スタンク素人の娘にはあえて手を出さない説   作:柳亭アンディー

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1話 昔仲間だった女僧侶が追いかけて迫って来たらメイドリーちゃん無自覚嫉妬しちゃう説

 ここは食酒亭。様々な種族が集う酒場。

「いらっしゃいませー。お好きな席へどうぞ!」

 看板娘のメイドリーは、両手にトレイを持ち、忙しそうに羽を羽ばたかせながら、入店して来た女性に声をかける。

 彼女がカウンター席まで向かうさなか、店の喧騒は落ち着きを見せた。

 銀色で腰ほどまである髪、青い双眸、白い肌。年は若く、二十歳にも見えるが、少女と言っても差し支えない瑞々しさがマナからも感じ取れる。

 フラスパ教会の紋章が入った帽子を被っており、彼女の職業が僧侶であることは一目で分かる。

 青の修道服は既定のものであることが嘘かのように、まるで彼女のためにあるかのように、歩行と共に優美にはためく。

「お決まりになりましたらお声かけください!」

 メイドリーがそう言うと、僧侶は曖昧に頷いて、メニューに目を通した。

「すごく綺麗な人だっちゃ」

「冒険者なんスかねえ」

 客たちの話題は僧侶へ集中する。むろん女性の一般客も多く顔を出す酒場ではあるが、大衆向けと行った面が強い食酒亭にとって、彼女の存在は美しすぎた。

「あの、赤ワインをひとつ」

「かしこまりました! こちら突き出しになります!」

「ありがとうございます」

(うわ〜、間近で見るとほんと綺麗だな〜。こんな綺麗な人間見るの初めてかも)

 接客が仕事のメイドリーは、彼女の美貌に表面的に反応することはないにせよ、内心はその僧侶に見惚れていた。

(いつも見てる人間があんな感じだからかな。やっぱり人間もいろいろいるもんねえ……)

 彼女の「いつも見てる人間」については後述することとして。

「あの、給士さん。ひとつお聞きしたいことがあるのですが、少しよろしいですか?」

「ハイハイ、なんでしょう?」

 ワイングラスに赤ワインを注ぎながら、メイドリーが答える。

「実は私、人を探しておりまして」

「名前や特徴を言っていただければ、分かるかもです」

 このての質問をされることは珍しいことではなかった。多くの人が集まる場所だ。失せ物、人探しには都合がいい。

「はい。男性の冒険者なんですけど……年は30ほど。身長は180ほどで、剣の使い手です」

「ふむふむ」

「いつも明るくて、周りを盛り上げられて。強く、頼り甲斐があって、でも時には繊細な心も持つような……あ、ごめんなさい、こんな情報言っても、あまり参考にならないですよね」

 そう言って顔を赤くする僧侶を見て、メイドリーは同性ながら愛おしいと言う感情を覚えた。

「いえいえ、そんなこと! 好きなんですか? その人」

「あぅ……その……」

「ふふっ、ごめんなさい」

 メイドリーはワインの注がれたグラスを置いた。

「あ、ありがとうございます。そ、それで……長い髪を後ろに束ねていて、顔に傷があって……あと、タバコをよく吸ってます」

「ふむふむ……?」

「そして、名前が……」

 

「いようただいま皆の衆ッ! 今日もエッチだレビューがエロい!」

 

 最低な挨拶と共に食酒亭に入店して来たのは、僧侶とはまた別の意味で存在感と衆目に富む男と、その連れであった。

「スタンク……さん」

 僧侶は席から立ち上がっていた。青く宝石のような瞳を大きく広げ、スタンクを見つめていた。

「ひ、ヒーラか?」

「やっと……会えた」

 ヒーラ、とスタンクに呼ばれた僧侶はふらふらと立ち上がり、彼の元に近づいていく。

 そして、抱きついた。

「うおっ!?」

「何っ」

「おおっ」

「わわっ!」

「っ」

 カシャーン、と。カウンターの奥で、皿の割れる音がした。

 

 

 

