俺のとっておき一発をブチ込もうとした瞬間、救急車の扉を開けて嬢ちゃんが加藤を連れて出てきやがった。あの目ぇ見るのは初めてだな。野獣並みに瞳孔が開ききり、白眼は黒く染まってやがる。
カラカラと車椅子を押す音がいやぁ~っに響き渡ってきやがる。ちょうど加藤が克巳や烈と横一列に並んだことを確認したのか。
嬢ちゃんは肌寒い風を防ぐために着ていたカーディガンを加藤に羽織るように重ね、次の瞬間には俺を通り越してドリアンを殴り飛ばしていた。
こいつァ…困ったことになりそうだ。
「ケホッ、加減間違えた」
「君か、そんな予感はしていた…ァアッッ!!!」
「黙れ、卑怯者」
速いなんてもんじゃねえッ!!
嬢ちゃんの突き出した手の先が見えなくなりやがった。人間の視覚じゃあ捉えきることが出来ねえ拳打を放つとなりゃあ、かなりの数の武芸者が嬢ちゃんに師事を仰ごうとする。
「破ァッ!!!」
「特注"阿修羅"」
いきなり、嬢ちゃんの威圧感が膨張しやがった。
それに、こりゃあ、ずいぶんと範馬勇次郎の威圧感と似てんじゃねえか。ドリアンへ精密機械のような拳撃と蹴撃の複合技を叩きつけ、間合いを開けるようにバックステップして俺の隣まで戻ってきた。
「特注"雷神"」
嬢ちゃんが瞬間移動みてえにドリアンの後ろへ移動した瞬間、ドリアンの分厚い胸板の真ん中に内出血が出てきやがった。
「特注"氷帝"」
お次は左手を中段へ落とし、独特のステップを刻みながら直突きを打ち始めた。
「馬鹿なッ!!あれは截拳道ではないか!!!」
「ジークンドーって、あのジークンドーか?」
俺の後ろで驚きの声をあげたのは意外にも"拳雄"烈海王だった。しかし、嬢ちゃんが武道家にしてビッグスターの考案した多種多様な格闘技の長所を取り入れた武術まで使えるとは恐れ入るぜ。
「特注"土俵の喧嘩屋"」
グンッと力士のように身体を屈め、コンクリートを踏み砕いて消えやがった。もう、嬢ちゃんは範馬勇次郎と大差ねえんじゃねえか?なんて考えながらもドリアンの土手っ腹に頭突きをブチかます嬢ちゃんが見えた。
「わ、わたじっがぁ!!」
「特注"魔槍"」
ドリアンの四肢の関節と喉元を狙った五度の貫手は正確無比としか言いようがねえな。なにより最後の決め技を空手に絞るたァ粋な計らいじゃねえか。
加藤、おめぇさんの女は武術ってヤツを理解する良い女じゃねえか。そして、あの手足に付着した血脂を振り払う仕草なんて俺と瓜二つじゃねえか。
「加藤君、やっちゃえ」
嬢ちゃんの澄んだ声が聴こえたのか。
今も意識のねえはずの加藤がフラフラと折れた脚でドリアンの前まで歩み続け、俺の教えた最初の空手を放とうとした瞬間、自分の命惜しさに敗北を認めやがった。
ほんっと死刑囚って奴らは最後の最後まで自分勝手なヤツしか居ねえんだな。
ちょっとだけ殺意に目覚めたオタク女でした。