家族が愛しくて仕方がない魔族の話   作:やまてら

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よろしくお願いします。


001 始まりの

優しかったのを覚えている。

優しく包み込んでくれる抱擁。

優しく語りかけられる言葉。

優しく向けられる眼差し。

一番古い記憶にあるのは、母の優しい優しい思い出だ。

決して裕福ではなかった。恵まれているとは言えなかった。

それでも、二人で静かに幸せに生きていたのだ。

 

それがいつ、塗りつぶされたのか。

戦争が悪かったのか。

時代が悪かったのか。

種族が悪かったのか。

それとも、単に運がなかったのか。

 

母と暮らしていた場所が、母が。

 

人間の兵器によって。

魔族の特性によって。

塗りつぶされた。

 

ある日それは、突然起こった。

戦争が、時代が、運が。

それとも、母を守れるだけの力が無かったことが悪かったのだろうか。

その日を境に、世界は優しい世界では無くなった。

 

 

 

生きるのに必死だった。

泥水を啜り、腐ったゴミを食ってでも生きた。

必死だった。

盗みもした。

奪いもした。

せめて自分よりも強い奴から奪うことで、奪っていた側とは違うと言い聞かせた。

自分は同類ではないと、必死で言い聞かせた。

 

幸いというべきか特性には恵まれていたようで、大概は逃げ切ることができたし、戦いになっても負けることはなかった。

そんな生活を何年続けただろうか。

いろんな奴に出会った。

家族に捨てられたやつ。

同じように一人で生きているやつ。

群れて補い合って生きているやつ。

 

必死に生きていて、学んだことは多い。

というよりも、今までが知らなさ過ぎた。

優しい世界は少なく、辛いことの方が多い。

そんなことすら、一人になってから気づかされた。

一人でいるのは辛い。

一人でできることには限りがある。

 

だから。

群れることにした。

それぞれが得意なことで補い合った。

植物を育てて。

料理を作って。

服を作って。

情報を集めて。

寝床を作って。

単に戦闘力をもって。

それぞれを統率することで、群れとしての体裁を整えていった。

 

気づけば、ちょっとした勢力になっていた。

最初は一人から始まった。

一人を助けて、二人になった。

助けて、助け合って。

群れと呼ばれるのに十分すぎる勢力になっていた。

ほとんどは何も解らない子供ばかりだったが、それでも守るには十分な戦力を持っていた。

気づけばその群れは『孤児院』と呼ばれるようになっていた。

廃墟となった小さな街の端を住めるように改造し、畑も作った。。

畑から糧を得て、皆で慎ましく過ごしていた。

大変だが、充実した日々だった。

これから、また。

静かで優しい日々を作り、過ごしていく。

幸せな日常をこれから作っていく。

そう思っていた。

ある日。

 

同族からの襲撃があった。

年のころは同じくらいだろう。

姉妹の、二人組。

炎を操って、拠点としていた建物を破壊してきた。

 

「なんだここ? 子供ばっかじゃねーか」

「お、お姉ちゃん、だめだよぅやめようよぅ」

 

一人はギラギラと周囲へと視線を飛ばし、もう一人は不安そうに姉の後ろから必死に諫めている。

一目見て、幼いながらもかなりの実力を持っているとわかる。

幼い少女二人でこの世界を生き残っているのだ。

相当の苦労をして、今があるのだろう。

警戒してもし足りないというのは解る。

 

……だからといって、このまま略奪を許すことはできない。

特性を駆使して威嚇を繰り返す少女の背後へ寄り、諫める少女を仲間の方へ放り投げてさらに特性を発動する。

 

「なんだあ、お前」

 

背後からの奇襲に気付かれ、魔獣化して特性の出力を上げて防がれる。

炎熱による防御と同時に熱で反撃をされる。

よほど戦いなれているようだ。

 

だが、それはこちらとて同じことだ。

風を身体の周囲に纏い、熱を通らせないようにする。

それにしても、今も際限なく上昇していく温度に危機感を覚える。

ここには戦いに向かない特性の者も多い。

周囲を見回せば、温度変化に影響を受け始めている子供も見受けられる。

 

「メリーに何しやがんだ、テメエッ」

 

うまく敵愾心を煽れたようで、自分に攻撃が集中する。

何の法則性もなく炎熱を纏わせたうでを振り回してくる。

このまま拠点の外まで誘導し、戦えるところまで移動して排除する。

攻撃を躱しつつ移動を始めたところで、静止の声が響く。

 

