死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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さちや「過去編は五話で終わると言ったな」

読者「そ、そうだ! 大佐!」

さちや「あれは嘘だ」

読者「ウワアァァアァアス(゚Д゚)アァアァァアアアア」


緋く染まる二つの刃 〜其の4〜

 

 

「あーあ、今日も全員外れッスかぁ。なかなか見つからないッスね。サリーの友達さん」

 

「でもまったく無駄足になってるわけじゃないわ。こうやって一人一人のもとを訪ねていけばいつか必ず見つけられるもの」

 

 この世界に来てから一ヶ月が過ぎ、今日も私はリストアップされた女性プレイヤーのもとを一件ずつ回っていく。けれどそろそろ日も暮れて、出現するモンスターのレベルや出現分布が変わる頃だ。この時間帯になるとレベリングのために街の外に出るプレイヤーが増えるから、どうしても訪問先のプレイヤーが留守であることが多くなってしまう。

 言ってみれば、今日はもう切り上げ時なのだ。

 

「付き合ってくれてありがとね。オレンジ」

 

「いいんスよー。あたしも今日は付き添いついでにいろんな層観光できたッスし、いろいろ買い物もできたんで」

 

「買い物っていうより、オレンジの場合は買い食いでしょ? 露天の前を通るたびに何か買ってくるんだから」

 

「いいじゃないッスかぁ! この世界じゃあどんだけ食べても太らないんッスから。これも娯楽の少ないアインクラッドで健やかに生きるための秘訣ッスよ」

 

「太らない...ねぇ」

 

 私は防具越しでもわかるほどに膨れたオレンジの胸をジト目で見た。

 この世界のプレイヤーの容姿や体系は現実のそれを忠実に再現しているという。つまりこの攻撃的なバストは自由に体系を変えられるキャラメイクによるものではなくて、天然ものであるということになる。

 なのにこの子、出るとこ出てる。

 

「ちょ、なんスかサリー...?」

 

「.........」

 

 私のようにアジリティ特化のプレイヤーであれば誰しも覚えのあることだ。手数で優ってる、スピードで優っている。そんな相手に何発攻撃を加えようが、ストレングス型プレイヤーから受けるたった一撃の被弾で一気に形勢をひっくり返される。そんな惨めさがアジリティ特化型のプレイヤーにはあるのだ。

 さてこの破壊力に対抗するにはなにで優ればいいのだろうか?

 

「いや怖い怖い怖い! なんかモンスターと戦う時みたいな顔してる! マジでなんすか!」

 

「あ...っと、ごめんごめん。ちょっと考え事してて」

 

「言っておくッスけど、私をPKしたからってこのおっぱいは装備品じゃないんで、ドロップとかしないッスよ?」

 

「あははー、それ絶対喧嘩売ってるでしょオレンジ〜」

 

 私がこのたわわに実った胸の贅肉を削ぎ落としたい衝動に駆られていると、メッセージの受信を知らせる通知音が耳に入ってくる。

 それは情報屋のアルゴからのものだった。

 

 

 

 

 

 

「女性プレイヤーのリストの追加版? 前にもらったので全員じゃなかったの?」

 

 そんな何気ない一言に目の前のアルゴは肩をすくめる。

 呼び出しを受けた私はそのままオレンジを連れて最前線である四十八層の町、ミュージエンの街に来ていた。ギルドホームのある十層のオズロンドも大きな町だけど、ミュージエンは大きいだけでなく、攻略の最前線ということもあってプレイヤーの活気が下層の比じゃない。

 

「オレっちは情報屋として有能ではあっても万能じゃあないんダ。女性プレイヤー全員のリストアップなんていくらオレっちでも時間がかかる。まあ完全に集めきってからリストを渡すんでも構わないケド、お前さんはそんなの待ってられないダロ?」

 

「まあそうね、どの道時間をかけて一人一人に当たっていかないとだから、ちょっとずつでもいいわ。それで追加は何人分?」

 

「新しく十一人、とプラスアルファが一人だ」

 

「プラスアルファ?」

 

「十一人は最初に受け取った額の適用内ということで、そのままくれてやるゾ。だけどただ一人、あるプレイヤーの情報だけはちょっと他のプレイヤーと同じ価値ってわけにはいきそうにないんダ」

 

 つまり、その子の情報だけは別料金ということなんだ。

 なるほどね。リストの追加だけならプレゼント機能で送信すればいいだけのところをこうして呼び出してきたのは、別口の取引の話を持ちかけたかったからなんだろう。

 アルゴにしてみればむしろここから本題なのかもしれない。

 

「その人も女性プレイヤーには違いないのよね?」

 

「ああ、女性プレイヤーなのは間違いないゾ。それに生活の拠点もはっきりとわかってる」

 

