死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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こんちわっす(●ꉺωꉺ●)

めっちゃ暑い今日......
溶けてなくなる前にさっさと家帰ろーってことで63話ですどーぞ



63話「前衛隊長のお仕事」

 エンゼルトランペットと呼ばれる毒草がある。

 花弁、葉、樹液に至るまでその全てに強い毒性を持ちながら、天使の角笛にも似た形の白く美しい花を咲かせる。そんな天使と悪魔のような二面性を持つ美しい毒草だ。

 《エンゼルトランペット》と呼ばれているプレイヤーがいる。

 三つの首を持つ毒竜を召喚するスキル《ヒドラ》と、一時的に天使の翼と金髪有して空を飛び回り、範囲内にいる仲間のHPを回復させるスキル《身捧ぐ慈愛》。この二つの強力なスキルを好んで使うことから先の毒草の名前にちなんで、そのように呼ばれていた。

 同時に、ヨハネの黙示録に語られるそれように、このデス・ゲームに終末をもたらす天使の角笛という意味も込められている。

 このプレイヤーならSAOを終わらせてくれる。

 そんな敬意と期待のこもった二つ名を冠するプレイヤーは今、

 

「お外出たいよぉ〜〜〜〜! 甘いものが欲しいよぉ〜〜〜〜!」

 

 傍付きであるアルフレッド監視のもと、執務に追われていた。あるいは激務と言ってもいいかもしれない。

 メイプルは割り当てられたギルドホームの一室、その最奥の大窓に面して置かれた樫の木のような色合いの分厚い机を前にしていた。その上にはオブジェクト化された大量の羊皮紙、それらは全て現在メイプルが在籍しているギルド《血盟騎士団》における各種報告書だ。

 同時に、メイプルによる確認と承認が必要な書類でもある。

 

「ここ数日、メイプル様が不在の間に前衛隊長の署名が必要な書類が溜まっております。前衛職全員の安全マージン報告、各メンバーのレベル上げノルマの報告、前階層ボス戦における支度金の決算とクリア報酬の分配報告などなど」

 

「ボス攻略の支度金の決算ってわたしがここに来るより前の書類だよね! 前任者さんのお仕事じゃないの!?」

 

 ただの平団員に護衛をつけるのは無理があるから、相応の役職を与えて正当化する。しかし便宜上の役職とはいえ、役職は役職なのでそれ相応の仕事はこなしてもらう。というのが副団長であるアスナの考えであった。そんなアスナからメイプルが与えられた役職は主にパーティやレイドで壁役を務める前衛隊、その隊長だった。

 

「メイプル様ほどの実力があれば前衛隊のトップに身を置いても問題はないでしょう。前回のボス戦でのメイプル様の戦いぶりは多くの団員が目にしておりますし、事実団員として迎え入れることに反対の声はございませんでした。前衛隊長に任命することも思いのほかスムーズだったと聞きます。しかし、だからこそ実力さえあれば仕事をしなくていいという風潮ができてしまうのは《血盟騎士団》の風紀に関わります。そうでなくともメイプル様は入団して間もない身の上。それがいきなり前衛隊長となることについて、古参の団員には快く思わない者もいると聞きます。ですのでそうした輩の切り口にならぬためにも先日のように職務を放り出して勝手に出歩かれるというのは―――」

 

「うぐーー......」

 

 大量の書類仕事にアルフレッドの小言まで上乗せされ、完全にメイプルが情報処理できるキャパシティーを超えた。前任者の仕事である、という正論がうまくはぐらかされたことにも当のメイプルは気づいていない。

 

「こ、こういう時こそ秘書の出番だよ! シリカちゃん! シリカちゃーーーーん!」

 

 唯一の直属の部下の名前を大声で連呼するメイプル。

 シリカを秘書として《血盟騎士団》に加えて一週間、早くもダメ上司発症の兆しを見せていた。

 

「残念ですがシリカ嬢には別の要件を言いつけてあります。そろそろこちらに戻るころだとは思いますが、帰ったからといってご自身の仕事を押し付けるようなことはしませんように」

 

「ぬーん......」

 

 アルフレッドに釘を刺され、怨念じみた唸り声を上げるメイプル。やがてはデスクの上を転げ回りながらダダをこね始めた。

 

「やーだーやーだー! お外出たいお外出たい! 遊びたい遊びたい遊びたい遊びたい遊びたい!」

 

「ただいま帰りました!」

 

 部屋の扉が開き、アルフレッドの言いつけを終えたシリカが部屋に飛び込んでくる。

 快活な声とともに漂ってきた甘い香りを鼻腔に感じて、机の上を転げまわっていたメイプルはかばっ!と音が鳴りそうな勢いで起き上がる。

 

「甘いもの!?」

 

「はい!」

 

 柔和に微笑むシリカの手には大きめの包が握られている。包に刻印されていたロゴはメイプルが度々買い食いに訪れるドーナツ店のマークだった。

 

 