「動かないで! 動くとここにいる子たちにひどいことしちゃうよ!」

 

先ほど放り投げた少女が魔獣化して特性も開放し、触手で子供たちを拘束していた。

どうやらもう一人の方も油断できない強特性の要注意人物だったようだ。

少女に気を取られて動きが鈍った一瞬を狙われ、炎の少女の攻撃がモロに直撃する。

 

「がッ!」

 

顔面に熱された拳が直撃し、地面にめりこむ。

特性で防御してダメージこそ大したことはないが、地面に打ち付けられて固定される。

このまま攻撃されては、この強力な攻撃をいつまで防御できるか分かったものではない。

 

「メリー、大丈夫か!? 何もされてないか!?」

「うん、だいじょうぶだよお姉ちゃん。なんにもされてないよ」

「そうか! 無事か! よかった!」

「……無事を喜んでいるところ申し訳ないが、お前たちの目的はなんだ? こちらにもはや抗戦の意図はない。良ければ目的を教えてもらいたい」

 

特性で抜け出し、二人の中間地点で両手を挙げて降伏の意思を示す。

 

「えーっと、なんていうのかな。私たちは、ちょっと通りがかっただけといいますかなんといいますか……」

 

気まずそうに眼をそらす少女。その目はそのまま姉と呼ぶ少女へと向く。

 

「今夜の寝床を探してただけだ。そしたらお前が急に攻撃してきたんだろ」

 

どうやら略奪の意図はないらしい。自分の早とちりであったようだ。

 

「……そうか。それは申し訳ないことをした。が、ここは自分たちの拠点でもある。それに急に乗り込んでこられたら、略奪目的と勘違いしてしまうのも無理ないことと理解してほしい」

「む……むぅ」

 

そうして周囲を見回し、怯える子供たちを見て気まずそうに魔獣化を解除していく少女。

 

「一泊の宿を求めるのなら部屋を用意しよう。詫びといっては何だが、今夜の夕食もご馳走しよう。どうだろうか、これで今回は手打ちとしてもらえないだろうか」

 

目を見合わせる姉妹。意思の疎通はできたようで、魔獣化を解いて子供たちも開放してくれる。

 

「そこまでいうなら、今日は泊めてもらおうか、メリー」

「そうだね、お姉ちゃん。なんだか申し訳ない気もするけど、お言葉に甘えちゃおう」

「……自分の名前はケイロンという。先ほどは申し訳ないことをした。仲間を守るためだと理解してほしい」

 

炎を収めた少女に手を差し出す。

 

「ああ、こっちもついかっとなっちまった。身体は大丈夫か? あたしはローレムってんだ。こっちは妹のメリー」

「よろしくね、ケイロンさん。ケイロンさんだから、けーさんかな?」

 

いきなりあだ名を付けられた。

子供たちともまた違う呼び方に、なんと反応していいのか解らずとりあえず差し出された手を握る。

笑顔を見せてくれる黒髪の妹、メリー。

それなりに気を許してくれたと思ってよいのだろうか。

 

「先ほど寝床を探してと言っていたが、二人は決まった拠点を持っているわけではないのか?」

 

いきなりの質問に驚いた顔をしつつも答えてくれる。

 

「えーっと、なんといいますか……昨日までの寝床はお姉ちゃんが燃やしちゃって……」

「わざとじゃねぇ!」

 

横から槍が入る。

 

「お姉ちゃんはまだ特性が安定しなくて……」

 

気にせず話すあたり、いつもどおりといったところなのだろう。

隣を見れば姉のローレムは機嫌を損ねたのか腕を組んでそっぽを向いているが。

 

「そうか。幸いここには水を操る特性を持ったものもいる。消火か、特性が暴走したときの手助けになるだろう」

「わあやったあ! やったねお姉ちゃん! 今日だけといわずしばらくお世話になっちゃおうよ!」

 

メリーは嬉しそうに飛び跳ねるが、ローレムの方は未だこの状況に警戒は解いていないらしい。

たしかに、数十人は下らない魔族の集団だ。それだけ聞けば油断できない場所だろう。

ほとんどは子供でまだ特性も安定しておらず、戦闘に向く特性や性格もした者も、自分を除けば数人しかいないことを除けば、だが。

それらのことを伝えるべく、ローレムの方へと向き直る。

 

