家族が愛しくて仕方がない魔族の話   作:やまてら

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002 家族のための

一年。

 

 

勧誘する魔族や、人間の襲撃を退けつつも静かな日常を過ごして一年。

何事もない生活は突然、変化が訪れた。

今までに類を見ない規模の人間からの襲撃。

多くの人間の兵器が『孤児院』を包囲し、降伏を呼び掛けてくる。

 

「ま、まずいよけーさん。人間の兵隊がいつもの何倍もいるよぉ」

「へっ、あんな奴らあたし達にかかればすぐに蹴散らしてやる! よっし、今から!」

「さっすがお姉ちゃん! 怪我したら私が治すねぇ!」

 

メリーとローレムが率先して対処してくれようとする。

それに、『孤児院』の頭脳たるダンテが待ったをかける。

 

「待ってください。皆で協力すれば今回は撃退できるでしょうが、事態はそんな単純でもありません」

「あぁ? どういう事だ?」

「魔族39人。大きくは無いですが、決して無視もできない勢力です。『孤児院』の戦力としてまずローレムさん。拠点作成にヘカトン、索敵のテミスが挙げられます」

「ん? ケイロンは?」

「ケイロンさんはどうしようもない場合を除いて迎撃には参加していません。故に警戒されている可能性は低いと思われます」

 

『孤児院』の中心メンバーが集まり、今回の対応をを相談する。

 

「恐らく今回の襲撃は何かしら勝算があるのと、『孤児院』(ここ)がこれ以上成長する前に潰しておこうというものでしょう」

「そ、それで……俺たちはどうすれば切り抜けられるんだ?」

 

ヘカトンの不安げな声が響く。周囲を見れば、ほとんどが表情に不安を浮かべていた。

 

「正直、全員で逃げることは難しいと思われます。我々はともかく、非戦闘員はこの包囲は越えられないでしょう」

 

ダンテの言葉に、皆が冷や汗を流す。

 

「な、なんでだよ! みんなで逃げればいいじゃねえか! なにか方法はないのやよダンテ!」

 

なにか方法はないのかとヘカトンはダンテへと詰め寄る。

頭が良く、『孤児院』の頭脳であるダンテであるが、優しすぎる性格が最も皆が生き残る可能性を選ばないようにしている。

 

「俺が囮になろう。皆はヘカトンの特性で地下から逃げろ。道案内はテミス、護衛はローレムとメリーで頼む」

 

死体はあの規模の兵隊の集中砲火を受ければ残らないと言い、子供たちを逃がす準備を始める。

ダンテは下を向いて歯を食いしばる。手を強く握り、何も言えないでいる。

誰かが残って囮になり、その隙に逃げることが最も生存率が高いことがわかっているから。

足止めができるほどの特性を持っているのは、ケイロンかローレムしかできないとわかっているから。

 

「いやまて! お前ひとりにそんなことさせられるわけないだろ! あたしもやる!」

「そうだよお! お姉ちゃんとけーさんがやるなら私も!」

 

ローレムとメリーが声をあげる。

 

「もともとちょっと泊まるだけだったんだ! あたしは今出ていくぞ!」

「待て。そうなれば逃げた後の防衛はどうなる」

「知らねー! そもそもお前ひとりで蹴散らせる数でもないだろ!」

 

口をつぐむケイロン。ローレムの見立てに間違いは無かったようだ。

 

「引き付けた後に逃げるくらいなら問題ないだろう」

「それが二人いたっていいだろ!」

「万が一があるだろう」

「その確率を減らすためにあたしもいくっつってんだ!」

 

だんだんとイライラして魔獣化してしまうローレム。

断固として引く気はないようで、ケイロンはため息を吐く。

 

「わかった。では俺とローレムが陽動。ダンテ達は地下道から逃げ、あとで落ち合う計画でいこう」

 

周りを見回し、反対意見が無いことを確認する。

方針の決定にそれぞれが役割を全うすべく行動を開始する。

 

