死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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48話 「崩壊」

 守備隊を中心点にその他の攻略組とボスモンスターが対向しながら円を描くように位置取りをする。

 飛行するボスモンスターがいつブレスを放っても守備隊の影で攻撃をしのぐことのできる陣形だ。そして守備隊のすぐ後ろには《回復結晶》を手にしたメンバーが待機している。

 キリトはすぐ目の前にいたメイプルに声をかけた。

 

「メイプル、ここまで戦ってみてダメージの減り方はどうだ?」

 

「うーん。盾越しに攻撃を受けても少し減っちゃうかな。普通に攻撃を受けたら十回くらいでHPが無くなっちゃうそうだよ」

 

「よし、あのブレスを十回も耐えられるなら上出来だよ。普通なら二発もまともに食らえばアウトだ」

 

 普段ならそのバイタリティの高さに唖然とするところだが、今は安心できるとともに一緒に戦う仲間として頼もしい。

 やがて《タイラント・ザ・ドラグリオン》が地上に降り立ち、前衛隊による二度目の総攻撃が始まった。

 

(よし、今のところ作戦通りだ。あとは後衛の回復アイテムが尽きる前にボスの翼を破壊できれば)

 

 キリトは剣を振り上げて翼に斬りかかる。

 ここまで守備隊にも攻撃隊にも大きな被害は出ていない。

 ボスの行動パターンに対して、前後衛の入れ換えも回復支援も、プレイヤーの動き全てが歯車のように噛み合って戦況は進んでいた。 

 それを一手に指揮するアスナの手腕はやはり尋常とは言えない。

 

「......」

 

 キリトは振り返って後方を見やる。

 控えている守備隊の中にメイプルの特徴的な漆黒の鎧が目に映った。

 戦況が安定しているうちはまず心配ないと思ってはいたが、HP残量にも問題はない。

 

(よし、守備隊として思ってた以上に動けてる。アジリティがないから前後衛の入れ替りができるか心配だったけど、これなら......)

 

 しかしそんなキリトの僅かな隙を突いたようにボスが動いた。

 地鳴りのような咆哮とともに《タイラント・ザ・ドラグリオン》は前足を軸に半回転する。刺と鱗に守られた尻尾が弧を描き、周囲にまとわりつくプレイヤーをなぎ払うようにして振り切られた。

 リーチは短いが、紛れもない範囲技。

 その尻尾の攻撃範囲にいたキリトは回避が間に合わないことを瞬時に悟ると、剣に左手を添えて攻撃に備える。

 衝突の瞬間、刃越しに食らった衝撃はそのままキリトの身体を軽々と打ち上げて、背中から地面へと叩きつけられる。

 

「ぐあっ...!」

 

 防御越しのダメージと落下によるペナルティダメージを受けてHPはイエローゾーンにまで陥る。

 視界の端にはキリトと同様に攻撃を受けて転倒したプレイヤーが幾人か見られる。中には防御できずにまともに攻撃を食らってレッドゾーンまでHPが減損したプレイヤーもいるようだった。

 

「ダメージを負った者は一旦下がりたまえ。ここは私が引き受ける」

 

 冷静な声とともに赤い影がキリトの後ろからすり抜けていった。ヒースクリフだ。

 先ほどと同じように繰り出された尻尾の攻撃を難なく盾で受け止め、そのままカウンターとばかりに十字剣で切りつける。

 その戦いぶりを見てキリトは感嘆した。

 攻撃も並みの攻略組以上だが、何より防御力の次元が違いすぎて溜め息も出ない。

 

(メイプルも大概だけど、あっちも相変わらずなんて防御力だ。あの攻撃をまともに受け止めてびくともしてない)

 

 その様子を見ながら、ボスモンスターのタゲがヒースクリフに向いていることを確認すると、キリトは回復もそこそこに側面へ回り込んでソードスキル《スター・Q・プロミネンス》を翼めがけて発動した。

 赤いライトエフェクトに包まれた六連撃の重い突きが命中すると、それとほとんど時を待たずに《タイラント・ザ・ドラグリオン》はひときわ大きく翼をはためかせる。

 ちょうど飛行のクールタイムが過ぎたのだ。再びその巨体がゆっくりと空中に浮かび上がる。

 

(ここからまた三分か......けど思った以上に戦線は安定してる。状況に応じて控えている二軍とスイッチすることもできるし、このまま戦闘を維持すれば勝てる。けど五十層のボスモンスターがこんなにあっさり攻略できるはずがない)

 

 なにかが妙だと感じていた。

 喉に小骨が刺さったような僅かな違和感。あるいは経験からくる勘と言っても良いかもしれない。それがこのまま何事もなく攻略が終わるわけがないと、危険信号を発している。

 それを感じ取った理由は先ほどの尻尾による範囲攻撃。

 言い訳にもならないがメイプルに気を取られて攻撃に対する反応が遅れた。それでもなんとか防御できたが、ガード越しに吹き飛ばされるほどの威力。

 しかし結局のところ通常攻撃を食らっただけ。あとは回復して戦線に復帰すればいい。それ自体は些細なことだ。

 

(けど戦闘が始まってから今まで、あんな攻撃は一度もしてこなかった......)

