死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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重大発表なのですが、実はこの度、長年お付き合いさせて頂いていた彼女と結婚する事になり、突然ですが携帯小説の作家を引退させて頂く事となりましたって報告できる日はまだまだ来るはずもないのでこれからもハメ作家がんばりますよいしょー(●ꉺωꉺ●)




40話「後悔と恥じらいの夜」

 

 

 

「うえっぐ...ぐすん、ううぅ......ひっく...」

 

「泣くくらいなら最初からやらなきゃよかっただろ」

 

 バイトクエストのシフト時間が過ぎ、宿に戻ったメイプルはいきなりキリトの部屋に入るなり決壊したダムのように泣き出した。

 服装も当然のことながらいつもの《黒薔薇ノ鎧》に戻っており、頭部のネコ耳も今はない。

 

「それにしても、なんでまたあんなとこでバイトしてたんだ? この間のボス戦の報酬もあったし、別に手持ちのコルに困るようなことはなかっただろ?」

 

「それは...ぐすん、そうなんだけど......」

 

「......? なにかまとまったコルが必要な事情でもあるのか? だったら俺が―――」

 

「だ、ダメだよそんなの! わたし、この世界に来てからキリトに頼ってばかりだし、足も遅くてお荷物だし、あと金食い虫だし...!」

 

 さすがにクリスマスプレゼントを買うお金をプレゼントする本人に出してもらうわけにはいかない。慌てたように大手を振って断るメイプルにキリトは頭を掻いた。

 

「まあ、アジリティがゼロなんだから足が遅いのはしょうがないだろ? それにコルだって十分自活できるくらいには稼げてるじゃないか」

 

「でもそれ以前にわたし、キリトには多額の借金を......ううっ」

 

「うん? 借金? なんのことだ?」

 

 キリトは本気でわからないといった様子でメイプルにたずねた。

 

「この間アイテム雑貨のお店見てたんだけど、その......貴重なアイテムなんだよね? 《転移結晶》って。《回廊結晶》なんてもっともっと高いアイテムみたいだし」

 

 まだこの世界に来てまだ二週間とはいえキリトとともにそれなりにクエストをこなし、ボス攻略にも参加したメイプルだ。ゲーム内通貨で数十万というのがどれほどの大金なのかくらいはわかる。

 

「ああ、なんだ。そんなことを気にしてたのか」

 

 しかしキリトはなんてことのない口調で言ったのだった。

 

「別に大した金額じゃないよ。あの《回廊結晶》だって偶然手に入れたドロップ品だ。それにメイプルと会わずにソロで攻略してたらあのまま使わず終いだっただろうし」

 

「でもでも、お店で売ればけっこうなお金になったでしょ?」

 

「まあなったと言えばなっただろうけどさ」

 

「うう......」

 

 膝を抱え込み、顔を伏せてうずくまるメイプル。

 その様子にキリトはどうしたものかと、この日何度目になるのか頭を掻いた。

 メイプルがそのことを気にしてしまうのも無理はないだろうし、店売り価格とはいえ、20万コルとなれば下層にちょっとしたギルドホームだって構えられる金額だ。

 普通のプレイヤーなら、確かにおいそれと人に使える金額ではない。

 

「......まあ、俺があれこれ言うより見てもらったほうが早いか」

 

 キリトはそう言うとシステムウィンドウを呼び出した。それを指で横にスライドするように動かすとメイプルの目の前にそのウィンドウが表示される。

 

「こういうのはあまりほかのプレイヤーには見せないほうがいい......というか普通は見せないものなんだけど、それが今俺が持ってるコルの全額だよ」

 

「ええーっと...いち...じゅう...ひゃく...せん...まん...じゅうまん...」

 

「っとそれ以上はストップだメイプル。だれが聞いてるとも知れないから」

 