「お二人は机の書類を部屋のストレージボックスに片付けておいてください。ティータイムにしましょう」

 

 

 

 

 

 

「あ〜〜...んっ。もぐもぐもぐ。それにしても前衛隊長のお仕事がこんなに忙しいなんてびっくりだよ。もう半日もお仕事してるのにまだまだ目を通さなきゃいけない書類が残ってるんだもん。レベル上げとか、ダンジョン攻略とか、フィールドに出る時間全然ないけどゴドフリーさんはどうやってたの?」

 

 メイプルは新たにシリカの買ってきたドーナツに手を伸ばす。平らげたドーナツはすでに九つ目だった。

 

「先日、最前線である第五十一層のフィールドボスが発見されたばかりですから、安全マージンの報告やレベルアップノルマの報告が集中しているようですな。規定に満たない団員、報告のない団員はレイドに参加できないのが本団の規則ですから、ここまで忙しいのも滅多にありません」

 

 もっとも、前任者であったゴドフリー自身もこの手のデスクワークはサボリ気味であった、ということはメイプルには伏せておくことにしてアルフレッドは話を進める。

 

「滅多にないの!?」

 

「そうですな。こうした書類が発生するのはレイド戦を控えている時くらいです。一つの階層をクリアするのに要する時間はおおよそ二週間程度として、迷宮区に続く道を守護するフィールドボス、そして迷宮区の最奥にいる階層ボスの攻略時のみですから、単純計算で一週間に一度、この物量の仕事をこなして頂ければ問題ありません」

 

 食い気味のメイプルにアルフレッドは穏やかに笑ってみせる。

 一方それを聞いたメイプルは天国から地獄に落ちたような表情だった。

 

「一週間に一度?」

 

「はい、一週間に一度」

 

「レイド戦があるたびに?」

 

「はい、レイド戦があるたびに」

 

「嘘つき! さっき滅多にないって言ったのに!」

 

 再びだだをこね始めるメイプル。

 

「さあ、そろそろ執務に戻りましょうか。フィールドボスの攻略会議は明日の正午、それまでに団員の安全マージン確保の報告書だけでも目を通して頂かなくては」

 

「いーーーーやーーーーだぁーーーー!」

 

 アルフレッドに引きずられるようにしてメイプルはデスクワークに戻る。その様子は夏休み終了を目前に手付かずだった宿題を片付ける子どものようだった。

 

 

 

 

 

 

 第五十一層、パニ。

 そこはまさしく攻略の最前線であり、五十一層のフィールドボスが出現する地点にもっとも近い場所に位置する安全地帯の村だ。今はそこにパーティ、ギルド単位で攻略を進め、たどり着いたプレイヤーたちが集まる鉄火場になっている。

 そしてまもなく行われるフィールドボス攻略会議が行われる場所でもあるのだ。

 

「よお新人! 前衛隊長の執務ご苦労!」

 

 アルフレッドを伴って攻略会議に赴いたメイプルの背中を熊のような大男が体育会系のノリといった様子で叩いた。

 メイプルが来るまで《血盟騎士団》で前衛隊長を勤めていたゴドフリーだ。ゴドフリーとメイプルほどの体格差でそんなことをすれば華奢なメイプルは吹っ飛んでしまいそうなものだが、そこはさすがバイタリティ極振りといったところか、まるで微動だにせずメイプルは振り返る。

 

「ゴドフリーさんも来てたんだね! レイドには参加するの?」

 

「立場が上がるほど現場に出られなくなるのは、ゲームの世界も現実の世界も変わらんもんでなぁ。ギルドホームでふんぞり返って討伐の報告を待つのは性に合わんが、今回は参加はしない。後任の前衛隊長に激を飛ばしにきたんだ」

 

 そう言ってゴドフリーはメイプルの頭に手を乗せるとわしゃわしゃとかき回した。

 

「そうなんだね。でもホームにこもって書類仕事ばっかりだと気が滅入っちゃいそうだけど」

 

「しかし悪いことばかりじゃないぞ? お前の加入に合わせて繰り上がり式で昇進したからな。俺が思うに、フルレイドを束ねてボス攻略戦の指揮を執る日もそう遠くはないだろう!」

 

 顎の髭を撫でながらゴドフリーは得意げに言った。

 

「まあ、入団して最初のレイド戦だ。頑張りたまえ若者よ!」

 

 激励の言葉を残してその場を後にするゴドフリー。立ち去る背中に向かってメイプルは言った。

 

「わたしゴドフリーさんのやってなかった仕事まで押し付けられたの絶対忘れないからね?」

 

 メイプルはついさっきまで格闘していた書類の山を思い出す。その中にあったボス攻略戦における準備支度金の決算、これは本来であればゴドフリーがしなければならなかった書類だ。

 そんな恨みがましく言ったメイプルにゴドフリーは背を向けたまま大笑いした。

 

「がっはっはっはっはっは!」

 

「忘れないからねーーーーーー!!」

 

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