陽炎は煌めけり   作:etis

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「ん?」

ある日、陽炎(かげろう)が提督の私室を訪れた時、それに目が止まった。

「なんでこんなものがここに?」

それは、机の上に無造作に置かれた女性物のリボンだった。提督は男性であるし、もちろん女装が趣味なわけでもない。なのになぜ?

コツコツと革靴の音を立てて机に近づいてリボンを取り上げる。

しげしげと眺め回すとどうやら裁縫の質も、生地もよいものらしく、高そうだ。ちょっと窓に向けて透かしてみると花の、細かな、そして美しい刺繍が入っている。

「むー……」

それをじっと見上げながら、声を上げる陽炎。

提督にホの字の艦娘、というのは、多いわけではないが、一定数いる。それはただ単に艦娘たちのいるところに来れるような男性が少ない、というか実質女子校みたいになっているせいだからじゃないかと薄々陽炎は思っているのだが。さておいて、意外なことに、彼女らに対し提督は全く応えようとはしない。

つまり、提督が誰か特定の艦娘を特別扱いするようなことは、めったにないのだ。例えば誕生日や異動、武功を上げたりすれば話は別だが、色恋でそうすることはない、はずである。飄々と(ひょうひょうと)空母や軽空母の方々に甘えに行っていたり、重巡の方々に耳かきや膝枕をせがんでいたり、軽巡洋艦に夜戦しようよなどと言って殴られたり、駆逐艦を突っついたりもするが、そこに特別な差は、逆にない。

「それにしても……ねえ?」

贈り物をするにしても、リボン……。

「なんというか、こういうとき青葉さんなら『青葉、見ちゃいました!』とか言うのかしら……」

ラブ臭がするわね……などと考えながら、リボンを机に戻す。

もとあったときのように、なにごともなかったように。

「あの提督が、ねえ?」

陽炎自身、提督に対しては特段の感情は持っていない、と思っている。もちろんそれは色恋での話であって、仕事上の上司と部下としては別である。陽炎は提督の尊敬に足るほどの思慮深さというものを一度魅せつけられたことがある。もちろん、それを台無しにするほどの日頃の怠惰な生活を見ているのだが。

「あんなん見て好きになるんだからみんな物好きよねえ……」

誰もいないのをいいことに机に体重をかける。浅く腰掛けると、こちこちと壁に掛けてある振り子時計の音が静かな昼前の提督の私室に響く。

陽炎は別に遊びにここに来たわけではない。担当の艦娘が私用でおらず、掃除当番を代わったのだ。

ちなみに、その報酬は間宮の最中だ。あんこもこしあん、つぶあん、くりあんと三種類それぞれ二つずつもらえるらしい。

さておき、部屋の主である提督だが、つい十分ほど前までここにいたが、服を着替えてすでに駅に向かっている。これから半日の出張に出るからだ。 帰ってくるのは明日の朝だ。

こういうときもしかしたら提督ラブ勢は服でも匂っちゃうのかしら、なんて思いながら、陽の光に舞う掃除中の部屋のほこりを眺める。ここは艦娘の寮なんかとは遠くはなれていて、近辺には掃除時間であっても人は少ない。時折、裏の焼却炉に用のある艦娘が通りがかるくらいだ。

ふと開きっぱなしにしてあるクローゼットの中の白いシャツが目に飛び込んできた。

男性の匂い、というのはどんなものだったろうか。父親の匂いを思い出し、そういえばタバコだったなと顔をしかめる。それと同時に、体温と手の大きさを思い出す。半ズボンの父に抱きかかえられて、ざらざらとした頬をなでた感触を思い出す。

ファザコンなのかしら。

まさか。

鼻で笑う。

空を仰いで、額に手を当てる。熱はない。

腰を浮かしてクローゼットに近づく。

周囲がぼやけるように視野が狭まる。

その手は、夢遊病のように、いや、実のところ自分の意志であることは確かにわかっているが、それを認めたくない。そして、認めたくないからごまかしていることもわかっている、クローゼットの中に。

