家族が愛しくて仕方がない魔族の話   作:やまてら

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お待たせしました。
牛歩ではありますが投げ出したりはしないんでこれからもよろしくお願いします。


007 アリスとの

 

 

それはある日、突然のことであった。

ケイロンはその日も保護活動を行うために魔族領域で行動していた。

夜半。

明かりもなく静かな魔族領域で爆発音が唐突に響き渡った。

それが人間の兵器によるものなのか特性によるものなのかを調査するため、ケイロンは特性を爆発音があった方向へと指向性を持たせる。

 

「………戦闘か?」

 

注意深く特性での感知を継続しながら接近を図り、その全容を捕らえる。

一人の魔族に対して十人を超える魔族が襲撃をかけている。

その一人は荷物を守っているのか荷物を守るように立ち回っており、逃げる様子もない。

数人がすでに地面へと沈んでおり、特に外傷は見受けられない。

観察するうちにやはり多勢に無勢なのか徐々に劣勢になっていくのを見て、ケイロンは救助することを決める。

 

魔獣化の深度を上げて特性を発動するための溜めに入る。

ケイロンの特性は”風操作”である。

隠密性に優れていて汎用性が効く半面、物理的な効果を与えるためには相当に強度を上げなければならない。

そのため、似たような”風操作”系の特性を持っている魔族でもそれを持て余すことは多い。

ケイロンはそんな使い道がないとされている特性を、天才的な魔獣化の深度とセンスをもって物理的効果が与えられるまで引き出している。

制圧を行うには十分なまでに魔獣化したケイロンはそのまま特性を発動し、精密な操作で範囲と威力を調整しながら実行する。

範囲を、襲っている魔族の頭部周辺のみに限定して空気を薄くする。

急に薄まった空気によって、高山病のような症状を発現して意識を手放していく。

意識を手放したのを特性で確認したケイロンは、ただ一人何が起こったのかわからず立っている魔族の前へ出る。

 

「困っているようだったので助太刀させてもらった」

「おあ、お、おう。これをあんたが? 一人か?」

「そうだ。もしかしてこいつらは知り合いだったか?」

「あー、いや。こいつらはあたしの荷物を奪おうとした奴らだったんだが、殺したのか?」

 

自分の荷物を奪おうとしたのに安否の心配をする魔族。

眼帯のようなもので目を覆っていてやたらと凶暴な角をした魔族だが、その物々しい見た目に反して優しさを持ち合わせているらしい。

 

「いや、意識を奪っただけだ。こいつらも保護対象なのでな」

「は? 保護対象?」

「申し遅れた。自分はケイロン。魔族管理局において魔族保護活動を行っている」

「ああ、お前が。ウチはアリス。人間と魔族相手に商売してる。あんたの噂はちらほらと聞くぜ」

「商売か」

「ああ。紛争は終わったがお互いまだギスギスしてる。そこにウチだ。お互いが欲しがるもんをお互いのとこで安く仕入れて高くさばく!」

 

自分が魔族であり飛べることや特性を最大限生かした、身一つからできる商売。

魔族からは角や鱗、脱皮殻などの魔族由来の物質。

人間からは食料に衣類。人間側に行けば当たり前のように溢れるそれら。

両者の間を行き来して補い合う。

それなりに金の匂いに敏感な者が一定数このような仕事をしている。

アリスもその一人ということだろう。

 

「奪われかけていたようだが?」

「ああ。何とか商売にしようとしたんだが全然話が通じなくてな。よっぽど切羽詰まってたのかね」

「自分の保護活動がまだまだ行き渡っていないということか。こいつらが目覚めたら管理局で保護するよう努めよう」

「ああ、そうしてくれ。少しはウチの商売もやりやすくなる」

 

いくつか簡易な質問をして、形式的な事情聴取を終える。

アリスと雑談をしていると襲っていた魔族たちが目を覚まし始める。

 

「うぅ、頭いてぇ……いったい何が」

「目覚めたか。お前たちは何度か会ったことがあるな」

「て、てめえは! 何度も何度もわけわかんねえこと説明しやがるやつじゃねえか!」

「またなんかわけわかんねえこと言いにきたのか!」

「わけわかんねえって何回も言ってんだろ!」

「……それをわかるように説明しようとしているのだが」

「クックック……わけわかんねえか、くっ、くふっ……」

「……何を笑っているんだ」

 

アリスは笑いのツボに入ったのか、堪えきれない声が漏れ出る。

その間もチンピラ魔族たちは口々に訳が分からない説明がどうのこうのとケイロンを非難する。

チンピラ魔族に生活するためには自治区か魔族管理局に行けと言い、合わせて制度の説明もしただけなのに何がわからないというのかと不満を表す。

 

