爆豪勝己のお嫁さん(予定)   作:海底のくじら

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戦闘訓練編、終幕です。
最初の仕込みに気づいた人はいたでしょうか?

※ストーリーは変わりませんが、読み辛いと思った文は順次修正していきます。(6/9時点)


Act 4-2. あなただけのトクベツな愛称で呼びましょう(後編)

Aチームを保健室に送り届けたDチームが戻ってきた。

芦戸さんたちが2人に飛びついていく。

 

「レアジロ、おっかえりー!!!」

「呼び方」

「アルマジロか」

「皆スゴかったよ!!」

「最後の爆豪との一騎討ち、熱かったぜ!」

 

耳郎さんが頬を赤くして「そんなこと……」とジャックをもてあそぶ。交埜さんは隣で、どこか満足気に笑っていた。

 

「あの作戦を立てたのは、レアさんですか?まるでハリウッドみたいでしたわ」

「あはは、ありがとうございます。相手の動きを察知できるキョウカが相棒だったんで、ラッキーでした」

「轟の顔面に蹴り入れた時はビビったけどな」

「爆豪の腕折った時もな……」

「交埜さんって武術やってるの?動きがボクシングとか、カポエラに似てる気がしたんだけど」

「おおよその近接格闘は小さい頃からやってました。色々組み合わせて、今の形に落ち着いたところですね」

 

興奮冷めやらぬ僕らに、相澤先生が「静かにしろお前ら」と睨みをきかせる。

スッと静かになった皆を横目に、先生が耳郎さんに話しかけた。

 

「轟と爆豪の具合はどうだ?」

「轟は脳震盪でした。爆豪も骨折の他に頭部に打撲があるので、この授業いっぱいは念のために保健室で安静にさせるそうです」

「そうか。なら今回の講評は、授業後にお前らから伝えてやれ」

「「はい」」

 

さて、とオールマイトが仕切り直す。

 

「DチームはAチームより火力に欠けていたけど、与えられた条件や2人の手札、建物の構造などをフルに利用した作戦で勝利をつかんだのはお見事だった!特にAチームの有能さを分かっているからこそ、それを逆手に取って代わりに機密物を探させ、少ない時間の中で有利な環境を整えたのはGreatだ!」

 

接敵した時の耐久力が上がれば、さらに良いかな!と笑いながら2人の頭を撫でる。耳郎さんと交埜さんが頷いた。

 

「Dチームに何か質問はあるか?」

 

先生が僕らにそう呼びかけると、梅雨ちゃんが手を挙げた。

 

「轟ちゃんがレアちゃんを拘束して、爆豪ちゃんが下のフロアに行ったところなのだけど……レアちゃんの個性なら、爆豪ちゃんと自分を交換できたんじゃないかしら?」

 

それは確かに僕も思っていたことだ。交埜さんが最後にかっちゃんと自分を入れ替えていれば、そもそも耳郎さんが一騎討ちすることもなかっただろうに。

 

「それと、これは先生に質問なのだけれど、どうしてレアちゃんに個性の口止めをしていたのかしら?」

「ああ、口止めの理由だが……これは交埜の個性をもっと詳しく知ってからの方がいい」

 

交埜、と先生に促されて、彼女が話し始める。

 

「私の個性は、2つ以上の対象を入れ替える『交換(トレード)』です。発動条件は先ほど話した通りですが、リスクが対象のサイズと重さによって違います」

「リスク?」

「脳や視神経、認識を司る部分にかかる負荷のことです。負荷がかかりすぎると、頭痛や眩暈などが起こります」

 

そう言って、ウェストポーチからビー玉を取り出すと、僕らの目の前に掲げる。

 

「1番ローリスクなのは、サイズが小さく軽いもの。大きく、重くなるほどハイリスクになります。あとは数と移動距離も、増えるのに比例してリスクが上がります」

「なるほど、リスクが上がりすぎると体調不良で個性が発動できなくなるのか」

「不発ならまだいいんですけど。1番マズイのは、()()()()になることですね」

「中途半端?」

「対象を完全に交換しきれないんです。前に無理したら、うっかり()()()元の場所に置いてけぼりにしてしまって、大変な目に遭いました!」

 

運良く病院でくっつけられたんですけどねー、とお茶目に笑う彼女。

……いや、何ですかそのセルフスプラッタ体験!?サイコホラーもびっくりだよ!!皆も固まってますけど!

