家族が愛しくて仕方がない魔族の話   作:やまてら

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よろしくお願いします。

前回に引き続き原作キャラがちらほら出てきました。


004 人間社会二年目の

 

人間社会にきてまずはやったことは身体検査だった。

身長体重血液はもちろんのこと特性から性格心理までとことん調べられた。

二週間ほどかけて検査を終え、人間に対して危険なウイルスや細菌を保持していないことを確認された。

 

「鬼病?」

「ええ。魔族の体内で変異したウイルス全般を鬼病と呼称しているのだけど、人間に感染すると治療法は存在しないから……」

 

そんな危険なウイルスの保菌者かもしれない魔族のところに頻繁に出入りしていたと考えると、この美波という女の評価はまた変わってくる。

 

「感染したら治療法もないところに、頻繁に出入りしていたのか……」

「ま、まあそういう見方もできるけど! 人間に感染することは滅多にないから!」

「……まあいい。危険を押して来てくれなければ自分が今ここにいることもなかっただろうからな」

「そ、そうでしょうとも」

「だが、自分の保護責任者になった以上確率は低いとはいえ危険な場所に行くことは控えてほしい」

「え、ええ。善処するわ」

 

言っても聞きそうにないが、言わなければそもそも耳にすら入らないのだから言っておかなければならないだろう。

実を結ぶことを願うばかりだ。

 

「それで、自分はこれからどうすれば?」

「そうね、まずは人間社会を理解してもらうことからかしら。それから勉強と社会貢献と」

 

次々と上がる課題。

やはりこの小荒井美波という女性は優秀なようで、課題と展望が次々と上がる。

自分にできることは、目の前のことを一つ一つ消化していくことだろう。

 

 

 

 

 

自惚れるわけではないが、存外自分も優秀だったようだ。

保護から二年でおよその義務教育で学ぶ学習は終え、今は大学に通っている。

そこでは研究協力という形で、魔獣化や特性の行使を行っている。

さらには特殊保護観察エリアでの生活を行い、生活モデルの立案や改善点の抽出。

強力な特性からCATTの対魔戦術部隊への出向も行っている。

CATTに魔族管理局員として協力することで、魔族管理局の発言権が大きくなる。

なかなかに充実した日々を送っていた。

そうしているうちに、人魔紛争が終結した。

といっても大々的な、組織だった抵抗がなくなったというだけだが。

さらには紛争終結を大々的に宣伝した。

元々は種族差だけで起こった紛争だ。何故紛争が起こったのかも理解している魔族は少ないだろう。

人間も魔族という種族を排斥し絶滅させるよりも、取り込んだ方が役に立つと判断したのだろう。

数も減り、魔族を無力化する兵器の開発にも成功したのだ。

もうその絶対的な特性や身体能力は脅威ではあるが、怯える対象ではなくなったということだ。

争うことに疲れた人々は戸惑いながらも関係構築に向かっていくだろう。

 

 

 

そのために、すべきことは何か。

人間社会に対し魔族は危険な存在ではないと、従順な存在であると教えることだろう。

今日はCATTへ出向し、降伏勧告に従わない魔族の捕獲が命じられた。

 

「集まったか」

「あー? なんだ? 今日は新顔か?」

 

集合場所へといくと、そこには人間と魔族が一人ずつ待機していた。

 

「すまない。時間に遅れたようだ」

「いや、まだ時間前だ。問題ない。そろったようなので少し早いが今回のターゲットを説明する」

「いよう新顔! お前が噂の魔族管理局からの助っ人か?」

「噂かどうかは知らないが、魔族管理局から出向してきたケイロンという。本日はよろしく頼む」

「ああ、こちらこそ。俺はCATTのドレイクだ」

 

握手を交わす。

 

「今回のターゲットだが、廃墟を拠点としているのを確認している。特性は火炎の放射だ」

 

魔族の情報が次々と説明されていく。

さすがの調査力で、相手の情報はほぼ丸裸といっていい状況だ。

 

「んだよシケた特性だな。そんなん俺だけいりゃあ十分なんじゃねえか?」

 

よほど強さに自信があるのだろう、一人で十分と豪語するドレイク。

 

「ああ、仮にも対魔戦術部隊だ。並の魔族では相手にならない強さなのは容易に判断できる。だが、事はそう単純ではないだろう」

「そうだ。ターゲットは一人だが、その仲間がいるだろう」

「それを含めても俺一人で十分だってんだよ」

「であるならば人数がいればより楽に対処できるということだ。わざわざ一人で戦う必要もないだろう」

 

ケッ、と悪態をついてそっぽを向くドレイク。

人間の職員はその状況をみるが、再び状況と作戦の説明に戻る。

 