「そりゃあ、お前。制度とか言ったってわかんねえだろ。こういうやつらはシンプルに自治区に行くか着いてくるかシバかれるか選べって言うんだよ。あとは行った先に丸投げだな」

「そんな無責任な」

「そんくらい単純でいいんだよ。忘れてるかもしんねえが魔族の大半は字も読めねえんだぜ?」

 

アリスと適当すぎる気のするアドバイスに従ってみたところ、話はすんなりと進んだ。

アリスからのアドバイスによればつまるところ、魔族というのは基本的に高度な教育を受けておらず、個人主義的なところから最初は攻撃的な態度を示すという。

それを突破して初めて、まともな会話が成立する環境ができあがるとのことだ。

最初から腰を低くして丁寧に接してもお互いの利益にはならないとのことだった。

ケイロンは、そこではじめて人によって接し方を変えなければならないこともあるという処世術を学んだ。

 

 

 

 

 

 

それから、度々アリスとは行動を共にするようになった。

アリスは自己防衛のための戦力と魔族由来の物質の売却先のコネを欲し、ケイロンは人と接するための術と魔族コミュニティの場所を欲した。

お互いの利益が一致したためだ。

そして何か月か経った頃に事件は起きた。

 

 

突如巻き起こる爆発。

管理局所有の軍用の大型トラックで人間側で買い集めた衣服や食料を満載し、魔族のコミュニティをいくつか回って捌く計画で移動していた時だ。

ろくに整備もされていないアスファルトが爆発し、熱でドロドロに溶けている。

爆発というよりも、一人の魔族が飛来してきてその場所で特性を発動したために起きた局所的な災害のような様相。

目の前には溶解した地面に佇む悪魔の化身のような者がいた。

 

「カハァアアアァアア。荷物置イテケェ」

 

手をトラックから逸れるように翳し、熱線を打ち出す。

トラックの数メートル横を通過するそれは途轍もない熱波を生み出し、二人に否応ない焦燥感を抱かせる。

 

「うわっちぃィ! ちょ、これどうすんだよ! 逃げるしかないんじゃねえのか!?」

「待ってほしい。もしかしたら古い知り合いかもしれない。少し時間をくれ」

「ああ!? こんな化け物みたいなやつにどうするってんだ!?」

 

ケイロンがトラックから降りるが、襲いに来た魔族が移動してケイロンに殴り掛かる。

 

「渡サナイナラブッ殺シテ奪ウ!」

 

まだどうするとも言っていないし渡すにしてもトラックから降りて逃げなければいけないというのに、降りたとたんに問答無用で攻撃されるとはどういった暴論がコイツの中でまかり通っているのかとアリスは思った。

ケイロンはどうやら上手く躱したようで、追撃が続いている。

 

「待て、話を、聞け、おいっ」

「モンドォムヨォオオオ!」

 

聞く耳を持たずに攻撃を繰り返す化け物。

しびれを切らしたのか次の攻撃の溜めを作る。

その隙にケイロンは距離を空けて会話のための空間を取ろうとする。

アリスは何があっても逃げ切れるよう、隠れて状況を伺う。

 

「オラァア!」

 

ただの振り降ろしの拳に特性である熱を纏わせただけの攻撃であるが、ただそれだけが触れただけで勝負が決まる大技となっている。

再び響く爆音。

超音波の特性で察知したアリスだからこそわかったが、ケイロンは自身の特性で熱を完全に遮断していた。

 

「ローレム、自分だ。覚えていないか?」

「誰ダテメエ!」

ローレムの猛攻が続く。

ケイロンはそれを確実に躱しながら説得を試みる。

 

「ケイロンだ、昔、『孤児院』で、おい、とりあえず、攻撃を止めろっ」

 

必殺級の攻撃を繰り出し続けるローレム。

話を聞いてもらえないとなればいよいよどうするかと思案し始めたところで、横から声がかかる。

 

「おねーちゃん! 待って! 攻撃を止めて!」

 

声の方を見れば、そこにも懐かしい顔があった。

 

「けーさん! 久しぶりぃ!」

「メリーか。良かった、無事だったッ」

 

メリーに声を掛けられたにも関わらず振りぬかれた拳はケイロンに直撃し、吹き飛びながら何度もバウンドする。

ローレムはそれに満足したのか魔獣化を解除し、メリーに声をかける。

 

「ん、メリー、危ないから待ってろって言っただろ」

「うわぁ、おねえちゃん……」

 

