死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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64話「フィールドボス攻略会議」

 レイドに参加するメンバーが集まり、攻略会議が始まった。

 仰々しく攻略会議といっても、安全地帯にある村の建造物オブジェクトに円卓テーブルとボス部屋の見取り図が置かれただけの簡易的なものである上に、その建造物オブジェクトも可能な限り広い場所を確保したとはいえフルレイドの48名が集まるにはいささか手狭だ。そのため会議の参加者は各参加ギルドから代表者一名、そしてキリトのようなソロでの参加プレイヤーが若干名いるだけだった。

 そして総指揮を執るのが常のごとく血盟騎士団のアスナであれば、キリトとアスナの意見の対立が勃発するのもまた、常の通りである。

 

「フィールドボスを、この村の中に誘い込みます」

 

 アスナの提示した作戦に、その場がどよめいた。

 

「ちょっと待ってくれ。そんなことしたら村の人たちが」

 

「それが狙いです。フィールドボスの行動可能範囲の中にこの村があります。そしてフィールドではプレイヤーはもちろん、NPCもボスモンスターの攻撃対象に含まれる。つまりこの村であればNPCの数だけボスのタゲを分散できます。ボスがNPC殺している間に攻撃、一気に殲滅します」

 

 キリトの表情に苦悶が浮かぶ。この世界をもうひとつの現実として受け止めているキリトにとって、到底承服できる作戦ではなかった。

 

「NPCは岩や木みたいなオブジェクトとは違う。彼らは......」

 

「生きている、とでも」

 

 アスナがキリトの言葉を先読みして遮った。

 

「あれは単なるオブジェクトです。私たちプレイヤーとは絶対的に違う。たとえ殺されようとまたりポップするのだから」

 

 キリトを除いて、その場の誰もアスナの意見に反論しようとはしない。しないだけで、誰もがその作戦に対して前向きであったかと問われればそうではない。

 異形のモンスターならばいざ知らず、自分たちと同じ人の形をしたNPC。それが無残に殺されていく姿を目にすることに嫌悪するのは至って自然な感性だ。ましてや自分たちがモンスターを村に呼び寄せて囮にするなど尋常な発想ではない。

 

「俺は...その考えには従えない」

 

 それなのに、キリト以外の誰も反対の意を示すことはできなかった。

 アスナの言う通り村人は設定された行動パターンを繰り返すだけのデータ上の存在で、たとえ村に誘い込んだボスモンスターに殺されようとも、一定の時間が経過すれば何事もなかったかのように復活する。

 プレイヤーとは違う、単なるオブジェクト。

 理屈としてはなにも間違っていないのだから。

 

「今回の作戦は私、《血盟騎士団》副団長のアスナが指揮を執ることになっています。私の言うことには従ってもらいます広いボス部屋で戦える階層ボス攻略と違って、地形の狭いフィールドボス戦では【機械神】は破壊範囲が広すぎて使えません。 」

 

キリトは前回のボス攻略戦を思い出す。

確かに今回の地形であのスキルを使ったらボスモンスターどころか周りのプレイヤーまで巻き込みかねない。だったらメイプルひとりでフィールドボスに挑めは良い話だが、ボス戦のたびにNWOの強力なスキルに頼っていてはメイプル、ひいては血盟騎士団が常にラストアタックボーナスを独占するような状態になってしまう。他の攻略組のメンバーからすればそれなりに反感を覚えるというものだ。

 

「私の指揮には、従ってもらいます」

 

 場の空気が張り詰める。

 キリトもアスナも一歩も引こうとしない。

 

「二人ともすとーっぷ!」

 

 そんな両者の間に割って入っていく小さな人影があった。

 

「キリト、言いたいことはわかるけど一人で突っ走らないでみんなの話も聞いてみようよ。それにアスナも、そんなふうに頭ごなしに押さえつけられたらキリトもついて行きにくいと思うんだ」

 

 そうたしなめられ、周りのプレイヤーを置いてきぼりにヒートアップしていたアスナとキリトの二人は言い返すこともできずに口ごもった。

 

「だから、仲良く話し合おうよ!」

 

 

 

 

 

 

 その後、意見交換の後に攻略会議はひとまずの決着がついた。やや疲れた様子でキリトはテントの外に出ると背中を反らせて伸びをする。すると後ろから聞き覚えのある青年の声がした。

 

「ようキリト!」

 

 続いてキリトの背中にやや重めの衝撃が走る。それが後ろから背中を叩かれたのだと理解して、キリトは気だるげに後ろを振り返った。

 

