恋愛は、押して押して押し倒して、折らせた方が勝ち
春。
それは出会いの季節だ。
真新しい制服に身を包んだピッカピカの新入生が、これから始まるスクールライフにドキドキワクワク胸を高鳴らせ、かたやピッカピカの上級生が、可愛い後輩ができることへの期待と不安に心臓をバクバクさせるのは、もはや風物詩である。
さらに思春期の男女なら、未来の彼氏彼女に想いを馳せることも少なくないだろう。ひと昔前には、勇気ある生徒が校舎の屋上から想い人に愛を叫びまくる大告白番組もあったくらいだ。一生のうち(留年しなければ) 3年しかない高校時代をキャッキャウフフして過ごす運命の相手()を探してしまうのも、ある意味仕方ない。
だから、かの名門・雄英高校ヒーロー科でも、ラブイベントが発生するのは仕方なくて。
「好きです」
愚直な愛の言葉。だからこそ、そこには紛れもない情熱が感じられる。
春の暖かい日差しと桜が舞う満点のシチュエーションでされた告白。辺りには甘酸っぱい空気と黄色い声援が溢れて───いない。
そう、いないんだ。
場の空気?甘酸っぱいどころか、まるでコンクリートを流し込んだようにガチガチに固まってるよ。いっそ重力さえ感じる。教室の誰一人動けてないよ。
黄色い声援?あの陽キャの代表みたいな上鳴くんと芦戸さんが口を一文字に引き結んで目をかっぴらいてるんだぞ。他の誰が口を開けると言うんだ。無理だよ。
一通り一般的な青春知識と現状の分析……もとい現実逃避をした僕に、それでも現実は容赦なく襲いかかってくる。
「好きです。結婚を前提に付き合ってください」
「…………あ゛?」
拝啓、お母さん。
僕の爆殺系ツンギレ幼馴染♂が、色黒スレンダー美女(入室時間:1分前)に、教室のど真ん中(朝のHR中)でプロポーズされています。
◇◇◇
ことの始まりは始業式を終えた1週間前にさかのぼる。
「「「アメリカからの編入生!!!???」」」
「そうだ」
相澤先生から知らされた突然のニュースに、元1-A……もとい無事に全員が進級できた2-Aの皆が驚きの声をあげる。
「B組に転科した心操のように、雄英は適正な能力のある学生の編入や転科を推奨している。それは外部───もちろん海外からやってくる者も例外じゃない」
去年は敵の侵入による厳戒態勢のせいで、ほとんど機能していなかったがな。
そう言うと、先生は黒板に1人の名前を書いた。
「編入生の名前は『
「「「女子!!」」」
「「うおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」」
麗日さん達A組女子が歓声をあげるのに被せて、峰田くんと上鳴くんが雄叫びをあげた。この2人の女子好きは周知の事実だけど、あからさますぎやしないか?峰田くんなんか「貴重な女成分、しかも外人……!やおよろっぱいを超えるボンキュッボンが……」とかブツブツ言ってるんだけど。女子の視線、特に八百万さんがゴミを見るような目をしてるんだけど。気づいて峰田くん……!
