◎月ж日
赤い髪の毛を逆立てるオッサンが会社の出入口付近に待ち構えているのが見えた。うん、今日は残業しようかな。今は残業したい気分なんだよね。
はあ、どうすればオッサンに見られずバレないように脱出することが出来るかな?屋上から屋上へ伝って別のビルから脱出するのもいいけど。
それでも堂々と正面玄関を出るしか自転車を回収する方法はない。給仕室の胡椒を軽くサランラップに包んだモノを手のひらに隠しながら玄関を出る。
うぇっふぃい、こっちに来るんですよね。
セイッと掛け声を叫びそうになる勢いで胡椒玉を叩きつけると鍵穴にキーを挿し込んで競技選手並みの漕ぎをおこなう。
やっぱり、明日は筋肉痛なんだろうな。
なんてことを考えていると自転車が進んでいないことに気付いた。恐る恐る振り返れば無数の青筋を剥き出しにしたオッサンが後輪を掴んで進むことを邪魔していた。
ちょ、あの、私ごと自転車を持ち上げるのはやめてもらえませんか?人の注目を浴びるのは苦手なんですけど。
◎月^日
いきなり、私を裏路地へ連れ込むなり服を引き裂いた半裸になるし、力任せなパンチで弾き飛ばされるとか聞いてないんですけど。
ひょっとして都会は野蛮な人しかいないの?
私だってわりと真剣に田舎へ帰ろうかと考え始めてるよ。あのオッサン、この前みたいに壁と壁を蹴って上がろうとすることを予想してたのか。
私を思いっきり地面に向かって殴り落とすし、入社した頃から使ってたスーツを千切り刻むし、人間として道徳とか持ち合わせてないのか。
うぅ、マジで怖かったよぉ……。
私のパンチもキックも防がずに受け止めるし、向こうのパンチは防いでも内臓を潰されたような感覚を味わうほどなのに、男女の筋肉繊維の密度は違うって聴いたことはあるよ?
それを知っていても桁違いすぎない?
あの後、なんとかマンホールの蓋をオッサンに叩き付けて逃げたけど。たぶん、違う。絶対、あのまま応戦してたら蹂躙されていた。
もう、好きなことを考えて忘れよう。
◎月㎜日
なぜか徳川さんの近くに座ることになった。
ここは闘技場を見るには最適の場所なんだろうけど。あのオッサンと視線を合わせてしまった。オッサンは「素晴らしい、今夜はメインディッシュを二つも喰せるとは」とか言ってる。
仕合開始のゴングを待たず奇襲を仕掛ける愚地さんには驚いたけど。私みたいなジャンプをし、愚地さんを叩き潰そうとする野蛮さにもドン引きしてしまう。あんな人達の戦いを見て興奮する観客にもビビりそうだ。
はあ、私だけ場違いすぎません?
もう、ダメです。
ほら、見てるだけで気持ち悪くなってきた。
漫画やアニメの格闘系は好きだよ?それでも本当にリアルは無理なんです。いや、だって、グロいじゃないですか。
ひぃっ、目玉が飛び出てるうぅ…。
えっ、うそ、心臓を止めたの?
ちょ、こっちを見ないでください。
徳川さん、なんで第2仕合とか叫んでるんですか?ぜったいに嫌ですよ、あんな怪物と戦うなんて無理なんですよ?嘘ですよね?マジで私が愚地さんを殺したオッサンと戦うんですか?
ひぃっ、笑顔が気持ち悪いよぉ……。
次回、オタク女VS地上最強の生物