「よう、クラインか」

 

「相変わらず副団長さんと仲わりーなぁ。メイプルちゃんが仲裁に入ってくんなきゃどうなってたか。お前もともとアスナさんとタッグ組んで攻略してた時期もあったんだろ?」

 

「ああ、アスナが《血盟騎士団》に入るまではな。それが今や《血盟騎士団》が誇る攻略の鬼だ。ただそれより驚かされたのはメイプルだよ。まさかこの数ヶ月で前衛隊長になるとは思わなかった」

 

 前衛隊長といえば《血盟騎士団》の前衛職を取りまとめる重役だ。今やメイプルもトップランクギルドを執りまとめる上層部の一員である。

 おそらく《血盟騎士団》始まって以来のスピード出世ではないだろうか。確かにプレイヤースキルはまだまだ難があるものの、圧倒的なバイタリティステータスを含めた総合的な実力は間違いなく攻略組でもトップクラスだ。おまけにNWOの強力な魔法スキル、それこそ五〇層攻略時に見せた《機械神》に匹敵する火力持ちはアインクラッドには存在しない。

 仮に《機械神》を抜きで戦っても真正面からメイプルを相手に決闘を挑んだとして、勝てるプレイヤーは数える程度しかいないだろう。

 それに噂によれば、キリトとコンビを解消してからも、またいくつか滅茶苦茶なスキルを取得したという。

 

「なんというか、いろんな意味でアスナに任せたのは正解だったな」

 

 それにメイプルが《血盟騎士団》として最前線に身を置いたことで攻略組の空気が変わりつつあった。

 そもそもアスナが《血盟騎士団》の副団長に就任して以来、彼女のストイックな性格が影響してか、攻略組全体の雰囲気が張り詰めていたのはキリトも感じていることだった。そこをメイプルがうまい具合にバランスを取ってくれているようにも思える。

 そう考えれば全く意図していなかったこととはいえ、閉鎖的だった攻略組の空気を変えたことに一役買ったような誇らしさはある。その一方で少し複雑な思いも、キリトの胸中にはくすぶっていた。

 

「...ふふ、わかる。わかるぜ若者よぉ!」

 

「な、なんだよ急に」

 

 なにかを理解したかのように頷いてキリトの肩をバンバンと叩いたクラインは言葉を続けた。

 

「この間まで自分がいなければ生きていけないほどにか弱い乙女が、いつの間にかこんなにも手の届かない、どこか遠い存在になってしまった........ニヤァ」

 

 舞台役者のような仰々しい身振り手振りで語ったあと、小馬鹿にしたような笑みを浮かべるクラインになんとなく腹が立ってキリトはクラインの尻を後ろから蹴り上げた。

 

「せいっ!」

 

「痛ってえ!くはないけど、いきなりなにすんだキリト!」

 

「別にSAOの痛覚フィードバックじゃあ、蹴られたくらいなんともないだろ?」

 

「そうかもしんねえけどだなぁ」

 

 クラインはそう言って頭を掻いた。

 そんなクラインを気にすることなく、キリトはやや不機嫌な様子で歩き出す。なにせ実のところクラインの言っていたことは、腹が立つほど的を射ていたのだから。

 

「ま、話は戻るけどよ、死んじまったらどうにもなんねえんだ。つうわけで紳士である俺はアスナさんの苦労を偲んで作戦に従うぜ」

 

 そう言って手をひらひらとさせながらその場を後にするクラインの背を振り返って眺めて、キリトは思った。

 キリト自身、アスナの言っていることを理解できないではない。

 冷酷とも言える作戦も、レイピアのような鋭い態度も、結局はプレイヤーの安全を思えばこそだ。命の危険が付きまとう攻略において間違った考え方ではない。キリトだって安全マージンを確保しているとはいえ、死なない保証なんてどこにもない。明日死ぬかもしれないし、逆に生き残るかもしれないが、そんなことは誰にもわからないのだ。

 そんなセンチメンタルを抱えたままキリトは街へ戻り、転移門からホームのある階層に転移、雑多な通りを抜け、小汚い路地の一角にある小屋の扉を掴む。

 こういうときソロプレイヤーは楽でいいとキリトは思った。

 一人なら誰に気を遣うでもなく、心のまま、気ままに過ごすことができるのだから。

 

「あら、遅かったじゃないのよ。あんまり遅いから死んじゃったかと思ったわ」

 

「......忘れてた」

 

 




評価感想ばっちこーい(●ꉺωꉺ●)
というわけで、また次回~
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