 

「そういうわけで、生物同士の交換は、確実に大丈夫と思った状態でしかやらないようにしてます。最後に私が自分とカツキを交換しなかったのは、直前にハイリスクの交換をしていて、中途半端になる危険性があったから。インターバルがあればやれましたが、今回は時間が少なくて無理だった、というわけです」

 

これでいいでしょうか、と言う彼女に頷いて、今度は相澤先生が話し出す。

 

「今の話を聞いて分かると思うが……交埜の個性は、ぶっちゃけ大して強くない。というか、条件やリスクに癖がありすぎて簡単に使えない。条件を満たしても、対象によっては全く役に立たないこともあるし、知ってしまえば対策を立てやすい。ロクなものが無い状態で、攻撃特化の敵と会ったりなんかしたら、普通は確実に()られるだろう」

 

他者に効果を依存する点においては、心操くんや物間くんと同じ。だけど、決まればほぼ勝ちな『洗脳』や、相手によって強力な能力を得られる『物真似』とは違って、『交換』は決定打も持続的な力も得ることはないのだ。

 

「だが今回の訓練では、純粋な戦闘力に劣るDチームが勝った。なぜだと思う?」

「……Aチームがレアちゃんの個性を知らなかったから、かしら?」

「それが1つ。他には?」

「……Dチームが、自分たちが有利になる状況を意図的に作った」

「常闇、正解だ。……お前らは不本意にも、派手な強個性の敵には慣れているが、交埜のように個性が分かりにくい、しかもそれ自体の強さに頼らない戦い方をする相手には、二手も三手も遅れている」

 

「だがヒーローは、ほとんど初対面の奴に、後手に回るのが基本。遣り手の敵であるほど、自分の情報は決して出さず、奥の手を何枚も隠しているものだ。今のお前らじゃ、そういう場面で何回か死ぬ」

 

ピシャリと言い放つ先生。オールマイトが続ける。

 

「それと、轟少年が機密物を考慮してビルを氷漬けにできなかったように、個性を使えない状況というのは必ずある。人質、環境、政治的要因……相澤くんの『抹消』のように、個性自体を阻害されたりね」

 

「そういう時、君たちはどうする?自分の最大の武器が使えない、その状態で、守るべきものが傷つけられそうになったら?」

 

微笑んでいるけれど、皆を見る彼の目は真剣だった。

その『個性』を使い果たして、今は一般市民以下の力しか持たない、元No.1ヒーロー。

 

「君たちは、それでも立ち向かおうとするんだろう。だからこそ、まだまだ色んなものが足りない!この1年かけて、個性の強さと使い方を底上げしてきたね。これからは、個性以外の強さと技術も模索して磨いてほしい」

「インターン先によっては、後輩も入ってくるだろうしな。ヒーローとして背負うものが、また1つ増えるってことを、ちゃんと覚えておけ」

 

ニヤリと笑う2人に、緩んでいた背筋がシャンと伸びた気がした。

 

「「「───はい!」」」

 

 

 

 

 

僕が()()に気づいたのは、講評の後、戦術について交埜さんに質問していた時だった。

 

例のごとく熱が入りすぎてブツブツムーブが止まらない僕を、他の皆はまたか……と気にすることなく訓練に戻っていく。そのせいで、皆と僕ら2人に少し距離ができていた。

 

「…………あれ?」

「どうしました?ミドリヤくん」

 

うつむいて勝手に呟きまくる僕にドン引くでもなく、並んで立っていた交埜さんが尋ねてきてくれた。

 

「個性の『生物を交換する』条件は、『事前に対象に触れておくこと』ですよね」

「ええ、そうです」

「でも交埜さん、轟くんと耳郎さんを交換するまで、轟くんに接触してませんでしたよね……?」

 

そうだ。よく考えれば、轟くんがビルに入ってから強制召喚されるまで、彼女はずっとかっちゃんがいる方の棟にいた。僕らがリアルタイムでモニターを確認していたんだから間違いない。

 

なら、どうして交埜さんは個性を発動できたんだ?

 

「触りましたよ?皆の前で」

「え?」

 

思わず顔を上げる。

 

 

「握手したでしょう?」

 

わざわざ味方(キョウカ)の手を握って見せたのに、カツキは釣れませんでしたけど。

 

 

「勘が良いんですねー、あの人。いや、単に握手が嫌だっただけかな?」

 

小さな呟きを、1度で理解できずに反復して。

ゾワ、と身体が震えた。

 

()()()()

この人は───いつから計算していた?

