一回以上投稿できるように頑張ります。
メリーから、ローレムと連絡がつかなくなったと知らされた。
定期的に連絡を取っていたのだが、それが繋がらないらしい。
通信端末のバッテリーが切れたか、ローレムが誤って壊してしまったのかと言ってみたが、どうやら違うらしい。
充電はソーラーパネルで充電できるモバイルバッテリーを使用していて、壊してしまった時用に十台は渡していたとのこと。
通信端末についても同様で万が一壊してしまったときは他の端末からメリーの端末に連絡するように言い含めていたらしい。
メリーがそわそわと落ち着きがなく歩き回っている。これでは勉強も手につかないだろう。
姉思いの妹である。
管理局にきてもうすぐ一か月が経つ。
模範的な生活をしていたことから、美波に具申して休みを与えて様子を見に行かせてもいいかもしてれない。
「そんなに心配であれば、会いに行ってくるか? 数日程度であれば休みが取れるよう美波に言ってみよう」
「いいんですか!?」
どうせローレムに連絡がつかなければ仕事どころではないのだ。
であれば早々に心配の種を解消してきてもらった方が効率もいいというものだろう。
「美波に聞いてみよう。少し待っていてくれ」
そう言って事務所を出ようとするが、そのタイミングで美波が入ってくる。
「CATTの魔族の対魔族部隊が壊滅したらしいわ!」
ケイロンの直感が嫌な警鐘を鳴らす。
「けーさん……」
メリーも同様の感覚を抱いたらしく、不安そうにケイロンを見る。
「美波、なぜ対魔族部隊が壊滅したかはわかるか?」
「なんでも総出でとある魔族の討伐にでて相討ちで壊滅したらしいわ。あら、どうかしたの?」
二人は顔を見合わせる。
仮にもCATTにいた対魔族部隊である。
この混沌の時代をその腕一つで生き抜いてきたのだ。その強さは保障されている。
単体でもおつりがくる討伐任務を総出で行って全部と相討ちとは、それほどに強い魔族はケイロンとメリーは一人しか想像できなかった。
「……美波、すまないがどうにかその討伐対象であった魔族の情報は調べられないだろうか?」
「なにかあったの? 調べてみるけど、時間がかかるかも」
「ちょ、ちょーとっきゅーでおねがいします!」
二人のいつになく余裕の無い表情に美波も何かを察したのか早速調べるために部屋を出る。
「けーさん、もしかして……」
「まだ決まったわけじゃない。自分はローレムが倒されるところを想像できない」
「私も、お姉ちゃんが倒されるなんて考えられないです……」
「今日は部屋に戻ってゆっくり休んだ方がいい。テミスにもローレムを探してもらうよう頼んでおく」
「はい……」
メリーは覚束ない足取りで事務所をでて行く。
それを見届けたケイロンは、ローレムが根城にしていたであろう周辺を調査するようテミスに依頼の電話を入れる。
CATTがローレムを狙った理由を考える。
彼女は特記戦力としてCATTからマークされていたのは知っている。
AD兵器ですらその特性の前には役に立たないことも。
だからこそ大人しくしていた彼女をわざわざ狙う理由がわからない。
極秘裏に製造していた新型のAD兵器が完成していたために使用した? ローレム以外でも試すことができるのでは? 失敗した場合のリスクが大きすぎる。
新入りの魔族の腕試し? それこそローレム以外でもいい。当然だが返り討ちにあった場合のリスクが大きい。
ローレムを狙う必要があった? ローレムを討つことで管理局への牽制、メッセージ?
牽制とした場合、管理局が戦力を増強しすぎることへの警告と、自分たちはそれを上回る戦力を持っているという意思表示だろうか。
満を持した戦力で当たっても相討ちという結果になったことにCATTも動揺している?
AD兵器があれば、魔族の対魔族部隊は重要な駒ではない? むしろ邪魔な存在?
