそのままSAO柄杓、というように安易に考えてしまうのも危険だ。
そこも含めて、レベルが上がるにつれてどのようにステータスが変化するのか、どんなスキルを取得するのか、きちんと見極めていかなければならない。当面はレベルアップよりもこれに重きを置くことになるだろうと、キリトは考えた。
「ひとまずは第一層の草原フィールドが安牌かな。あそこは良くも悪くも一帯がもう調べ尽くされているから突発的な戦闘も避けて戦える。なにより出現するモンスターのレベルが一番低い場所だから、安心して戦えると思う」
〇
翌朝、二人が真っ先に向かったのは第一層にあるはじまりの街。そこでメイプルの装備を整えるところから始めた。クエストはキリトが夜のうちに見繕っていて、クエスト名は《統率者の帰還》。
内容はゴブリンジェネラルの討伐だ。ゴブリンの上位互換だが、はじまりの街を出てすぐの草原フィールドからクエストが発生する目的地までは距離がある。
向かう途中にレベルを上げていけばキリトのフォローがなくても倒せるだろうという算段だった。
「今は店売りの装備で我慢してくれ。なにかレア装備を用意してあげられたらよかったけど、俺の持ってる装備の中じゃあレベル1でも装備できるようなものはなかった」
どんな武器や防具にも装備するために必要な最低レベルの設定がある。常に攻略中の最上層で戦ってきたキリトのアイテムはどれもそのレベルが高く、とてもレベル1のメイプルに装備できるようなものはない。
「いえぜんぜん! むしろなんだかすみませんです。買ってもらっちゃって」
メイプルは今しがたキリトに買ってもらったプレートメイルとタワーディフェンスシールドを装備する。
本当なら全身の装備をできる限りいいもので揃えておきたかったが、なにせ武器や防具を装備するにもストレングス、筋力値がなければ重みで動けなくなる。バイタリティ極振りのメイプルにはこれが限界だった。
「次にレベルが上がったらストレングスと、それからアジリティにもポイントを振ったほうがいいな」
「ストレングスは...筋力値? ですよね。アジリティってなんですか?」
「わかりやすく言うなら俊敏さだよ。移動速度や回避速度に影響する。盾持ちの前衛職だとあんまり必要のないステータスだけど、ゼロっていうのもな」
「うーん私としては痛いのは怖いですし、もうちょっとバイタリティを上げてからにしたいんですけど」
「でもそれじゃあ......いや、生き残ることだけが目的ならいっそ防御極振りくらいでいいのか?」
サチは後衛職から前衛職に転向する途中だったせいで二十八層の迷宮区に行ったときはステータスポイントがかなり中途半端な割り振りだった。後衛職は防御より攻撃が重要視されるし、逆に前衛職は敵の攻撃を引き受けるだけの防御力が求められる。
その間を取ったようなステータスが致命的だったことは明らかだった。
「よし、じゃあしばらくは防御力一点張りでやってみよう。ストレングスはモンスターを倒すのに不便になってから追々でも遅くはないだろうし」
そんな風にある程度方向性をまとめて転移門の前に立つ。そこから先はモンスターの待つフィールドが待っている。
「それじゃあ、準備はいいか?」
「はい、大丈夫です」
メイプルの返事にキリトはうなずくと、勢いよく転移門に飛びこんだ。
プロモーションビデオとか作りたいな
よし作るか(●ꉺωꉺ●)
ではまた次回〜
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