死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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42話 「それを俗に嫉妬と呼ぶ」

 

 

「男の子ってさぁ...やっぱアスナみたいなさぁ...かわいい女の子がさぁ...いいのよさぁ......」

 

「それをどうしてオレっちに話すんダ?」

 

 一部メイプルの使う日本語がおかしいことはさておいて、テーブルを挟んで対面するような形でメイプルの前に腰かけていたアルゴはため息混じりにそう言った。

 二人がいるのはアルゴが普段情報の取引に使うカフェ。人目の多い大通りに面しているにも関わらず、中にいる客はアルゴとメイプルだけで、従業員もすべてNPCだ。

 

「だって、アルゴってキリトとの付き合い長いみたいだし......」

 

「まあ、このアインクラッドの中じゃあ長い方なんだろうけどナ」

 

 そう不満げに言いながらもこうしてメイプルの呼び出しに応じて、話に付き合うのは、キリトの朴念仁っぷりにアルゴが少なからず責任の一端を感じている。わけではなく、単純にメイプルに対する姉心からだった。

 

「だいたい何でそんなにキー坊のことで取り乱してるんダ?」

 

「それは...! そ、それは......えーっと、なんでなのかな?」

 

 メイプルはアルゴから視線をそらせて答えた。

 その瞬間、不意に見せたメイプルの照れたような表情は情報屋を営むアルゴにとってある情報の裏付けを取るに十分すぎるものだった。

 アルゴはそのまま言葉を続ける。

 

「キー坊がソロプレイヤーやってるワケは知ってるダロ? 今さら血盟騎士団に取られる心配なんていらないだろうし、美人の副団長さんとどこで何しようと関係ないんじゃないのカ?」

 

「うぐぅ......あ、あー見て見てアルゴ! あそこ! クレープ屋さんだよ!」

 

(ははーん。なるほどなるほど)

 

 ニヤリという音が聞こえてきそうな笑みをこぼしてアルゴはあからさまに話題を逸らせようとするメイプルを見た。

 いたずらっぽく、それでいてどこか楽しげな表情は、まさしく新しいおもちゃを手に入れた子どものそれだ。

 

(ま、今日のところは話を逸らされてやるカ)

 

 そう思ってアルゴはメイプルに促されるまま窓から見える大通りに視線を向けた。

 

「ほら見てよ! すごく美味しそうだよ! 今から行ってみようよ!」

 

「あーはいはい......ん?」

 

 何かに反応したかのように、アルゴの視線がピクリと人ごみの一箇所に向いた。それからほんの数秒の間、通りを歩く人の流れをじっと見つめると、左右の頬が僅かに釣り上がる。

 

「よーし、だったらオネーさんがとっておきの情報をくれてやろう」

 

 ほんの数秒前まではメイプルに話を逸らされるつもりでいた。しかしそれがあるものを目にした今、180度手のひらを返したのだった。

 

「...? 売ってやる、じゃなくて? くれるの?」

 

「その素直な性格が妙に刺さるケド、概ねその認識で間違ってないのが痛いところだナ」

 

 事実として、アルゴは持っている情報にはなんにでも値段を付ける。ときに無料で情報を提供することもあるが、それだって直接人の命に関わるような場合か、そうでなければ結果的に自分の利益になるようなときのみだ。

 そして今回の場合、提供する理由は後者。

 

「あのクレープ屋台から右に三つ隣の雑貨商、人ごみに隠れてほんの一瞬しか見えなかったけど、キー坊がいたぞ?」

 

 教えたほうが利益になる。そう踏んだアルゴは人ごみの一角を指で示した。

 

「え、どこどこ? 見えないよ?」

 

「よーく見てみろヨ。全身真っ黒なプレイヤーがいる」

 

 メイプルは間違い探しでもするかのように眉間にしわを寄せながらアルゴが指差す方角をジッと見つめた。すると人垣の隙間からキリトの姿が確かに伺えたのだ。

 

「な? いただろ?」

 

