死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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超絶お久しぶりです!
いろいろ忙しくて防振り二期をようやく見始めたというわけで、最新話投下(゚д゚)!



60話「カルマ回復クエスト」

 なんの変哲もない広場のベンチ。そこへキリトは腰を下ろした。太陽がほぼ真上に位置する昼の頃、三人がけのベンチはキリト以外に利用者はおらず、視界に映るプレイヤーの数はちらほらいるものの、誰もキリトの存在を気にしている様子はない。

 

「少し早いけど、遅れるよりはいいだろ? それじゃあ取引を始めようか」

 

 繰り返しだが、ベンチにキリト以外に人はいない。しかしそのキリトの言葉に反応する声があった。

 

「それで? 今回はなにが知りたいんダ?」

 

 その声は腰掛けているキリトの後ろから聞こえた。ベンチの影に隠れるようにして身を隠した小柄な影。それにキリトは振り返って向き直るようなことはしない。背中越しに、あくまで一人事をつぶやくような声の大きさで返事をした。

 

「カルマ回復クエストについて情報を売って欲しいんだ。可能な限り難易度の低いものだと助かる。情報屋のアルゴならなにかしら情報を知ってるだろう?」

 

「ん?」

 

 その要望が意外だったのか、小柄な影の正体、アルゴは考え込むように小さく唸った。

 

「それ、キー坊が受けるわけじゃあないんダロ? まさかメイプルとのコンビを解消したばっかりだってのにもう他の面倒事にまきこまれてるのカ?」

 

「そのへんはその......聞かないでくれるとありがたい」

 

 歯切れが悪そうに答えるキリトを興味深そうな瞳でアルゴは笑うが、それ以上深く聞いてくることはなくかった。

 

「可能な限り低難易度...か。いくつか情報はあるが、難易度までなると情報がないんだよなぁ」

 

 困ったように答えるアルゴ。

 

「情報屋が聞いて呆れるぜ」

 

「そもそもカルマ回復クエストを受けなきゃいけないようなプレイヤーとは極力お近づきにはなりたくないダロ。商売柄、人から恨みを買うことも少なくないしナ。まあどうしても必要だって言うなら情報を仕入れられそうなやつに心当たりはあるガ......」

 

「いや、クエストが発生する場所がわかればこの際いい。できるだけ低い階層にあるカルマ回復クエストの情報をくれ」

 

「じゃあ、金額はこれだけ」

 

 キリトの背中にアルゴは指を二本突き立てる。

 一瞬の思案、その後にキリトは聞いてみる。

 

「......二万コル?」

 

「二十万コルだ」

 

「なっ!?」

 

 思わず声を上げてしまった。キリトはすぐにハッとなって周囲を見渡すと、声をひそめてアルゴに抗議する。

 

「いくらなんでもぼったくりすぎるだろ! 十五万コルで」  

 

「ダメだ。十九万」

 

「十六万」

 

「十八万、と五千コル。これ以上は譲れないナ」

 

「......よし」

 

 これ以上の交渉は臨めないと考えて、キリトは指定額をアルゴに渡す。

 

「まいどありダ」

 

 背中越しに話しているせいでアルゴの顔は見えない。が、おそらく意地悪く笑っているであろうことは僅かに弾んだその声でなんとなくわかった。

 それからほとんど間を置かず、アルゴから情報が記された羊皮紙のアイテムが送られてくる。

 

「助かるよ。また何かあったら頼む」

 

 キリトの言葉に返事を返す者はいない。そこで初めてキリトは後ろを振り返る。さっきまでアルゴの声が聞こえてきた場所にはもう誰もいなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 第三層のフィールド。左右に木々が生い茂る一本道をサリーとキリトは歩いていた。 

 アルゴから聞いたクエストの開始場所を目指して歩く二人。当然フィールド内を歩いているのだからモンスターと遭遇することはあるし、そうなれば戦闘にもなる。しかし二人の空気はのんびりとしたものだった。

 

「それにしても、いくらHPが0になると死んじゃうとはいえ、ここまで手応えがない敵と戦いながら探索するのって退屈よね」

 

「まあ、ここの階層にポップするモンスターはレベル10〜15くらいだしな。けどこれだけ低い階層にあるんだ。カルマ回復クエストが無茶な高難易度に設定されていたとしてもサリーなら余裕でクリアできるだろ?」

 

「まあそうだけど......おっと」

 

 間近でいきなりポップしたボアをハエでも払うかのような軽い太刀筋で切り払うサリー。その間わずか数秒のことで一撃でボアは消滅する。

 もしこれがメイプルだったなら突然のことに驚いて短剣である《新月》を振り回した挙句、《ヒドラ》で周囲をキリトもろとも毒液まみれにしていたことだろうな、と思ってキリトは笑う。

 

「なーににやにやしてるの?」

 

「に、にやにやなんかしてないぞ! そんなことよりもうじき見えてくるはずだ」

 

 ほどなくして二人が歩く道の先になにやら建物が見えてきた。風化が進んでいて遠目ではすぐにわからなかったが、それは教会のようだった。

 石造りの壁には無数のツタが幾重にも絡み、木材部にはコケが生い茂っていて、屋根に至っては一部が崩れ落ちて吹き抜けになっている。そんなおおよそ人の出入りがあるような息吹は感じられない廃れた教会。その扉にキリトが手をかけたとき、クエスト発生を示すアイコンが表示された。

 

「クエスト名《過去の清算》、間違いない。これが情報にあったカルマ回復クエストだ」

 

 どうやらクエストを受諾してから建物の中に入ることで開始されるタイプのクエストのようだった。

 

「どれどれ、参加条件はオレンジカーソルであること。クリア条件は過去を清算すること、ってクエスト名そのまんまじゃない。なにすればいいかも不明瞭だし、不親切なテキストね」

 

 サリーは不満げに口元を尖らせた。

 討伐系のクエストなら討伐対象のモンスター名と数。採取系なら必要なアイテムの名前と数といった情報は本来クエストの説明文にかなり具体的に書かれているものだが、こんなふうに抽象的な表現でしか説明されていない文面はキリトも初めて見るものだった。

 

「どうする? 正直、クエストが開始してからなにが起こるかまったく想像もつかないし、リスクはあるけど」

 

「心配ないわよ。あたしあんたより強いし」

 

 そう強気に答えるが、サリーとて不安がないわけではない。ただカーソルをグリーンに戻すにはこの方法しかないのだ。だったら多少危険があろうとも自分の実力と絶対に負けないという意気込みに望みを賭けるしかない。

 

「じゃ、行ってくるわね」

 

 サリーはクエストを受諾して教会の扉に手をかけた。警戒が滲ませながらゆっくりとした足取りで中へ入ると、錆び付いた蝶番が軋むような音をあげて扉が閉まる。

 

(さて、なにがくるやら...)

 

 サリーは周囲を警戒しつつ腰のダガーを抜いた。ゆっくりと教会の奥へと歩みを進め、やがて建物の中央に立つと、真正面に祀られていた巨大な女神像から光が漏れた。その光は少しずつ形を変え、やがて剣を携えた人の形に収縮する。その姿にサリーは呼吸すら忘れて立ちすくんだ。

 

(ありえない...あり得るはずがない! だってあの人は、あたしが!)

 

 氷の刃を首筋に突き当てられたような感覚だった。

 固く引き結んだ口を解いて、ようやくサリーが口にしたのは目の前にいる人物の名前だった。

 

「フレッド...」

 

 

 

 

 

 

 

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