死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います 作:くぼさちや
大抵10話以内には主人公とヒロインが引っ付いてたりとかする中で、42話にしてまだ圏内殺人すら起こってない自分の作品マジでどこに向かっているんだろう? と、思います
原作の話にまったく沿わないスタイル
終わりが見えないZ!
「それじゃあギルド全員の帰還と僕たちを助けてくれたサリーさんへの感謝を込めて、乾杯」
「「乾杯!」」
ギルドのリーダー、フレッドの音頭に合わせて目の前で木製の盃が豪快にぶつかり合う。
今私たちがいるのはアインクラッド二十八層にあるクメルスンという川沿いの小さな町の酒場だ。
助けたといっても私がしたのは最初の飛び蹴りだけで、想定外の横槍を入れられたプレイヤーキラーたちはそれ以上交戦することなく立ち去っていった。
あっけないというか、集団PKなんて派手なことをする割にはずいぶん慎重すぎる気もしたけど、後々フレッドたちの話しを聞いてみればそれも納得のいくことだった。
なにせここはソードアートオンライン、これまで既に数千人のプレイヤーたちが命を落としたデスゲームなのだから。
(まさかNWOの世界からこんなところに紛れ込んじゃうだなんてなぁ。でもこれではっきりした。どうして楓がログインしたまま目を覚まさないのか、きっと楓もこの世界に来ちゃったまま帰れなくなってるんだ)
木製のコップを握る手に力がこもった。
ようやく楓を助ける手がかりを得ることができた。まさか他のゲーム、それもSAOの中にログインしてるだなんて思いもしなかったけど、他のSAOプレイヤーと同じようにNWOから来た私もログアウトができなくなっているこの状況から考えれば楓が自分と同じようにこの世界に来てしまったことは間違いないと思う。
「それにしても、サリーさんはどうしてあの森に? あそこは特に目ぼしいクエストやなんかもないエリアだからほとんど人は来ないのに」
「あ、えっと実は友達を探しててね。それから、さん付けとかはいらないよ。私そういう肩っ苦しいの苦手だしさ、ゲームの中くらいそういうのは気にしないでいたいタイプなのよ」
嘘はついていない。けれど、だからといって迂闊に本当のことを言うわけにもいかない。それもそう、なんてったってSAOとは全く違うゲームから来てしまっただなんて話、信じてもらえるかどうかわからないのだから。
「あーめっちゃわかるかもそれ! わたしも軽い感じで話したほうがやっぱ楽なんッスよね〜」
「そうは言うけど、オレンジって基本誰にでも敬語で話すじゃないか。まあ敬語って言うには少しフランクなノリのある話し方だけど」
「わかってないなぁリーダーは。これはススッ娘キャラって言ってそれなりに需要あるんスよ〜。まあただのロールプレイですけど、自演自演」
オレンジという名前の通り、オレンジ色の癖っ毛を揺らせてあっけらかんと答える女の子。
ゲームの楽しみかたとしては間違ってはいない。間違ってはいないけど、
「ここまでおおぴらだと清々しいっていうかなんというか。あはは......」
そうやって返しに困って笑っていると気さくな様子でメイス使いの男の子が話に加わる。
「けどコイツのロールプレイもなかなか笑えるんだぜ。オレンジとはリリース直後からパーティ組んでるけどよ、あんときはこいつ熊みてえなごっつい男のアバターでプレイしてたんだ」
「ちょっとシゲっちなにぶっちゃけてくれてんッスか!」
即座に立ち上がってメイス使い、シゲルの首元に掴みかかるオレンジ。
そんな話にふと思い出したようにフレッドが頷いた。
「ああ、確かにそういう感じだったね。なんていうか戦国武将みたいな風貌で」
「そうそう! で、あんときのこいつの口癖が―――」
「シゲっちこれ以上言ったらわたしのおっぱいにその手無理やり押し当てて牢獄送りにするッスよ?」
「てめ冗談にしても笑えねえぞその手口! 人をハラスメントコードの悪用で変態に仕立てあげるんじゃねえ!」
とっさにバックラーで守りを固めるシゲルとミサイルさながらに胸を構えるオレンジが火花を散らせたところで、呆れ気味のフレッドが仲裁に入る。
「待った待った。二人ともさ、喧嘩はよくないとかいう以前に人前でする話じゃないでしょそれは。一応今って新メンバーをスカウトしてる真っ最中なんだよ」
そう、今フレッドが言ったようにこの祝杯は帰還祝いの他にもうひとつの意味があった。それは私にギルド《月と盾の紋章旗》の加入を勧めるにあたっての親睦会だ。
「ごめんね。すぐバレることだから誤魔化すつもりはないけど、こういう雰囲気のギルドなんだよ。良く言えばアットホーム、悪く言えば無遠慮なやつらだからさ。サリーも馴染むのは早いと思う。うちはご覧のとおり万年人手不足でパーティメンバーの上限すら満足に満たせない少数ギルドだから、君みたいな強いプレイヤーが入ってくれると頼もしい。どうかな?」
そう言ってフレッドは少し恥ずかしげに、そして柔和に笑った。
