\月◇日
薄味の病院食にも慣れてきた頃だろうか?
範馬君が病室へ入ってきた。
なんでも「地上最強の男」を決める大会を開催するため、コズエちゃんという女の子と観戦してほしいとのことだ。ははぁーん、範馬君も自分の彼女にはカッコいいところを見せたいってわけね。
まあ、私は療養中なんだよね。
そんなことを思いながらも「ざんねんだぁーっ、ほんとにざんねんだなぁーっ」と言っていると本部さんが車椅子を押しながら病室へ入ってきた。
おい、やめろ。
そんなモノには乗りたくない。
まだ、私は安心安全な療養生活を送りたいんだ。等と考えていると徳川さんが満面の笑みを浮かべて病室の扉の前に立っていた。
くっ、くそじじぃ……っ。
そんなに私をイジメるのが楽しいのか?愚地さんの無念を晴らしてくれとか言って私を謀り、逃げ場を無くすことでオッサンと戦わせたくせにお見舞い気分で地獄へ引きずり込む気なんですか?
\月⌒日
徳川さんはあらゆる分野の格闘技の達人をかき集めてきたと豪語しているが、オタクらしき人はひとりもいないんですけど。
えっ、社長も参加するの?
私の隣の席に座っているコズエちゃんに同僚と社長のどっちを応援すれば良いんだろうか?と聞いても無反応だった。範馬君のことを熱い眼差しで見詰めており、ここの雰囲気に呑まれて冷や汗を流しているのが分かった。
うん、まあ、私もビビってるけど。
そんなことを思いながらも出場者を眺めているとゾワゾワする視線を感じた。うぅ、あのオッサンの視線と同じものだ。たぶん、あの出場者の中の誰かの視線なんだろうけど。
私からすれば迷惑この上ない。
積もり積もっていた鬱憤を晴らすように心の中で愚痴を吐いていると徳川さんが「世界で二番目に強いヤツ」なる人のことを自分のように語っていた。
みんな、強そうな人ばかりだな。
ふと気付けば闘技場を照らす殆んどのスポットライト私に集まっていた。
いや、なんで?等と考えていると徳川さんが「彼女こそが愚地独歩を退けた範馬勇次郎を苦しめた『世界で二番目に強いヤツ』じゃああ!!」なんてことを叫んでいた。
えっ、これって嫌がらせなんですか?
\月√日
もう、田舎へ帰ろうかな。
都会の人間って危ない人しかいないんだ。ふつうの生活を送りたいだけなのに、あのオッサンは「私」を倒した人には褒美として戦ってやろうとか言っていたけど。
私は怪我人だって言ってるでしょうが…。
なんなの?そこまで人を陥れるのが楽しいんですか?範馬君のお父さんらしいですけど、他人の家庭内事情とか微塵も興味ないからね?私は関係無いことに関わりたくないんです。
ほら、強くても女ですからね?
あ、ちょ、社長だろうと同僚の剥いてくれたリンゴを食べるのはやめてください。いや、有給をもらえるのは嬉しいですけど。そんなメロンとかバナナとか貰うわけつもりはないですよ?
えっ、病院食は栄養不足を補うためには必要なモノだと思いますけど。すいません、脂っぽい食べ物は苦手なんです。
あ、私の外回りは先輩方が引き継いでくれるんですね。それは助かります。それじゃあ、社長も怪我には気を付けてくださいね。
まさか、お見舞品のフルーツ盛合せを食べ尽くして帰るとは思いもしなかった。いや、うん、あの体躯だから食べるとは想像してたけど。
ぜんぶ、食べるとは思わないでしょ?