死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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46話 「危険すぎる陣形」

 攻撃のできないときは守りに徹し、攻撃できるときには一斉に攻撃をする。ボスの翼を破壊したあとは包囲して討伐。単純な話だ。それだけにその場にいたプレイヤー全員の動揺は大きい。

 

「えっと...キリト。皆はどうして驚いてるの?」

 

「これまでのボス戦に比べてあまりにプレイヤー側が不利だからだよ。三分間、ボスは飛行しながら一方的に俺たちを遠距離攻撃できる。けどこの世界はプレイヤー側に用意された遠距離攻撃手段はほとんどないんだ。つまり俺たちはクールタイム中の一分間しか事実上攻撃ができない」

 

 メイプルは頷いた。それは話を聞いていればなんとなくわかること。

 前の階層のボスは一定のアルゴリズムに従ってプレイヤーの動きを感知して地上と空中を行き来していた。毒の状態異常攻撃を発し、一定のラインまでHPが下がれば突進攻撃によって結果的に剣のリーチまで降りてくる。しかし今回のボスモンスターはプレイヤーの行動ではなく時間経過で飛行を始め、地上に降りる。そうなれば当然、プレイヤーの動きで地上に誘導することもできない。

 

「少なくとも翼を破壊して地上に釘付けにするまでは、戦闘時間四分の三はボスの攻撃を一方的に受け続けなければいけなくなるんだ。そして俺たちが攻撃できるのはそのあとの一分だけ。もちろんボスが地上に降りたとはいえ、なんの抵抗もなくこっちが攻撃できるわけじゃない。ボスの攻撃をしのぎながら翼を集中的に攻撃するんだ。ボスの翼の耐久値にもよるだろうけど、おそらく長期戦は避けられない」

 

 キリトとメイプルの間でそんな話が成されつつ、ヒースクリフによる作戦の説明が続く。やはりキリトの見解の通り、それなりの長期戦を見越しているようだった。しかし戦闘時間が長引くということは、それだけ長時間ボスモンスターの攻撃に晒されるということだ。

 ボスの攻撃は倒されるまで際限なく続くが、プレイヤーの持つポーションなどの回復アイテムは使っていれば簡単に底を尽く。

 

「そこで、今回は本団のアスナくんが考案した対高レベルエネミー用の陣形を採用する」

 

 見知った名前を耳にすると、メイプルはぴくりと反応してその場で背伸びをする。すぐ目の前に並んだプレイヤーの間から顔を覗かせると、アスナに向かって小さく手を振った。

 それに気がつかないまま、アスナはヒースクリフの視線に頷いて返すと、席を立った。数秒のストレージ操作の後、取り出した大きな羊皮紙をテーブルの上に広げる。

 

「今回の陣形は各パーティを三種類のポジションに分けて編成します。次のボスはドラゴン。空を飛ぶうえ、かなりのHP量があるでしょう。そのため短期決戦が望めない以上、高い火力のボスを相手に長期戦を挑むため、この陣形を提案します」

 

 その羊皮紙はボス部屋の内部と思われる見取り図の書かれたものだった。

 その上には黒い大きな石が一つ、これがおそらくボスモンスターだろう。その真正面に相対するように一回り小さい赤、青、黄の三色の石が無数に置かれている。これがプレイヤーだ。

 

「今回のレイドは後衛の支援隊を四パーティ、残る八パーティを前衛を攻撃隊、守備隊の二つに分けて陣形を編成しようと思います」

 

 アスナは色のついた小石を三層横並びに分けて置いていく。

 最前列を青の石で表した守備隊、中間列で赤い石の攻撃隊、そして黄色の石で後衛の支援隊といった具合だ。

 

「けどよ、パーティの攻撃と守備で半々に割ったとして...メインの攻撃役がたった四パーティじゃあいくら何でもボスを倒しきれないんじゃあねえっすかね? なんたって今回の相手はドラゴン系モンスターなんだし、HPもそうだろうけど、VITだってこれまでのボスよかずっと高いと思うんですが......」

 

 見るからに自分より歳下であろうアスナに対して、中途半端な敬語で尋ねたのは《風林火山》のクラインだった。

 その言葉にキリトも頷く。

 クラインの心配はもっともだ。硬い鱗で覆われたドラゴン系モンスターはどんなゲームでも比較的にVITが高く設定される傾向にある。それはソードアートオンラインでも同じことでキリトたちがこれまで戦ってきたドラゴンと名のつくようなモンスターは総じて高い防御力を持っていた。