冷え冷えとした白いシャツを、袖口からたどり、ハンガーをラックから外す。

ふと触れたラックの冷たさが、自分のやっていることへの背徳感と羞恥心を沸き立たせる。

ハンガーの首を持って、目の前にシャツを広げる。

「むー……」

頬が紅潮する。

あ、と思った瞬間にはシャツの首元に顔を近づけていた。

やってしまった。

匂いが、視覚に遅れてやってくる。そして、恥ずかしさも。

体温はさすがにもうない。けれど、汗の匂いがする。

それと、気づくか気づかないか程度の香水の匂い。

なんでこんなことをしているんだろうか、自問しても答えはない。

ただ、やってしまった。

猛烈な恥ずかしさだけがある。

そう思っていた瞬間には安らぎに満ちた心であることに自ら気づく。

どうしてだろうか。別に好きでもなんでもないはず。

これは、なんてことのない遊びだ。

横須賀鎮守府に来て、数ヶ月経った今でも、あの提督に対する評価は、態度は変わっていない。

私が、あの人を好きになるなんて、ありえない。

 

ホントに?

 

陽炎は自らの心臓が音を立てたことに驚いた。

最初の頃とくらべて、ホントに同じ?

違う、と陽炎は思った。全然違う、と。

思い出したくもない。よくよく考えなくても、彼のことを好きになる原因はいくらでもあった。彼のお陰で今の仲間に会えたし、その仲間たちも、そして自分自身も何度も助けてもらった。

そのくせ、彼はそれを全く見せようとしない。

ただのカッコつけだ。そう笑った。

本当は情けない人なのに。

彼は、当然だと笑った。俺はそのためにいる。カッコワルイ提督には戦争はできんよ。

吊り橋効果、ストックホルム症候群、なんだっていい。それでもいい。

だからどうした?

好きになってしまったことは、変えられないのだから。

と、そこまで頭が飛んだところで、扉が開く。

びくん、と飛び跳ねたところ後ろから声がかかる。

「かげ、ろう?」

そこには、駅に行ったはずの提督がいた。

「ししししししれい!?」

「指令、ですけど……、陽炎、なにしているんだ……?」と、そこまで言ってから提督は区切り、「俺の、シャツを抱えて……」と問う。

「え、えっと。あの、うーん」しどろもどろになってもごもごと口を開いては閉じ、開いては閉じ。その間にも抱きかかえたシャツはくしゃくしゃになっていく。

「み、見てたんです、か?」

「えーと、俺のシャツに顔をうずめている、の、を、かな?」

陽炎は崩れ落ちて、シャツが床に付くのにも構わず手を床につく。

重い溜息をついて、そう、言い訳を考えよう。いち、に、の、さん。起き上がればいつもの陽炎さん。頼れる駆逐隊嚮導(きょうどう)の陽炎さんになれる。提督にだってあたりさわりのない言い訳をしてこの場を切り抜けられるはずだ。がんばれ私。できるぞ私。これくらい、この鎮守府に来て初日、いきなり嚮導にされたあの境遇に比べれば。なんてことのないことだ。そう叱咤する。

ため息じゃなくて深呼吸を一回。大きく吸って。吐いて。

目線を上げて、立ち上がる。提督はこちらをじっと見つめている。

シャツを軽く手で払う。

大丈夫。大丈夫。もう平常心。

証拠に、シャツを払う手の動きだってよどみない。

全くもって心配いらない。

「陽炎、」

「ひゃい!?」

ダメでした。

内心飛び上がるような感覚を覚えながら、提督の方を見る。

「陽炎、えーと、ひとまず。俺は忘れ物を取りに来て、車を待たせている。……見なかったことにするぞ」

陽炎は提督の言葉に頷いた。シャツは未だに抱いたままだ。

提督も頷き返すと、机に近づいて、引き出しの中から取り出した書類を持っていたかばんに入れる。ふたりとも無言のまま、提督はかばんを閉じる。

気遣わしげな目線を陽炎にやりながら部屋の入口のほうにくると、陽炎のほうに向いて、こういった。

「じゃあ……留守を頼む」

「は、はい……」

提督がドアを閉じる。

陽炎は、今度こそ恥も外聞もなく床にへたり込み、呆然としている。

「……帰ってきたら、帰って来ちゃったら、どういう顔をすればいいのかしら……」

手を頬に当てると、熱くて、手の冷たさが際立つ。

陽炎は自分がなぜ自分が彼のことを好きでないと思っていたか、その理由を考えていた。

たぶん裏切りたくなかったんだろう。提督を好きになるなんて、駆逐隊のみんなにどう言えばいいんだ?