 

固まる僕を、ほんの少しの身長差で、交埜さんが見下ろす。

 

「ねぇ、ミドリヤくん」

 

ニコニコと。

かっちゃんたちに握手を求めた時のように。

 

「───ヒーローと敵に、よーいどん、なんて、ないですよね」

 

寒気すら感じるほどの美しい顔で。

彼女は終始、笑っていた。

 

 

◇◇◇

 

 

「やあやあ2人とも、調子はどうですか?」

「死ね!」

「元気そうですね!」

 

ヒーロースーツのままベッドに横たわる爆豪と轟にレアが声をかけると、ボンバーヘッドの方から秒で罵倒が飛んできた。担ぎ込まれるハメになった元凶にそんなこと言われたら、そりゃそうなるだろう。

 

授業終了後、ウチとレアは保健室に来ていた。切島たちも来たそうだったけど、大勢詰めかけるのは迷惑になるので、皆には先に帰ってもらっている。

 

男子に頼んでまとめてもらった荷物を渡し、ベッドカーテン越しに着替える2人に訓練の講評を伝えながら尋ねる。

 

「ウチもVTR観て改めて思ったけど……轟はモロに急所入ってたでしょ。大丈夫?」

「おお、もう目眩も震えもねぇから平気だ」

「正直、授業中は目を覚ませないくらいの気持ちで蹴ったんですけどね。まさか起きるとは思わなかったです」

「まぁ、どつかれるのは昔から慣れてるからな。多分、直撃は反射で微妙に避けたんだと思う」

「さすが……爆豪は腕折っても全然怯まないし」

「ったりめーだ!舐めてんのか!!」

 

シャッ、とカーテンを開けて、着替え終わった爆豪が吠える。

 

「舐めてませんよ。だから謝りません」

「ぁあ!?」

「あの時は2人とも敵でしたから」

 

失神させたことも折ったことも謝りません、ときっぱり言うレア。

その頭を、鬼の形相の爆豪がグワシッとつかむからギョッとした。割りこもうとしたけど、視線の先で轟が大丈夫だと首を振ったのでやめる。

 

「だから当たり前だっつってんだろうが!!あんだけガチでやっといて、んなこと言いやがったらぶっ飛ばしてたわ!!!」

「実戦と比べたら、むしろこんな怪我軽い方だろ」

「そもそもてめぇは何あっさりノされてやがる気絶野郎!」

「悪りぃ」

「……本当、さすがですねぇ」

 

ギャーギャー言い始めた男子2人に、レアが嬉しそうな顔になる。いや、アイアンクローされたままだけど大丈夫?砕かれない?

 

「ところで」

「あ゛ぁん!?」

 

「賭けのこと忘れてないですよね?」

 

ピタッとボンバーヘッドが止まった。

 

「ああ……爆豪に二言はねぇんだったか」

 

轟、アンタ爆豪の味方じゃないの?天然なの?

 

「……ねぇわ。好きに呼べばいいだろうが……」

 

声ちっっっさ。いや、まぁ気持ちは分かる。

 

皆忘れてるかもしれないけど、初対面の相手にプロポーズ(しかもHR中)したり、公衆の面前でその男の性癖を晒そうとしてるからね、この美女。……ホントにヤバイな?自業自得とはいえ同情する……。

 

「えへへ、色々考えたんですけどね〜」

 

ルンルンと音が付きそうなテンションの勝者(レア)生贄(爆豪)が処刑台に立たされたみたいな表情になった。

 

「ゼロ」

「あ゛?」

「カツキの呼び名。『ゼロ』はどうでしょう?」

 

思わず呆気にとられる。

なんか常闇が喜びそうだけど、案外普通?絶対ダーリンとか、高2の男子にはキツイものを出してくると思ったのに。

 

轟が、合点があったように尋ねた。

 

「『爆心地(グラウンド・ゼロ)』だからか?」

「それももちろんありますけど」

 

「『0(ゼロ)』は、1の前に唯一位置する非負整数でしょう。すべての値の基準値で、始まりの意味もある。無限の数の中で、正にも負にも分類されない絶対価値を持っている」

 

 

これって、No.1(オールマイト)を超えるカツキみたいじゃないですか?

