死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います 作:くぼさちや
感想欄では運営に消されて聞けないようなことでもガンガン答えちゃうんで、見たい方はこちらまで!
@Prz6sOqffybKM7t
《月と盾の紋章旗》では度々、ギルドホームの広間で親睦会なるものが催されることがある。
それは会の名前にあるとおりギルド内の親睦を深めることが目的ではあるけれど、実際のところはオレンジの持っている《料理》スキルの熟練度上げのためというのが正直なところみたい。
そういう理由があっただけにテーブルに並ぶものも露天やお店で買ったものはほんの一部で、大半を占めているのはなんとオレンジの手料理。
ガサツそうに見えて実は現実世界でもよく料理を作っていたらしくて、その手腕はこの世界でも《料理》スキルを用いていかんなく発揮されているのだろう。
その証拠とも言うべきか、今私の目の前には現実の世界じゃあ誕生日でもクリスマスでもまず出されないような豪勢なメニューが並び、四人だけのパーティーが始まった。
「というわけで、スキル上げで余りに余った残飯処理パーティー! 開幕~~!」
そんな身も蓋もないオレンジの音頭とともに木製のジョッキが勢いよくぶつかりあう。すると豪快にジョッキのドリンクを一口で飲みきったシゲルは開口一番に私の方を見て言った。
「にしてもサリーがこのギルドに入ってもう一ヶ月かぁ。馴染んだもんだよな」
「そうね、早いなぁ...」
この世界に来ていろいろなことがあったせいか、もう何ヵ月もこのギルドにいるような気すらしてしまう。
それだけ濃密な時間をこのギルドの皆と過ごしたけど、私が別のゲームから来たことは、まだ内緒にしていた。
当然、魔法スキルを使うこともしない。それ以外の《超加速》や《蜃気楼》なんかのスキルも今は絶賛封印中。
なにせ本当ならこの世界ではどれも存在しないはずのスキル、チートコードと同じでこういうスキルを使った結果どんな不具合が起きるかわかったもんじゃない。
バグの原因になるようなことは避けてしかるべきだ。
「サリーも今じゃ僕らギルドにとってなくてはならない存在だからね。事実パーティー全体のサポートを引き受けていたシゲルの負担はかなり減ったんじゃないかい?」
「まあな。ちょっとヤバイ状況になってもサリーがうまいこと立ち回ってくれるお陰でスムーズに狩れるようになったぜ。けど、もともとは俺一人でそこんとこカバーしてたんだ。もうちょっと俺に頼ってもいいんだぜ?」
実際に私がギルドに入ったことで狩りがしやすくなったのは本当らしい。
オレンジから話を聞いてみると遠出のレベリングになると真っ先に音を上げるのがシゲルだったみたい。
一緒に戦っているからわかることだけど、前衛と後衛の間という面倒なポジションは地味な役回りの割にけっこう頭を使う。
だから私が加わるまではシゲルが精魂尽きたことで迷宮区を目前にトンボ返りすることもあったとか。
「まあシゲっち頼りにはなるんッスけど、肝心なところで追っつかなくなってくるとこが玉に瑕っていうかぁ......わかりません?」
「言いたいことはわかるけど、そこはキャパシティの問題だと思うよ。シゲルにはかなりフレキシブルに動いてもらってるし、どうしても限界はあるよ」
「おいおい二人して頼りないみたいなこと言うなよな。じゃあ逆に聞くけどよ、俺に足りない物ってなんだ?」
フレッドとオレンジが真顔で交互に答えた。
「まず防御力がない」
「リーチもないッス」
「それに連撃系のソードスキルの熟練度も低いね」
「あと足短い」
「ひでえなお前ら! つうか最後どうにもならねえ上に全く狩りと関係ねえことで俺をディスってねえか!?」
拗ねたようにテーブルに突っ伏すシゲルにオレンジがおかわりのドリンクをつぎ足しながらポンポンと肩を叩く。
「まあまあシゲっち、そんな落ち込まないで。はい、いちご牛乳」
「うっせえよ...
