ムサシを背負いながらいつもと違うコースを走っていると寂れた公園の真ん中で
ちょうど風に揺られて落ちる木の葉を腕の中へ巻き込むように誘導する異様な身体の使い方、それこそアマチュアの末堂さんとは比べ物にならない研鑽を積み重ねた技法なのは見ただけで分かった。
あの
気付けば次の日もあの女のことを考えていた。どんな流儀を用いて戦うんだろう。どんな技法を駆使するんだろう。どんな技術を使えば倒せるだろう。
そんなことを思考するばかりだ。
やっぱり、今日も型稽古をやっている。その動作を真似するように構え、肉体を支える四肢を一瞬だけ鋼のように硬化させたように見えた。
あの女の流儀は空手じゃない。
まだ、俺の知らない格闘技だ。
ゾワゾワとする心を抑えることが出来ず「おばさん、俺と戦ろうぜ」なんて言ってしまった。もし、もしも戦うことに応えてくれれば全力の姿を見ることが出来るッッ!!!
俺の予想と反して、あの女は無言を貫いている。それどころか型稽古を続けている。
「無視してんじゃねえぇ!!」
この一ヶ月間、ずっと研究してきた空手の技の中でも意識を刈り取るには申し分無い上段回し蹴りを放てば虫を払うように往なし、追撃しようとした俺を置いて小走りで公園の外へ行っちまった…。
「おい、待てよッ!!俺との決着がついてねぇだろうがッッ!!」
あの女を追い掛けようとした瞬間、ムサシの鳴く声が聞こえてきた。そろそろガッコーの時間なのは分かってる。それでも追い駆けて再戦を申し込みたい。
今度は、あなたをガッカリさせない───。
◆
あの日から三日ほど経過した頃だろうか?
じいちゃんと一緒に愚地館長の言伝てを伝えるために加藤さんの家を訪ねるとあの女が出迎えとして扉を開けた。まさか、加藤さんの恋人だとは思いもしなかった。
なぜか硬直しているあの女に話し掛けようとした瞬間、物凄い速度でベランダの手摺を乗り越えて飛び降りてしまった。加藤さんは「出勤時間だからじゃねえか?」とのことらしい。
あの女へ向かってじいちゃんの高級車に乗れば職場まで無駄な時間を浪費せずに過ごせると言っているのに、自転車を漕いでいる足を止めずに信号待ちしている高級車を置いて、あの女の勤めている会社へ行ってしまった。
ちょうど彼女のことを知っている加藤さんも高級車に乗車しているんだし、あの女の使っている流派について聞くことになった。
◆
また、三日ほど経過した頃だろうか?
じいちゃんの屋敷の一室で、あの女と正式な対面を果たすことができた。まあ、すぐに加藤さんの後ろに隠れちゃったけど。愚地館長は「こりゃまた、熱々だねえ」と加藤さん達を弄るようにカラカラと笑っている。
「お嬢さんや、バキと仕合おうてみんか?」
あの女の答えを聞く前に制服を脱ごうとした瞬間、あの女が両の手で顔を隠しながら耳まで真っ赤に染めていた。その反応を見て、梢江ちゃんも裸の俺を見たら顔を真っ赤にしていたことを思い出した。
さっさと制服を着直おすことにした。
◆
地上最強の男を決める地下闘技場───。
初の女性の格闘者の入場はスカートが捲れることを気にして叫んでいることが印象的だった。公園の時だって、加藤さんの家の時だって、あの女が叫ぶようなタイプじゃないと思っていた。
仕合開始のゴングが聴こえた瞬間、真っ白な布と左右から脳ミソを揺らす強烈な蹴りを頭部に叩き込まれていた。わずか五秒足らずでダウンするなんて考えてもみなかった。
たぶん、あの女は立ち上がろうとしている俺を見て驚いてるんだろうな。そんなことを考えながら立ち上がり、あの女を見れば深く頭を下げていた。
「もう、おうちに帰らせてください」
俺達はどっちが強いのか。それを確かめるために女の人を追い掛け、油断したところを付け狙うように監視していた。じいちゃん達をみると「いくら強くても女性」ということ忘れていたと後悔しているのが分かった。
なぜかオタク女をイジメているような感じになってしまった…。