「つまり、ヒーラさんが探していたのは、あいつなんですね」

「はい……」

 抱きついたのはその場の勢いもあったのだろう。ヒーラは恥ずかしさを誤魔化すように何度も赤ワインに口をつけ、真っ赤になっている顔を覆った。

 今、スタンクたちは食酒亭の女将と話をしている。

 元々、女将に頼まれた仕事から帰ってきたところなのだ。スタンクとヒーラの関係について、食酒亭の誰もが言及したいところであったが、先にそうしてしまうと収集が付かなくなることを懸念したメイドリーが、強引にそう誘導させた。

 ヒーラと話すのもメイドリーのみ。聞き耳を立てようとするものならば猛禽類のごとき鋭い眼光で牽制した。

「ええと……あいつとはどう言う関係なんですか?」

「それは、その……」

「えと、まさかとは思うけど……」

「そ、それはっ。メイドリーさんの思ってるような関係ではけしてないのでっ! ご安心をっ」

「ご安心をってのはよくわからないけれど」

 メイドリーは苛立っていた。しかしその原因は本人をしてよく分かっていなかった。

 ヒーラがスタンクに抱きついた時、皿を落としてしまったことと関係しているのかすらも、分からない。

 とにかく接客業に殉じる者として、(有翼)人として、苛立ちを表に出すわけにはいかない。

 メイドリーは努めて冷静に話そうとしていたが、彼女自身気づかぬうちに、語気が強まっていた。

「ただ、昔、冒険者として一緒に仕事をしていただけ……です」

「そんな感じには見えなかったけど」

「ほ、本当にそれだけです。それ以上は、何も」

 もはやヒーラが男性としてスタンクを好いている、それも相当な想いを持っていることは明らかだった。

「でもどうして? ヒーラさんの前でこんなこと言うのもあれだけど……あいつ、最低よ? レビューとか言っていやらしいお店行って。それも仕事だなんだって言って」

 スタンクとその仲間がそのような活動をしているのは有名な事実だ。探していて、知らないでいるとも思えない。

「そ、そうですよね。本当、最低な人です。正直、そういう所は嫌いです」

「そうよね?」

「ただ……彼のすることって……例えばそう言う行為をした相手に対しても、他の人に対しても……誰も、傷つけていないんですよね……」

「誰も……傷つけてない? でも、そう言うことを公言することに対して不快な思いをする人だっていますよ。現に私は普段からめちゃくちゃ不快な思いをしてます。すぐセクハラするし」

「そ、そうですよね……ごめんなさい。ちょっと私、周りが見えていないところがあったのかも……」

「あ、いや……私の方こそごめんなさい。ヒーラさんのこと詳し知りもしないのに……」

 話せば話すほど、なぜこんな良い娘がスタンクなんかに? と言う相反した感情が募っていく。

「メイドリーちゃん」

 聞き馴染んだ声に振り返ると、珍しく真面目な顔をしたスタンクがいた。

「ちょっとヒーラを借りていいか? 奥で二人で話したいんだが」

「……どーぞ」

 その眼光の鋭さに、いつものスタンクなら動揺するなり、からかうなりするところであったが、今日の彼は少し困った顔を浮かべるのみで、そんな反応が逆に、メイドリーの感情を逆撫でした。

「ヒーラ、こっちだ」

「は、はい」

 二人が二階席へ歩いて行ったあと、スタンクの後ろからついてきたクリムが、メイドリーの異常に気付き、声をかける。

「あ、あの、メイドリーさん、大丈夫ですか……?」

「大丈夫か、ですかって? なんで?」

「そ、それはその、怒ってらっしゃるように……見えたので……」

「怒ってる……そうね、怒ってるかも。あのバカが、あんな良い娘に手をかけたんじゃないかーとか、そう言うこと考えるとね……」

「そ、そうなんですね」

 クリムはそれ以上何も言えなかった。本当にそれだけで、今メイドリーが口にしたことだけで、それほどまでに苛立つのかという質問は、ぐっと飲み込んだ。

 

 

 