ケイロンは無数の可能性を検証して虱潰しにしていく。
そんなとき、突然管理局内に設置されている警報がけたたましい音声を響かせる。
思考中断。
情報が少なすぎて答えが出せない現状、この問題は一旦棚上げして目の前の事象に対応するため動き出す。
警備部門の長であるガロン氏から連絡が入る。
「特観への襲撃。魔族から。規模は極めて多きく、多方向より。テミスに全容の把握を求む。貴様は東を受け持て」
了解して通話を終了する。
テミスに再度連絡し、ローレムの捜索は中断して特観の全周警戒と規模の把握を依頼する。
いつも通り特観にある自室から勤務しているとのことなので身の安全を確保するように言い含める。
メリーにも連絡し、自室から動かないように指示を出す。
東へ向けて移動を開始する。
美波の保護はガロン氏が行っているだろう。魔族共生派の美波は狙われる理由は十分にあり、ガロン氏は離れられないために指示を出して回っているのだろう。
統制を持って管理局警備部門の魔族はそれぞれ配置につこうと移動を開始しているのをケイロンはその特性でもって把握する。
ケイロンの感知できる範囲は精密探知では数百メートルの範囲に限られる。
一般人とテロリストのどちらにも魔族は含まれているため、精密に探知しなければ同士討ちが生起してしまう。
「くっ、数が多い!」
それに敵魔族の戦法は大型の魔族が暴れて回り、その周囲を普通サイズの魔族が守るように攪乱するという単純なもの。
即席のようで粗くはあるが、それでも明確な戦術的意図を感じる。
遠距離からの攻撃もあり、戦闘訓練を受けていない魔族は抵抗しようとしても各個撃破されている。
魔族は、同じ魔族といっても同族意識のようなものはなく、個人主義が過半数を占める。
魔族は目的でもない限り共闘はしない。
今回のテロ側の魔族は特観の襲撃という大きな目的こそ存在するが、それだけで戦術まで取るとは想像できない。すでに特観の襲撃は達成されているのだからあとは好きに暴れまわるだけだからだ。
「テロを仕切っている存在がいる?」
いたとしてもそれがどこにいるのか、どうやって指揮を執っているのかが不明である。
それに、襲撃中の魔族以外の交代要員や後方支援要員は存在しないと思われる。
つまりは。
「襲撃者を無力化すればあとは容易い」
特性による状況把握から、そのままテロリストのみに絞って攻撃を開始する。
明確な抵抗さえ抑えれば特観にいる魔族でも武装解除はできるだろう。
特性で声を抵抗中の魔族にのみ届ける。
「今から襲撃者の無力化を行う。その後の安全化に協力してもらいたい。特観の存在を脅かさないためにも拘束だけでとどめてもらいたい」
テロリストの周囲のみ空気の濃度を低下させる必勝技。
初見ではほぼ躱すことのできないその攻撃に、効果範囲内のテロリストは何をされたのかもわからないままに昏倒する。
それをみて報復に動こうとするが、ケイロンからの手を出すなとの要請を思い出す。
家族や仲間に被害が出ているというのに復讐するなというケイロンの言葉は反発を生むものではあったが、特観に住んで教育を受けている魔族は特観の不利益にならないためというケイロンの言葉に渋々ながらも従った。
特観に住む魔族は人間社会で生きるために協調性というものを学んでいるからだ。
昏倒して魔獣化が解除されたテロリストが続々と拘束されていく。
援護に来た警備部門の魔族へと制圧終了と拘束した魔族の対応を任せて次のポイントへと向かう。
程なくして東側のテロリストは制圧された。
「ガロン氏、東側は制圧完了した。拘束したテロリストへの対応についても後詰で回してくれた警備部門に任せた。次の現場を教えてほしい」
ガロンから次は北、そのまま反時計周りでの援護を言い渡される。
テミスからの報告でも規模は現在襲撃中の魔族ですべてのようでさらに魔族が襲撃してくる気配はないとのことである。
反時計周りでの支援を了承し、さっそく行動を開始するケイロン。
襲撃してきた魔族は数こそ中規模であるが強特性の者は見受けられない。
警備部門の者は寡兵で遅滞戦闘に徹するようにガロンから通達があったのか、多勢に対し攻勢にでることなくじっと援護に来るまで我慢している。
魔族らしからぬその行動に、ガロンの教育と訓練の成果を実感する。
北へと周り、同じようにテロリスト達を制圧していくケイロン。
戦力としては東に展開していた勢力と大差ない程度。
それに強力な特性も特に見受けられない。
それに油断していた、といういことはないだろうが、北側、そして西側の制圧が概ね完了して最後の南側のエリアに移動しようとしていたケイロンに突如正体不明の特性からの攻撃を受ける。
