死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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七夕がやってきました。
やつらが年に一回いちゃこらする日がやってきました。
いいよなお前らは。
こっちは誕生日も七夕もクリスマスも、

ボッチなんだが?(●ꉺωꉺ●)


65話 「再会」

「あら、遅かったじゃないのよ。あんまり遅いから死んじゃったかと思ったわ」

 

「......忘れてた」

 

 心にもないことを口にしてキリトの同居人、サリーはくつろぎ切った様子でソファに横になり、出歩いて買ってきたのであろう小袋に詰められた一口サイズのドーナツをつまんでいた。

 それを見てキリトは顔をしかめる。

 

「......こんな人の多い時間に買い物なんてして大丈夫なのか? 出歩くならせめて人気のない夜とかの方がいいんじゃ」

 

 あの《ラフィン・コフィン》から逃げ出した以上、おそらくPoHはサリーの命を狙っているはずだ。

 こうしてキリトが自分の拠点に匿うにも細心の注意を払わなければならないと考えていたのだが、どういうわけかこの危機的状況において当の本人が一番のんきなのである。それこそキリトがフィールドボス攻略の会議に参加している間に堂々と街に出て買い食いをしている始末だ。

 

「せっかくカーソルをグリーンにできたんだもの。部屋に閉じこもってばかりなのは退屈だし、それに人を隠すなら人の中って言うでしょ? 人気のない夜よりも人通りのある昼のほうがよっぽど安全なのよ」

 

 そういえば似たようなことを以前アルゴが言っていたような気がすると、キリトは思った。

 なんにせよ、ソロとはいえ一介のプレイヤーであるキリトより、つい最近まで日陰者のオレンジプレイヤーだったサリーのほうが身を隠す術には長けているのだろうと、納得することにする。

 

「とはいえくつろぎすぎじゃないか? 一応命を狙われているわけだし」

 

 視線を外しつつ、サリーをたしなめるキリト。しかしそう言う理由は別にあった。

 サリーが上半身に着用しているノースリーブシャツの裾は短めでへそ回りが見えている。下半身装備も足の付け根がギリギリ隠れるようなホットパンツで、しなかやでかつ健康的な肉付きの生足をソファの縁に放り出すようにしてくつろぐ姿は年頃のキリトにとって目の毒以外のなにものでもなかった。

 

「このマセガキ」

 

 そこのところはサリーも気づいていたらしい。からかうような口調で笑ってみせる。

 

「まあ、そんな顔しつつもこの1ヶ月あんたと暮らしてて特になにもなかったしね。そういうところ度胸がな......信用してるわ」

 

「まったく本音が隠せてないけどな!」

 

「気のせいでしょ...はむ」

 

 そう言ってサリーはミニドーナツを口に放り込んだ。

 

「それで? 会議の方はどうだったの?」

 

「攻略は明日だ。《血盟騎士団》のほうで今日の会議をもとに一度作戦を立て直すってさ」

 

 もちろん立て直しの原因はキリトとアスナの意見交換という名の喧嘩で、メイプルがその仲裁に入ったという話は伏せておく。

 

「《血盟騎士団》っていうと、メイプルのいるギルドかぁ......」

 

「ああ。あいつも今回の攻略戦に参加するよ。サリーの探してた友達ってメイプルなんだろ? 会ってこなくていいのか?」

 

「......いいのよ。生きてそこにいるんだってことがわかっただけで、いい」

 

「サリー......」

 

 サリーの瞳を見つめ直して、キリトは考える。

 サリーはNWOにログインしたまま戻ってこられなくなったメイプルを探しに、このSAOの世界に行き着いた。そのメイプルが声の届く、手の届く場所にいながらも絶対に正体を明かさないと言い張ることの意味、その重さを、キリトは無視することができない。

 そんなキリトの、曇り空のような表情を見てサリーは笑った。

 

「もう、なによその顔。あんたがそこまで悩んだって仕方ないことでしょ? それよりほら、今日はこの後なにする予定?」

 

「ん? ああ、まずポーションなんかの消耗品の補充は行くとして......あとは武器強化のために鍛冶屋にも寄りたいな」

 

「ふぅーん。ねえ、あたしもついてく」

 

 ついて行ってもいい? ではなくついてく、という問答無用の強引さがなんともサリーらしかったが、やはりここでもキリトは表情をしかめた。

 

「ついて行くって......用もないのにわざわざ一緒に来ることもないだろ? 別に面白いもんでもないし、それにサリーは今《ラフィン・コフィン》に追われてる身じゃないか」

 

 どうにもサリーを《ラフィン・コフィン》から隠すことに関してキリトばかりが警戒していて、肝心なサリー本人がどこか楽観的過ぎる気がしてならない。

 

