死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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45話 「五十層ボス攻略会議」

 昼食後の少し気だるい時間。大通りに面した宿屋の一室に木窓に顎を乗せてまどろんでいるメイプルの姿があった。外からは冬も本番といったように雲一つない澄んだ空と大通りを行き交う喧騒が冷たい風に乗って緩やかに部屋の中にまで届いてくる。

 穏やかで、平和で、落ち着いた時間。

 ここがゲームオーバーがそのままプレイヤーの死に直結していることすら忘れてしまいそうなほどの和やかさが、眠ったように目をつぶるメイプルの胸中を満たしていた。

 

「メイプル、今レベルはどのくらいまで上がってる?」

 

 ふと、メイプルは声のした方に顔を向ける。

 

「えーっと...昨日のレベリングで23まで上がったよ」

 

 すぐそばで装備品の確認をしていたキリトは、問いに対する答えに満足そうに頷く。ソードアートオンラインのレベルでいえばざっくり言って69相当。もっともこれはNWOとSAOのレベル上限の差から計算しただけで、目安にしかならないが一応の安全マージンは確保できたと思われる。

 

「そうか。どうにか攻略会議前には仕上がったな。とはいえ今回は五十層。アインクラッド全階層の中間で、俺も今までのボスよりよっぽど強敵だろうと予想してる。油断は命取りだ」

 

 装備し直した片手用直剣の刀身に指先で触れ、耐久値や諸々のステータスを見ながらキリトは言う。手にしているのは普段の攻略に使う得物とは違う、耐久値よりもストレングスを中心に強化したキリトの片手用直剣。それはダンジョン攻略のような長時間の連戦を想定せず、短時間で少しでも高いダメージを与えることに特化した仕様だ。

 一方でメイプルの装備はいつもと何ら変わりがない。一張羅の《黒薔薇ノ鎧》に身を包み、背中には大盾の《闇夜ノ 》、腰に下げた短剣の《新月》はどれもメイプルにとって唯一の、それでいて最強の武器だ。

 穏やかで、平和で、落ち着いた時間。

 しかし忘れたい現実とはいつだってただそこにある。忘れていようがいまいが、無関係に平等に、戦わなければならない現実がただそこにある。

 

 

 

 

 

 

 

 2024年で最初の攻略会議は、攻略の指揮を執る《血盟騎士団》のギルドホームの一室を用いて行われた。

 一室というより大広間と言ったほうが適切で、フルレイド分の人数を優に収容できるスペースのあるそこは今、攻略に参加する全プレイヤーが続々と集結しつつあった。

 

「すごい...前の攻略会議の時よりもずっと人がたくさん......」

 

「ああ、それに集まってるのもそうそうたるメンバーだな。どこを向いてもアインクラッドじゃあ言わずと知れたプレイヤーばかりだ。間違いなく今の攻略組が持つ最大戦力だろうな」

 

 思わずそう声を上げるメイプルにキリトは頷くと、周囲を見渡した。

 《血盟騎士団》団長ヒースクリフ、並びに副団長アスナが率いるギルドメンバー総勢18名。

 《聖竜連合》の三幹部リンド、ヤマタ、シヴァタ。そして同ギルドメンバー総勢24名。

 リーダーのクラインを始めとする新興ギルド《風林火山》。総勢6名。

 そしてソロプレイヤー、キリトとメイプルのコンビ。その他にも有力ギルドから個人単位で攻略戦に参加するプレイヤーがちらほらと見受けられ、攻略会議に集まったプレイヤーは九十人以上。これならレイドを二つ作って一軍の戦況が逼迫したときはボス部屋の前で待機させた二軍に交代するといった戦法も取れる。

 それだけの本気度が今回のボス戦には注がれていた。

 

「参加連絡を受けたメンバーはこれで全て揃ったようだ。では、これより第五十層のフロアボス攻略会議を開始する」

 

