死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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42話 「サンドイッチでパンチ」

 

 フルダイブ技術により人間の意識と生身の肉体が切り離されたこの世界において、どういう原理が働けば失神という状態に陥るのか、キリトは真剣に考えていた。

 

「やっぱりあれか? 異常な知覚情報が送り込まれた結果、脳が危険信号を発して意識をシャットアウトするとか?」

 

「どうしてそれを私に話すのかしら?」

 

「そりゃ、メイプルに料理を教えたのがアスナだからだろ?」

 

 キリトが消耗品アイテムの補充という表面上の理由を見繕ってまでアスナを呼び出したのにも訳がある。それは先日キリトが口にしたメイプルの料理について聞くためだ。

 

「別に教えてないわよ! ちょっと私が作ってるところを見せて、味見をお願いしてただけで......」

 

 キリトの話を聞いていたアスナが不満げな様子で言う。しかし無視せずこうしてキリトの話を聞いているのはアスナ自身、多少なりとも責任の一端を感じているからだ。

 

「それだけなのに、なのにまさかあんなものができ上がるなんて......」

 

 唐突になにか嫌なものを思い出したように、アスナの表情にうっすらと影が射した。

 

「......食べたのか?」

 

「うん......」

 

「......あの味を知った上で、野放しにしてたのか?」

 

「ごめん......」

 

 キリトの視線から逃れるように顔を背けるアスナ。

 なんにしても被害者としてこれ以上犠牲を増やさないよう務める責任がある。それが二人の共通認識だった。

 

「とはいえアスナのやり方を見てメイプルが真似したわけなんだろ? それだけならあんな料理ができる理由には......いや、むしろだからこそなのか?」

 

 ぼそり、と呟くように言ったキリトの言葉をアスナは聞き逃さなかった。

 憤慨した様子でアスナはキリトの胸ぐらを掴むとずいと引き寄せて顔を近づける。

 

「ど・う・い・う・意味かしら?」

 

 レイピアのような鋭い眼光が、文字通りキリトを突いた。

 

「いや、えっと、だってアスナさん料理とかするタイプじゃあございませんでしょうし......俺もそれならそれで少し納得いく気が......」

 

「私だって料理くらいします。そんなに失礼なこと言うなら食べて見なさいよ。ほら、私の手料理!」

 

 アスナはキリトの胸ぐらを掴んだまま空いた片方の手でメニューを開き、アイテムストレージから三角切りのサンドイッチを取り出した。

 僅かにライ麦が混ざっているのか、薄く黒みがかったパンにハムと色とりどりの野菜挟まれたサンドイッチ。それは、平時であれば誰もが口を揃えて美味しそうだと答えるに違いないものだったが、それに意識すら向けられないほどの鬼気とした迫力がこの瞬間のアスナにはあった。

 

「おいちょっと待て、いきなりなにを!?」

 

 抵抗するキリトを無視して弓を引き絞るようにサンドイッチを手に振りかぶると【体術】スキルによるライトエフェクトがアスナの拳に灯った。

 

「せあっ!」

 

「んごっ!」

 

 あーん、というよりは顔面パンチに近い勢いでキリトの口にサンドイッチを押し込むアスナ。

 強引に喉を通ったそれをキリトの味覚再生エンジンが察知すると舌の上をまろやかな酸味が広がった。

 

(あ、あれ? 普通にうまい......というかこのどこか懐かしい風味は、シーザードレッシング!)

 

 アインクラッドの様々な食材アイテムをかけ合わせて独自に現実世界と同じ味の調味料を作り出す。それ自体はメイプルから話だけ聞いていたものの、実際に口にしてみるとその再現度は驚くべきものだった。

 

「ああ~~~~~!」

 

 この世界に来て初めて口にした現実世界の調味料にキリトが感心していると、すぐ後ろからすっとんきょうな叫び声が聞こえてくる。

 二人が揃って振り替えると、そこには今回の件の当事者がいたのだった。

 

「め、メイプル?」

 

「メイプルちゃん!?」

 

 少し離れた場所から二人の様子を見ていたメイプルは一直線にキリトに向かって駆け出した。

 駆け出すといっても普通のプレイヤーの歩く速度より多少速い程度で、やっとこさたどり着いたメイプルはそのままキリトの腕を両手で掴むとアスナのそばから自分の方へと引き寄せた。

 

「ふ、二人の姿が見えたから話しかけようと思ったら......思ったら~~~!!」

 

「おい、メイプル? 急にどうし────」

 

「思ったら~~~っ!!」

 

 とりつく島もなくキリトの両肩を掴んで激しく前後に揺するメイプル。

 

「アスナはダメ!」

 

「ダメって...なにがダメなんだ?」

 

「ダ~~メ~~!!」

 

 左右の目を大なり小なり、いわゆる><にしてなおもキリトを揺すり続けるメイプル。おおよそ平常心と呼ばれるものはかけらほども残っている様子はなかった。

 

「ちょ...ちょっとメイプルちゃん? 落ち着いて? どうしちゃったの?」

 

 驚きやらなにやら、いろいろ通り越していっそ心配そうに見つめるアスナ。その亜麻色の艶やかな髪がふわりと肩に垂れ下がり、吸い込まれそうなほど澄んだ大きな瞳がメイプルの方に向く。そんな様を見てメイプルはなおさら思ったのだった。

 

(圧倒的戦力差ぁ!!)

 

 メイプルはアスナの容姿に危機感を感じていた。それもまったくの無意識に、しかし恐々と感じていたのだった。おまけにアインクラッド最強と謳われる血盟騎士団の副団長であり、その実リアルでは社長令嬢。

 

(あんなルックス反則だよ。チーターさんだよ。自分で作ったアバターキャラみたいに顔も整ってて......ううっ...お肌綺麗で白い。顔も小さくて足も細いぃ~......)

 

 とうとうメイプルは地面に両手両膝を着いた。

 

「......うぅ! ううーーっ!」

 

「お、おいメイプル...? 頼むから、なにがなんなのかちゃんと日本語で話してくれないか?」

 

「うーうーうー!」

 

 激しく首を横に振ってメイプルはNOと答えるのだった。

 

 

 

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