死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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50話 「勝利の代償」

 ボスから視線を外さず、キリトは声を張り上げた。

 

「タゲはこっちで引き受ける! クラインも頼む!」

 

「おうよ!」

 

 刀を携えて、クラインは《タイラント・ザ・ドラグリオン》に斬りかかる。ソードスキルの発動とともにジャンプすると大上段から刀を振り下ろした。わずかに剣先が届き、ダメージが通るとボスのターゲットがクラインに切り替わる。

 

「よっしゃ!」

 

 そのまま地面に着地するクライン。しかしそれに対するボスの反撃は早かった。クラインめがけて急降下すると同時に両足の鋭い鉤爪が迫った。

 

「っ!? やべっ!」

 

 とっさにクラインは刀で防御の構えを取る。が、到底受け止めきれる威力ではなかった。

 

「うおおおおっ...!」

 

 ダメージを受けて二転三転と転げながら後方に吹き飛ばされる。そのままノックバックして動けずにいたクラインに、地上に降り立った《タイラント・ザ・ドラグリオン》は追撃とばかりにブレスのモーションに入った。

 

「危ない!」

 

 フォローに回ろうと駆けるキリトだったが、間に合わない。

 しかしそう思った矢先に盾装備のプレイヤーが数人、クラインの目の前で防御姿勢を取る。放たれたブレスが盾の壁に衝突するが、その衝撃を完全に吸収し切って見せた。

 

「あ、あんたらは......」

 

「守備隊の連中...アスナ!」

 

 キリトの視線の先ではボス戦開幕当時の守備隊、攻撃隊、後方支援隊の三層に並べられた陣形が整えられていた。その号令を取っていたのは血盟騎士団の副団長、アスナだ。

 

「支援隊はすぐにあの三人と守備隊の回復を! ボスの攻撃パターンをしっかり見極めて、攻撃隊は側面からボスの翼に攻撃を集中させて!」

 

 メイプルが時間を稼いでいるうちにうまく攻略組の陣形を立て直したようだ。

 残りHP数ドットのメイプルはもちろん、助けに入ったキリトとクラインのHPもすぐさま回復される。さらに盾装備の守備隊がキリトたちを守るように最前衛で横一列に並び立ち、ボスの攻撃を防いでいた。

 

「三人とも! 大丈夫?」

 

 攻撃隊に混ざって前衛に出てきたアスナがキリトたちに駆け寄った。

 

「こっちはなんとか、メイプルは?」

 

「うん...回復してもらったし、もう大丈夫だよ!」

 

「おいおいキリト。俺の心配はねえのかよ!」

 

「お前は無事に決まってるだろ? クライン」

 

 さも当然とばかりにキリトが言う。そんな言葉にクラインに対するキリトの信頼が伺えた。

 各々の言葉を聞いて、安心したようにアスナは頷く。

 

「メイプルちゃんのおかげでボスのHPもかなり削れたし、あの翼もそろそろ耐久値が限界のはずよ。とはいえ、さっきの攻撃でみんなかなりのダメージを受けて、回復アイテムにももう余裕がないの」

 

「だったら、今の総攻撃で翼だけでも破壊しないとな。俺たちもすぐに攻撃に加わる」

 

 キリトは守備隊の間をすり抜けると片手直剣を振り上げた。牙や爪の動きに注意しながら、時折攻撃にソードスキルを混ぜてダメージを与えていく。その後に続くようにして飛び出したアスナも堅牢な鱗にレイピアを突き立てる。

 やがて取り付いた攻撃隊を振り払うように《タイラント・ザ・ドラグリオン》は翼を大きく広げた。

 戦闘が始まってから幾度となく見てきた飛行前のモーションだ。通常であればここから三分間、ボスは飛行状態に入る。作戦ではその間、守備隊が守りを受け持ってやり過ごすのだが、攻撃パターンの変わったボスを相手に引き続き通用するかどうかは出たとこ勝負だ。

 

「逃がすか...よっ!」

 

 キリトは壁を駆け登ると、途中で壁面を蹴って飛び上がり、ボスの頭上を取る。

 空中でうまく体勢を整えながら、今まさに羽ばたいている翼の片方を睨みつけるとソードスキル《スラント》を発動した。

 

「いっけええええ!」

 

 翼の付け根から羽先にかけてのちょうど中間、そこへめがけて振り下ろされたキリトのソードスキルが鱗を砕き、翼を切り裂いた。

 これまで何度も攻略組の猛攻を受け、さらにメイプルの《機械神》によってダメージを受けたボスの翼は耐久値が全損する寸前だったのだ。

 それをキリトの一撃が削り取った。

 片翼を失ったボスは空中で大きく体勢を崩して落下を始める。つかさずアスナが号令をかけた。

 

「攻撃部隊前進! ボスを包囲して集中攻撃!」

 

「「「うおおおおおおおおおっ!」」」

 

 落下の衝撃で砂塵が舞い上がり、それが晴れるより先に攻略組による叫声が部屋中を駆け巡る。ようやく剣の届く距離にボスを釘付けにした今、これまでの煮え湯を吐き出すかのように猛攻を仕掛けた。

 これまでのように翼に攻撃を集中させた攻撃ではなく全身に、色とりどりのライトエフェクトが光を放つ。

 飛ぶこともできず、急激に減っていく《タイラント・ザ・ドラグリオン》のHPに、ほとんど勝負はついたと思えた。それでもボスは最後の抵抗とばかりに口に炎を溜め始める。

 

「ブレス!? こんな距離から!」

 