 

 

人間の兵隊の声明があり、一時間以内に武装解除して出てこなければ攻撃を開始される。

逃げる準備をするには少ないが、最低限の準備をするには十分だ。

思い出の詰まったこの場所は惜しいが、命には代えられない。

『孤児院』の皆との別れを済ませて時間を待つ。

ダンテがいれば、今後は目をつけられるヘマはしないだろう。

ヘカトンがいれば寝床の心配はない。

テミスは寝床に近づく者を警戒してくれる。

メリーがいれば何があっても大丈夫だろう。

 

一から築いた居場所だったが、今は戦争だ。危険と判断された魔族が狙われるのは仕方のないことだろう。

こうして対策をとれる時間があるだけでも感謝しなければならない。

ローレムと最後の確認をしようと待機している部屋へ向かう。

 

「あ、けーさん。お姉ちゃんと私が西でけーさんが東でよかったんだよね?」

 

メリーがいた。予想の斜め上の事態に一瞬思考が止まるが、すぐに回転を再開させる。

 

「メリー。なぜお前がいる」

「お姉ちゃんと離れたくなくて! 大丈夫、迷惑はかけませんから!」

「なら今すぐ皆の後を追って逃げてくれ」

 

声に疲れが混じる。相変わらずこの姉妹は言うとおりに動いてくれないようだ。

 

「ほらほら、お姉ちゃん! けーさんが来たよ!」

 

持ち出しきれなかった食料を口に詰め込んでいるローレム。

どうせ焼かれるのだから咎めはしないが、あまりにも緊張感がないのではないだろうか。

 

「んだよ、まだなんかあんのか?」

「……すまない。こんな役回りを。恐らく、今日を生き延びても俺たちは元の場所には戻れない。それどころか、追撃はより激しさを増すだろう」

「ふんっ。ここに来る前の生活に戻るだけだ、んなこと気にしてんじゃねえ」

「そうですよ! けーさん達と別れるのは寂しいけど、お姉ちゃんがいますから!」

「……ああ。そうか。ありがとう二人とも……」

 

それから打ち合わせを済ませてそれぞれの持ち場へ移動する。

時間まで、あと少しというところまで迫っていた。

ヘカトンの作った拠点。

皆で育て、胃袋を満たした畑。

子供たちと遊んだ広場。

二年前に子供を助けたところから始まり、ここまでになった。

順風満帆だったといえば嘘になる。

苦労の連続だった。本来なら群れることのない魔族をまとめ、助け合った。

助け合うという事を教えるのから苦労した。

……思い出に浸っているうちに、攻撃が開始された。

爆弾に砲撃。まさに雨あられの如くである。

硝煙弾雨と呼ぶにふさわしい中、ケイロンは拠点から出て東へ向かう。

拠点では、爆弾や砲弾が直撃したにしては不自然なほどの爆発が起こる。

ローレムが中で特性を発動し、痕跡も残らない程の破壊を実行したのだ。

その大きすぎる爆発の中、東側で陣取る部隊の一つの中へと降り立って魔獣化と特性を発動する。

背中に生える三対の羽が漆黒から色が抜け落ち白色へ、その色が集まるように額から伸びる一本角が漆黒に変貌し、長さを増していく。

鱗のような装甲が手足を覆いより鋭利になっていく。

眼の黒白が入れ替わり、爬虫類を思わせる虹彩で人間の兵士と兵器を睨みつける。

 

 

 

巻き起こる暴風。

風は石を巻き上げて人間を殴打していく。

人がまるで爆発するように弾ける威力の礫に、人間は戦車や装甲車に逃げ込もうとする。

礫で破壊できなかった装甲車などには空気の断層を利用して中の人間ごと割断する。

風を集めて押しつぶし、それを自分の周囲に展開することで攻撃を逸らす。

 