アリスはどうやってケイロンを回収して逃げるかを考える。

どうやら知り合いであるらしいことはもう一人の魔族の発言で分かったが、やられてしまったあとでは意味がない。

荷物は惜しいが、魔族の老廃物は元手がゼロだしそこからまた稼げばいい。

命あっての物種というのはアリスが一番理解していた。

 

「相変わらずだな、ローレム。危なかったぞ」

「け、けーさん。無事だったの? 怪我は?」

「ああ、何とか無傷だ」

「……おめー、もしかしてケイロンか? なんだよ初めから言えよ」

「最初からそう言っていたはずだが……」

 

けろりとしているケイロン。

アリスは出るべきかどうか迷ったが、もはやどうにでもなれと皆の前に姿を現す。

 

「えーと、話はついたってことでいいのか?」

「ああ、紹介しよう。この二人はローレムとメリー。昔からの顔なじみだ。ローレム、メリー。彼女はアリス。護衛をする傍ら、情報提供などをしてもらっている」

「あー、えーっと……ローレムってーともしかしてだが、『殲滅の狂炎』だったり?」

「ああ。そう呼ぶやつもいるな」

 

自慢げに肯定するローレム。

アリスはそれを聞いて密かに冷や汗を流す。

噂が本当であれば、なんとしても怒らせないようにしなければならない。

 

「それよりもケイロン。そのトラックの中身は食料だろ? ちょっと分けてくれよ」

「だそうだが、どうする」

 

自分に話を振るなと焦るアリス。

断れないことを態々聞くなと怒りたくなるが、そこで閃く。

あの『殲滅の狂炎』とまともに話ができる千載一遇の機会。逃すすべはないと。

 

「……えー、譲るのは吝かではないんだが、できれば羽の一部とか抜けた角とかと交換できれば……」

「あ゛?」

「いやいやいや、お譲りしますすみません!」

 

凄まれて慌ててケイロンの後ろに隠れるアリス。

 

「ローレム。紛争は終結し、奪うだけでは生きていけない時代になった。ここで、人間社会で生きていくための練習をするのはどうだろうか」

「なに難しいこと言ってんだ?」

「おねーちゃん、食料貰うためには何かと交換しなきゃだめなんだって」

「なんでそんな面倒なことしなきゃなんねーんだ? 奪った方がはえーじゃねーか」

「お、おねーちゃん」

「ローレム。奪おうというなら少なくとも自分とアリスを相手にしなければならない。仮に退けたとしても討伐のための部隊が編成される。君が捕まるまで何度もだ」

「それがどーした。今までと何も変わんねーじゃねーか」

「もはやそういう時代ではなくなったんだ。抵抗する魔族も少なくなってきた。君に割けるリソースは徐々に大きくなるぞ」

「それがどうしたっていうんだ!? ……そういえばお前とは本気で戦ったこと無かったなァ! あたしの強さ、確かめてみるかァア!」

「まてローレム。話し合いで解決しなければ君が不利になっていくだけだぞ」

 

ローレムは魔獣化の深度を上げながら特性を発動し、周囲の温度が急激に上昇する。

口から白煙を吐き出しながら徐々に戦闘態勢に移行していくローレム。

それに呼応するようにケイロンも魔獣化の深度を上げ、抵抗の意思を見せる。

アリスはローレムの威圧感に泣きそうになりながら全力で逃走経路の確認を行う。

 

「おねーちゃん! せっかくけーさんと再会できたのに戦うなんてやめて!」

 

メリーの怒声に飲まれたのか、ぽひゅーと気の抜けた音とともにローレムの魔獣化が解除されていく。

ケイロンも知る限り初めて聞くメリーの怒声にあっけにとられる。

 

「め、メリー。でも」

「でもじゃないよ! ちょっと羽とか渡すだけでいいって言ってくれてるのになんで文句いうの!」

「メリー、ごめん。わかったって」

「わかったじゃないよ! じゃあさいしょっから渡せばよかったんだよ!」

 

ぷりぷりと怒るメリー。

ローレムは初めてのことにたじたじになる。

 

 

 

一通り怒りを吐き出したメリーは自分の羽の一部とローレムの数枚の羽を食料と交換する。

再び再会を懐かしんで昔話に花を咲かせ、ケイロンは自分の連絡先を渡して二人と別れる。

 

「……なんか度胸ついた気がするわ」

「すまなかったな、昔馴染みが迷惑をかけて」

「あれに耐えれたらもうなんでもできる気がするぜ」

 

なにやら決心したような顔になるアリス。

それから二人はトラックに乗り込み、本来の目的であるコミュニティー巡回と勧誘を再開するのだった。

 

 

 

 

 

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