「峰田、黙らんと外に放り出すぞ。……本当は始業式に間に合うはずだったが、ビザの取得やらなんやらで手間取って、1週間後からの編入となった。寮の準備はお前らが学校にいる間、先立って業者が行う。勉学に関しては試験結果から問題なし、即日からお前らと同じ授業を受けてもらう」
「でも先生、交埜……さんは外人なんですよね?日本語の授業で大丈夫なんですか?」
「そうだよー!アイキャンノットスピークイングリッシュ!!」
尾白くんの心配そうな声に、葉隠さんがはわはわと身振り手振りでのっかる。2人の当然な質問に、問題ない、と先生はあっさり言った。
「家が日系で日常的に日本語も話していたらしい。会話は問題ない。ただ日本での生活は慣れないことも多いだろうから、特に女子はそこらへんをフォローしてやれ」
当然それからのクラスの話題は編入生……まだ見ぬ『交埜さん』の話で持ちきりだ。
「日系ってことは見た目はアジア人っぽいのかな?」
麗日さんがとてもワクワクした顔をしている。どうだろう、日系アメリカ人と言えばB組の角取さんが思い浮かぶけど、彼女はどちらかというとアメリカンな外見だ。
「どうかしら。もしかしたら『個性』で動物っぽいかもしれないわ」
「血に定められし姿……」
ケロケロと笑う梅雨ちゃんとその横で頷いている常闇くんは、先天性な個性寄りの姿を想像しているらしい。
「まー、どんな奴でも仲間が増えるのは嬉しいよな!な、爆豪!」
「あ?興味ねぇわ」
ニカっと満面の笑みで話しかけた切島くん……を秒で切り捨てたかっちゃん。正直予想してたけど、あまりにばっさりな態度に上鳴くん達からブーイングが飛ぶ。
「ええー、なんでだよ爆豪!女子だぞ女子!!」
「しかも外人だぞ?さすがにちょっとくらい興味あるだろ」
「ねぇわ。モブが1人2人増えたところでモブだろ」
「お前それでも健全な男子高校生かよ!!」
「……はっ、もしかしてその歳でもう枯れて」
「上等だボケクソゴラ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!てめぇらのもんこの先一生使えなくしてやらぁぁっっ!!!!!」
「「「ぎゃあああぁぁぁぁっっっ!!!!!」」」
教室の一角で爆音と盛大な火花が散る。はたから見れば大惨事だけど、A組ではこれが日常風景なので誰も心配しない。耳郎さんと芦戸さんなんか、ボソッと「爆豪もっとやっちゃえ」とか「不埒な輩はお灸をすえるべし!」とか言ってるし。
「でも切島さんの言う通り、どんな方でもクラスメイトが増えるのは嬉しいことですわ」
「その通りだ!しかも故郷を離れて日本に来たのなら、さぞ不安なことも多いだろう。僕たちが率先してフォローしてあげなければ!!」
学級委員らしく使命感に燃える八百万さんと飯田くん。かっちゃんの丸焼きクッキング(黒焦げ仕立て)をぼんやり眺めていた轟くんが、そうだな、と頷く。
「
「それは言っちゃだめだよ轟くん……」
それから1週間後。
相澤先生に連れられてやってきたのは……ちょっと普段お目にかかれないような、モデルみたいに綺麗な人だった。
身長は僕と同じくらいか少し高い。
なのに手足は驚くほどスラッとして長く、全体的に細くて、顔が小さい(あとで麗日さんに教えてもらったけど、いわゆる八頭身というやつらしい)。
緩くウェーブした黒髪に、口元には黒子が一つ。チョコレート色の肌と長い睫毛。そして、大きな金色の、猫みたいな目。
一瞬でほぼ皆の視線をかっさらった彼女は、教室に入るなり僕たちを見渡すように大きな目を動かして、ニッコリ笑った。「ヒョエッ」って上鳴くんが変な声あげてたけど気持ちはすごく分かる。眩しすぎて目が痛い。こちとら高校に入るまでまともに女子と絡むことなく筋肉モリモリのNo.1ヒーロー♂を追っかけてたオタクだぞ、美女の笑顔に耐性なんてあるわけないだろ。
彼女は笑ったまま、挨拶のために教卓の傍に立ち……止まらず通り過ぎると、こっちに向かってきた。………え??なんで!?相澤先生も「交埜?」って訝しんでるよ!!?
