家族が愛しくて仕方がない魔族の話   作:やまてら

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お待たせしました。


なんかまぞはは完結しそうな雰囲気ですね。
大団円のハッピーエンドは大好物なのでいいんですが。
できればゴスペルの成長した話とか見たかったりもしますけど。


006 リゼットの

 

リゼットを保護した翌日。

魔族の身体は頑丈で、一日寝れば大概の不調は回復する。

スーツに身を包んで出勤する。

 

「おはよう。三日くらい代休申請だそうと思ったけど出勤しちゃったのね」

「おはよう美波。休んでもやることもないからな」

「それを探すのもいいと思うんだけれど……まあいいいわ」

 

ケイロンが仕事バカなのはすでに周知である。

美波はガロンと並び立って歩いてきた。

 

「ところで、今からリゼットちゃんに面会に行こうと思うんだけれど、一緒にどうかしら」

「ああ。それで、リゼットの食事の件だが」

「昨日、午後から精密検査をしたんだけどね、消化器官に胃がない事がわかった。固形物を消化できないみたい」

「そうか」

「本当に血しか受け付けないのかはまだ調査中だけどね。昨日はとりあえず栄養剤を飲んでもらったけど」

 

血よりも容易に入手できる物で栄養摂取できるならそれに越したことはないだろう。

そういう調査は人間側に一日の長がある。

どうしても魔族は、そこらへんを感覚で解決してしまう節がある。それはケイロンも例外ではかった。

 

「ガロンもついてきてくれるみたいだから、私の護衛は盤石ね」

「ガロン氏がいれば俺の出番はないだろうが、務めさせてもらおう」

 

三人は特殊保護観察エリアにあるE棟へと移動する。

その中の一室に昨日保護された少女、リゼットが軟禁されていた。

まだ完全に検査も終わっておらずどのような危険があるかわからないという判断から、魔族領域から保護された魔族は検査終了まではE棟において軟禁ということになっていた。

 

「それにしても小さい子供でも軟禁しなきゃならないなんてひどいわよね」

「鬼病の危険性はどうしても否めないからな。最初は仕方がないだろう」

 

人間社会に受け入れられるための儀式のようなものだ、と納得させる。

美波自身も仕方のないものだとは理解しているが、その優しい気性がどうにも受け入れることに抵抗を生んでいるのだろう。

 

 

 

「やっほー、リゼットちゃん! 昨日ぶりね調子はどうかしら?」

 

リゼットのいる部屋の扉を開けながら挨拶をする美波。

部屋の中ではいきなりの来訪を予想していなかったのか、手を魔獣化させて壁に落書きしているリゼットがいた。

 

「……何をしているのかしら?」

「はっ! リゼットピンチ!」

「悪いことをしている自覚はあるのね?」

「……ごめんなさい」

 

素直に謝るリゼット。

 

「んー、まあ素直に謝ったから今回は許してあげるけど、もうやっちゃだめよ」

「うん! トイレに石鹸流すだけにする!」

「聞き捨てならないわね…」

「ボケツをほった…」

 

リゼットはしっかりと怒られた。

 

「美波、そろそろ本題を」

「あらやだ、忘れてたわ」

 

ケイロンが話を戻すよう進言する。

 

「それで、昨日渡したご飯はお口に合ったかしら?」

「んー、不思議な味だった」

「お腹はいっぱいになった?」

「すぐトイレ行きたくなっていっぱいにならなかった。お腹すいた……」

 

しょぼくれてお腹を押さえるリゼット。

どうやら栄養剤ではリゼットの食料にはならないようだ。

明確に食料が血であると判明しているが、人間的にはやはりそれは最終手段にしておきたいのだろう。

他にも何か代用できそうなものを考えているようだ。

 

「……仕方ないわね。それじゃあ今日は私の血を」

「美波。君は何を考えているんだ」

 

ナチュラルに自分のスーツの袖を捲り上げて腕を差し出そうとする美波を止める。

 

「代用が無いかの模索は続けるけど、リゼットちゃんを空腹のままにはしておけないでしょう?」

「それはそうだが君が血を提供するのはやめろ。鬼病の危険性もあるといっただろう」

「そんなこと言ったって私には血をあげるくらいしかできないんだから……」

「何を言っている。君が魔族にとってどれだけ重要で貴重な人材か理解しているのか? 君がいなければ救われた魔族と今後救うであろう魔族にも影響が出る。もっと自分を大切にしてほしい。 ガロン氏も、貴方も付き合いが長いならこの無鉄砲なところも諫めてほしい」

「むう……」

 

いつにないケイロンの剣幕に美波もガロンも何も言えないでいる。

いまいち人間側で魔族保護派である美波の重要性を理解していない二人に説く。

 

「血であれば同じ魔族で、実績もある自分が提供する。くれぐれも今後は軽率な行動は控えてほしい」

「……ごめんなさい。でも、ケイロンだって代わりがいるわけじゃないのよ?」

「何を言う。私こそ代わりなどいくらでもいるだろう」

 

多少優秀で便利な特性を持っている程度。

人魔紛争を生き残った魔族であれば、優劣はあれど同じような適性を持っている魔族は吐いて捨てるほどいる。

人数を集めれば代替などすぐ埋められるとはケイロンの言である。

それは事実ではあるのだろう。

人間側で魔族のために身を粉にできる人材が百人は必要になるのだろうが。

 

「リゼット。数日すれば血液の申請も通るだろう。それまでは自分の血で我慢してほしい」

「えっと……リゼット、けいろんさんの血を吸ってもいいの?」

「ああ。できれば空腹を埋める程度に留めてはほしいが」

 

そう言いながらスーツの袖を捲りながら腕を差し出す。

それにリゼットは口を大きく開けて噛みつく。

 