「な、なんだあの特性の魔族は! こんなものは報告になかったぞ!」

「西でも交戦開始の無線! こちらは報告にあった炎熱系特性です!」

「直ちに応援を要請しろ! だが包囲に最低限の人員は残せ! やつらがどこから逃げるかわからん!」

 

敬礼して下がる兵隊。

特性でそのやり取りを感知し、小隊長らしき兵隊を縦に割断する。

自分に注目を集めるため、少しでも引き付ける時間を長引かせるため。

有能な者を狙い、被害を拡大させるがごとく行動する。

 

「は、早く爆弾を!」

「ま、待て! まだ見方がいる!」

「んなのとっくに全滅してる! 早く射出しろォ!」

 

ほどなくして大量の対魔族爆弾を射出される。

黒いボールのような爆弾からはふさりと触角のようなセンサーが出現する。

それぞれが近くに着弾し、けたたましい警報が流れる。

 

「離れろ! 身を隠せえ!」

 

爆発。

爆弾は連鎖爆発し、ケイロンを巻き込んで激しい爆発を繰り返す。

しばらくして爆発が収まったころ、隠れていた兵士が遮蔽から様子を伺う。

発火点には煙が充満していた。

それが、巻き上がる()に吹かれて晴れる。

 

「うぁあ、ああ……無傷……だと? なんだそれは、どういうことなんだよおい……」

「ひぃ、ひぃあああぁ……」

「か、勝てるのか? どうすればいいんだ……?」

「……狼狽えるなあっ! 繰り返せ! まだ子供だ! 特性の使用にもげんきょあッ」

 

頭に礫が直撃して爆ぜる。

的確な指示は不利にしかならない。人間側の混乱ができるだけ長引くように行動する。

 

「は、早く次弾発射だあ!」

「撃たなくてもこちらから近づいてやる」

「へ、え?」

 

けたたましい警報。

魔族の接近に反応した爆弾が触角のようなセンサーで反応する。

 

「ひ、逃げ」

 

爆発。

次の瞬間には別の場所で暴れまわる。

一か所に留まらないように。敵を混乱させるように。

消耗を少なくするため、敵の兵器も利用する。

 

 

 

 

 

「ぐわあああああ!」

「撃て撃て! 休めるな撃てえええ!」

 

魔獣化して特性を発動するローレム。まだ子供とはいえその特性の操作能力は常軌を逸している。

小銃弾程度では本人に到達する前に蒸発する。

大砲の弾丸でさえ当たるころには溶けており、本人には何の痛痒も与えられない。

手のひらから熱波が放射され、直線状を焼き尽くす。

戦車を持ち上げ、投げつける。

天性の戦闘勘でもって、人間の部隊を圧倒する。

 

「おらおらおらおらあ!」

 

小細工もなく蹂躙していくローレム。

対魔族爆弾も通用せず、なす術もなく破壊の限りを尽くされる人間部隊。

 

「そんなもんかおらあ! あたしたちを攻撃したんだ! 当然覚悟はできてんだろーがよお!」

 

その発熱によって触れるものを消し炭に変えながら蹂躙する。

爆発の衝撃波でさえ、その発熱の前には効果を発揮できないでいる。

ちなみにメリーはローレムが存分に暴れられるよう、何かあったら助けに行けるところで隠れて様子を伺っている。

 

「ち、やっぱあの野郎、全然本気出してなかったじゃねえか」

「ほんとだねえ、やっぱけーさんはすっごいね!」

 

反対側の戦場で見えるまで高く巻き起こる竜巻を見る。

メリーは特性で隠れながらローレムの近くまで移動する。

面白くなさそうに鼻をならし、メリーに再度隠れているように指示をしてから攻撃にもどる。

 

「新型ガスを用意しろ! 研究所から渡された試作品だ!」

「で、ですがあれは……」

「構わん! 対魔族爆弾も効果が無いんだ! 使えるものは何でも使え!」

 

