死ぬのが嫌なので防御力に極振りしたいと思います   作:くぼさちや

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え、ちょまじか
月と盾の紋章旗壊滅の話し書いたのってもう、三年前か...........


66話 「オレンジとサリーの二人」

 記憶にあった印象とはずいぶん違っていても、サリーはその姿を見て一目でリズベットだとわかった。

 最後に会ったときのリズベットは地味な印象の少女だった。服は乳白色のレギンスに腰丈ほどの茶色いローブを着ていて、髪はそれよりも少し濃い茶色の癖っ毛。

 しかし今は髪型こそ以前のままだが髪は染色アイテムで明るいピンク色に染められ、服は真っ赤なドレスエプロンだった。

 

「この子はほんとに! どれだけ心配したと思ってるのよ! しばらく姿が見えないと思って連絡してもあんたもオレンジも返事寄こさないから、まさかと思って第一層の石碑を見たらオレンジは死んじゃってるし、あんたの名前はどこにもないしで......」

 

 第一層には《蘇生の間》と呼ばれる場所がある。そこはデスゲーム開始前まではHPが全損したプレイヤーが蘇生して再スタートする場所であったが、デスゲーム開始後、そこには全プレイヤーの名前が書かれた巨大な石碑が立てられ、ゲーム内で死亡するとプレイヤーネームに横線と死亡原因が表示される。

 当然NWOから来たサリーの名前はそこに記されていないが、恐らくそれを知らないリズベットはまだ数千人の名前が残ってるそれを一から全部目を通したに違いない。

 

「ごめんリズ、いろいろあってさ。というかずいぶんあか抜けたっていうか、雰囲気変わったね。前は髪色も茶色だったのに、ピンクも似合うじゃん」

 

「あたしの髪なんてどうだっていいでしょ!」

 

 リズベットの泣きそうな声が耳元で聞こえる。実際泣いていたかもしれない。が、抱きしめられているせいでサリーにはそれが見えなかった。

 その様子を傍らで見ていたキリトが折を見て尋ねる。

 

「なあ、二人は知り合いなのか?」

 

「うん、まあちょっとね」

 

 

 

 

 二人が知り合ったのはサリーがフレッドの誘いを受けて《月と盾の紋章旗》に入って間もないころだった。

 この当時サリーは情報屋のアルゴからアインクラッドに生存している全女性プレイヤーの名簿を入手し、それをもとに親友である本条楓、すなわちメイプルの居場所をしらみつぶしに探し回っていた。

 

「ちょりーっす! サリーどうっすか? 例の友達探しのほうは」

 

「全然ダメ。午前だけで三人と会ってきたけど、みんな違う人だった」

 

 偶然見かけて声をかけてきた同じギルドのメンバー、オレンジにサリーは肩をすくめて答える。

 とはいえ前進していることには違いない。楓がサリーのようにNWOからこの世界に迷い込んだとするならば、プレイヤーとしてこのアインクラッドのどこかにいるのは間違いない。こうして一人一人のもとを訪ねていけばいつかは楓のもとにたどり着くはずだ。

 

「うーんせめてプレイヤーネームがわかれば手伝えるんっすけどねー。お友達のことはリアルの名前と顔しかわかんないんすよね」

 

 オレンジはうなるようにして考え込んだ。

 なにかうまい方法はないか考えてくれているのか、そしていったいなにを考えたのか、オレンジが次に発した言葉は、

 

「とりま、あたしもついて行っていいっすか? 一人より二人のほうが退屈しないっすよ~」

 

 というものだった。そんな調子のいいことを言いながらサリーの隣を歩く。

 

「ありがと。じゃあ、一緒にいこっか! 次の人は......第32層で鍛冶屋をしてるリズベットって人ね」

 

 サリーはリストの上でその名前を指でたどり、指し示した。

 当時のアインクラッドにおいて中層と呼ばれているのが二十から三十五層のあたりだ。そういう意味ではサリーとオレンジの向かう三十二層とは中層の中でも比較的上層に近い階層になり、攻略からしばらく経った今でも多くのプレイヤーで活気づいていた。

 サリーはそこで一度別れていたオレンジと合流して、互いの成果を報告し合う。

 

「あたしのほうはダメだった。オレンジそっちは?」

 

「ぜーんぶハズレっした。鍛冶屋だって話っすけど、もしかしたら店舗構えて本格的にやってる子じゃないのかもしれないっすねぇ」

 

 サリーはため息をついた。

 情報によるとリズベットは鍛冶スキル、すなわち武器や防具の強化、制作を行うことのできるスキルを持った生産系プレイヤーということだった。なので二人で手分けしてこの階層にあるすべての鍛冶屋を探して回ったがリズベットというプレイヤーにはたどり着けなかった。

 こうなるとアルゴから情報をもらって以降に拠点を移したか、鍛冶屋を畳んだか、あるいは死亡している可能性もある。

 

「まあ焦ってもしゃーないないってことで、あっちの露店が集まっているとこでお菓子でも買って休憩にしないっすか?」

 

「あんたねえ...手伝ってくれるのは嬉しいけど、いつもそうやって道草ばっかりしてない?」

 

