死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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51話 「誰もが皆、自分以外の誰かのために」

 

 

 

 

「ちょっと待ってよ! アスナ、どういうことなの?」

 

 目の前で淡々と進んでいく状況にたまらずメイプルは声を上げた。

 まるであらかじめそうなることが見越してあったような行動だった。

 展開の早さについていけないこともそうであったが、何より自分がどうして血盟騎士団に入ることになるのか、まるでわからない。

 そんなメイプルにアスナは、どこか浮かない様子で口を開いた。

 

「ごめんなさい。でもわかってほしいの。あなたのスキルは強力すぎるわ。下手をすればメイプルちゃん一人で上位ギルドひとつ分の戦力を超えるかもしれない。そんなプレイヤーがこれからもソロで戦っていこうとすればどこのギルドも放置しないのよ。それこそ、メイプルちゃんを引き入れるためにどんな手段をとってくるかわからないの」

 

「でも...だからっていきなりこんな」

 

「それに、これはキリトくんの願いでもあるのよ」

 

 

 

 

 

 

「それで? 頼みってなに?」

 

 それはクリスマスを過ぎてまもなくの頃。ジョニー・ブラックがサリーを抱えて逃走し、時間稼ぎのために襲いかかってきたオレンジプレイヤーの集団を駆けつけたアスナたち《血盟騎士団》と捕縛したあとのことだった。

 

「まあ単刀直入に言うとメイプルのことなんだ」 

 

「メイプルちゃんの?」

 

「ああ、これから先、メイプルはこの間の四十九層に引き続いて攻略戦に出ることになると思うんだ。それはメイプル自身が望んでいることでもあるし、俺に止める権利はない。だけどなんていうか、あいつが最前線で戦い続けることにはなにかと問題があるんだ」

 

 言葉を濁すキリトにアスナは察したように尋ねる。

 

「それは...メイプルちゃんが持ってる再生する武器や状態異常無効化のスキルのこと?」

 

「それだけじゃないけど、アスナも薄々は気がついてるんだろ? 武器やなんかも含めてそうだけどメイプルのレベルに見合わない異常な防御力だってそうだ。一緒に戦ってみてどう思った?」

 

 アスナは黙って頷いた。

 

「......はっきり言ってゲームバランスを超えてると思う」

 

「そりゃそうだ。なんていってもあれは全部SAOのスキルじゃないんだからな」

 

「どういうこと?」

 

 言っている意味がわからない、といった様子で眉を寄せるアスナにキリトは答えた。

 

「メイプルの話を総合すると、どうやらNWOっていうVRMMOをプレイしてたらいつのまにかこのアインクラッドに迷い込んだらしいんだ。ほんの一ヶ月前のことだよ。だからSAOには本来ない、それこそ《魔法》なんてスキルもこの世界で使うことができる。逆にSAOのソードスキルやなんかは使えないみたいだけど」

 

「ちょっと待って...? じゃあまさかメイプルちゃんは別のゲームからこの世界に迷い込んじゃったってこと?」

 

「そうだ。だからもしメイプルのスキルが今後、他のプレイヤーに悟られるようなことがあったら、すぐに血盟騎士団のメンバーとして加入できるよう取り計らって欲しい。こんなことアスナにしか頼めないんだ」

 

「......それがメイプルちゃんのタメになるってことはわかるけど、本当にそれだけのことをする必要があるの? 犯罪防止コードだってあるんだし、ギルドの体面上メイプルちゃんがキリトくんのそばにいるなら他のギルドだって強引な手段は取れないわよ」

 

 キリトの話を聞き終えるとアスナの口から真っ先に出た言葉がそれだった。

 

「それはメイプル次第と言えなくもないけど、もし他に持っているスキルを知られれば十中八九必要になると思う。少なくともどこのギルドにも所属してない俺みたいなソロプレイヤーが独占してるなら、それを殺してでもメイプルを手に入れようって連中はいるはずだ」

 

「......っ」

 

 アスナの眼差しが険しいものになる。

 それだけキリトの話した内容は突拍子もないことだったのだ。しかしその言葉に嘘はないと直感できる。そういう目をキリトはしていた。

 

「それがいつ、どういう状況起こるかわからない。だからそれがどんなときであっても大丈夫なように準備をしていてほしいんだ。俺にはできない、アスナにしかできないことだ」

 

「それはそうでしょうけど、でも......でも、その後キリトくんはどうするつもりなの?」

 

「どうもしないよ。そのときはまた、ソロに戻る」

  

 

 

 

 

 

「もしメイプルちゃんのスキルが他のプレイヤーに知られれば、どんな危険な目に合うかわからない。守りきれないかもしれないって。だからせめて信用できる私のギルドに入れてあげて欲しいって。その話をキリトくんから聞いたときは、まさかここまでのスキルだなんて思わなかったけど」

 

「そんな......」

 

 メイプルは一人、ボス部屋を去っていくキリトの背中を目で追った。その姿はどこかクリスマスの夜に見せたそれと似ている。今にも消えてしまいそうな背中だった。

 だからこそ思った。

 このままキリトを一人にしてはならない。

 そう思いながらも、自分が一緒に居ればキリトの迷惑になる。そんな思いがキリトを追いかけようとする足を動かなくさせていた。

 キリトの背中と部屋の上空に輝くcongratulation!!の文字。それらがメイプルの目にはやけに滲んだように、ぼやけて見えた。

 

(今までずっと、あんなにわたしのそばにいようとしてくれたのに......)

 

 フィールドに出れば、キリトはいつだってメイプルから目を離さないようにしていた。

 それこそ今回の攻略戦でも、攻撃隊と守備隊に別れ、メイプルのそばから離れることをあれほど拒んでいたキリトが今は、メイプルに背中を向けている。

 

(わたしを守ってくれるって言ったくせに......)

 

 初めはサチの代わりだったかもしれない。サチを守れなかった後悔をただ偶然目の前に現れたメイプルに押し付けていただけだったかもしれない。

 それでも今は違う、とメイプルは自信を持って言えた。メイプルを現実の世界に返したい。そんなキリトの想いがここ最近になって少しずつ、感じ取れるようになってきていたのだった。

 

(それなのに...こんなにあっさりと、わたしを置いていっちゃやだよ!) 

 

 そんな言葉ですら、声に出てきてくれない。

 ボス部屋から立ち去っていくキリトに手を伸ばしても、まるで届かない。

 アジリティゼロでうんざりするほど重い足が、今は一歩も前に歩けないほど重たかった。

 

【ラストアタックボーナス《エリュシデータ》】

 

 ただひとつ、本来その手にあるべきではない一振の剣だけが、虚しくメイプルの手の中に残った。

 

 

 

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