死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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緋く染まる二つの刃 〜その10〜

 

 

「《ウィンドカッター》...!」

 

 私はこの世界に来て初めて魔法スキルを詠唱した。

 掲げた手のひらに並行して発生した緑色のライトエフェクトが高速で回転を始める。これまでバグやシステムの破損の可能性があったから使うことをためらってきたNWOの魔法スキル。

 けどバグなんて知るもんか。私の存在がこの世界に残る限り、戦い続けてやる。

 

「なんだこいつの攻撃は......? ちっ! てめえらとっとと守り固めろ!」

 

 PoHの表情に明らかな動揺が走る。

 号令を受けて私の《ウインドカッター》の軌道上に三人の盾持ちプレイヤーがPOHを守るように横に盾を並ばせた。

 

「せあああああっ!」

 

 私はそのまま腕を振るう。

 放った《ウインドカッター》が連なった三枚の盾に衝突するけど、盾を構えたプレイヤーが僅かに後ろに動じただけでHPにはほとんどダメージが通っていない。

 いくらNWOの魔法スキルとはいえ、私が使える魔法は初級もいいところだ。どうしても壁役の防御を破るには威力が足りない。

 だったら次は接近戦闘。

 

「《超加速》!」

 

 私はスキルでアジリティを強化するとほとんど闇雲に突っ込んだ。そのまま走る勢いを殺すことなく短剣を振るった。

 

「《 ダブルアタック》!」

 

 そうすることで急接近によるダメージボーナスが付随されるけど、それだって壁役の防御を抜けれるほどじゃなかった。二つの刃が硬い壁に阻まれて弾かれる。

 

「うっ...! こいつ、硬い!」

 

 自分にろくなストレングスがないことが悔やまれた。

 それこそ楓を探すためにアジリティ特化で鍛えてきて、それなりにスピードを生かした戦い方だって身につけてきた。けど多分ここにいるプレイヤーと私の間にはそれなりにレベル差があるみたいだった。

 攻撃が弾かれた衝撃でのけぞり、僅かに体勢が崩れた瞬間、並んだ盾と盾の隙間から二本の槍がX字を描くように私の胴体に目掛けて突き出される。

 

「《蜃気楼》!」

 

 おそらくシゲルを殺した後衛の槍持ちだ。

 私はその場で屈んで突きを躱す。頭上で《蜃気楼》によってできた残像を二つの槍が貫くと、本体の私は無理に攻め込まずバックステップで距離を取った。

 やっぱり私一人で捌くには数が多すぎる。でもそんな泣き言は言ってられない。このままじゃフレッドたちが死んだことの意味がなくなってしまう。

 

「もらいーっと!」

 

 不意打ちの隙を伺っていたのか、バックステップ中の私にジョニー・ブラックの投擲したナイフが側面から迫った。

 

「そんな攻撃が......通用すると思わないで!」

 

 左右の手に握った短剣を縦横無尽に振るってナイフを打ち落とすと、反撃に火属性の魔法スキル《ファイヤーボール》の詠唱をしようとしたところで今度は背後から大きな影が差す。

 

「...っ! 後ろから!?」

 

 とっさに振り返ると無骨な両手斧を構えたプレイヤーが目前まで迫ってきているのが見えた。斧にはライトエフェクト、ソードスキルによる攻撃だ。

 

「うあっ!」

 

 短剣をクロスさせて攻撃を防ぐけど、もともと防御に不向きなツインダガーでダメージを吸収しきるには、相手の攻撃力は高すぎた。

 下から上に向かって振り上げるような大振りの攻撃を受けて、私の手から弾き飛ばされた二本の短剣が宙を舞って、遥か後に音を立てて落ちる。

 

「しまった! 武器が...!」

 

 私は頭に登っていた血が一気に下がっていくのを感じた。目の前で仲間を殺されて冷静じゃなかったことを今になってようやく自覚する。

 私は地面を蹴って落とされた武器に手を伸ばした。

 

「お願い...! 届いて!」

 

 誰の目から見ても武器を拾おうとしていることはバレバレだろうけど《超加速》の効果は残ってる。今の私のスピードならまだ回収できる。

 けど、そう思って駆け出した私の背中に重たい刺突音とともに鈍い衝撃が走ると、膝から下が失くなってしまったように力が抜け、私はそのまま地面に伏した。

 

「捕獲、いっちょあ~がり〜♪」

 

 NWOのスキルを使ったせいでラグでも起きたのかと思ったけど、それは違った。見てみると背中にはジョニー・ブラックが愛用している投擲用のナイフが無数に刺さっている。

 HPバーの上には麻痺を表すアイコンが表示されていてまったく身動きがとれない。

 