「ちらっと見えたけどすごい歯ね……」

 

ちうちうと吸われる感覚に若干の寒気を感じながらじっと耐える。

数分それは続き、不意に終わる。

 

「ぷはっ、ごちそうさま。今日はこれで我慢する」

 

一日分の血を吸ったのか、満足そうにお腹をさするリゼット。

食事を一日一度しか与えられないことに申し訳なく思いながら、自分の感覚を確かめるケイロン。

子供だからだろうか、一日分吸われたといってもそこまで負担になるようなものではなかった。

 

「それじゃあリゼットちゃん、今日も検査に行きましょうか。あ、血を飲んだのは内緒ね」

 

雑談をしながら四人連れ立って、リゼットの検査をする施設まで移動する。

 

「あ、そういえば。ケイロンってまだ管理局でどこ所属とか決まってなかったわよね?」

「そういえばそうだな。今は美波付きで人間社会の学習と魔族保護活動、大学の研究施設で実験協力くらいか」

「ええ。それで、ガロンも管理局所属なんだけど所属がふわふわしててね? でも今度、魔族の特色を活かした警備部門を新設することになって、あなたもそこに所属してもらおうと思うのよ」

 

ガロン氏がジロリと目だけでケイロンを見る。

 

「ガロンには警備部門の指導官をしてもらうつもりなんだけど、ケイロンは……」

「自分は所属するだけにしてほしい。ある程度自由に動ける立場でいたい」

 

武力や適性については管理局での数年で申し分ないことは証明されている。

その汎用な適正から自分のところに引き込みたいと狙っている所は多かったのだが、美波の紐付きということから他からの手はまだ出されていない。

美波はそれを囲い込むことで完全に絶とうと画策しているのだった。

ケイロンはそれを正確に読み取り、特に抵抗することなく受け入れる。

 

「おっけー、そんなところね。いつでも指導官のポストにはつけるようにしておくから昇進したくなったら言って」

「了解した」

 

再び他愛のない雑談に戻り、施設に到着する。

 

 

 

 

 

それからレントゲンをはじめとした検査を昨日に引き続き実施される。

本日は問診や面接といった事も行われるため、話しやすい配慮ということで魔族の医療担当であるベロニカも来ていた。

 

「こんにちは~。リゼットちゃんの様子はどないかいの?」

「大人しいいい子よ。特性が暴走しそうな兆候も今のところ見られないわ」

「そら良かった。まあケイロン君の報告書から血が食料ってことは判明してるけど、大人しくて危険性が無かったら処分されることはないじゃろ」

「処分て……。それは良かったわ。あと一刻も早く血液の確保をお願い」

「そら申請出しとるけど、あと二日はかかるで。それまでは、」

 

ちらりと美波とケイロンを見る。

 

「命削るような無茶は控えてほしいもんやね。なあ、ケイロン君」

「全くだ。美波には強く言い含めておいてほしい。自分の価値を理解していないようなのでな」

 

ベロニカは呆れるような溜息を吐いた後、ケイロンに向き直って続ける。

 

「あんな、うちはケイロン君にも言っとるんよ? 後で点滴したるからうちんとこきんさいよ」

「自分は問題ないが?」

「あんた本気で言っとるんか? ……本気で言っとるっぽいな。嚙み跡ばればれじゃ、あんたが血を飲ましとるんやろ?」

 

服で隠せているはずの傷を正確に見破ってくるベロニカ。

さすが魔族でありながら医療に携わっているだけある。

教育が行き渡っていない魔族であるにも関わらず人間社会に馴染み、剰え医療も修めている。

よほど優秀でなければできない。

ケイロンはベロニカに対する評価をさらに上方修正する。

 

「まあなにはともあれ、点滴くらい打っとけば明日も血を分けたれるじゃろ。血液パックが来るまでは辛抱しんさいや」

 

たいした洞察力である。

それが特性由来でないことはわかっているので、医療の現場に携わってきたことで得られたものなのだろう。

ケイロンは大人しく点滴を受けることを決める。

 

 

 

 

 

リゼットの負担にならないよう検査は午前中で切り上げてE棟へ送り届ける。

 

「それじゃあまた明日来るわね。ケイロンは?」

「自分はもう少し残ろう。人間社会の一般常識も教えておかねばならないのでな」

「そう、よろしくね。警備部門の話は詳しく決まったらまた教えるわ。それじゃあね」

「ああ。自分にできることがあれば言ってくれ」

 

二人は午後から予定を熟すために管理局へと戻っていく。

ケイロンは二人を見送った後リゼットへと向き直る。

 

「それでは始めようか」

「へ?」

「まずは何から教えようか。文字か一般常識か。それとも悪戯には必罰が約束されているという教育方針か」

 

いつもの表情から何も変わらぬというのに溢れ出る威圧感。

リゼットはその雰囲気に身を震わせながら壁際にまで退がる。

 

「ご、ごめんなさい…」

「……ふむ。そういえばそれが駄目だと教えてはいなかったな。今回は大目に見よう」

「ふえ、リゼットたすかった?」

「ああ。教えていなかったこちらの落ち度でもあるからな。だが、次に悪戯を見つけたときは、わかっているな?」

 

全力で首を上下に動かすリゼット。

子供に対して強く当たりすぎかと思うこともなくはないが、特殊保護観察魔族という立場になった以上は人間側に不利になりそうな材料を与えることはできない。

人間とは、どのような事柄でも難癖付けて避難してくる生き物だからだ。

しかも数が多い。

もちろんそれだけではないが、美波のように理解を示してくれる人間など極少数なのだ。

リゼットにはそういうことも含め、人間社会で生きるためのあれこれを仕込んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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