Counter of the earth   作:坂下 千陰

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前回の投稿から約1年……生きてます。番外編書こうとしたけど筆が進まず、普通に進めました。でもいつかは番外編書きたいです。


第十三話 turning point

 地球時間にして、4月13日午前7時5分。この時をもって日本主導の極秘任務が始まった。

 

「時間ぴったりとは行かなかったが、取り敢えず間に合いはしたな。総員、装備を整えた後は当初の予定通りーー」

 

 薬が入ったケースを懐にしまい、

 

「ーードイツ班と合流する」

 

「「「Yes,sir!」」」

 

 目の前に整列した7人の男女を前に、きびきびとした動作で指示を飛ばす。

 行動は迅速に。

 火星(ここ)奴等(テラフォーマー)の領土で、自分達は侵入者だ。奴等は害を与える以外の目的でアプローチは仕掛けてこない。

 

「イザベラ、お前は先に車に戻ってろ。俺は少しやる事がある」

 

「あ、うん……」

 

 イザベラも注射器をしまうと、脱出機へと向かって行った。何の疑問も抱かず素直に従ったという事は少なくともイザベラからは信用されているのだろう。

 

「ちょっと、よいっちゃん。あの子誰? まさか彼女? ちょっと、お姉さんにも紹介しなさいよ!」

 

「誰がよいっちゃんですか、言われなくとも紹介はしますよ。これからはドイツ班と行動を共にするんですから」

 

 気安い調子で話し掛けて来たのは、東洋系の顔立ちをしたポニーテールの若い女性。

 

 花町美桜(はなまちみお)

 

 艶のある黒髪、通った鼻筋、切れ長の目。一見美人だが、その軽い雰囲気と大雑把な性格で損をしている残念美人である。

 

「期待しているリアクションはそんなんじゃないんだけどなぁ。よいっちゃんのそう言う事務的なところ私嫌い」

 

「……花町さん、これは遊びじゃないんですよ。もう少し厳正な態度で臨んで下さい」

 

 怜悧な声を彼女に向けたのは、今度は欧米系の女性。ブロンドのセミロングにアイスブルーの目は、まるで銃に取り付けられたレーザーのように鋭く美桜を捉えていた。立ち居振る舞い全てに無駄がなく、有能な秘書を思わせるその女性はアメリカ軍からの派遣としてこの計画に参加している。

 日米合同の特別チーム『第0班(スカッド・ゼロ)」の副官。

 

 エマ=ライトフォード

 

「堅いなぁエマちゃんは。私の事は花町さんじゃなくて美桜ちゃんって呼んでよ」

 

 にやりと笑って全く動じる様子がない美桜に対し、溜息を吐くエマ。真反対の性格であるこの女性を、エマは特に苦手に思っていた。

 

「……時間が無いんです。さっさと始めましょう。エマ、損害は? 」

 

「はい。艦内に進入してきたテラフォーマーは7体。それぞれの無力化には成功。人的損害は0、また各員の薬及び装備も同様に無事ですが艦のメインエンジンの損壊が激しく、修復は不可能です」

 

「想定内だ、この艦はここで破棄する。持ち込んだ物資は運び出した後、艦内に爆薬を設置。ゴキブリ共に我々のテクノロジーを欠片も残すな。全てを5分で終わらせろ。状況開始! 」

 

 号令と同時に素早く動き出す7人。何が求められ、そして何を為すべきかを最短ルートで導き出す。それぞれ性格は様々だが、彼等は日米から選出された精鋭チーム。正しくプロフェッショナルである。

 

 きっかり5分後。

 

 空気を切り裂く轟音と爆炎が、艦を一瞬で包んだ。

 それはまるで狼煙。

 そして、それは人類側の明確な反撃の合図となる。

 

 

 

 

 

「……それでは約束通り此方の事情を話します」

 

 走行する脱出機の車内。外は、地球から持ち込んだ軽武装小型移動機『(ふくろう)』にそれぞれ乗って追従する0班のメンバーが固めている。与一は、横に副官のエマを従えた状態でアドルフの目を見据える。

 

「もう気付いていると思いますが、俺はこの班にわざと潜り込みました。それが、俺自身の任務に関わる事だったからです」

 

 与一に与えられた任務の内の1つ。『火星に置ける戦力のパワーバランスの調整』

 

「単刀直入に言うと、このアネックス計画には裏切り者が存在します。人類を救う為の計画を、自分達の利益の為だけに利用しようとする外道共が。そして、それが何国(どこ)かも大体は予測出来ています」

 

 与一に与えられた任務の内の1つ。『火星に置いて裏切り者となり得る班の監視、又はその粛清』

 

「我々は日本と米国が共同で戦闘に長けた(・・・・・・)人材を提供した特別チーム。正確には日米合同戦略的特殊行動部隊『第0班(スカッド・ゼロ)』。我々の目的は、アネックス計画を正しい方向へと戻す事です。貴方方には、これから我々と共同戦線を張ってもらいましょう。ーー裏切り者共を叩き潰す為に」