 鑑定団方式でどんどんつり上がっていく桁を耳にして、キリトはとっさにメイプルの口を塞いだ。

 そんなメイプルは大きく見開いた目をパチパチとさせている。それはキリトの取った行動以前に目の当たりにした金額に圧倒されてのことだろう。

 メイプルはキリトの言葉に小さく何度もうなずくと、ようやくその口からそっと手が離された。

 

「こ、攻略組の人ってみんなこんなにお金持ちなんですか?」

 

 あまりの驚きに、ついこの間までのような敬語に戻っているメイプル。

 

「俺はメイプルと組む前はずっとソロプレイヤーだった。だからパーティを組んでる他のプレイヤーと違って自分が見つけたトレジャーボックスやドロップ品は独り占めできたし、それだけにアイテムだってそれなりに余裕がある。結晶アイテムが貴重だって言っても最前線にいれば売るほど余るものなんだよ」

 

 だからこそ最前線で戦い続けることはそれだけで他のプレイヤーより有利なのだと、キリトは最後に付け足す。

 

「だから、これくらい頼る分には気にしなくたっていいよ。それでも気が済まないなら少しずつ返してくれればいいからさ。それに......」

 

 続けてなにかを言いかけたキリトの口が一瞬止まったが、やがてメイプルに聞こえるか聞こえないかくらいまで声のボリュームを落として言う。

 

「......今日は良いものを見せてもらったし」

 

「...? それに、なんですか?」

 

「いや、なんでもないんだ」

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 キリトの隣の部屋に宿を取ったメイプルは姿見を前にジッと自分の姿を見つめる。

 “似合ってるよ。メイド服もネコ耳も。可愛いと思う”そんなキリトの言葉がメイプルの脳内をエンドレスループしていた。

 

(かわいい...かわいいかぁ......ふふっ♪)

 

 弛んだ頬に手を当てて、ふにゃふにゃとにやけるメイプル。

 

「よし!」

 

 やがて真剣な眼差しで何事かを決意したように一度頷くと、アイテムストレージに入れていた猫耳のカチューシャをオブジェクト化して頭にかぶせる。

 

「..........うん」

 

 メイプルは思ったのだった。

 あれ? これはこれで、案外いいかもしれないと。

 鏡の前に立ったまま軽く握った両手をクイッと曲げて、いわゆる猫ポーズを取ってみる。続いて両足の膝をつけて上目遣いに見上げながら女豹のポーズ。さらにストレージからメイド服に装備品を切り替えた。

 その場でくるりとターンして花のようにスカートを広げると小首をかしげながら再度猫のポーズ。

 

「にゃん♪」

 

「.........」

 

 そんな様子を、わずかに開いたドアの隙間からキリトは見ていた。

 

(どうしよう...話しかけるどころか迂闊に身動きが取れない)

 

 キリトとしてはそんな様子を覗き見るつもりは毛頭なかった。ただメイプルの部屋の扉がわずかに空いていて、それを指摘しようとドアノブに手をかけた瞬間、今のシーンに出くわしてしまったのだ。

 

(とにかくここは見なかったことにして、後で出直そう。うん、それがいい)

 

 そう思ってキリトは気づかれないようにゆっくりとドアを閉じようとするが、蝶番が開閉する油の切れた音が思いのほか甲高く響いてしまった。

 

「え?」

 

 驚いてメイプルは見ると、今まさにわずかに空いた扉を閉めようとするキリトと視線がぶつかる。

 

「......あ」

 

「き、きききキリト...!?」

 

 メイプルの首から上が真っ赤に上気したのが目に見えてわかった。

 

「俺なにも見てないから!」

 

「まだわたしなにも言ってないんだけどなぁー! というか、それって見たってことじゃないかなぁー!」

 

 半ば泣きの入ったメイプルの声を聞きながらキリトは思った。

 メイプルにかけた金額は確かに他のプレイヤーからすれば大金になるのだろう。

 ただし、今の愛らしい姿とそれをうっかり見られて赤面するメイプルを独り占めできたことを思えば、偶然トレジャーボックスから手に入れた《回廊結晶》のひとつやふたつ、安いものだとキリトは思ったのだった。

 

 

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