Counter of the earth   作:坂下 千陰

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第八話 Go ahead

「……凄ぇ」

 

 外を眺めていた与一は、思わず感嘆の声をあげた。

 

 地に転がる無数のテラフォーマー。その中心に佇むのは、1人。

 正に電光石火の神業と言うべきか。気が付けば脱出機の周りを囲んでいたテラフォーマーは全て倒されていた。

 

 ーー圧倒的なその力。

 

 対多数戦に特化した彼の特性(のうりょく)は、(こと)制圧に関しては遺憾なく本領を発揮できる。

 

 これがドイツ・南米第5班班長。強将『アドルフ・ラインハルト』

 

 そこから少し離れた場所では、これも数体のテラフォーマーが身体を引き裂かれた状態で死んでいた。それを見下ろしながら首を曲げてストレッチを行う第5班の戦闘員『イザベラ・R・レオン』

 数10体もの害虫の王(ゴキブリ)を屠った後で、悠々と2人は機内に戻る。

 

 制圧の『アドルフ』と殲滅の『イザベラ』

 

 これがドイツ・南米第5班の精鋭の実力だった。

 

「良い子で待ってたか? 」

 

 帰ってきたイザベラはからかうように言う。

 

「よく観察()させてもらったよ」

 

 与一も一瞬だけにやりと笑ったが、真顔になってイザベラの目を真っ直ぐに見つめる。

 

「そして一つ、お前の欠点を見つけた」

 

「欠点? 」

 

 イザベラは小首を傾げ、その言葉を反芻した。

 

「お前の攻撃は直線的過ぎる。動きが単調で読み取りやすいんだ。奴ら(テラフォーマー)も馬鹿じゃないからな、直ぐに学習して有効な次の一手を打ち立ててくるぞ。……良いか? 真っ直ぐ()るだけが戦闘じゃない。騙し討ち、不意打ち、フェイント、使える手なら何でも使え。戦場じゃ卑怯もクソもない。勝った奴だけが正しいんだよ」

 

 敵は人間ではない。だから罪悪感を抱く必要も無い。

 要は害虫処理。

 ただそれだけだ。

 

「……あんた、丸で戦場を知ってるような口ぶりだね? 」

 

「さてね、ただ俺の技術は人殺しの上に成り立っているのは間違いない。何せ日本人が最も血生臭かった時代を、生き延びる(・・・・・)為だけに研鑽された物だからな」

 

 故に、もし敵がゴキブリだけでは無かった(・・・・・・・・・・・)時は手を汚すのは自分だけで良い。

 

「まぁ、それはさておき忠告したぞ。但し、基本的には命を大事に。危ないと思ったら直ぐ逃げろ。生きてりゃ勝ちだ」

 

「……与一、あんたって一体……? 」

 

 何者か、と聞きたいのだろう。

 

「…………………………………」

 

 

 その問いに与一は無言で薄く笑い、屋根ごしに上を見た。

 薄っすらと黒く染まりつつある空が拡がる。

 

 直に、火星に夜が来る。

 

 ーー夜には備えなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、分かった。悪いなアドルフ、世話になるよ」

 

「艦長、今の通信5班からっすよね? 」

 

「あぁ、与一は保護してるとさ」

 

 日米合同第一班の脱出機内で、今しがた通信を終えた小吉はマルコスの声に振り向き答えた。

 

「ったく、あの馬鹿野郎は火星にまで来て迷子になりやがって。ゴキブリにやられたのかと思ったじゃねえか 」

 

「だが、これはこれで少々まずいことになった」

 

「まずいこと……っすか? 」

 

「そうだ、ただでさえ5班は非戦闘員が多数を占めている。言っちゃなんだが、与一も元々サポート要員だからな。戦力としては見れない。となると、アドルフの負担が増すことになる。合流を急がなければ……」

 

「そう言やぁ、気になることがあるんですけど 」

 

「何だ? 」

 

 マルコスの問いに、小吉が先を促す。

 

「与一のベースって何なんすか? 艦長は戦力にならないって言いましたけどあいつ普通に戦闘訓練やってましたよね? 俺あいつとちょろっと組手しましたけど相当強かったっすよ、多分燈と同じくらいには」

 

「……そうだな、純粋な戦闘能力だけなら与一は幹部(おれら)にも近いところにいる。マルコスは弓術を知ってるか? 」

 

「ええ、弓を使う武術っすよね? アーチェリーみたいなもんでしょ? 」

 

「与一はそれの使い手だ。天才と言っていいレベルのな。あいつの学生時代はそりゃあ華々しいものだったぞ。スポーツ界であいつを知らない日本人はいないぐらいだった。まぁ、その後色々あって今は火星(ここ)に来ているが」

 

「ふぅ…ん、何か初めて聞きましたよ。あいつ自分の事は殆ど何も話さなかったですからね。それが何で戦力にならないんすか?」

 

 いつの間にか、一班のメンバー全員が小吉の方を向いていた。火星出発直前になって滑り込むように入ってきた与一の事が気になるのだろう。

 プロフィールだけ聞けば立派なものだが、絵に描いたようなエリートという“だけ”なら、そもそも命がけで火星(こんなところ)には来ない。

 

「あいつのベースは蜘蛛だ。だが、別段特別な能力や技術が有る訳じゃない。どこにでもいる地蜘蛛と呼ばれる生物、それにある事情でランキングは78位だ。いくら素体の能力が優れていようとも生身でゴキブリに正面切って殴りあう事は出来ん」

 

「それじゃあ、状況だけ見れば結構やばいって事ですよね? 」

 

「あぁ、……」

 

 僅かに立ち込める暗い雰囲気。しかし、次の瞬間にはあっさりと砕かれた。

 