準備するべく背中を見せる部下を見送り、魔族への対策を考える。

今回現れた魔族は二体。

炎熱系特性を有した、確認済みの魔族。

もう一体は未確認の特性を行使する魔族。

確認されていた他の魔族は逃げたか、良く見積もって先ほどの爆発に巻き込まれただろう。

特性も満足に使えない子供か、確認済みの戦力は対策を考えてある。

予想外の戦力や予想以上の特性を発揮する魔族がいたが、魔族の集団を散らす作戦としては一応の成功を収めている。

まだ許容内といえる被害のうちにやることをやって撤退すべきと判断する。

 

「おい! 新型ガスを散布した後に撤退すべく準備に入れ! 作戦は成功したものとし、成果の確認は特記戦力がいなくなってから行う!」

「は、では監視班を配置して撤退を行います。他方面部隊にも通達を行います」

 

入れ違いで先ほど新型ガスの指示を出した部下が戻ってくる。

 

「各方面部隊への通達完了致しました! いつでも散布に入れます!」

「うむ、では直ちに散布開始。全方面同時にだ。ガスで閉じ込めている間に撤退せよ」

 

敬礼し、再び背中を見せる部下。

数分後ガスの散布が開始され、慌ただしく逃げるように撤退が開始される。

魔族というのは群れず単独で戦うものが多い。

縦深防御に徹して持久戦に持ち込み、逃がさなければ十中八九勝てる相手である。

が、今回は拠点攻撃用に部隊を広範囲に配置している。討伐のための配置をしているわけではない。

それに、計算以上や計算外の戦力による抵抗があったとはいえ作戦自体は成功している。

躍起になって被害を出しながら討伐する必要はない。

今回は特記戦力である魔族のデータが取れただけで良しとすべきだろう。

これ以上被害を拡大させないため、速やかな撤退作業にはいる。

 

「あぁ? 人間どもがいねぇ……」

 

ガスを放射熱で排除して兵隊を倒そうとガスの壁を抜けた先では、人間は遠く撤退しているところだった。

追うか思案するローレム。立ち止まっていると追ってきたメリーから声がかけられる。

 

「やったねお姉ちゃん! 人間たちも私たちに恐れをなして逃げていったんだよ!」

「……そうだな。んじゃあ行くか。もう戻れないし、一緒にはいられないからな」

「……そうだね。あーあ、楽しかったけどもう一緒にはいられないのかあ」

「生きてたらまた会えるさ」

「そっか……。そうだよね! それに、私にはお姉ちゃんさえいればいいし!」

「そうか? メリーはケイロンの方が良かったんじゃねえのか?」

「っんもう! お姉ちゃん何言ってんの!?」

 

しばらくの休憩ののち、二人は新たな寝床を求めて歩き出した。人間の監視を多数引き付けながら。

 

 

 

 

 

竜巻により発生したガスを排除する。

空気の振動で人間の兵隊が撤退していくことを感じ取る。

同時に、監視が何組も配置されたことをその特性で感知する。

魔獣化を解除し、跡形もない『孤児院』跡を見る。

 

自分たちで、必死に築いた群れ。

親に見捨てられ。

親が死に。

誰も助けてくれず。

助ける余裕もなく、見ているだけしかなかった。

そんな環境と自分に嫌気がさし、同じような境遇の子供を助けることから始まった。

助け助け合い、必死に毎日を生きた。

気付けば生きるのに苦労しないだけの仲間ができていた。

たった数年であったが、母が他界して以来最も幸せな日々だった。

静かな毎日がずっと続くと思っていた。

一緒にはいられない。仲間のために。

 

逡巡を終え、施設跡から目を戻す。

しばらくその場で休憩し、監視に自分をつぶさに観察させる。

人間部隊の完全撤退確認後、監視がついてきていることを確認しつつゆっくりと移動を開始する。

少しでも自分に集中させ、他に目が向かないように。

 

 

 

 

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