 閉店間際になって、二人は一階へ降りてきた。すでに片付けを始めているメイドリーに、ヒーラは声を掛ける。

「メイドリーさん、今日はありがとうございました。話し込んじゃってごめんなさい」

「ああ、いえ」

「それと、こちらの宿に泊まらせて頂きたく思いまして。今、クリムさんにそちらをお伝えして、準備して頂いてます」

「そうなんですね。ごゆっくり」

 作った笑顔を向けようとする。しかしそうすると、見たくもない顔が目に入るので、視線はホウキの先端に集中させたままだ。

「そ、それでは失礼します」

 ヒーラが酒場を出て行く。しばし、そのまま時が流れる。

「メイドリーちゃん」

「あんたも早く寝たら? 片付けで忙しいんだけど」

「ああいや、少し元気がないと思ってな。これから二人で一杯どうだい?」

「余計な気遣いいらないし、あんたからのものだと思うと余計いらない。今日は疲れたからさっさと寝たいの。だからあんたもさっさと寝る」

「……はいよ」

 扉の閉まる音が聞こえるなり、メイドリーは深くため息をついた。

 

 

 

 寝室。

 夜も更けた。ベッドの中で、メイドリーは悶々としていた。

(どうして私、こんなにイラついてるんだろ……)

 きっかけは、ヒーラがスタンクに抱きついた時。

 この苛立ちがヒーラに向けられたものなのか、スタンクに向けられたものなのか。後者であることが論理的に明らかなはずであるのだが、彼女の中に渦巻くものはもっとモヤモヤして、判断を鈍らせていた。

(あーもう、それにしてもなんでこんな時に……)

 下腹部で渦巻く、熱い熱情。それは有翼人の産卵期が近いことを示していた。

 通常の有翼人であれば、相手がいれば交尾をするか、相手がいないのであれば一人でそれを収める行為をする。しかしメイドリーは後者であるにもかかわらず、そういった行為を忌避していた。

 不潔。最低。

 いつもお下劣な笑顔を浮かべるレビュアーズのことを考えると、どうにもそんな印象がついて来てしまうのだった。

 そういった行為自体、公に出すものではない。しかし、全く行わないともなると、一匹の生物として欲求不満な状態になってくる。

 その性の公式を、メイドリーは知らなかった。現実世界の人間に分かりやすい言い方をするならば、適切な性教育を受けてこなかった。

「ん……ちゅぴっ……」

 情欲の中枢、総排泄口のそばに触れる。はじめは遠慮がちだった手つきも、快楽と共に激しくなる。

 不本意、不本意だ。ならいっそ、さっさと終わらせてしまおう。

 布団の中から水音が響く。

 まだ、足りない。

 慣れない手つきで胸を握りしめるが、違う。

 もっと鋭敏なところ。優しくて、くすぐったくて、からかわれるような……。

 探るように、手は首の裏に伸びていく。

 

「ふふふ…ここやろ? この後頭部の生え際付近やろ?」

 

「チュピっ!?」

 

 そこを撫でた瞬間、身体が跳ね上がり、嬌声が漏れた。

 その反応はメイドリー自身、予想していなかった。

(さ、最悪……最悪だわ……!)

 快楽を感じてしまったこと自体もそうだが、何より最悪なのは。

(どうして……どうしてあのバカのこと思い出してるのよ!? これじゃあまるで……私があいつを思い出しながら……)

 思考を止めようとする理性。しかし手は、もう一度その感覚を求めていた。

「チュ……ピィっ……!」

 かつて一度、例のスケベに触られた後頭部の生え際付近。

 ふざけたものだった。女性の性感帯にああも軽々しく触るだなんて。

(最悪……最悪……!)

 心の声に反して、下をいじる手つきは激しさを増す。

(あっ……やばっ……いっ、いくっ、)

 シーツをギュッと噛む。

 「最悪」な体験を、何度も反芻する、

(だ、だめっ……こ、こんな、こんなので、いっちゃったら、私、私……っ)

 だめ押しのように、首の裏を撫でる。それが、高まりに高まった下の快楽を解き放った。

 かつてない嬌声が、有翼人特有の鮮やかな音色で発せられた。

 シーツを噛み締めることで押し殺そうとしたが、ほとんど無駄だった。

 メイドリーは乱れていた布団を頭から被った。

(わ、私、今、めちゃくちゃ声出てた!?)