悪酔いした中年オヤジみたいなめんどくさいテンションでいちご牛乳の入ったジョッキを傾けるシゲル。私もその隣に席を移して料理の中から鳥型モンスターの丸焼きにナイフを入れ、取り分けた肉をシゲルの皿に盛った。
というかさっきから飲んでるのいちご牛乳だったんだ。性格に似合わず女の子みたいな味の好みしてるなぁ。
そんな事を思いながら私は苦い笑みを浮かべていると、消沈中のシゲルをたしなめるようにフレッドは言った。
「顔を上げなよシゲル、モテモテだよ?」
「いや、これは絶対そういうのとは違ぇ...!」
私とオレンジに挟まれたシゲルはわずかに顔を上げると、複雑に歪んだしわを眉間に寄せてそう言ったのだった。
〇
パーティーは例のごとく大いに賑わいを見せて、ふとフレッドの視線につられて壁の時計を見るともう夜の十一時を過ぎていた。
「もうけっこうな時間になるけど、サリーは平気かい? いつも早くから出かけてるみたいだけど」
フレッドの言う通り、明日も朝から楓を探しに行かないといけない。日が昇りきってしまえば大抵のプレイヤーは拠点を出てレベリングに行ってしまう。そうなる前の朝というのは効率よく楓を探せる貴重な時間帯なのだ。
「そうね......じゃあ、私はそろそろ部屋に戻るわ」
「あ、じゃああたしもー。ねえねえサリー、一緒にお風呂入らないッスか?」
「い、嫌よ。だってオレンジと入るとなんだか女の子として惨めになってくるから......」
「いいじゃないッスかぁ〜ほらほら」
そんな話をしながらオレンジに背中を押されるようにして私たちはその場を後にする。広間にはシゲルとフレッドの二人だけが残った。
「......どうすんだ。あいつをこのまま連れてくわけにゃいかねえだろ?」
「わかってるさ。ああ...わかってるんだ」
〇
この世界のお湯の再現度は現実世界のそれと比べてしまうとお世辞にも高いとは言えない。それでも部屋でシャワーを浴びてみればいくらか気持ちがリセットされたような気がするし、事実浴室を出て自室のベッドに腰を下ろした私はそれなりにすっきりとした気持ちで寝巻きに身を包み、明日の準備に励んでいた。
「明日は二十層にいるプレイヤーを当たるかなぁ。この層を拠点にしてるプレイヤーって多い上にあっちこっちの町に散ってるから今まで後回しにしてたけど、丸一日使って捜し切っちゃうか」
私はアルゴに集めてもらったリストを指でスクロールして明日訪問するプレイヤーの名前を書き出す。そのとき扉をノックする音がして私は答えた。
「...? どーぞ」
オレンジが遊びにでも来たのかと思ったけど、それは違った。扉が開いて現れたのはフレッド。もう一ヶ月以上も同じホームで生活しているけど、こうして直接部屋を訪ねてくるのは珍しい。
「失礼するよ。今少し時間あるかな?」
リストアップは後回しにするとして、私は書き出しをアイテムストレージにしまうと正面の椅子に座るよう手で促した。木製のテーブルに簡素な椅子が二つあるだけのそこにフレッドが腰を下ろすと、私も向かい合うような形でもうひとつの椅子に座る。
「それで、こんな時間に女の子の部屋にまで来て話したいことってなんなの?」
少しいたずらっぽく茶化すような言い回しで聞く私に、フレッドは少しも笑わずに答えた。
「大事な話があるんだ。君の今後について...」
「今後っていっても、私は引き続き友達を探すわよ? まあそれもあって今までずっと皆と一緒に行動するわけにはいかなかったけど、でも足を引っ張るほどレベリングをサボってるわけじゃないでしょ?」
「いや、ごめん。今後、と言うと語弊があるね。僕が聞きたいのはこのまま僕たちのギルドに残るか、抜けるかについてなんだ」