「それでは、編成を説明する。戦闘はお前たち二人だが、後方支援に軍の協力がある。保護には彼らの手も使っていい。まずADガス散布を行い、その後突入。一人はターゲット、一人は取り巻きの魔族の安全化を行ってもらいたい」

 

それからしばらく細かい作戦の打ち合わせが行われ、二人は作戦地点へ向かって部隊が出発するまでの間準備を整える。

 

 

 

 

作戦地点。

作戦班は総員配置につき、作戦開始を待っていた。

 

「五分前、総員配置完了。さすが人間は優秀だな」

「そうだな。几帳面で同調性があって数が多い。兵隊なんてめちゃくちゃ人数がいるのに一個の生き物みたいに動きやがるからな。持久戦なんてされたらまず勝てねえ」

「それに目的のため、仲間のためなら自分の命を差し出せる民族性。魔族が勝てないわけだ」

「ちげえねえ」

 

ドレイクは話してみれば存外話の出来る男であった。

話すのが上手く、会話が得意ではないケイロンともそれなりに話すことができていた。

 

「さあて、そろそろ時間だ。俺がターゲット、ケイロンが取り巻きでいいんだな?」

「ああ、問題ない。特性的に見てそれが最も効率的だ」

 

話している間に作戦が開始され、人間の部隊からADガスが投射される。

 

「おっ、おっぱじまったぜ」

 

白いガスが廃墟周辺を覆い尽くし、それでもADガスの散布は止まずばらまかれる。

魔族への恐怖が、トラウマが過剰なまでのADガス散布に繋がっているのだろうが、些か過剰に過ぎるとの感想をケイロンは抱く。

 

「魔族なんて特性がなきゃあただの有象無象だからな。魔族相手に何するにしても、まずは特性と魔獣化を封じたいのさ」

「そうか」

「ところでだがよ、人間に魔族が捕まったらどうされるか知ってるか?」

「捕まる? 保護ではないのか?」

「はっ、んな耳障りの良い他所向けの言葉を本当に信じてんのか?」

 

魔族の大まかな行き先をとしては研究施設、特観、留置所があると説明される。あと非公式なところでは実験施設があると。

 

「最初の三つはまだいい。研究施設も協力して大人しく従っていれば人間社会での生活も可能であるし、特観なんて今までの生活に比べりゃあ天国みたいなもんだ。留置所もやり方次第でなんとでもなる」

 

ドレイクはADガスが収まるのを待ちながら話を続ける。

 

「だが実験施設だけは駄目だ。あそこに行って帰ってきたやつを俺は見たことねえ。さて、収まったし行くぜ」

 

ドレイクは特性である超深度の魔獣化を行い、蛇のような体躯を唸らせてターゲットが拠点としている廃墟へ向けて飛翔していく。

それを見送ったケイロンは自身も魔獣化の深度を上げ、特性を発動させる。

集中し、微細な空気の振動も感知して広範囲の把握に努める。

 

「ふむ。ターゲット周辺に固まっているか。後詰めとして退路を塞ぐ程度で足りそうだな」

 

万が一の備えとして警戒を怠らず、特性による感知を続けるケイロン。

 

 

 

ほどなくしてドレイクがターゲットグループとその周辺に住んでいた魔族の安全化を終了する。

ケイロンの手は必要ないとばかりに張りきったドレイクの働きによるところが大きいだろうが、ADガスの効果を改めて目の当たりにする。

人間部隊が突入を開始して老若男女問わず魔族を捕らえていく人間部隊。

 

「いようケイロン。今回はお前の出番は無かったみたいだな」

 

ドレイクが戻ってきて魔獣化を解除する。

 

「ああ。ドレイクが優秀な証拠だな」

「なんだよケイロン! お前わかるやつじゃねえか! どうだ、この後一杯!」

「そうだな。付き合わせてもらおう」

 

その後、つつがなくターゲットのグループは拘束・安全化されて後送された。

ドレイクとケイロンはそれを見届けてから帰還し、CATTで報告をして施設内で割り当てられているドレイクの私室へと来ていた。

 

「いやあケイロン! お前意外と話の分かるヤツだったんだな! ガハハハハハ」

「ドレイクも、本能で生きていると思ったら存外に考えている」

「んだそれ、褒めてんのか!? ガハハハハハ」

 

両者ともにアルコールが入って饒舌になる。

 

「ところで、今回のグループはどこへいくのか知っているか?」

「さあてな。大体が研究施設を経由して特観か留置所だろうな。珍しかったり便利な特性があったりしたら実験施設かもな」

 

まあ魔族は同族意識なんかありゃあしねえんだ。気にすることはねえさと言って酒を飲むドレイク。

よほど気分がいいのか酒を飲む手が休まる様子がない。

 