 食酒亭は木造建築だ。当然、大きな音を出すと隣に聞こえる。いや、有翼人のように通る声であれば、隣どころか。

(も、もし他の人に聞かれてたら。特にあいつなんかに聞かれてたら。私もう生きていられない……)

 恥ずかしさで布団の中で丸まる。

 そこでメイドリーは、スタンクがヒーラと共に二回席へ消えていったことを思い出した。

 すると、先ほどまでの興奮が急激に冷めていった。

(あの二人、今頃どっちかの部屋で、そういうことやったりしてるのかな……)

 想像してしまう。

(やだ……なんでこんな苦しいのよ……)

 枕元のティッシュで手のぬるつきを拭いながら、ああ、前にスタンクが言っていた、闇属性の攻撃を受けた時の、心が奈落に落ちる感じってこういうことなのだろうか、などと思う。

 

 

 

 

 時は遡り、スタンクとヒーラが食酒亭の二階に上がった頃。

 スタンクとヒーラが向かい合わせに座っているところ、クリムが赤ワインを二人の元へ置いた。

(なんだか、スタンクさん、いつもと雰囲気が……。例えば、セクハラなんて絶対しなさそうな感じ……?)

「いやあ、それにしてもしばらく見ないうちにまたオッパイ大きくなったんじゃないか? ヒーラ」

 ずっこけるクリム。

「ふふ、実は一段階サイズアップしたんですよ」

 クリムはまたもやずっこける。スタンクの顔を見る。いつものセクハラが通じず、動揺しているようにも見える。

 このままスタンクの知らない一面を見ていたいという思いもあったが、盗み聞きは良くない。クリムは静かに退散した。

「……あー、前いたパーティーでまだ活動してんのか?」

「いえ、少し前にやめました」

「ってことは、ソロでやってんのか?」

「はい。今日ここにきたのは……その、またスタンクさんとパーティーを組んでもらいたい……そう思って来たんです」

「悪いが、今は男としか組む気はないんだ。他当たってくれ」

「お願いします」

「いや、だからな」

「私、あれから強くなりました。賢者検定にも合格しました。回復魔法、補助魔法、攻撃魔法、全て使えます。スタンクさんほどではないにせよ、英雄級と呼ばれるほどまでなりました。絶対に、お役に立てると思います」

「……悪いが魔法役は足りてるんだ。仮にそいつよりお前の実力が上だとしても、俺はそいつと組み続ける」

「ど、どうしてですか?」

「いいか、ヒーラ。俺は今、冒険者だけで生計を立てているわけじゃない。スケベなお店のレビューを書くこともまた仕事なのだよ。お前だと、例えば任務終わりにレビューに行くってことができないだろ? そうなるとお前も気分良くないだろ?」

「それぐらい待てます! 気分悪くもなりません!」

「おいおい……考えてもみろ。俺がどこぞとも知らん女の子とキスした口でだ。お前に色々と話しかけるわけだぞ。いろんなことしてベタベタになった手で、お前に触ることもあるかもしれないんだぞ」

「それぐらい平気です。割り切れます。私だって、もう大人の女ですから!」

「ほーう? じゃあ俺が今からお前を自室にお持ち帰りして、好き放題しちゃっても大人の対応で返してくれるわけかい?」

「も……もちろん。す、スタンクさんがお望みであれば、わ、私、私なら」

 スタンクはため息をついた。なかなかに、しぶとかった。これだけ言えば、彼女のような純な女性であれば、ドン引きして、離れるのが普通だ。

(メイドリーちゃんの反応に慣れすぎていたな。どうしたもんか……)

「あの……スタンクさん」

「ん?」

「スタンクさんは、どうして、女性を避けるのですか? え、えっちなことが好きなら、仲良くするのが、常道なんじゃないかと、思うわけなのですが。だって、そっちの方が……」

 ヒーラはそこまで言って、流石に恥ずかしいのか、口をつぐむ。

「素人の女の子冒険者とパーティー組みまくって、仲良くして、ヤリたい放題。そっちの方が俺にとって幸せってか? 俺ももちろんそう思うぜ。だけどな!! なんでか知らんが、素人の女の子は全然俺を相手してくれないわけよ。さっき話してた有翼人種のメイドリーちゃんだってな、何度も誘ってるのに変態だのきもいだのと拒絶ばかりされて……」