「いた......けど、よく気がついたね。アルゴに言われて見てみても直ぐには見つけられなかったよ」

 

「情報屋の目を侮ってもらっちゃ困るナ」

 

 得意げな様子で笑うアルゴ。しかし、いまいちアルゴの意図が汲み取れないでいるメイプルは首を傾げた。

 

「うん? これがとっておきの情報なの?」

 

「要するに、そんなに心配なら本人に聞きに行けばいいって話ダ。場合によっては引き止めればいいしナ。それともキー坊が美人副団長の部下になってもいいのカ?」

 

「それはダメ!」

 

 メイプルは前のめりに立ち上がって答えた。急に立ったせいで座っていた椅子がガタリと音を立てる。

 しかし、そのときアルゴの見せた謀ったような笑みに気がついて、メイプルのこめかみから一筋の汗が流れる。

 

「それはダメ......でもないことはないような気がしないでもないよ」

 

「それはどっちなんダ? まあいいけど、さっさとしないとキー坊行っちまうゾ」

 

「...っ! わたし行ってくる!」

 

 気合を入れて拳を握り締めたメイプルは、フンスッ、と鼻息を上げて駆け出した。

 

(ホント、単純というか純粋というか、わかりやすい性格してるよナ)

 

 そんなメイプルの後ろ姿を見届けて、テーブルに置いていたお茶を啜ると、スキル欄から【聞き耳】スキルを選択してキリトのいる方へと意識を向けた。

 一方メイプルは勢いよく階段を駆け降りて一階へ、そのまま店の外に続く扉を押し破り、大通りへと飛び出すと人ごみを掻き分けながら進んでいく。すると見覚えのある黒いロングコートを身にまとった後ろ姿がメイプルの目に映った。

 

「おーいキリトぉ~!」

 

 メイプルはキリトのもとに走りながら声を張り上げた。それに気がついたのか、キリトの顔がメイプルの方に向く。

 

「キリトはわたしとアスナ、どっちがいいの!?」

 

「......? アスナ」

 

 てっきり料理の話だと思ったキリトは大して考えることもせず、あっさりとそう答えた。

 メイプルはその場ですぐさま踵を返してターン。人ごみを掻き分けながら大通りを進んでいき、アルゴがいる店の扉を押し破る。そして階段を駆け上って二階へ。ダッシュでアルゴのもとに戻るなり飛び込むようにして泣きついた。

 

「あるごぉぉぉぉ~~!」

 

「あーよしよしどーどーどーいいこいいこ。今のはキー坊が悪いナ。今度オネーさんがガツンと言ってやるからナ」

 

 一部始終を聞いていたアルゴは【聞き耳】スキルを解除するとしゃくりあげるメイプルの頭を飼い猫にそうするかのように撫でた。

 けしかけてしまった手前、なんとも後味の悪い思いでいたアルゴだったが、しばらくの間、胸に顔をうずめてすすり泣いていたメイプルの声がピタリと止まったとき、神経を逆なでするような禍々しい気配を腕の中から感じた。

 

「......こうなったら決闘だよ」

 

「.........は?」

 

 その気配の名を、俗に嫉妬という。

 

 

 

 

 

 

 血盟騎士団の門前。そこで番をしていたクラディールの目の前に齢十代半ばほどであろう少女がいた。

 薔薇があしらわれたその装いは夜を編んだように黒く、手には透き通った漆黒の大盾となぜかフライパンを携えている。少女の黒い髪の色と相まってその姿はどこか暗い印象すら持てるものの、しかしその瞳だけは闘志の炎で揺れていた。

 

「貴様はこの間の......なんの用だ!」

 

 あからさまに警戒した表情を隠そうともせず、背負った両手剣の柄に手を添えて威嚇するようにクラディールは言う。

 そんな態度にも臆することもなくその少女、メイプルはフライパンを高々と掲げた。

 

「アスナに決闘を申し込みに来たよ! どっちの料理がおいしいのか、白黒はっきりつけてあげるよ!」

 

 

 

 

 

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