 やたら縦に長いテーブルの奥に腰を掛けていたヒースクリフの号令に、その場にいた誰もが表情を引き締めた。そのテーブルには主だった攻略ギルドのトップや、アスナのような直接攻略の指揮を執るような有力プレイヤーが同じく席についている。キリトやメイプルなどのソロプレイヤー、そして代表者以外のギルドプレイヤーはテーブルをぐるりと囲むように立ったまま、号令をかけたヒースクリフに注目している。

 その視線一つ一つを返すように集まった面々を見渡すと、ヒースクリフはゆっくりとした口調で口を開く。

 

「《軍》は例によって不参加か。まあ二十五層攻略の痛手を考えれば当分は前線には出てこないのも無理はない」

 

「違いない。あの戦いでリーダーだったキバオウはギルドのトッププレイヤーを二十人以上失ったんだ。それに当時攻略戦に参加して生き残った軍のメンバーも最前線の安全マージンには届いていないだろ。復帰は絶望的だな」

 

 そう言ったのは《聖竜連合》の幹部、リンドであった。

 キリトはそのプレイヤーに見覚えがあった。クリスマスイブにクラインたちが引き付けた《聖竜連合》の集団、その中にいた一人だった。

 

「ま、ないものねだりしたってしょうがない。それにこれだけのメンツが集まってんだ。今さら半端なレベルの軍連中が来たところで足でまといだろ。話を続けようぜ団長さん」

 

「よろしい。ボスの名前は《タイラント・ザ・ドラグリオン》。ここにいる皆はすでに周知のことかとは思うが、ドラゴン系モンスターだ。爪や牙による攻撃や強力なブレス攻撃が予想されるが、何より問題なのは前の階層ボスと同じように飛行できることにある」

 

 飛行するボスモンスター、その言葉にメイプルの脳裏に《ザ・ノーブル・モス》との戦いがよぎった。高い攻撃力こそなかったものの、剣のリーチの届かない空中からの攻撃というだけで十分に苦戦を強いられていた。しかも今回のボスはドラゴン。インセクト系モンスターとはおそらく攻防ともに比にならない。

 

「キリト......」

 

 メイプルは不安げな眼差しでキリトを見た。

 アインクラッドの中間地点。クオーターポイントである二十五層攻略戦のときがそうだったように、こうした地点の階層では強力なボスモンスターが配置されがちであるとメイプルはキリトから聞いていた。

 キリトはそんな視線に気が付いて、かすかに笑った。

 

「大丈夫、この日のために安全マージンはきちんと確保した。少なくともメイプルのバイタリティは攻略組の前衛職と比べても遜色ないよ。むしろ高いほうだ」

 

 そう答えるキリト。しかしその表情にはあまり余裕がない。

 

「では今回の作戦を説明する。ボスの攻撃は爪や牙による近距離攻撃、尾を使った範囲攻撃が確認されている。さらにブレスによる火炎攻撃は常に我々の剣の届かない距離から大ダメージを与えてくるだろう。それだけならこれまでのボスモンスターとなんら変わりはないが、《タイラント・ザ・ドラグリオン》は空中を飛び回る為、プレイヤーが攻撃を当てるタイミングが制限されてしまう。飛行中こちらが攻撃出来ない分、非常に厄介な相手だ」

 

 その言葉は前階層のボス攻略を知る、誰にとっても重くのしかかった。それこそ、ボス攻略に参加したキリトやメイプルは攻撃の届かない高所から一方的に攻撃を受けることがいったいどれほど恐ろしいか、身を持って知っている。

 

「《タイラント・ザ・ドラグリオン》を空中に留めると危険だ。故に、まずは奴の翼を攻撃して空中から引きずり落とすしかないだろう」

 

「具体的にはどうすんだ? 相手は飛んでんだろ?」

 

 リンドの問いにヒースクリフは答える。

 

「ボスの飛行時間には限度があるようだ。偵察隊の報告によればボスが一度に飛べるのは最長で三分、その後は再度飛べるまで一分間のクールタイムを要することがわかっている。そこで三分間ボスの攻撃をしのいだ後、地上に降りたあとの一分間で翼を破壊。包囲してボスを討伐する」

 

 その言葉に周囲のプレイヤーはどよめいた。

 

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