「ーーま、大丈夫でしょ与一なら!」

 

 マルコスの一声が馬鹿に明るい。元気付ける為ではなく、本当に心からそう思っているのだ。

 与一の勝利を。他人に規定された序列は関係ない。所詮はただの数字。そんなもので実力が決まる訳ではないのだから。

 

「ふっ、そうだな。あいつなら負けないだろう。ーーさて、マルコス。お喋りはそろそろ終わりだ」

 

 ちらりと外を見る小吉。

 

「来ましたね。さっさと奴らぶっ飛ばして先を急ぎましょう」

 

 前方より、此方へ向かう黒い影が凡そ20。

 テラフォーマー。この星の害虫が襲って来た。

 

迎撃()るぞ、戦闘員は薬を使()て! 下位ランクの者は車の中に身を隠していろ!! 」

 

 注射器、ガム、フィルム、アンプル、煙管、粉薬。号令を受けた者達は、それぞれの薬を服用して自らの能力を解放する。

 

 戦闘態勢は整った。

 

 小吉は《オオスズメバチ》の針を出し、背後に控える数名に指示を出す。

 簡潔に、たった一言。

 

「ぶっ叩くぞ 」

 

 

 

 

 

 

 

 百発百中、必中必殺。

 

 黒峰与一の技術を評するならば、これらの言葉が当てはまるだろう。

 

 車中からの正確な狙撃により、あちこちでテラフォーマーが身を投げ出したように転がっている。

 

「食道下神経節破壊、サンプル10体捕獲完了」

 

 左腕に装備された小型のクロスボウから放たれた矢は、寸分違わずテラフォーマーの胸部に突き刺さり、続く爆発によってその動きを止めていた。

 

「前から気になってたんだけど、与一君って何で武器を持ってるの? 」

 

 後ろにいたエヴァがそう言った。他のドイツ班の面々も不思議そうに与一を見る。

 

「あぁ、それか。俺は元々後方支援要員としてこの計画に参加したからな。こいつが無かったら何も出来ない、生身で(テラフォーマー)らとやりあう訳にも行かないだろ? だから特例だってさ、己の技術を十分に発揮出来る事が条件なら、正にこいつは俺にぴったりだしな」

 

 だが。

 

「俺に出来るのはあくまで援護がメインだから、近接戦闘はイザベラ。お前に任せる」

 

 今しがた戦闘を終えて帰ってきたばかりのイザベラの肩を叩いた。

 アドルフはどちらかと言えば遠、中距離戦が得意な為、接近戦を担うのは必然的にイザベラということになる。

 

「ふふん、まあ任せなって。皆纏めてあたしが守ってやるよ! 」

 

 彼女は得意そうに胸を張って、ドイツ班のメンバーを見渡しあははと笑った。

 

「行くぞ」

 

 アドルフの操縦の元、脱出機が動き出した。

 先程、第2班から通信が入ったのが聞こえた。至急アネックス本艦へ向かって欲しいとの事。

 しかも、“ロシア”や“中国”よりも先に。

 

「流石ミッシェルさんだ。鋭いな」

 

 与一は、シートにもたれながら隣のイザベラには聞こえないようにぼそりと呟く。

 

 最も利益を得られるのは何処か。どの国よりも上に、どの国よりも先に。

 技術が欲しい、軍事力が欲しい、経済力が欲しい。各国の思惑が交錯するこの計画は、当然一枚岩では無い。

 人類全体の問題であるにも関わらず、結局は自分達の権益を考えるのが人間の常だ。

 

 だからこそ、与一が火星に投入(おく)られた。

 

 彼に与えられた任務の1つ。

『裏切り者になり得る班の監視、及びそれに対する粛清』。

 アネックス計画の足を引っ張るクソ野郎共を抹殺する日本陣営の工作員。

 

 それが黒峰与一。

 

 正義などと陳腐なものの為ではない。詰まる所は自分の為に、自らの姉を守る為に彼は日本政府の駒となった。殺戮特化のベースは、対テラフォーマーのみならず対人戦にも非常に有効。更に彼の持つ技術と合わせる事で強力無比な“力”と化す。

 

「……わっ、とと……」

 

 突然、急ブレーキがかかった。慣性の法則で与一の体がシートから浮く。

 

「何事ですか、アドルフ班長? 」

 

「……………………ついて来い」

 

 それだけ言って、脱出機を降りるアドルフ。与一も後に続いた。

 

「こいつは……… 」

 

 そこに広がる景色に目を見張る与一の隣で、アドルフは小型の通信機を取り出し報告を始めた。

 

「さっき言ってた中国ですが、全滅しています(・・・・・・・)

 

 眼前に横たわるのは、中国班のタグを付けた判別不能の焼死体。その数は17、中国班の人員と一致する。

 

「恐らくね、完全に焦げていて判別は尽きませんが見に付けているタグは第4班の物です」

 

 与一の後に降りてきたイザベラとエヴァも、驚きを隠せていない様子だった。

 しかし、怒りを滲ませつつも淡々と観察する者が1人。

 

「とうとう動き出しやがったな…………!! 」

 

 与一はぎりりと奥歯を噛み締め、低い声で唸った。額に薄っすらと青筋が浮かんでいる。

 脱出機に戻った後も、与一の静かな怒りは続く。

 

 加減は不要、情けは無用。一切の容赦無く障害は叩き潰す。

 

 その為だけに、彼は火星(ここ)にいるのだから。

 

 

 




一ヶ月以上放置していたにも関わらず、見捨てるどころかお気に入りに登録して下さった方がいました。非常に嬉しかったです、有難うございます!!
現在、中間テストを控えている身なので次も遅くなると思いますが、宜しくお付き合い下されば幸いですm(_ _)m
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