「ここには子供ばかりで、ほとんどは特性はまだ安定していない。戦いはさせられない。それに、ここには戦闘に向く特性を持った者は俺と、あと二人しかいない。さらに言えばその中で一番強いのは俺で、俺は君に負けた。君はここで一番強い。俺たちが君たちにできることは、機嫌を損ねて暴れられないよう従順になることだけだ」

 

一息に言い切る。

ローレムの横で、またメリーが驚いた顔をしている。

 

「けーさんって結構喋るんだね。寡黙な印象だったからビックリしちゃった」

「必要だから話すだけだ。それに、周りは怯えてしまって話せる状況ではない」

 

メリーは周りを見回してから姉を見る。

納得した顔をして「たしかに」と言ってから苦笑する。

 

 

 

それからしばらくの間、姉妹は『孤児院』に滞在した。

ここに来るまでよほどの勇名をはせたようで、彼女達の勧誘や復讐を目論んだ魔族が数多く訪れた。

『孤児院』は好ましく思われておらず、群れる魔族を敵対視する同族や人間から常に狙われる立場にある。

いかに弱小魔族の寄せ集めだとしてもだ。

常々その脅威に晒されている身からすれば、多少来訪者が増えたところで誤差の範囲であった。

むしろ、姉の戦力や妹の治癒力の方がよほどありがたいというものだ。

姉のローレムは炎熱系の特性を有しており、その才能は計り知れないものがある。

それに引っ付いていてあまり目立ってはいないが、妹のメリーの特性は万能細胞という自身のみならずあらゆる生物の欠損した部位すら癒す能力を持っている。

彼女の特性には助けられた。

『孤児院』にいる子供たちは戦闘向きの特性の者が少なく、それによって奪われ、虐げられててきた。

身体に傷が残るものも多く、手足や目を欠損している者もいた。

それを滞在の礼と治してくれたのは、何をしても返しきれない恩となった。

 

「あはは。気にしないでください。私がしたくてしただけですから。それに、何かさせてもらわないと申し訳なくて」

「君たちは強者だ。俺たちは、君らの機嫌を損ねないよう最大限すべきことをしているだけだ。安心して滞在してくれ」

「もー、固いなあけーさんは。それに、お姉ちゃん言ってましたよ。まだ本気をだしていなかったって。本気の戦いになったらここがめちゃくちゃになって無事じゃすまないから負けたことにしたって」

「誤解だ。俺はローレムに敵わなかった。それに、君らに戦闘の意思があったなら最初の攻撃で壊滅的な被害を受けていただろう。反撃の隙すらなく」

 

一切の譲歩も取り付く島すら作らないケイロンの発言に、メリーは苦笑で返す。

解ってくれたと納得し、日常業務に戻ろうとするケイロン。

それを止め、メリーはケイロンに一つ確認する。

 

「だいぶ『孤児院』(ここ)には馴染んできたんですけど、こんなに長居しちゃってよかったんですか? 迷惑になったりしていません?」

「何度も言っているだろう。君たちは得難い戦力や治癒力を持っている。特に、君の治癒力には感謝してもしきれない。ここの子供たちがどれだけ感謝しているか。君たちさえよければ幾らでも滞在してほしいくらいだ」

 

ケイロンの真直ぐな言葉に、メリーは顔を明るくして下を向く。

姉にばかり注目されて今まで特に目立たなかったメリーは、人から注目されることに慣れていない。

姉が怪我させた魔族も気絶しているうちに治してしまうので感謝されたことも少ない。

だからこそ、ケイロンの一切の虚飾がない直接的な言葉に照れてしまう。

 

「けーさん、他にも私にできることがあったら何でも言ってくださいね! お家賃だと思ってこき使ってください!」

「ああ、ありがとう。そういえば、『孤児院』(ここ)のメンツを紹介していなかったな。昼食を作りながら説明しよう。手伝ってくれるか?」

「はいっ! まっかせてください!」

 

手伝ってもらいながら、メンバーの紹介をする。

『孤児院』の頭脳、ダンテ。

拠点造りの天才、ヘカトン。

索敵の名手、テミス。

これにケイロンを加えて、この『孤児院』を運営、防衛している。

他にも作物の成長を何倍にも早める者や服を作る者。それぞれが補い合って生きていると説明された。

その日を境に、お互いしか信じられなかった二人は、本格的に『孤児院』の運営と防衛に関わっていくこととなる。

 

 

 

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