 その認識はこの場にいたプレイヤーの誰もが共通して持っていたことであろう。

 

「その心配はいりません。編成の振り分けは攻撃隊が八パーティ、守備隊が二パーティで編成します」

 

「ちょっと待て!」

 

 プレイヤーの群れをかき分けて、キリトは一通り石を並び終えたテーブルの前に立つ。

 そこには今アスナが話していた通り、後衛に置かれた四つの黄色い石の前列に、やけに横に間延びした赤い石が列を作り、最前列ではたった二つの青い石がもの寂しげに置かれていた。

 

「その方法でいったら、ボスモンスターの攻撃をたった八人でしのぎ切らなくちゃならなくなる。いくら大盾装備のプレイヤーを集めても守備隊の負担が大き過ぎるだろ!」

 

「そのために後衛に四パーティ、回復支援ができるようにプレイヤーを配置しているんです。攻撃隊にだってリスクはある。たとえ想定外のダメージを受けても、それをフレキシブルにカバーできる陣形です」

 

「けど...!」

 

 キリトは振り返ると、メイプルの方を見た。

 ここにいるメンバーで今話した陣形を作ろうとすれば、間違いなくメイプルは守備隊に当てがわれる。それは最も危険な場所からボスモンスターの攻撃に晒されることを意味していた。

 おまけにストレングス型の片手剣士であるキリトの編成先はまず間違いなく前衛の攻撃隊。そうなればパーティも別々になり、万が一の時、メイプルを守りにくくなるのは目に見えてわかることだった。

 

 

 

 

 

 

「あー、納得できないなぁ......」

 

 迷宮区の中を隊列を組んで移動している最中、ふとそんなことをキリトは口にした。

 

「大丈夫だよーキリト。私のバイタリティって他の攻略組の人と比べても高いんでしょ? ちゃんとわたしがキリトのこと守ってあげるから!」

 

 例のごとく行軍速度についてこれなかったメイプルは、キリトの背にしがみつくようにして運ばれながら、そう力強く答える。

 それは本来こっちのセリフだ、とキリトは言いたがったが、いかんせん攻撃隊に振り分けられたキリトはボスの部屋に入った段階で守備隊であるメイプルの背後に隠れるようなポジションになってしまう。

 そうでなくとも五十層ボスという強敵を前に、そんなことを安易に言う気にはなれなかった。

 一見すると楽観的なメイプルをよそに、キリトは思案にふける。

 おそらくギリギリの戦いになる。

 だからこそメイプルの近くにいたいとキリトは考えていた。

 通常、十二パーティ計四十八人で編成されるレイドは大きく分けて前衛、後衛の二つに分かれている。前衛は主に重装備や盾持ちのプレイヤーが、そして後衛はリーチの長い槍持ちやアジリティの高い軽装備のプレイヤーがパーティを組んで挑むのがボス戦のセオリーだった。

 しかし今回の攻略戦には回復やデバフ支援に特化したパーティを四パーティ設けている。

 その分、飛行中のボスからレイド全体を守る守備パーティはたった二つ。この守備隊がうまくボスの攻撃を受けて持ちこたえられるか、持ちこたえられなかったとして回復支援隊がカバーしきれるのか、それが作戦の肝になる。

 攻略の鬼とも称されるアスナが考えただけあって確かに理にかなった陣形だ。うまくハマれば前後衛二層の陣形より安全にボス攻略を行える。

 

(けどもしハマらなかったら......?)

 

 キリトの表情がより一層険しいものになる。

 そうなったとき、最も危険なのがメイプルのいる守備隊だ。そう思うと、気が気ではなかった。

 しかし肝心のメイプルはというと、今回の作戦にそれほど不安を感じている様子はない。むしろやる気十分といった様子でここぞとばかりにキリトの首に手を回している。

 

 アインクラッドに迷い込んだメイプルを、守ると決めたキリト。

 クリスマスイブの一件から、今度は自分がキリトを守る番だと決めたメイプル。

 そんな矛盾を抱えたまま、五十層ボス攻略戦が幕を開ける。

 

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