「なら問題ないわね。いくらかしら?」

 

「十万コル」

 

 けっこうな大金をさも当然といった口ぶりで言ってのけるアルゴ。それにいち早く反応したのは隣にいたオレンジだった。

 

「ええーっ! ちょいアルゴっち! それはいくらなんでもボッタクリすぎっしょ。そんなん買う人どこにいんスか!」

 

「買うわ」

 

「ってここにいたー!」

 

 オレンジのコントじみたリアクションがノリよく広場に響く。

 アルゴのネズミのような三本髭がフードの向こうに覗く。一瞬だけ見えたその表情は笑っているようだった。

 

「毎度ありダ。じゃあ先方とは今日の夜にでもその条件で交渉してきてやるヨ。相手が情報料のつり上げに応じたら交渉のメッセージを飛ばすから、すぐ返事できるよう今夜は街の中にいてくれよナ」

 

 そう言うとアルゴはフード付きのローブを翻した。

 瞬く間に人ごみへと消えていくアルゴを手を振りながら見送ると隣でやり取りを一部始終見ていたオレンジがため息混じりに言った。

 

「あーあ、すっかり情報屋にカモられちゃって。これからネギ稼ぎにフィールドをランニングッスか?」

 

「お金でどうにかなるならネギでもカモでも背負ってやるわ。こればっかりは私じゃどうすることもできないし、それに前みたいに転移門の前で一日中張ってたらいつまで経っても見つけられないもの」

 

「あー、うん、それは確かにもう嫌ッスね......」

 

 オレンジはどこか遠くを見るような眼差しでそうつぶやいた。

 《転移結晶》を使ったときを除いて、プレイヤーが階層間を移動するときは必ずボス攻略後にアクティベートされた転移門を通らないと行くことはできない。だからこの世界に来てから私が真っ先に取った楓の探し方は《月と盾の紋章旗》のギルドホームがある第十層、その転移門広場の前で出入りするプレイヤーを一日中監視していることだった。

 もちろんこの転移門は各層に一つずつあるものだから、私が見張っていた十層に楓が来る、それか十層から他の層に行くかしてもらわないと意味がない方法だったけど、全部で四層しかないNWOの世界と違ってアインクラッド中を走り回って探すよりは望みのある探し方だった。

 初めは付き添ってくれていたオレンジやシゲルだったけど、ただ見張ってるだけのこのやり方じゃあ退屈過ぎて二人とも半日ともたなかったし、かくいう私もしばらく続けてはみたものの、さすがに三日と続かなかった。

 その苦労を考えればモンスター相手に身体を動かして稼いだお金で生存している女性プレイヤーの名前と生活拠点をリストアップしてくれるというのだから、なんとも楽なもんだ。

 

「まあ、今はみんなのお陰でお金には困ってないしね。これくらいの出費なら全然平気よ」

 

 それにこの世界のお金も楓を見つければ必要なくなる代物だ。ケチってまで溜め込むほどのものでもない。とはいえ、無いなら無いで不便なことに違いはないわけで......

 私はオレンジの手をそっと、それでいて逃がさないように強く握る。

 

「というわけで、ちょっとコル稼ぎにでも行きますか。夜までなら受けてるクエストも二、三個くらいは消化できるだろうし。オレンジも手伝ってよね」

 

「あ~れ~! さ~ら~わ~れ~る~!」

 

 冗談めかして言うオレンジを強制連行して、私たちはフィールドへと繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 その夜、結局アルゴから先方は情報料の十万コルに百コル上乗せした金額を支払って口止めをしたという連絡を受けてた。私はクエスト疲れと面倒くささから一気に『プラス十万コル上乗せ』とだけ簡潔に書いたメッセージを送る。

 私はベッドに寝転びながらフレンドリストに登録されているアルゴへ追加の十万コルを送ると、ほどなくして先方が口止め料のつり上げに応じなかったこと、そして件のプレイヤーの情報をすぐにこっちへ送る旨を記したメッセージが届く。

 

「なんだ、張り合いないなぁ」

 

 私はメニューウィンドウからコルの残高を確認するついでに、今新たに受け取ったプレイヤーの情報を開いてみる。

 

「キャラクター名はメイプル...主な拠点は第一層のはじまりの町かぁ」

 

 こうしてプレイヤーの情報を得ても、結局は直接会って顔を確認しないことには楓かどうかはわかんないんだよなぁ。

 私はあまり深く考えないまま受け取ったリストをアイテムストレージにしまう。とりあえず今は根気強くやっていくしかない。

 大の字で寝転がった私はじっと天上を見つめると、この世界のどこかにいるであろうあの子にむかって呟いた。

 

「楓......私、頑張ってるよ。あんたは今、どこでなにをしてるの?」 

 

 

  

 

 

 

 

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