「私も女の子だったのねえ……」

艦娘であるし、提督なんてと思っていたし、なにより今は戦時なのだ。戦時だからといって恋愛をしてはいけないというわけではないが、いつ死ぬとも知れない陽炎と好き合うような人が、娑婆(しゃば)にいるとは思えなかった。そういうことから、自分は色恋沙汰とは遠いと思っていたが、全くのダークホースだ。

「いやんなっちゃうわ……」

本当に、駆逐隊の仲間になんと言えばいいんだろうか……。

 

 

その日の夕食後の談話室。

陽炎、皐月(さつき)長月(ながつき)(あられ)(うしお)(あけぼの)の、第十四駆逐隊のみなは木製のテーブルを囲み、思い思いの飲み物や手遊びをしながらお喋りに興じていた。

そんな中、陽炎は自分が持つ心情を正直に、いや、馬鹿正直に吐露した。

それなりの勇気を出した告白に対する反応は、淡白なものだった。

「ん? ああ、なんだ? 自覚してなかったのかい?」

あっさりと、皐月はそう答えた。

「は?」

呆れたような顔をして皐月が筋力トレーニング用のダンベルを上げ下ろししながら言う。

「いや、よく抑えこんで普通に応対しているもんだなあ、すごいなあと思ってたんだけど……」

長月が皐月の言を継ぐ。「まさか自覚していなかったとはな……」

「え、うそ、どういうことよそれ」対する陽炎は慌てたように説明を求める。

「いやあ……」

皐月は鼻の頭をかいて、「みんな知ってたよ? 陽炎が提督のこと好きなんだろうな―って。けどわざわざ確かめようなんてしないし、ねえ?」

うむうむと長月が頷く。

「それに、提督ラブ勢がおるだろ? それを考えるとなあ……」

「怖いもんねえ。金剛さんとかにバレたら……」

「想像したくもないな……。そのこともあって陽炎は隠しているものだと思っていたのだが」

「まさか、だな」

「ホント。潮もそう思うでしょ?」

話をふられた潮は、口に含んでいたお茶をこくりと飲み干すして、答えた。

「そうですねえ。薄々はそうなんじゃないかなあって思ってはいました」

ふわりと優しく笑いかける潮だが、今の陽炎にとっては意地悪な笑みにしか見えなかった。

「例えばですね」嬉々として潮は陽炎以外の皆に向かって聞く。「提督の私室の場所って知ってますか?」

「ふむ? 知らないな」と長月。

「しらなーい」と言いながら皐月が大仰に手を顔の前で振る。

黙ったままだった霰は陽炎と潮の視線を受けて、「しらない……」

最後に、こちらも不思議と黙ったままだった曙にお鉢が回る。

「……なによ」

じろりと睨めつけてくる。

「提督の私室のこと知ってる?」と陽炎は聞く。

曙はふんとそっぽを向いて、言った。

「ふん、知ってるわよ」

「そっかー、知らないかー」

陽炎はため息をついて、自分だけが提督の私室を知っているのか、その時点で全然違うのか、と思った。

だから、その次の瞬間に潮が発した、息を漏らしたような驚きの声に陽炎もびっくりしてしまった。

「え?」

信じられないような言葉を聞いたふうな潮に対して、曙が苛ついたようにまた叫んだ。

「だから、知ってるって言っているじゃない!」

その途端、各々が各々の最大級の驚嘆の感情を表す動作をしていたに違いない。

ごとり、と皐月が落としたダンベルが机に落ちる。傷がつかないといいけど。

潮は口に手を当てて目を見開いている。

長月も同じような顔をしている。こちらは大きく開いた口を抑えてもいないけれど。

