超次元の青い監獄   作:門崎タッタ

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第十話

 

 フィールド内のスピーカーから試合開始を告げるホイッスルが鳴り響く。相手チームのFWがキックオフをして、勢い良くボールを蹴り出した。

 

「たまのりピエロ!」

 

 FWの中谷がボールの奪取を試みるが、味方からボールを受けた小柄な敵選手がサッカーボールの上に乗って玉乗りの様に移動するドリブル必殺技を放って軽々と抜き去った。

 

 ドリブル必殺技を使った小柄な敵選手は直ぐにボールを味方にパスする。どうやら、敵はボールが味方にある内にドリブル必殺技を用いてできるだけこちらの選手を抜き去り、点を決める戦法のようだ。

 相手も味方も本来であれば全員FWの選手なので、ドリブル技を使えばブロック技で止められることが無いと判断したのだろう。

 

 相手選手が薄ら笑いを浮かべながら俺の方を向いて切り込んでくる。恐らく、ドリブル技を使うつもりなのだろう。ブロック技を持たない俺に止める術は無い。一体どうすれば…。

 

「……アイスグランド」

 

 思わず足を止めて戸惑っている俺の後方から同じMFのポジションである吹雪の声が聞こえて来る。

 

 その瞬間、フィギュアスケートの選手の様に空中で回転した吹雪が着地した足元から氷が生まれ、薄ら笑いを浮かべていた選手を氷漬けにした。

 

「すげぇ…」

 

 華麗なブロック技で敵選手を止めた吹雪に対して、俺の口から不意に感嘆の言葉が漏れる。本職はFWなのにも関わらず、あんなかっこいいブロック技を持っていたのか。

 

「萩原君!」

 

 ボールを止められた敵選手が警戒した様子を見せながら、吹雪に詰め寄る。一人では抜けないと判断した吹雪はボールを俺にパスしようとする。

 

「へへっ、とろいんだよ!」

 

 しかし、そのパスは味方であるはずの捻挫野郎にカットされた。

 

「は!?おい、何やってんだよ!お前のポジションはDFの筈だろうが!」

 

「…此処では一番点を取った奴が勝つんだろ?俺があっという間に全員抜き去ってゴール決めてやるからよ、お前らは指加えて黙って見てな!」

 

 パスカットした捻挫野郎に対して俺が疑問を呈すると、捻挫野郎は自己中心的な言葉を叫んで、敵陣営に切り込もうとした。しかし…

 

「あッ!てめぇ!」

 

「…わかってんじゃねーか、捻挫野郎。それなら俺も一人で戦わせてもらうからな」

 

 自陣に戻っていた中谷が捻挫野郎の足元からボールを奪い取る。それに乗じた選手達が味方や敵関係なく、試合前に決めておいたフォーメーションなど知らぬと言わんばかりにお粗末なボールの奪い合いを始めた。

 

 俺は目の前で繰り広げられるお団子サッカーを茫然と見ながら呟く。

 

「こんなの、サッカーじゃない…」

 

 散々試合前に()()を剥き出せと絵心に言われたストライカーが、点を決めた(FW)が正義という青い監獄(ブルーロック)の常識の上で戦ったら、こんなにも醜いサッカーになるのか。

 

「お前らの頭で0から創り直すんだよ」という絵心の言葉が頭をよぎる。あいつの言葉はこんなお粗末なサッカーのことを指していたのか?

 

「ちょっくら、前を失礼」

 

 俺がそんな疑問を頭の中で反芻(はんすう)させていると、集団の中からまったく同じ顔をした三人の選手がボールを持って俺の前に飛び出してきた。

 

 突然の敵選手の強襲に反応できなかった俺は三人のコンビネーションの前にあっさりと抜かれてしまう。俺はその光景に強い既視感を覚えていた。 

 

「すまん、下鶴。抜かれたぁ!」

 

「…任せろ」

 

 律儀にDFのポジションを守っていた下鶴は三人に対して、ディフェンスを試みる。しかし、三人の卓越したパス回しの前になす術もなく抜かれてしまった。

 

「兄貴ぃ!」

 

 下鶴を振り抜いてボールを持った、全く同じ顔をした三人の中の七三分けの選手が上空にボールを強く蹴り出す。

 

「バック…トルネードォ!」

 

 そのボールに合わせて、全く同じ顔をした選手の中のモヒカン頭が足に青いエネルギーを纏いながら回転して飛び上がる。そして、空中でボールが足元に来た時、回転の勢いのままボールを強く蹴り落とした。

 

 青いエネルギーを纏ったボールに向かって、味方GKは必死で手を伸ばすが無情にも敵の放った必殺技は勢い良くゴールに突き刺さる。

 