「用事がないわけじゃないって。鍛冶屋に行くんでしょ? あたしが外を出歩くときに着ている外套、攻撃は全部避けるから耐久値やバイタリティ値はそのままでいいとしても、アジリティがね。邪魔にならない程度に性能のいいやつが欲しいのよ」

 

 そこまで言われてキリトは考える。

 装備品は着込めば着込むほど装備のために必要なストレングス値は上がるし、装備品の総重量が上がれば上がるほどプレイヤーの動きにも直接影響してきてしまう。

  サリーの戦い方は典型的なアジリティ型、つまりスピードを武器に戦うスタイルだ。正体を隠せるだけで何のステータスも底上げしてくれないあの外套は、戦う上では邪魔で仕方ないのだろうと理解できる。

 理解できるのだが。

 

「なんだろうな。もっともな理由をつけて堂々と外に出たいだけなんじゃ?って思えちゃうんだけど」

 

 そんなキリトの小言など我知らずといった様子でサリーはストレージから今しがた話に出た外套を装備するとフードで頭を覆った。

 

「ほーら、もたもたしてないで早く行くぞー!」

 

 出入り口の前まで歩いて立ち止まったサリーは振り返ると、いまいち気乗りしないでいたキリトにウィンクを飛ばす。行く気満々の様子にキリトはため息をつくと重い腰をベッドから持ち上げたのだった。

 

 

 

 

 完全に昇りきった太陽がわずかに西に傾き始めたころ、キリトとサリーは並んで大通りを歩いていた。

 時間が時間ということもあり人の通りが多く、道の両脇には雑貨屋から服飾店、中には飲食系アイテムを扱う露店なんてものまであり、かなりの賑わいだった。

 

「さてと、じゃあまずは鍛冶屋からかな」

 

 サリーの外套は装備のカテゴリとしては防具の類になる。であれば今持っているものを強化するにしても、新しく作り直すにしても、目的地は鍛冶屋になる。

 

「とりあえず俺の行きつけの店でいいかな? 鍛冶スキル持ちのプレイヤーが運営しているところなんだけど、NPCよりは腕がいいし」

 

「任せるわ。街中のことならあたしよりキリトのほうがよっぽど詳しい...だろう、し」

 

 語尾が徐々に尻しぼみになっていくサリーの声が隣ではなく後ろから聞こえて、キリトは振り返った。サリーはちょうど通りがかった店の前で立ち止まっていた。

 

「どうかしたのか?」

 

 聞こえているのかいないのか、キリトの声にも反応することなくサリーはじっとその店を見つめている。

 キリトは歩く人の流れに逆らいながら、時折すれ違うプレイヤーと肩がぶつかって舌打ちされながらもどうにかサリーのもとにたどり着く。

 

「サリー?」

 

「......ああ、キリト」

 

 そこはこれからキリトが行こうとしていた店と同じプレイヤーが運営する店舗のようだった。

 ガラス張りの入り口の扉から店内の様子をうかがうと、中の壁や棚にはさまざまな種類の武器や防具が飾られていて一目でどういった種類の店なのかわかる。鍛冶スキルを持つプレイヤーが、自身の作成した武器を販売しているのだ。

 外観の店構えも立派なもので、レンガ作りのおしゃれな建物に、店主の名前から取ったのだろう《リズベット武具店》と書かれた看板が掲げられていた。

 

(リズベット...? リズベットってもしかして......)

 

 サリーの脳裏に、かつて言葉を交わした少女の姿がよぎる。

 外からカウンターの様子を見ると微動だにしない直立姿勢と営業スマイルの店員がそこに立っているが、その様子から一目でNPCだとわかる。どうやら店主のプレイヤーは留守にしているらしい。

 

「こらこら、そんなところにボーっと突っ立ってたらお客さんが入れないじゃないのよ」

 

 その声はキリトとサリーの後ろから聞こえた。

 若い女性の、やけに威勢のいい張った声。それはサリーの脳裏に今まさに浮かんでいた人物のものだった。

 サリーが振り返る。そこに立っていたのは癖のある短いピンクの髪をした少女。重そうに抱えた木箱からは槍や刀などの柄や切っ先が縦長の収まりきらずにはみ出ていて、ふさがれた視界を確保するために首を曲げながら正面のキリトとサリーを見ていた。

 いぶかしむように細められた目、その目がサリーの顔を見るなり見開かれた。

 

「サ...リー...?」

 

「......」

 

 黙ったまま、サリーはそれにうなずいた。

 その少女、リズベットはなにかを堪えるように口を引き結ぶ。が、次の瞬間にはそれが言葉になってあふれ出ていた。

 

「サリー!!」

 

 抱えられていた木箱が地面に落ちた。箱の中で武器や防具がぶつかり合ってガチャリと音を立てる。

 替わりに空いたその両手が大きく広げられると、リズベットは飛びつくようにしてサリーを強く抱きしめた。

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