楓を探そうにも、この世界について何も知らずに頼る宛もなにもなかった身としては願ってもないお誘いだ。なによりもこの三人が持つ仲間意識というか、ぬくもりのある空気感が私はたまらなく好きだと思った。
そして、そう思った瞬間からフレッドへの返事は決めている。
私はすでに届いていたギルドの加入申請のメッセージを開くと《YES》のボタンを指で押した。
「改めてまして、サリーだよ。これからもよろしくね!」
誰かと競争するのがなにより楽しくて誰かと戦うのが本当に好きな私だけど、素直に一緒にゲームがしたい、そんな風に思わせてくれる人たちだった。
〇
「そーいえばサリーの友達ってどういう子なんスか?」
「リアルでの友達なの。でもフレンド登録もしていなければこの世界でのプレイヤーネームすらわからなくてさ」
アインクラッド第三十層。この間襲われたばかりの二十八層を避けるのは当たり前だけど、人数も増えて単純にパーティとしての戦力が上がったことも考慮して二つ上の階層を攻略していた。
「うーん見た目は現実のあたしらと変わらないわけッスから、うわー容姿だけが手がかりじゃん」
オレンジは私の隣でげんなりとした様子で肩を落とすけど、このSAOのどこかにいることがわかっているだけでもかなり進歩している。ここに来るまではNWOの世界で居もしない楓を探し続けていたのだから、ずいぶん骨折り損な捜索だったと思う。
ただ、こんなことならもうちょっとあっちの世界でレベル上げしておけばよかったなぁ。
ナーブギアとは違う機種でログインしているからゲームオーバーしたところで脳が焼かれる心配はないけど、その後もう一度SAOの世界にログインできるとは限らない。
無茶なレベリングができないという意味では私もフレッドたちと同じだった。
「フレッド、索敵スキルに反応があったぜ。このすぐ先でモンスターがポップしてる。ここらのモンスターの平均レベルでいえば中の上くらいじゃねえか?」
先頭を歩いていたシゲルが不意に後ろを振り返って言った。フレッドは頷いてから答える。
「オーケー、じゃあそいつを狩ろう。新メンバーを加えてから初の戦闘だ。手順はいつもの通りで」
各々が武器を抜き、私は腰に下げたツインダガーにそっと手を添えた。
慎重に進んでいき、やがて私たちの目の前でモンスターがポップすると、シゲルがうめき声のようなものをあげた。
「うげっ! 初戦から人型モンスターかよ幸先わりいな」
現れたのは鎧を着込んだサムライ系のモンスター。兜の向こうでは亜人特有の獣じみた顔がわずかに見て取れる。腰にはプレイヤーが持っていそうな長寸の太刀が鞘に納められていて、やっぱりNWOのモンスターと比べると凶悪そうなデザインだ。
けれど、いま気になるのはこのモンスターを見たときのシゲルの反応だ。
「幸先悪いって...厄介なモンスターなの?」
「そりゃそーッスよ。猪とかスライムとかと違ってあの手のモンスターはあたしらみたいなソードスキル普通に使ってくるッスから、軽装のシゲっちしか盾持ちがいないうちらにとってはちょっと出くわしたくない相手ッスね」
シゲルに代わってオレンジが答える。
確かに私たちのパーティには盾持ちのシゲルがいるけど、壁役というよりは機動力のあるサポート役といった感じで、軽量な革鎧の防具に持ち主の胴体をギリギリ覆えるくらいの大きさしかないバックラーじゃあ防御力に乏しいのかもしれない。
「そういえば、フレッドはどうして盾を持たないの? シゲルのメイスと同じで片手武器ならフレッドだって盾を持てばいいじゃない」
「僕の場合は持たないんじゃなくて、持てないんだよ」
持てない? どういうことだろう?
片手剣を持っているのに盾を装備できない理由、考えてみてもまったく思い付かない。
「実は僕が使ってる片手剣、はっきり言って僕のレベルには不相応過ぎるくらい強力な武器でね。適当な両手斧より装備に必要なストレングス値が高い。簡単に言うと、僕のステータスじゃ重すぎてこれ以上装備が持てないんだよ」
(りょ、両手斧より重い片手剣って......)
あたしはフレッドの背中に固定された剣を見る。
氷の彫刻のような透き通ったブルーの片手用直剣。見た目の重厚感はあるけれど、刀身は細身。初めて見たときから綺麗な剣だなって思ってたけど、まさかそんな激レアな武器だったとはね。
「まあ、ソードスキルを使ってくるモンスターを避けてばかりいてもしょうがないよ。俺たちの陣形はいつものとおりで、サリーは隙をうかがって側面から攻撃してくれ」
「わかったわ」
私の返事に頷いて返すフレッド。やがて背負った両手剣を引き抜くと、それを先頭にオレンジとシゲルが縦一列に並ぶような陣形でモンスターと相対する。
前衛は重装備のフレッド、槍持ちのオレンジを後衛に置いて軽装メイサーのシゲルを準前衛として二人の中間に配置して対応しているようだった。
率直に言って悪くないと思った。むしろ三人だけでパーティを組むことを考えればこれ以上ないほどバランスのとれた配役だろう。
そしてこの陣形のバランスを崩すことなく一つ配役を加えるとなれば、側面から急接近して着実にダメージを与えていく遊撃要員。これについては都合のいいことに私の得意な戦い方だ。
「よし、初手からアクセル全開で行くよ!」