○月,日
今朝、朝霧の残る道を走っている。あの神心会四連覇を阻止した少年を見掛けた。なぜか大型犬を担いでおり、ふつうのジョギングとは思えなかった。
私は日課のアニメ拳法の限界まで再現する。呼吸を整えながら集中しているとジロジロと観察するような視線を受け、後ろを見るために振り返ると少年が私の構えを真似るように立っていた。
ふむ、完璧な構え方だな。
とりあえず少年のことは無視しよう。
今は漫画の動きが感覚を掴めそうな臥王流を習得することだけを考えよう。
なにより私は二虎流の技術も含めて臥王流として扱っている。
まあ、こういうモノは熱狂的なファンからすれば邪道なんだろうな。なんて思いながらも二虎流"操流ノ型"「柳」と臥王流「柳」を合一する。
ゆったりと十数枚の落ち葉を振るう腕の中へ引き込むように動きの流れを操作すれば手のひらに落ち葉が集まってくる。
やはり、クセの強い技術だな。
○月ゑ日
また、あの少年を見掛けた。
私の構えを真似るのは良いけど。学校や家のことは良いのだろうか?そんなことを考えながらも金剛ノ型「不壊」を始めようとしたら「おばさん、俺と戦ろうぜ」と言われた。
いや、おばさんって年齢ではない。なにより初対面の相手と不純異性交遊を行うつもりもない。いろいろと困惑しながらも少年を見れば構えていた。
いきなり、上段回し蹴りが飛んできた。
私の態度が気に食わないのか。少年は少しだけムスッとしながら無形のラッシュを放ってきた。キックを往なし、軸足に踵を引っ掛け倒してやる。まだ、少年は戦おうとしてるけど。
まあ、いいや。
今日の会議は外せないし、さっさと帰ろう。
うしろで叫んでる声が聞こえてきたけど。そんなことより学生の本分は勉強だろ?なんて思いながらも少年の「俺と戦え」という慟哭を無視する。
第一、女性相手なのに上段回し蹴りは酷くないか?
○月∋日
最近、公園へ行くのは控えている。
あの少年を避けるためだ。
何処にでも居るようなOLを襲うような不良を避けるのは当然のことだ。友人曰く、公園だけでなく通勤のために使っている路地や通路まで待ち伏せしているそうだ。
私を狙う理由を考えても思い付かない。私の両親は資産家ではなく普通のサラリーマンと専業主婦だぞ。そんなことを考えていると無精髭のオッサンと気持ち悪いオッサンが公園で喧嘩していた。
まあ、私には関係ないことだ。
その場を去ろうとしたら「そこを動くなァッ!!」という怒鳴り声と共に気持ち悪いオッサンが飛んできそうな勢いで駆け寄ってくるのが見えた。
あの後、私は踵の折れたヒールを履いたまま玄関先で眠っていたらしい。たぶん、逃げ切ることは出来たんだろうけど。
うぅ、都会は怖い場所だ。
もう、いっそのこと会社の上司に転勤願いを出そうかと本気で考えてしまった。