「いいじゃないっすかー。この世界の数少ない楽しみの一つなんすから。なんてったっていくら食べても太らない! そして女は男子とオシャレと甘いものから興味をなくした瞬間から乙女ではなくなる、ってのが我が家の家訓なんっすよ!」

 

「なによそれ、変な家訓」

 

 妙な力説をするオレンジに呆れながらもサリーは笑った。その手を引いてオレンジはぐいぐいと露店に向かって進んでいくが、特に抵抗なくサリーはついて行く。

 革布の上に商品を並べただけの簡素な店も、20、30と軒を連ねればそこは立派なマーケットだ。

 

「サリー、パス!」

 

「おっと」

 

 袋詰めにされたドーナツを買ったオレンジが中身の一つをサリーに投げて寄こした。

 難なくキャッチしたサリーはそれを一口頬張った。ふんわりとした優しい甘さが口いっぱいに広がる。プレーンのドーナツにチョコレートがかかっただけのシンプルなものだったが、意外といける。

 

「お、けっこうおいしい。けど、これくらいならわざわざ買わなくたって材料さえあればオレンジにだって作れるんじゃないの?」

 

 オレンジの持つ《料理》スキルの熟練度はちょっとしたものだ。アインクラッドにあるレシピのすべて、とはいかないが大抵のものは自分で作れてしまう。

 

「サリーも料理とかするようになればわかるっすよ。結局、人に作らせた料理が一番ウマい!」

 

 なにかいいこと言った風に親指を突き出すオレンジ。にっ、と笑った口の端から特徴的な八重歯が見えた。

 

(うーんそういうもの? よくわかんないけど)

 

 なんとなく納得してみることにしてサリーは残っていたドーナツを一気に口の中へと放り込んだ。

 すると後ろから歩いてきたプレイヤーと肩がぶつかった。よろけた拍子にオレンジとサリーの間に距離ができた。そしてそれは誰が意図して作ったわけでもない、自然に生まれた人混みの流れにさらわれてどんどん広がっていく。

 

「お、オレンジ!」

 

「ちょい! サリー! どこ行くんすか!?」

 

(そんなことあたしに聞かれても)

 

 どうにか人混みから抜けようと流れに対して横に、横にと移動する。そしてようやく視界が開けた。

 

「いらっしゃい!」

 

「あ、ええと......」

 

 そこはちょうど露店の店先だった。

 武器屋かなにかなのだろう、とサリーは思う。他の店と同じように革布を地面に敷き、その上に短剣や片手用直剣など様々なカテゴリの武器が並んであった。

 店主はサリーの腰にあるダガーを見ると、さらに言葉を続けた。

 

「あんた短剣使いね。だったらこれなんてどう? 軽くて扱いやすいし、それがある程度重くても威力が欲しいならこっちなんかもおすすめだよ!」

 

 慣れた様子で商品を勧める店主。浅くかぶったローブのフードから見える容姿は若く、サリーと同じか少し年下くらいかだ。

 大きく丸い瞳と頬のそばかすが印象的で、高い声から女性だとは思うが、少年特有の威勢の良さが声音から感じられる。

 

「ああ、ごめんなさい。ちょっと人を探してて、お客じゃあないのよ。リズベットって鍛冶屋の人知らない?」

 

「あら? リズベットならあたしよ?」

 

「ええっ?」

 

 サリーは軽く驚いた。

 リズベットは被っていたフードを取る。短めで癖のあるチョコレートブラウンの髪がふわりと広がった。

 

(違う。楓じゃない。今回もハズレか......)

 

 なにか適当な言い訳をして立ち去ろうと考えていたサリーの両肩をリズベットはがっつりと掴んだ。

 

「武器屋としてではなく、鍛冶屋としての腕を見込んであたしのところに来るなんて、あんたなかなか職人を見る目があるじゃない。気に入ったわ! その慧眼に免じて、今日は出血大サービスで作成でも強化でも引き受けてやろうじゃないのよ!」

 

 掴まれた手にどんどん力がこもっていく。リズベットの大きな瞳がキラキラともギラギラともいえる輝きを見せ、まるで、逃がさないぞ、と訴えかけているかのようだった。

 

「あ、ありがとう。でも一緒に来た友達とはぐれちゃってさ、ほらこんな人混みだから。そういうわけでその子と合流した後にでもまた改めて......」

 

「おーい! サリーさんやーい!」

 

 その一言でサリーは完全に退路を断たれたと覚った。人混みの奥から、名前と同じオレンジ色の髪が揺れて見える。

 どうやらサリーの場所は正確に把握しているらしく、右往左往して探しているような様子もなくまっすぐこちらに近づいてきていた。

 

「はぐれてた友達ってあの子のこと?」

 

「うんそう。あはは、よかったぁ無事に合流できそう」

 

 あいまいに笑って見せるサリーに、しかたないなぁ、といった様子でリズベットはストレージから取り出した金鎚を肩に担ぐようにして持った。

 

「いいわ。二人まとめてサービスしてあげるわ」

 

 そう力強く言うリズベットの声はどこか嬉しそうだった。

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