 アスナの背筋に冷たいものが走る。

 四方八方を取り囲む攻略組めがけて《タイラント・ザ・ドラグリオン》は極至近距離からブレスのモーションに入った。口から漏れ出す炎の光が周囲を、そして攻撃に加わっていたプレイヤー全員を赤く染める。今までのブレスとは明らかに違う強く鋭い輝き、強力な攻撃が来ると、誰もが直感的に思った。

 

「《挑発》!」

 

 つかさずメイプルがスキルでボスのヘイトを集めた。

 ブレスの攻撃モーションに入ったまま、《タイラント・ザ・ドラグリオン》の眼がメイプルを射抜く。そのままブレスのターゲットがメイプルに切り替わった。溜めに溜めたブレスの光がより一層強く輝きを増す。

 

「みんな! 離れてーー!!」

 

 それに対抗するように、メイプルは全砲門を《タイラント・ザ・ドラグリオン》に向ける。いくつもある砲身からそれぞれスパークがほとばしり、発射されるその瞬間をじっと待つように、エネルギーが蓄積されていく。

 

「まさか、あれを正面から迎え撃つ気なのか...?」

 

 今もなお、最後の一撃に向けてエネルギーを溜め続けるメイプルと《タイラント・ザ・ドラグリオン》。

 やがて《タイラント・ザ・ドラグリオン》の口から真紅の閃光が放たれると、メイプルはスキル《機械神》が持つ全火力を目の前のただ一点に注いだ。

 

「うううっ...!」

 

 地鳴りのような轟音とともに、赤雷と閃光が激しくぶつかりあう。

 二つの光は拮抗していて、飛び散ったスパークが蛇のように這い回り、床や壁面を割る。

 

「これくらいじゃ...負けないよ!」

 

 メイプルは強く、瞳を凝らした。プラズマ砲の出力が徐々に上がり少しずつブレスを押し返していく。

 やがてはそのブレスを完全に打ち負かし、プラズマ砲が《タイラント・ザ・ドラグリオン》の全身を余すことなく包み込んだ。

 

「ううーーーーりゃあーーーーーー!!」

 

 目の前に広がる真っ赤な雷の光の向こうで、飛び散ったポリゴンの青い光が見えた。 

 

 

 

 

 

 

 真っ黒に焦げた部屋の中、壁や柱は見るも無残に砕かれていて、これがゲームの世界でなければフロアが倒壊していてもおかしくないほどだった。

 

「はあ...はあ...」

 

 メイプルは呼吸を整えながら《機械神》を解除する。

 頭上では四十九層攻略時と同じように《congratulation》のシステムメッセージが表示されている。それを目にして初めて、自分たちは今回の攻略戦に勝利したのだと自覚した。

 

「勝った...勝ったんだぁ〜...」

 

 NWOのスキルをここまでフルに使って戦ったのは今回が初めてだった。そしてフルに使っても勝つのがギリギリのモンスターだった。そんな戦いの中でよほど神経を使っていたのだろう。張り詰めていた緊張の糸がほどけて、どすっと、その場に尻餅をつく。

 

「メイプル! 無事なのか?」

 

「キリト! だいじょーぶ! 無事だよーー!」

 

 すっかり力の抜けきってしまったメイプルに駆けつけてきたキリトは手を差し伸べる。メイプルはその手を掴んで立ち上がると、満面の笑みで笑ってみせる。

 

「わたしたちの勝ちだね。これで五〇層突破だよー」

 

 そんなメイプルとは対照的に、キリトは少し険しい表情で周囲を見渡していた。 

 やがて立ち込めていた黒煙が晴れ、周囲のプレイヤーの様子が見渡せるくらいには視界が確保できるようになった。

 その時になって、メイプルは初めて気がついた。

 メイプルを待っていたのは攻略を勝利に導いたことへの賞賛ではなかった。そこにあったのは恐怖。異質すぎるスキルを目の当たりにしてその場にいた一同が視線がメイプルに注がれた。

 

「あんなスキルありかよ。ロボットだぜ? あんなのチートどころか改造だろ改造」

 

「バイタリティは絶対に不正してそうだよな。ボスのブレスあんだけ食らいまくってHP持つってありえないだろ」

 

「というか、ゲームにログインしながらそんな改造できるのか?」

 

「...っ!」

 

 僅かに身を震わせてそばにいたキリトの背に隠れるメイプル。

 攻略組のプレイヤーの見解はだいたい同じものだっただろう。チートという言葉では到底収まりきらない、世界観すら無視した強力すぎるスキルの数々。自分たちと同じような一般プレイヤーとしては絶対ありえないほどのバイタリティステータス。

 どこからか声が聞こえた。

 

“もしかしてあいつ、開発者側の人間なんじゃないのか?”

 

「ごめんキリト...絶対に人前じゃあ使わないようにって止められてたのに、私ついNWOのスキルを使っちゃって......どうしよう?」

 

「大丈夫だ。心配いらない。でもごめん」

 

「え?」

 

 背中に添えられていたメイプルの手をキリトはそっと押して戻す。そしてアスナのもとまで歩いていくと、ほかの誰にも聞かれないようにこっそりと耳打ちした。

 

「アスナ、約束だ。メイプルのことは頼んだ」

 

「ええ、わかってるわ......」

 

 キリトの言葉に静かに頷いたアスナは動揺するプレイヤーの視線から庇うようにメイプルの前に立つと、声を張り上げて宣言した。

 

「本日をもって、ここにいるソロプレイヤーメイプルを血盟騎士団の正式な団員として迎えます」

 

 

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