 

 

爆豪が驚いたように目を見開く。

……何か言いたそうにモゴモゴしてるけど、嫌そうではないので援護してあげることにした。

 

「いいんじゃない?ウチは結構カッコいいと思うよ」

「あ!?」

「でしょう!?これ思いついた時は、我ながら Good job だと思いました!」

 

ムフー、と頬を赤くするレア。

 

「交埜、それ他の候補はあるのか?」

「あ、ゼロがどうしても嫌な場合は、My darling か My sweety(スウィーティー) になります」

「「!!?」」

「カツキもいいと思ったんですけど、ミドリヤくんやカミナリくんの『かっちゃん』に先越された感があって……」

「すうぃーてぃ、は女の呼び方じゃないのか?」

「いやカツキって何か色味がお菓子っぽくておいしそぉぃいいいたたたたただだだ!!」

「気色悪りぃこと言ってんじゃねぇクソキチガイ!!なんっで悪化しとんじゃボケェ!!!」

「ごめんなさいいだだだだだ!!ゼロで!ゼロ一択です!!」

「ちょっ、ミシミシいってるから!頭潰れちゃうから!」

「潰れろ!!!」

 

レアの頭がチンパンジーに握られた林檎みたいになりかけた時、パーテーションの向こうからリカバリーガールが顔を出した。

 

「うるっさいよアンタたち!そんなに元気ならさっさと帰りな!!」

「すみません!ほら、早く帰ろ!リカバリーガール、ありがとうございました」

 

 

慌てて保健室を出て、帰路を歩く。

少し先を行くレアは、傍らの爆豪にしきりに話しかけている。9割罵倒だけど、ボンバーヘッドもなんやかんや返事してるので、呼び名は『ゼロ』に決まったらしい。

 

「レアも物好きだよね……好感度0の爆豪に、なんであんなにグイグイいけるんだろ」

「いや、0ってわけじゃないと思うぞ」

「え?」

 

ひとり言に予想外の答えが返ってきて、思わず並んで歩いていた轟を見上げた。

 

「爆豪は、強い奴が好きだろ。特に、全力で真剣にかかってくる奴」

 

だから、割と交埜も可能性あるんじゃねぇか。

 

しれっと言われ、先行く2人に視線を戻す。相変わらずギャーギャーしてるけど、普通に隣を歩いている。訓練前はめっちゃ距離取りたがってたくせに。

 

半目で天をあおぐ。

 

神様お願いです。どうかこのキチガイ美女と爆殺野獣の痴話喧嘩に巻きこまないでください……!

 

 

 

 

 

それから十数年に渡って、神などいない、とボヤき続けることになるのは、また別のお話。

 




はぁぁぁ、無事終わりました戦闘訓練編!
GW前にPCが急逝され、他にも色々ありましたが、Act2 投稿後グッと増えたお気に入り数と感想に励まされました。誤字報告してくれた方も、ありがとうございます!

この訓練編では、
①ジロちゃんとのタッグ
②轟の顔面キック
③かっちゃんの腕ボキボキ
④かっちゃんのヒーローネームネタ
……が書きたかったので満足です。
特に④。公式で明らかになる前にやらねばと思ってたので。あと③でレアがかっちゃんに極めた技は、途中まである映画のシーンが元になってるので、多分本当に折れると思います。分かった人は挙手!

それとAct1でレアの経歴に触れましたが、正直ここに書くほどのものでもないので、知りたい方は感想お待ちしてます!

◆プロフィール

交埜レア 「個性:交換」
綺麗な薔薇にはトゲがあるどころじゃない。個性(物理)も個性(精神)も癖が強すぎる女子。
個性の特性上、ブラフやハメ技で相手を出し抜くスタイルが主。格闘も一通りできる。キチガイだがサイコパスではない。

爆豪勝己 「個性:爆破」
自分でうず高く積んだフラグを見事回収した。
普通自分の腕を躊躇いなく折った奴とか……でもかっちゃんは強い・折れない・本気の人が好きなので……うん。今回の訓練でレアの評価をちょっと見直す。チョr(爆散)

耳郎響香 「個性:イヤホンジャック」
今回の影の立役者。
この後、A組女子の中でもレアと結構仲良くなる。それゆえに2人の痴話喧嘩によく巻き込まれる苦労人。

轟焦凍 「個性:半冷半燃」
キング・オブ・不憫。まさか強制召喚された先で顔面蹴り抜かれるとは思わなかった。ごめん。
でもショートじゃなかったら、マジで授業中に目を覚ませなかった。
訓練後少しの間、レアが背後に立つとビクッとするようになる。

緑谷出久 「個性:OFA」
最後の最後でとんだホラー体験をするハメになった人。気づいても聞かなきゃよかったのにね。

補足すると、他にも握手がキーになったと気づいてる生徒は数人いる。その内9割は偶然の産物だと思ってる。残り1割は、薄々分かってるけど藪をつつかないようにしてる。

どれが読みたい?

  • 嫁の保護者(親戚)にご挨拶 ※ただし強制
  • ドキッ♡美人なあの子とあやしい放課後特訓
  • サポート課モブ子による秘密の勝レア実況録
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