死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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49話 「プラズマと灼炎の乱打戦」

 

 メイプルは抜き放った《新月》の矛先をブレスの軌道線上に交差するようにして向ける。

 さっき目の前で死んだプレイヤーの叫び声が、今でも耳の奥に残っている。

 この世界に来て知り合った人は数えるくらいしかいない。少なくとも、さっき死んだプレイヤーは話したこともない相手だったと思う。

 それでも自分と同じように、家族がいて、この世に生まれてそれなりの時間を生きた命が、目の前で失われた。

 

「《ヒドラ》!」

 

 それがメイプルには耐えられなかった。

 ボイスコマンドとともに紫色の龍の首が三つ、刀身から伸びると《タイラント・ザ・ドラグリオン》とクラインの間を遮るように伸びた。

 

「うおおっ! な、なんだぁこりゃ?」

 

 目の前を流れる紫色の流線にクラインは声をあげる。その声色からは驚愕の色が伺えた。

 ヒドラの胴体は爪によって易々と切り裂かれたものの、どうにか軌道は逸らせたようだ。クラインにまでは攻撃判定が届いていない。

 しかしその異質過ぎるスキルの存在はその場にいた誰もが目にしていた。

 

(ああ、やっちゃったな......)

 

 そんな思いがメイプルの胸の中をわずかにくすぶる。

 人前では使わないようキリトから強く言われていたNWOのスキル。それをSAOのトッププレイヤーが集まるボス攻略の場で使ってしまった。

 たぶん今まで通りの日常には戻れないだろう。

 だったらもう、持っているスキルを存分に使ってでも全力でこの危機を乗り越えるしかないとメイプルは思った。

 

「《挑発》!」

 

 ボイスコマンドとともにメイプルの身体から赤いライトエフェクトが発せられる。スキル《挑発》の効果によってボスのターゲットがクラインからメイプルに切り替わった。

 

「はああーーっ!」

 

 メイプルはさらに《新月》を振るった。

 その動きに反応して再度刃から伸びた《ヒドラ》の首が鞭のように大きくしなり、《タイラント・ザ・ドラグリオン》に食らいついていく。

 持っているNWOのスキルのなかでメイプルが一番に得意としているスキルだ。くい込んだ牙から毒液が流れ込み、悲鳴とも取れる咆哮がボス部屋に響き渡った。

 攻撃を加えながらも、メイプルは考える。

 

(毒液のブレスはみんなを巻き込んじゃうし、《ヒドラ》はこうやって噛みつかせるくらいしかできないなぁ......)

 

 《タイラント・ザ・ドラグリオン》の眼が見開かれる。

 振り上げられた爪の一薙ぎで、三つあった《ヒドラ》の首の一つが飛んだ。

 そもそも攻撃魔法である《ヒドラ》は耐久面においては脆い。クラインのときのようにモンスターの攻撃を反らせたりするには本来向かないスキルだ。それにボスを相手にこのスキルだけでは決め手に欠けるのも確かなこと。

 

「だったら......」

 

 メイプルは《ヒドラ》を解除した。

 同時に、本当の意味で全身全霊で戦う覚悟を決めた。

 

「もう出し惜しみなんてしない! 思う存分やっちゃうぞ!」

 

 メイプルの胸から歯車が浮き出て、赤い光を放ちながらゆっくりと回転を始める。

 

「《機械神》!」

 

 メイプルの全身を鋼鉄の鎧が包み込む。武装の数々が展開され、エアダクトからプラズマの粒子とともに蒸気が排出された。

 キリトを除いた攻略組の誰もが視線の先の光景、その姿に息を飲んだ。

 剣の世界には存在しないはずの銃火器武装、槍カテゴリのリーチすら凌ぐ漆黒の長刀、なにより機械的な造形はこの世界においてメイプルというプレイヤーがどれほど異質な存在なのかを形作ったようだった。

 

―――スキル《機械神》全武装展開。

 

 メイプルは右腕に装着された砲身を上空の《タイラント・ザ・ドラグリオン》に向けた。

 すぐさまヘルムと一体化したロックオンサイトが起動する。

 サイトの照準が《タイラント・ザ・ドラグリオン》の翼を捉えるとサイトの色が緑から赤に変わる。つかさずメイプルは引き金を引いた。

 

「いっけーーー!!」

 

 銃身に一瞬赤いプラズマが走り、人一人包んでしまえそうなほどに太いレーザーが一直線に放たれる。

 それに対し、《タイラント・ザ・ドラグリオン》は反撃とばかりに空中からブレスを撃ち返した。

 

「うわわっ...!」

 

 メイプルはその攻撃をまともに受ける。

 完全展開した《機械神》を使っている今、メイプルの装備に盾はない。アジリティの低さから避けることもできないのであれば取れる戦いの手段は乱打戦だ。

 