周りの困惑した空気なんて感じないように、彼女は迷いなく僕、の前の席に座っている生徒の真横に立った。
そう、唯一交埜さんに何のリアクションもしなかった、目線すら向けず眠そうに頬杖をついてるかっちゃんである。
「バクゴーカツキ」
「……あ?なんだてめぇ」
見ず知らずの他人から名前を呼ばれたかっちゃんは、誰もが怯えて逃げ出しそうな顔で横に立つ彼女を睨み上げた。掌から威嚇するように小さな爆発音が鳴る。
その手を、交埜さんはまったく躊躇うことなく、ぎゅっと両手で握った。頬を赤く染めながら。
教室の時間が止まった。
そして話は冒頭へ戻る。
◇◇◇
「アタシ、芦戸三奈!これからよろしく交埜ちゃん!」
「レアでいいですよ。アメリカでファーストネームの方が呼ばれ慣れてますから」
「じゃあレアも三奈って呼んで!」
「よろしくお願いします、ミナ」
「ケロケロ、私は蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」
「ツユチャン?」
「そう。よろしくねレアちゃん。あと敬語じゃなくていいわ」
「敬語はクセなので気にしないでください」
あの後、固まる僕たちが復活する前に、交埜さんは相澤先生に捕獲された。文字通りあの操縛布で引っつかまれ、教室の外に引きずられていった。だから2人がどんな話をしたのかは、誰も分からない。
分からないけど、数分と経たずに戻ってきた先生は「お前らのプライベートに首を突っ込むつもりはないが、くれぐれも、くれぐれも問題は起こすな。節度を守れ。何か起こる前にミッドナイトさんにでも相談しろ。いいな?」と、今まで見たことのない顔(瀬呂くんいわく、チベスナ顔というらしい)をしていた。何があったんですか。交埜さんは終始ニコニコしてた。怖い。
そんなことがあったから、皆彼女に話しかけるのを躊躇うかと思いきや、HRが終わった途端、女子が突撃していった。さすがである。でもそのおかげで、男子も徐々に混じって話すようになった。一部を除いて。
交埜さんの席は幸運にも(?)かっちゃんの対角になったので、あの告白以降、彼女はかっちゃんに何もアクションを起こしていないし、かっちゃんも近づかない。むしろ全力で「俺に近づいたら殺す」オーラを出して警戒しまくっている。僕?かっちゃんのオーラが怖すぎて、必然的に交埜さんの近くまで退避しました。胃がキリキリする……。
そんな僕の内心を知ってか知らずか、眼をキラキラさせた芦戸さんが、と・こ・ろ・で!と元気にぶっこんだ。
「レアのさっきの告白はマジなの!?爆豪のこと知ってたの!?なんで爆豪なのー!!??」
本当に容赦がないです。さすが日頃から恋バナに目がない恋愛番長(自称)。でも突っこむのはもうちょっと後にしてほしかった……!怖くて目を向けられないけど、切島くんが「やべぇ爆豪の血管が切れる」って言ってるよ……!
交埜さんは一瞬キョトンとして、また朝のようにニッコリ笑った。
「本当ですよ。カツキのこと大好きです」
「「「キャー!!!!!」」」
「勝手に名前で呼ぶんじゃねぇキチガイ女ァ!!」
女子の歓声が響き、ついに耐えられなくなったかっちゃんが、バンッ!と机を叩いて立ち上がった。ギリギリと音が鳴りそうなほど歯を噛みしめ、鬼の形相で交埜さんを睨んだ。正直100年の恋も冷めるというか、普通の女子が見れば、できるだけ関わりたくないだろう人相になってる。
でも当の彼女は、引くどころか笑顔をさらに輝かせた。
「名前はダメ?じゃあ
「全部却下に決まってんだろクソが!!何しれっと旦那呼びしてんだ!てめぇみたいなキチガイ死んでもごめんだわ!!!」
「あ、私はレアでも
「誰だコイツ会話は大丈夫っつったのは!??リスニングと人語の理解からやり直せや!!!!!」
カオスだ。絶叫するかっちゃんを切島くんがどうどうと落ち着かせる間に、瀬呂くんが口を挟んだ。
「いやでも本当になんで爆豪?初対面じゃないの?」
「きっかけは体育祭の映像見て……カッコイイなって」
「あー……黙ってればそこそこ良さげな顔だもんなぁ」
「戦ってる姿は派手でカッコイイもんねぇ」
芦戸さんもうんうん頷く。確かにかっちゃんの戦闘シーンは映像映えする。あれ、でも体育祭の最後って確か……
「戦ってる姿も良かったけど、表彰式の姿が1番ときめきました!!」
「「「なんで!!!???」」」
表彰式ってアレだよね!?拘束具で取り押さえられてた時の!!あの修羅の何にときめいたの!!??かっちゃんの顔を見て!ときめかれた本人もドン引きしてるよ!!