「嘘です」

「いや、いや、いや。本当にモテねーんだって俺! それこそ金でも出さなきゃあ……」

「スタンクさんほどの冒険者がモテないなんて、さすがに無茶ありますよ」

 ヒーラの笑顔が怖い。

「私、なんとなく分かります。スタンクさんがあえて嫌われるような言動を取って、女性を遠ざける理由。本気になって傷ついて欲しくないから。ですよね?」

「いやいやいや! 買い被りすぎだって! 本気になって欲しくないのは確かだが、それは遊びに文句言われるのが面倒なだけ! 傷ついて欲しくないってほど殊勝な考えはしてねえよ!」

「スタンクさん。私も、もう少女って年じゃないんです。男の人が何を考えてるかぐらい、分かって来ました。いろんな女の子とえっちすること……ハーレムを作ること……それは人間に限らず、ほとんどの種族に共通する本能であること。特に、力のあるオスほど、それが強いこと。女の子の気持ちを、多少蔑ろにしてまでも、求めていること。でもそれは、責められるべきことでない。この世に生を受けた者として、当然のことです。これは私の推測ですが……スタンクさんはその本能を強く持っている。そして、それは抗うべきものではないことを知っている。けれど、それ以上に、優しいんです。女性を傷つけたくないんです。お店なら、お互い割り切った関係だから、相手を傷つけることもない。むしろ、喜ばせられる。幸せにできる。たくさんの女の子を、幸せにできる」

「ヒーラ……だからお前は俺を買い被りすぎなんだよ。俺はそんな大層な人間じゃ……」

「だったら」

 ヒーラはスタンクの手首を掴み、自分の胸に引き寄せた。ふにゅ、と、下着を介していれば有り得ない柔らかな感触。

「それを証明してください。私をレビューすることで」

 スタンクはもう片方の手で、ワインを飲み干した。そして、じっと、ヒーラの青い瞳を見つめる。スタンクの視線は強かった。人間として、男として、冒険者として、英雄レベルと呼ばれるほどの強さが、そこにはあった。そしてそれは、際限なく女性を惹きつける強さであった。

「……俺の負けだよ。それでいい。俺はお前の言う通りの、優男だ。だから、お前の要求には、答えられない」

 スタンクはスッと手を引いた。ヒーラは目を伏せた。

「あは、そう言うって……分かってました……スタンクさんなら」

 そして、にっこりと笑った。

「やっぱり好き」

「うぇっ?」

「スタンクさん、気づいてます? 私を拒絶するイコール、私の語った優男スタンクを認めることになってるんですよ」

「お、お前なあ! 本当に犯すぞ!?」

「えへへ……」

「何笑って……」

「スタンクさん、はっきり言っておきますね。私はあなたが好きです。大好きです。そうやってあえて自分が嫌われようとする優しいところも。人のことなんてお構いなしに好き放題やってるところも。いつも周りに笑顔でいて欲しいと思っているところも。そのためにピエロに徹することも。でもそれだけじゃなくてわがままなところも。全部全部、大好きです。パーティーに入れて欲しいのは本当ですが、本当の目的はもっと先……。私、スタンクさんとお付き合いしたいです。できれば、結婚を前提に」

「うっ……」

 スタンクにとって久しい感覚だった。甘く、底無し沼のようにずぶずぶと沈んでしまうような感覚。冒険者を続ける上で、スタンクの理想とする生き方をする上では、邪魔な感覚。

「まいったな……こんなエロオヤジのどこがいいんだか……。だが、まあ、それだけ言われて悪い気分はしねえよ。ありがとうな、ヒーラ。お前は、いい女だよ」

「えへへ……ありがとうございます♪」

 スタンクがタバコを吸おうとしたところ、ヒーラが魔法で火を点けた。

 煙をふかぶかと吐き出して、スタンクは自分に恋する少女をぼんやりと眺めていた。

 

 


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