攻撃によって背中の三対六枚の翼のうち三枚が千切れ飛ぶ。
「ぐ、がっ!」
続けざまの攻撃によって左腕の肘から先、右脚の大腿部から先と謎の特性の攻撃によって削られていく。
特性で姿勢制御と回避行動を行いつつ地面に不時着する。
攻撃の照準を絞らせないように物陰に隠れ、攻撃方向を探ろうと試みる。
「テロリストの戦力に目立つものがいないと思えば、遊撃で隠れていたのか」
携帯端末でテミスへとコールを鳴らす。
その間もケイロンが潜んでいるであろう場所にあたりを付けて襲ってきた特性が猛威を振るってくる。
他にも炎や矢のような特性も併せて飛来しており、完全にターゲットとして狙われている。
「連絡がつかない?」
見れば端末の電波が立っておらず、通信施設も襲撃されたと判断する。
管理局の特記戦力であるケイロンを執拗なまでに狙い、通信施設まで制圧している。
かなり入念に準備された計画であると判断する。
「テミスへは警備部門から護衛が動いているはずだが……」
今回の全方位からの襲撃に対してテミスや施設に対する警備を動かしていたとしたら。
特観への前代未聞の規模の襲撃である。
部隊が壊滅したとの情報があったばかりだ、CATTの加勢も期待できないだろう。
どのような不測の事態があったとしても不思議ではない。
美波の警護だけは外してはいないだろうが、美波自身が言えばどうなるか予測できない。
優先順位を決めて安否確認をするべきだろうと判断する。
「まずは美波とガロン氏、テミス。そしてメリーか」
魔族共生のための最重要人物である美波の安全をまず確実に確保し、一緒にいるだろうガロン氏と状況の確認。
管理局重要戦力であるテミス。
そして魔族の有用性を人間社会に周知するための存在であるメリー。
特観に住む魔族の安全確保も優先しなければならない事項ではあるが、三方を制圧した今、戦力は南側に集中されるだろう。
ケイロンがいなければ制圧できないということもないはずだ。
考えている間に簡単な止血を済ませ、ガロンと美波がいるであろう施設へ行くために立ち上がる。
「その前に、この襲撃者達を排除しなければな」
高深度の魔獣化を発動し、特性を発動させる。
魔獣化の深度に合わせて強化された特性でもって襲撃者の概略の位置を把握。
そこへ範囲制圧と攪乱目的の特性で巻き上げた大量の礫を射出する。
あわよくばこれで負傷して撤退するだろう。
片足で蹴りだし、特性で加速する。
同時に地面の砂を巻き上げて簡易の煙幕として狙いをつけさせないようにする。
美波たちがいる管理局の施設に移動し、美波とガロンを探す。
「ケイロン!? どうしたのその怪我!」
「美波か、無事でよかった。ガロン氏はいるか?」
「え、ええ。でも通信が取れなくなってから特性で様子を見て回っているからずっといるわけではないけど」
ガロン氏も美波の重要性は理解しているため外にも数名の護衛を置いているようで、ガロン氏が戻って来るまでであれば最悪時間稼ぎはできると判断して移動しているのだろう。
美波と状況の確認をしていると、ガロン氏が特性で戻ってくる。
「む、貴様その負傷は」
「大事ない。それよりも状況確認をしよう」
ガロン氏がその特性で文字通り跳びまわって集めた情報によれば、テロリストの襲撃は制圧できつつあるとのことだ。
テミスのところへも周って安否確認と情報確認したところ、増援の様子もないとのこと。
「しかし、貴様を負傷させるほどの魔族がいるとなれば話は変わってくるが」
「これほどの襲撃を仕掛けてくる相手だ。引き際くらい弁えているだろう」
恐らく、相手の目的の第一目標は特殊保護観察エリアの魔族による襲撃。
それはこの襲撃を事前に察知できなかった時点ですでに達成されている。
他には魔族管理局の重要人物の殺害、施設の襲撃と破壊が予測できるだろう。
重要人物とは、美波を筆頭にガロンやケイロン、テミスが挙げられるだろうか。
もうひとつあるとすれば、メリーの存在だろう。
メリーの情報まで掴んでいるとすれば、今回の襲撃の背後には人間が関わっていることになるだろう。
例えば、管理局の拡大を良く思わないCATT上層部。
メリーを、管理局を通さず研究したい組織など考えればいくらでも出てくる。
「では後の対処はガロン氏にお願いしよう。自分はメリーの様子を見てこよう」
「ついでに怪我を治してもらいなさい」
「ああ、そのつもりだ。さすがにこれでは不便が勝ちすぎる」