 

 順調だった戦闘が少しずつ崩れてきている。

 誰にも気づかれないように、悟らせないようにと、本当に少しずつ。

 そんなふうに感じた。

 そんな思いを引きずったまま戦況は進んでいき、やがて五度目の総攻撃。

 

「うおおおおおっ!」

 

「そりゃあああああっ!」

 

 攻略組のプレイヤー達がこれまで繰り返してきたように《タイラント・ザ・ドラグリオン》に攻撃を仕掛ける。

 クラインは刀カテゴリのソードスキル《羅刹》を繰り出し、リンドが片手剣のソードスキル《スター・Q・プロミネンス》、キリトは同じく片手剣のソードスキル《バーチカル・スクエア》を命中させ、他のプレイヤー達も左右の翼に集中攻撃を始める。

 今までの戦闘となにも変わらない。

 しかしこのときだけは違った。

 一分あるはずの飛行のクールタイムを破ってボスが飛び立ったのだ。

 風圧に押されたプレイヤーが後方に転がる。

 

「守備隊前へ! なにが来るかわからないわ! 警戒して!」

 

 落ち着いた、それでいて良く通る声で号令をかける。しかしそれはあくまで他のプレイヤーに動揺を悟らせないように自らを押さえ込んで発した声だ。

 

(なんで...? まだ地上に降りてから三十秒も経ってないじゃない!)

 

 予想外の動きにアスナは次のボスの行動を見極めようと目を見張る。

 これまでにはなかった素早い飛翔と旋回、羽ばたいている翼の動きはさっきまでと比べて荒々しく、怒っているようにも見える。

 キリトは瞬時に身構えた。

 すると《タイラント・ザ・ドラグリオン》は翼を縮めて落下するように急降下する。陣形が意味を成さない頭上から攻略組の陣形の中心を捉える。

 

(なっ! 真上から!?)

 

 牙の隙間から赤い熱線がほとばしる。その光が見上げるプレイヤー全員の瞳を茜色に染めた。

 

「うああああああああっ!」

 

 そに叫び声が誰のものだったのかはわからない。

 キリトの目に映ったのは崩壊した陣形の中心で燃え盛る炎と黒く光るドラゴンの体躯、そして砕け散ったいくつかのポリゴンの欠片だけだった。

 

「くっ...! せあああああああっ!」

 

「おおおおおおおおっ!」

 

 先陣を切ったリンドがソードスキルを発動して斬りかかる。

 青いライトエフェクトが黒い翼を一閃すると、それに呼応するように呆然としていた攻略組のプレイヤーたちが次々と参戦する。

 

「はああああああああっ!」

 

「どりゃああああ!!」

 

 色とりどりのライトエフェクトが弧を描き、巨大な翼にダメージを刻んでいく。しかし陣形の崩れた今、これ以上の悪手はない。

 

「待て! 一旦下がって陣形を整えるんだ! 回復支援も機能してないまま突っ込んだら......!」

 

 キリトが言葉を言い終えるよりも先に尻尾による範囲攻撃がプレイヤーたちを凪払う。

 それをこれまでしてきたように各々が回避や防御でやり過ごす。そして防御によって少なからずHPの減損したプレイヤーは支援隊がすぐさま回復することで戦線に復帰する。

 

「おいおい! 回復どうしたんだよ!」

 

 しかしそこに一名だけ、回復の間に合わないプレイヤーがいた。

 

「クライン! 下がれ!」

 

 回復されずにイエローゾーンのまま前衛に取り残されたクラインにキリトは声を張る。

 おそらく後衛の支援隊に死亡者がいたため、回復が漏れたのだ。崩壊した陣形のなかでは誰が死んだのかも確認することは難しい。

 そんなクラインに今度は《タイラント・ザ・ドラグリオン》の爪が迫る。

 

「い゛っ!?」

 

 裏返ったような声をあげてクラインはバックステップで避けようとした。しかし誰の目から見ても回避は間に合わない。

 

(ああこいつは......死んだな。俺)

 

「《ヒドラ!》」

 

 一瞬死ぬことを覚悟した。そんなクラインの目の前を紫色をした三つ首が遮っていった。

 

 

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