「......っ!」

 

 私はすぐ目の前に突き刺さっている短剣に手を伸ばした

 あと少し。ほんの少し手を伸ばせば剣に手が届く届く。けれど視線の先にPoHは割って入ると二本の短剣を足で蹴飛ばした。

 

「こいつは思わぬ掘り出しモンだなぁ。ちょっと遊んでからぶっ殺してやるつもりだったが、予定変更だ」

 

「くっ......!」

 

「魔法ってぇのか? この世界にそんなもんがあるなんて初耳だぜ。どうやって手にいれた?」

 

 私は悔しくて下唇を噛んだ。

 確かに敵の人数は多いけど、普段ならもっとうまく立ち回れたはずだった。

 活用できるスキルはまだまだあった。落ち着いて、一人一人冷静に対処していれば私でも十分に対処できたはずだったんだ。それなのに頭に血が登って、テイムモンスターの朧と雅だって呼び出さないまま闇雲に突っ込んでこんなことに。

 

「まあいい。これだけスキルを見せられたんだ。このままぶっ殺すのも惜しい。おい! こいつを連れて拠点に戻んぞ」

 

「......!」

 

 拠点に戻る。つまり一時的にもこの《転移結晶無効化エリア》から出るということだ。

 だったら隙を見て逃げ出して、街に戻ったら上位のギルドに掛け合えばきっとどうにか―――

 

「おっとそうだ。言っておくが、今のテメエじゃあ街に戻るのは無理だぜ?」

 

「何を......っ!?」

 

「頭の上を見てみろ」

 

 見透かしたように言い放つPoH。

 そこまで言われたことでようやく私は気がついた。自分の頭上のカーソルが奴らと同じくオレンジ色を示していたことに。

 グリーンカーソルのプレイヤーがオレンジカーソルのプレイヤーを攻撃しても犯罪行為とはみなされない。だけど攻撃した相手がグリーンカーソルだったなら話は別だ。私のダガーでフレッドがダメージを負ってしまった時から私のカーソルはオレンジ色に染まっていたんだ。

 ここでは《転移結晶》は使えないし、うまくここを抜け出したとしても街の中に入ることはできない。

 

「テメエは街には戻れない。戻ったところで鬼ステータスの衛兵どもに追い回されてあっという間にゲームオーバーだ」

 

「そんな...」

 

「わかるだろ? 俺たちと来るしかねーんだ」

 

 PoHは私の髪を掴むと強引に立ち上がらせる。

 

「歓迎するぜ。ラフィン・コフィンはテメエのような人殺しをなぁ」

 

「ラフィン......コフィンですって...?」

 

 それからPoHはシステムウィンドウを呼び出すと、なにらや画面を数回タップする。すると私宛にギルド参加の申請メッセージが送信されてきた。

 ギルドの名前は《ラフィン・コフィン》。どうやら周りにいる他のオレンジプレイヤーにも同じものが送られていたようで、誰もが一様に同じ画面を表示させていた。

 PoHは私の手を掴むと無理やりに承認ボタンを指で押させた。私のHPバーから《月と盾の紋章旗》のエンブレムが消え、代わりに黒い棺桶に白く不気味な線で笑みが描かれたギルドエンブレムが表示される。

 

「ようこそ嬢ちゃん。これからは人殺し同士、仲良くやろうや」

 

 PoHは私の髪を掴んだまま腕を振り上げて投げ捨てる。麻痺のせいでろくに受身も取れないまま私は転がり込むようにして地面に叩きつけられた。

 

「いいかてめえら! 今までの俺たちはただのPK集団だった。なんの名前もねえ、旗印もねえ、だがそいつも今日までだ」

 

 PoHは笑う棺桶のエンブレムが刻まれた手に《メイトチョッパー》を握ると、高々と掲げた。

 

「これからアインクラッド中に俺のギルドの設立を宣言する。俺たちの名前は笑う棺桶。オレンジなんて生ぬるい連中とは違ぇ、レッドプレイヤーが集まる最凶最悪の殺人ギルド、《ラフィンコフィン》だ!」

 

 PoHが声高らかに宣言すると辺り一帯から狂ったような歓声が沸き起こる。そして私の手の中で二つの刃が緋く染まってしまったこの日から、私は心に決めた。

 泥水を啜ってでも、這いつくばってでも、生きていればチャンスはある。

 絶対に生き延びてやる。

 生きて、必ずこいつを殺してやる。

 

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