「すげえなメイプルちゃん...」

 

「ああ、ホントに、なにからなにまで規格外だ」

 

 目の前の光景に驚きを通り越して唖然とするクラインとキリト。それだけ目の前の戦いは壮絶なものだった。

 ボスを相手にたった一人で、対等以上の戦いを演じている。

 メイプルは複数ある砲門を順番に使い分けながら、切れ目なく攻撃を与えていた。交錯、衝突を繰り返すブレスとプラズマレーザー。攻撃の余波で至るところから火の手が上がり、逆巻く炎とうねりを上げるプラズマが部屋中を駆け巡っていた。

 そんなプレイヤーの域を完全に逸脱した火力と火力の応酬に割って入れるようなプレイヤーはいなかった。

 逆に言えばたった一人のプレイヤーが、ボスを相手に対等の攻撃力と防御力を持って互角に渡り合うということ自体、SAOの常識では考えられないことだ。

 

「あんなバケモンみてえなフロアボスを相手に、それこそボクサーがリングの中央で足を止めて殴り合うみてえに攻撃し合ってんじゃねえか。この調子でいけばメイプルちゃん一人でボスを倒せちまうんじゃねえか?」

 

「......いや、さっきからボスのブレスをまともに食らってばかりだ。いくらバイタリティの高いメイプルでも、あれだけ立て続けに攻撃を受けて持ちこたえられるはずがない」

 

 キリトの言うとおり、《機械神》を使い始めてからメイプルは《タイラント・ザ・ドラグリオン》の攻撃を防御せずに撃ち合いを繰り返していた。

 戦うことに夢中で自分のHPの減りに気がつかないということはよくあることだ。RPG初心者なら尚の事。

 それこそメイプルはRPGどころかゲーム自体が初心者で、なにより今までまともにHP残量を気にするような戦い方をしてこなかった。する必要がなかったというのが正確なところではあるが、フロアボスとの戦いである今に限ってはそうではない。

 付け加えて、今回パーティの違うキリトではメイプルのHP残量を確認できない。

 そして守備隊としてメイプルがボスの攻撃に対して防御に徹していたとき、確かにこう言っていた。

 

“メイプル、ここまで戦ってみてダメージの減り方はどうだ?”

 

“うーん。盾越しに攻撃を受けても少し減っちゃうかな。普通に攻撃を受けたら十回くらいでHPが無くなっちゃうそうだよ”

 

 メイプルが一度の攻撃で受けるダメージが一割程度。

 陣形が総崩れになったこの状況で冷静に回復の支援ができるプレイヤーが後方支援部隊にいるとも思えない。であれば、メイプルのHPはまともに回復することもないままダメージを受ける一方だったということになる。

 

「だとしたら、もう何発も耐えられるほどHPは残ってないはずだ...メイプル!」

 

 砲声と咆哮とともに、通常のプレイヤーであれば一撃で致命的なダメージを負いかねない攻撃が互いに撃ち合われる中、どうにかキリトの声がメイプルの耳に届いた。

 わずかに首だけをキリトの方に向けたメイプルは大きな声で答える。

 

「ごめんキリト! 人前でスキルを使っちゃって......でもっ!」

 

「そうじゃない! 自分の残りHPを確認するんだ! 今すぐに!」

 

「え?」

 

 思い出したように自身のHPバーの表示されている視界の端へ視線を泳がせる。

 キリトの予想通り、ボスの攻撃はメイプルのHPに着実にダメージを重ねていた。それこそ残りHPが三割を下回り、レッドゾーンをとっくに迎えていたほどにだ。

 

「ええええ〜っ! うそ! もうこんなにHPがなくなっちゃったの!?」

 

 数ドットしか残りHPがない。盾越しに攻撃を受けてどうにか一撃凌ぎきれる量だ。しかし《機械神》を発動している今は装備の中に盾はなく、まともに攻撃を受けるしかない。

 そのことに気がついてからほとんど間を置かず、《タイラント・ザ・ドラグリオン》のブレスが一直線にメイプルに迫った。

 ただでさえアジリティのないメイプルだが、今は《機械神》を纏っていて、その動きはさらに鈍重だ。当然その攻撃を避けられる訳もない。

 

「......っ!」

 

 目を見張って衝撃に備える。しかし迫る熱線とメイプルの間に割って入る影があった。

 

「せああああああああっ!」

 

 メイプルの聴き馴染んだ、裂帛な気合いが響いた。

 ライトエフェクトを帯びた刀身がボスのブレスと衝突する。攻撃をしのぎきると同時に衝撃で弾き飛ばされた黒い影はすぐさま受身を取って、間髪入れずにボスに斬りかかる。

 

「キリト!」

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