そういう問題ではないんだけど……。と美波が溢すが耳に入っているのかいないのかケイロンはメリーの様子を見るべく動きだす。
高深度の魔獣化状態を維持したままのためその動作は驚くほどに早い。
途轍もない筋力を発揮する高深度魔獣化は、魔族を見ても比べるほどしか至れない極地だろう。
すぐにメリーの部屋へと到着するケイロン。
ケイロンの気配を察したのかすぐに扉が開かれる。
「け、けーさん!? どうしたんですかその怪我!? ちょっと待ってください、すぐに治します!」
「すまない」
メリーが魔獣化して特性でケイロンの治療をはじめる。
周囲の気配を探るが、他に気配を感じない。
メリーによる治療はすぐに終了し、ケイロンの五体は元の姿へと戻る。
「はいっ! しゅーりょーしました!」
「感謝する。護衛の警備部門の者はどうしたんだ?」
「私は大丈夫だからって他のところに回ってもらいました! わたしもお姉ちゃんほどじゃないけど戦えるんです!? 心配しすぎです!」
ふんすと気合を入れるメリー。
ケイロンは手足と翼の調子を確かめた後、メリーの言葉に反応する。
「ああ。君が強いのは承知しているが、人を治す方向にその特性を使ってもらいたい」
「んー、けーさんがいうなら……」
元々戦うことがそこまで好きではないため、メリーは食い下がることはなく納得する。
「美波たちのところへ行こう。被害状況を纏めたい」
帰りにテミスのところにも寄り、閉じこもって動きたがらないテミスを強制的に回収して帰還する。
戻れば仕事が片付いて指示をもらいに来た管理局員が続々と美波たちのところに集まり、被害状況の共有を行って不意の攻撃に備えるのだった。
魔族管理局被害報告。
特殊保護観察エリア、建造物被害多数。
居住魔族への被害、重傷者はメリーにより治療。軽傷者多数。死者、無し。
建物や人への被害こそ襲撃の規模に対して軽微に抑えられたが、魔族のテロリズムという危険性を示された。
これからの魔族に対するイメージに甚大な影響を与えられ、魔族そのもののイメージが地に落ちた。
今回の件は管理局側が諜報を怠り、貶められた形となる。
計画を仕込んだ者は笑いが止まらないだろう。
魔族管理局は、今後の方針に対して大幅な軌道修正を強いられることになるだろう。
===
人気のない建物。
そこに魔族と人間がいた。
「よくやった。だが、第一目的以外は成功しなかったようだが?」
「燻っている魔族をあれだけ集められただけでも十分だろう。管理局の戦力は思ったより厚かった」
「特記戦力か」
「ああ。資料にあったケイロンの制圧力は尋常ではない。通信施設を落としたところで足止めに入らなければ全滅もあり得た」
「それほどか」
「我々も無事ではなかった。それに管理局の索敵と采配も的確、兵隊の練度も高かった。事前情報と違う。一つしか目的が達成できなかった責任はそちらにあると思うが」
「足がつかないように調査するにも限界があってな。まあ最大の目的は達成できたのだ。良しとしよう」
「……兵隊を大分失った。しばらくは戦力拡大に専念せねばならん。金も要る」
「ふむ。用意しよう」
「残った部下も大半が負傷している。しばらくは身動きが取れないだろう」
「お前は無事なようだが?」
「戦力を集めるために海外の魔族を当たる。情報をよこせ」
「生意気な奴だ。……後日取りに来い。用意しておこう」
人間が部屋から出て、外で待機していたCATTの人間の兵隊と合流して去っていく。
それを鋭敏な魔族の五感で感知して、不遜に座っていた魔族、クラウンは全身の痛みに顔を顰める。
「無事、か」
暗がりとクラウンの態度で分からなかったようだが、クラウンの体には巻いていないところがないほどに包帯を巻いていた。
露出しているところも目立たないように処置されている。
全身穴だらけになり、満身創痍の様子である。
一緒に攻撃していたキューピーとモクギョも同様の傷を負っており、そちらは意識こそ取り戻したが動ける状態ではない。
「不意打ちで追い詰めたはずだったが、まさかここまで反撃を受けるとはな」
正直しばらくは動けそうにない。
見栄でなんとかここまで来たが、普通に考えればキューピーたちのように動ける傷ではないのだ。
海外の魔族に当たるとは言ったが、しばらくは治療に専念しなければならないだろう。
「次はもっとうまくやるさ。怪我を治し、戦力を集めなければな」
さらなる拡大を目指して。
「魔族のための国を作るために……」
魔族が虐げられず、魔族らしく生きられる国を作るために。
今はまだ、従順だと思わせておく必要がある。有用だと思わせておかなければならない。