霰はいつもの無表情に近い顔を崩壊させて、普通に驚いた顔をしているものだから、逆に面白くなってしまった。

そんな現実逃避はさておいて、曙に視線を戻す。

「ふん、知ってるわよ。知っててわるい?」

「いや、別にわるいとかじゃなくってね。曙ちゃん……」

潮がとりなすが、曙はそれを無視して言葉をつなげる。

「提督の部屋はね、この建物から出て、裏の山に近い建物に入って、そこから渡り廊下を通って行くのよ。知ってるわよ。なんども行ったしね!」

確かに、大体そのような経路だ。やけになっているのか知らないか、ひどく大雑把なものだが、間違ってはいない。

「陽炎、それは本当なのか?」

長月が聞いてくるのに、陽炎は頷く。

提督の部屋は一番近い建物からの出入口が焼却炉の近くのドアで、それは建物の裏なのだ。寮から一番近くて、行きやすい経路は、渡り廊下を使うことだ。

曙は不機嫌そうな顔で、そして面倒くさそうな声を隠そうともせずにこちらを見てきた。

「言っとくけどね。陽炎。私は提督の部屋は知って入るけど、そういうんじゃないからね」

陽炎は呆然とした顔のまま顔を縦にふる。

それを了解の意だと取ったのか、曙は話を続ける。

「…………あんまりいいたくないんだけどね。実は昔、あのクソ提督のことをはっ倒して、気絶させちゃったことがあるのよ」

苦虫を噛み潰したような顔をして曙が吐き捨てる。

「……ええっと。提督さんは大丈夫、だったんだよね」

おずおずと聞く潮に対して、曙は腕組をする。

「当然よ。あのクソ提督がそれくらいでどうにかなると思ってんの?」

「あ、あはは……」

「あのクソ提督のことだから、次の日には何事もなかったかのように歩いてたわ」

「うーん」と皐月が口をはさむ。「司令官が変な人だっていうのは僕も知っているんだけどさ、それと司令官の部屋がどうつながるの?」

「別に大した話じゃないわ。はっ倒したあと、見つかるとまずいから隠すために調べたってだけよ」

「調べた?」

「提督ラブ勢に聞いた」

「ああ……なるほど」と皐月。

皆が納得する。実のところ、提督ラブ勢のバイタリティにはみな、感嘆すると同時に、出来れば近づきたくはないという思いも抱いてはいるのだが、よくそんなことを直接聞いたものだ。

「まあ、そのせいで一時期勘違いもされたんだけどね。今回もそういうのはよしてよね」

曙が心底うるさがっているように言うものだから、陽炎は可笑しくなってしまった。

「分かった分かった」

「……その言い方、なんかむかつくわね」

「どう言えっていうのよ!」

「笑っているのが悪いのよ!」

「別にそんなのいいじゃない。曙が可愛かったんだもん」

「んなっ」

曙と陽炎の会話を潮がおろおろとしながら見守り、長月、皐月は苦笑しながら眺めている。霰は今では無表情だが、その目は優しい。

「あ、あんたねえ……」

「だってそうじゃない、ねえ潮?」

「ええ、曙ちゃんは、すっごく可愛い女の子です!」

「うぅ……。陽炎、あんたねえ……」

陽炎は曙をにやにやと眺めている。

曙は負け惜しみに陽炎に向かってこういった。

「ふん! あんたが提督に『可愛いよ』って言われたらどうするのかしらね!」

「えっ?」

陽炎は言われて想像する。

その中の提督と陽炎はなぜか(ねや)を共にしている。

薄暗い部屋の中、陽炎はスカートを脱ぎ、シャツをはだけて、ベッドの上に座り込んでいる。髪を結わえているリボンを、ゆっくりとほどくと、提督が思わずといったようにつぶやく。