 

 それは提案と言うより、もはや強制。その言葉には有無を言わせぬ圧力があった。どんな手を使ってでも計画は遂行させなければならない。

 何としても救いたい女性(ヒト)がいる。その為だけに火星に来たのだ。

 

「……何故ドイツ班(俺達)なんだ? 」

 

日米側(我々)に少しでも有利な戦力が欲しい。特に貴方の特性(のうりょく)は貴重だ。制圧、戦闘能力共に申し分ない。任務遂行のためにも火星での生存確率は少しでも上げておきたい。ーーと言うのが建前です。本音を言えば、貴方方を死なせたくないんですよ。少なくとも避けられた筈の争いではね、ただでさえテラフォーマーだけでも厄介なのに、人間同士で足を引っ張り合うなんて馬鹿らしいとは思いませんか? 」

 

 一瞬の静寂。駆け引きも、腹の探り合いももう必要無い筈だ。

 

「馬鹿らしい、か。確かにそうだな。……良いだろう、お前達と同調しよう。此方としても戦力の増強は望ましい。それに、少なくともお前は裏切り者では無いようだ」

 

「御協力感謝します。とにかく今はアネックス本艦へ向かいます。恐らく、奴等はもう動き出す筈です。頃合を見るなら正に今だ。我々を火星でバラバラに引き離し、テラフォーマーを嗾け、疲弊させる事には成功した。だとすれば次に奴等が取る行動はーー」

 

班長(チーフ)!」

 

 与一の耳元の無線機に緊迫した声が入ると同時に、外を固めていた『(ふくろう)』の一機が煙を吹きながら墜落していった。

 

 突然の襲撃。こうなる事は予測済みだった。だからこそ護衛と索敵の意味を込めて、班員を外に置いていたのだ。

 問題なのは、その襲撃が全く見えなかった事(・・・・・・・・・)。予測に対応が追いつかなかった事。

 

「ジェイムスが撃墜()とされました!! 」

 

 襲撃者はヒュンッと鋭く空気を裂いて、急停止し空中に留まった。此方の様子を確かめるかのように。

 テラフォーマー。それは火星の脅威。奴等は人類同士の内輪揉めなど気には止めない。ただ殺す、須く殺す。

 

(はや)い……」

 

 従来のテラフォーマーにはありえない飛行能力。急襲してきたその個体は、一言で表すなら異形そのものだった。黒い甲皮には独特の斑模様が走り、空気を叩き重い音を発生させている巨大な羽はそもそもゴキブリには無い。無機質な目の代わりには複眼。異常に筋肉が発達したテラフォーマーもいたが、この個体は根本的に違っている。

 

「あれは20年前のバグズ2号計画のデータにあった。当時のクルーの1人『トシオ・ブライト』の手術ベースとなった生物、魔物の名を冠する昆虫……」

 

 急発進、急停止、ホバリング、急旋回。桁外れの飛行性能は、未だ人類が辿り着けない世界。食性は肉食、気性は獰猛。その名は、

 

鬼蜻蜓(オニヤンマ)か……、厄介なのが盗用(うば)われたな」

 

班長(チーフ)、行きますか? 」

 

 懐に手を入れたエマが臨戦態勢へと入る。

 

 後ろからは、停止した脱出機を目掛けて走ってくるテラフォーマーの集団。前には鬼蜻蜓のバグズ型テラフォーマー。鬼蜻蜓の速度にはこの機では到底対抗できない。

 

「数は凡そ100体程度、警戒すべきはあの鬼蜻蜓型テラフォーマー。向こうに逃がす気は無いなら、ここで叩くしか無い。それに--」

 

 車内から下を見て、苦笑いを浮かべる与一。そこには先程落とされた『梟』の残骸の横で、既に変態を終えているジェイムスがいた。

 

「無事か、ジェイムス」

 

「問題ありません、サー」

 

 額に青筋を浮かべ、全身を漆黒の装甲で覆った大男は向かってくるテラフォーマーの軍勢の前にただ立つ。

 

「エマ、服薬(つか)え」

 

 与一は、傍らのエマにそう伝え自らもカプセル型の変身薬を噛み砕く。

 

「総員、変態!! 」

 

「「「Sir,yes sir!! 」」」

 

 注射器、アンプル剤、パッチ、煙管。命令を受けた0班全員が即座に変態を始める。

 

「エマ、あの鬼蜻蜓を任せられるか? 」

 

「了解しました」

 

「アドルフさん達は車内で休息を兼ねて待機していて下さい。我々が出撃します。イザベラもいいな? 」

 

 完璧な迎撃態勢。0班は全員が軍隊、警察出身者で編成された特別チーム。戦闘に特化しているといっても良い。

 マーズランキングこそ非公式ながらそれぞれが上位15名と肩を並べる程の実力者達。

 

「敵の数は凡そ100体、不確定因子が1体。作戦コードは02、生け捕る必要は無い。纏めて殲滅(ころ)せ!! 」

 

「「「Sir,yes sir!! 」」」

 

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