「ところでよ、ケイロン。お前さんはなんで魔族管理局預かりなんだ? いや、そもそもなんで人間に捕まった?」

「捕まったというよりも、ただ最初に会ったのが魔族管理局の人間だったというだけさ。単に運が良かっただけだ」

「ほーん。じゃあその人間と会う前は何をしてたんだ?」

「独り者の魔族の例に漏れず根無し草の旅生活をしていた。一か所に留まっている魔族一人など格好の獲物だからな」

「ガハハ、ちげえねえ。んじゃあ監視(・・)がついたのはその前か?」

「……ああ。根無し草になる以前は魔族のグループにいたんだが、そこが襲われてな。そこで争ってから監視がつくようになった」

 

尋問じみてきた会話にケイロンは警戒心を表に出さないまま気を引き締める。

 

「そのグループはどうなったんだ?」

全滅(・・)さ。俺を含めて三人は生き残ったが、それ以外は死体も残らなかった(・・・・・・・・・)

「……そうか。そりゃあ悪いことを聞いちまったな。すまなかった! 今度CATT(ここ)の他の班のやつらとも飲もうぜ! 何癖もあるやつらだが意外とおもしれえんだこれが! 特にナイトメアってやつなんかこの前よ」

 

ドレイクの話は続く。

ケイロンへの尋問は終わったのか、仕切り直すためなのかこれ以降探るような会話は無くなった。

 

 

 

 

 

後日、魔族管理局にて小荒井美波へと先日あったCATTへの出向の報告を行うケイロン。

 

「ご苦労様、ケイロン。CATTでの仕事はどうだった?」

「ああ。特に何ということもなかった。というよりも、自分が出張るようなことはなかったよ」

「そう、無事で何よりだわ。ゆっくり休んでちょうだい」

「感謝する。ところで美波、相談があるのだが」

「珍しいわね、何?」

 

この手のかからない魔族からの相談など本当に珍しい。

いままで相談など一度もなかったというのに。

 

「自分にも魔族保護の活動をさせてもらえないだろうか」

 

魔族保護活動。

人魔紛争が終結したとはいえ、未だ人間側に保護を求めていない魔族は多い。

それらは魔族同士で固まって人間への抵抗活動を続けているか、逃げ続けているか。

人間の活動で魔族を一か所に集め、魔族の自治区を作らせようという動きもあるがそれもまだ本格始動していない。

特観へ保護するにしても自治区へこちら側(・・・・)のスパイとして潜り込ませるにしても、まずはケイロンの方から接触して理解を求めなければならないだろう。

そのための活動の一環として、魔族保護活動を買って出たのだ。

 

「それは、私の一存では許可できないわね……。いいわ、取り合ってみるわね」

「面倒ごとを押し付けてすまない。よろしくたのむ」

「ええ、まだまだ魔族への目は冷たいものがあるものね。うまくやって見せるわ」

 

改めて、話の分かる保護責任者を得たと感謝を深くするケイロン。

これ以上理解のある人間にはもう出会えないだろう。

自分が今後さらに動きやすくするためにより一層美波の身辺に気を遣い、自分が役に立つ存在であると示し続けなければならないと気を新たにする。

 

 

 

 

 

「それで、どうだった?」

「どうだったってなんだ? 面しれえやつだったぜ」

「そうではない。何か裏がありそうだったのか?」

 

ケイロンが帰ってからドレイクは再び呼び出されていた。

 

「さあなあ。ちょっとしか喋ってねえんだ、わかるわけないだろ」

「何のために密命を与えたと思っているんだ……」

「ただまあ、一つだけわかったことがあるぜ」

「ほう。それは?」

「うまく言えねえが、あれは手を出しちゃあ駄目だ」

「どういうことだ?」

 

ドレイク自身直感として感じ取っただけで実感として理解しているわけではないため、上手く言語化できないでいる。

 

「降りかかる火の粉は振り払うし、それができるだけの力を持ってる余裕があったって言えばいいのか?」

「具体的に言え」

「……あいつは全く底を見せてねえ。下手なちょっかいを出す気にならねえくらいには未知数な何かを持ってる」

「……考慮しよう。下がっていい」

「あいつになんかするってんなら、俺は外してくれ。少なくともその辺の魔族相手にするよりはやべえ相手だ」

 

退出するドレイク。

少なくともCATTの古株と言われる程度には生き残っている男がそう言うのだからそれほどなのだろう。

魔族は見た目だけでは特性の強度も魔獣化の深度もわからない。

実際に見た者の直感を信じるのが正しいだろう。

とりあえずの方針としてCATT幹部はケイロンへの監視と情報収集を継続するように手配した。

 

「『孤児院』ね。優秀な魔族ほど危険だからな。弱みを握って動かしやすくするに限る」

 

幹部は軍部が調べ上げたケイロンの過去資料を机に投げ置き、次の案件に思考をシフトさせていく。

 

 

 

 

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