『可愛いよ、陽炎……』

と、そこまで想像、というか妄想した陽炎ははっとなって現実に戻ってくる。

すると、そこには陽炎を見つめる五対の目。

「な、なによ」

「陽炎……。意外と、妄想逞しいのだな。印象が変わったよ……」

「そーそー」

「陽炎さん……」

「え、え? ええ?」

顔を真赤にしながら、陽炎はなぜそんなことを言われるのかわからないという顔をする。

そこに、霰がトドメを指す。

「……声に、出てた」

陽炎は霰のいうことを理解した瞬間、机に突っ伏した。

穴があれば入りたい。そこが砲火飛び交う鉄底海峡であっても、今この場から逃げられるならば喜んで行こう。

「…………不潔ね」

曙がボソリとつぶやいた言葉が、陽炎を叩きのめしたのだった。

もうやめて、私の体力はもうないのよ。そう叫びたいところだった。

頬が熱い。

「しかし、いいことなのではないか?」

ふと、長月が仕切りなおした。陽炎は突っ伏したまま話を聞くことにした。

「どういうこと?」と皐月。

「なに、陽炎はこっちに来てからずっと気を張っていただろう? 私達が不甲斐ないせいで最初は迷惑をかけ通しだったし、輸送船団の件で、どこぞの駆逐艦娘が協力的になった後だって、嚮導艦としての責務があった」

「うっ」と曙。「わ、わるかったわね。あの件は……」

「あっ、いや! 決して、そういう意味があったわけではないのだ! ……すまない、曙」

「ふ、ふん。わかってるわよ……」

あの事件を思い出しているのか、皆一様に沈黙する。

「あ、あの、それで……?」

その沈黙の中で口火を切ったのが潮だった。

「おお、そうだ。えっと、だな。つまり、陽炎は頑張ってきたのだから、ちょっとくらい色恋沙汰に手を出したところで、誰も文句は言わないし、どころか、いいことだと思うのだ」

皐月が元気よくそれに答える。「うーん、そうだねえ。僕達のために頑張ってきてくれたのはすっごくありがたいけど、今はもう少しわがままを言って欲しいって気もするな」

そこで陽炎は顔をあげる。

「直接僕達に関わることじゃないから、どうこうできるってわけでもないけど、できることなら手伝うよ!」

「うむ。そうだな」

「わ、私も手伝います!」

「……私も」

陽炎は、その言葉だけを聞くとなんとも頼もしいものだと感涙したくなるのに、と思いながら、薄ら笑みを浮かべる長月と皐月に向かって真意を問う。

「……で、本音は?」

2人は口をそろえて、「提督ラブ勢トトカルチョのため!」

「あんたらねえ……」大声を上げそうになるのをかろうじて抑える。

「ちなみに今現在の本命は愛宕(あたご)さん、対抗は金剛(こんごう)さん、大穴は曙だ」

「はあっ!?」ずっと視界の端でちびちびとお茶を飲んで、話にも入ってこなかった曙が烈火の如く皐月に噛み付く。

「なんであたしが入ってんのよ!?」

「いやー、なんでだろうねー」頭をかきながら皐月が韜晦(とうかい)している。

「いやあ、わからんなあ」長月が手を腰に当ててふんぞり返っている。

その2人が向き合って、「ねー」と言い合う。

「……そのトトカルチョ作ったバカを教えなさい……」

「ふっ、それはできんな」

「そんなことしたら、親の総取りになっちゃうじゃん」

「いや、あの。そもそもそんなことするのが悪いのでは……」

開き直った2人への潮のツッコミもスルーされる。曙はピリピリとした雰囲気を隠そうともしない。

「あんたら……。次の演習を覚えておきなさい、ボッコボコにしてやるわ……」

「望むところだ。なあ皐月?」

「うんうん。ここのところ遮二無二(しゃにむに)やるって気持ちが薄れていた気もするから、ちょうどいいね」

ニヤリと嫌な笑みを交わし合う三人。

やはりおろおろとその三人の間で目線をそわそわと行き来させる潮。

我関せずとお茶を飲む霰。

そして、陽炎は、次の演習が怖いなあと話題が自らのことから離れたのをいいことに傍観することにしたのだった。

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