「よっしゃあ、誰も俺達のことを止められないぜ!」

 

「流石俺達って感じじゃん!」

 

「ま、僕らにかかればこんな奴らひとひねりだね」

 

 初のゴールに喜ぶ彼等を見ながら俺は過去の記憶を思い起こす。

 …やっと、思い出すことが出来た。俺の記憶が定かならば、あいつらは豪炎寺と同じチームである木戸川清修の武方三兄弟だ。

 

「おい、キーパー!俺の足を引っ張んじゃねぇ!」

 

「やった事ないんだからしょうがないだろ…」

 

「落ち着け、取り敢えずまだ一点取られただけだからポジションを維持して…」

 

 点を取られたショックからか、味方陣営では責任の擦りつけが始まっている。下鶴が懸命に宥めているが、効果は薄いだろう。

 

「チームZ。試合を再開しなさい」

 

 スピーカーから試合の開始を促す無機質な絵心の声が聞こえる。

 結局、各自のポジションを守る事でチームZの話し合いは纏まり試合が再開した。中谷と捻挫野郎を始めとした味方選手達は頭に血が上っている。今、比較的冷静なのは俺以外では吹雪と下鶴くらいだろう。

 

 一先ず、武方三兄弟にボールを渡さなければ、まだ勝機はある筈だ。中谷からボールを受けた俺は吹雪にボールをパスしようとした。

 

「あ…」

 

「学習しろよ、バァーカ!」

 

 しかし、再度DFのポジションから上がってきた捻挫野郎にボールを奪われてしまう。

 

「おい、自分のポジション守れよ!」

 

「黙ってろ、カス!…完璧に理解したぜぇ、やっぱりこの一次試験は己の得点能力だけを追求する戦いだぁ!」

 

 勢い良くドリブルをする捻挫野郎。しかし、奴の前には以前とは打って変わって陣形をしっかり保っている敵チームの姿があった。

 

「ショボいな、貰ったぜ!」

 

 敵のスライディングで体制を崩された捻挫野郎から零れたボールは適切な距離を保って守備していたもう一人の敵選手の足元に転がる。

 …どうやら、先程の失敗から学習していないのは俺もそうだが、捻挫野郎も同様だったらしい。

 

「作戦通り、武方三兄弟にボールを渡すぞ!」

 

「…ああ!」

 

 敵選手が、武方三兄弟に向かってパスを出す。見るからに敵チームは武方三兄弟を中心として纏まり始めていた。…このままの状態では明らかにヤバイ。

 

「止めろォ!糞共!」

 

 ずっこけたままの体制で捻挫野郎は俺たちに指示をする。どう守備するか考えている俺は不意に吹雪の方を一瞥すると、「アイスグランド」をどのタイミングで放つか決めあぐねている様だった。

 

「あの三兄弟をマークしてくれ!」

 

 一先ず俺は大声でその場に硬直している味方選手達に向かって指示を飛ばす。俺の指示を聞いた味方選手はハッとした表情を浮かべながらもすぐに武方三兄弟のマークについた。

 

「おいおい、いいのか?俺達三兄弟にそんな人数で群がっても?」

 

 ニヒルな笑みを浮かべたニワトリ頭をした武方三兄弟の内の一人がゴール前にいる味方にパスを出す。

 

 ダメだ…。武方三兄弟を自由にさせると突破されるが、だからといって武方三兄弟の三人に大人数でマークすると…。

 

「よっしゃ、スペースガラ空き!」

 

 …他の敵選手達が自由(フリー)になってしまう。

 武方三兄弟の内の一人からパスを受けた敵選手の一人がフリーのゴールへと駆け出していく。

 

「ローリングキック!」

 

「止めろ!ゴールキーパー!」

 

 …中谷の叫びも虚しく、ゴールには敵の放った必殺シュートが突き刺さる。その光景を見た俺はその場に崩れ落ちた。

 

 

 武方三兄弟(あいつら)のせいだ…。あいつらのプレーがバラバラだったチームXを本当のチームにしたんだ。

 先程、俺達がやっていたお団子サッカーを0()とするならば…、正に武方三兄弟の連携プレーは…。

 

 

 0()ではなく1()…。

 

 

 あいつらの強烈な1(個性)が仲間の指針となり、その1()を中心に勝つための作戦が生まれて…。真のチームが生まれるんだ。

 もしも、これが絵心の言う「0からサッカーを創る」って言葉の意味ならば…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奴らに勝つために俺はいったいどうすればいいんだ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 かなり難産でした。試合描写が難しすぎる…。見辛かったら申し訳ないです。
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