「レアちゃんは
「あれか?一周回ってゲテモノの方がおいしそうに見えるやつ」
「滅多にお目にかかれない珍味に惹かれちゃうみたいな?」
「それ口に入れた後に後悔するやつだろ。レアちゃん、考え直した方がいいぞ。爆豪は悪い奴じゃねーけど、性格はクソ下水煮込みだからな!」
「誰がゲテモノ珍味じゃゴラァアッ!!!」
皆の酷評に吠え、最後に余計な一言を言った上鳴くんの顔面を爆破したかっちゃんは、不愉快度マシマシな顔で交埜さんに指を突きつけた。
「とにかく!てめぇのふざけた告白に応える気はさらさらねぇ!!分かったら金輪際俺に関わんなや!!!」
「ふざけたつもりなんてないです。誠心誠意想いをこめた、一世一代の告白ですよ!」
「初対面のモブに、結婚を前提になんて言われて喜ぶ奴がいるか!!勝算なんぞ1ミリもねぇだろうが!!」
「だって
「ああ?」
ずっとかっちゃんを見ていた交埜さんは、またニッコリ笑って言った。
「恋愛は、押して押して押し倒して、折らせた方が勝ちなんだよって」
その笑顔が、なんというか……肉食獣が逃げ場を絶たれた獲物を目の前にした時みたいな感じで……。
顔を引きつらせたかっちゃんが、蚊の鳴くような声で「ババアと同じ人種だ……」と呟いていたのは、多分僕の気のせいじゃない。
こうして、編入1日目どころか1分でA組のちょっとヤバイ奴にランクインした交埜さんと、そんな人に惚れられたもっとヤバイ奴なかっちゃんと、その2人にぶん回される僕らのスクールライフが始まった。
あ、言い忘れていたけど。
これは僕の幼馴染と元クラスメイトが、紆余曲折を経て、ヒーロー界の「最恐おしどり夫婦」と呼ばれるまでの物語だ。
かっちゃんってほぼ光己さん似だけど、恋愛に関しては勝さんみたいに押される側な感じがする。あのお二人に教育されてるから、訓練とか勝負では容赦ないけど、普段は隠れフェミニストだったら面白い。
ちなみにレアがかっちゃんの手を握った時、怪我させないように爆破を止めていたという誰も気づかないだろう裏設定がありました。
◆プロフィール
交埜レア 「個性:???」
シカゴからやってきたロールキャベツ系女子。爆豪勝己が好き。
編入早々、クラスメイトからヤバイ奴認定され、想い人から「キチガイ女」の称号をもらった。実は日本のとあるヒーローが親戚。
爆豪勝己 「個性:爆破」
今回1番の被害者。そして今後も大体苦労する。
そこそこ告白されたことはあるけど、全部断って終わりだったのでお付き合い経験はゼロ。押せ押せどんどんなレアが母に似ててヤバイと気づいた。
緑谷出久 「個性:OFA」
2番目の被害者。A組の中では遠慮なく鋭いツッコミをすることが増えた。席が幼馴染の後ろなせいで、今後よく巻き込まれることになりそう。
ちなみに進級時に公平な席替え(くじ引き)をしたが、10年来の腐れ縁が仕事をした。
オリ個性は前から考えてたけど、最近酷似した個性を使う他作品を見つけてしまって、そのまま続きを書いていいか悩みどころ。
続きを書くとすれば、かっちゃんvsレアの戦闘訓練とかかな……。あと2人がくっついた後の小話。バレンタインとかプロヒ設定とか。
続きを書いてもOK?
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