では、どうぞ
統一暦1925年12月6日 正午
陸軍航空士官学校 食堂
「いやぁ、圧巻でしたなセレブリャコーフ少尉!流石は帝国が誇るエース部隊出身者!うちの馬鹿どもにもいい薬になったでしょう」
先ほどまでの動揺は嘘のように消え、大変上機嫌に副校長が言う。その横で、黙々と食事をしていたターニャたちは、それには答えず食事を見て言う。
「……………随分、料理が美味しいですね」
ポツリと、思わずと言った具合で出た言葉に、副校長は一瞬沈黙するが、すぐに笑顔で返す。
「これはこれは、ありがとうございます。まぁそれも軍隊の大事な要素ですからな………そう言えば、皇国食は食べた事がお有りでしたか?」
今更な質問である。が、ターニャ、ヴィーシャ共ににこりと頷く。
「ええ、着任する際に便乗させていただいた軍艦で、何度か頂いています」
「おお!そうでしたか。いやはやお二人ともその流暢な皇国語といい、皇国食への理解といい、素晴らしいものですなぁ」
感服しきったように、副校長が言う。階級ではターニャたちのはるか上、少将であるというのにこの腰の低さ。ターニャは少しばかり呆れてしまった。
………だが、それにしてもこの男の言う通り、ヴィーシャの皇国語には驚いた。別に習得はゆっくりでいいと言っていたが、何故かみるみるうちに上達し、今ではほとんど支障なく皇国語を操っている。
………まさか貴重な休暇を、休みもせず語学学習に充てていたのか?!な、何というワーカーホリック………いや確かに、暮らしている以上職務以外でも言葉が話せるのは重要だが、それにしてもこれは…………
流石は我が副官、万事完璧である。ターニャは感服しきってしまった。
「………ハクシュ!!うー、またです。最近くしゃみが多いんですよねー」
どんぶり飯を器用にも箸(!)で食べていたヴィーシャが、突然くしゃみをした。大丈夫だろうか?
「風邪か?無理するな。………とすると先ほどの模擬戦は悪いことをしたな。別に私が出てもまぁ良かったのだが…………」
「いえいえ!大丈夫ですよ少佐!特に体調も悪くはないですし、絶好調ですよ!」
…………まぁ、確かにそんなに食べれれば、なぁ。
「ううう、もう一杯、でも……最近食べ過ぎな気がするし………」
「……………流石にやめておけ、それ以上は」
だって、四杯目だよそれ?五杯食べるつもりなの?それは、あの……………
「ええ…………そ、そんなぁ」
潤んだ目でじっと見てくる。…………くっ、卑怯な!
「……………
「そ、そりゃあ………帝国の食事は…………その…………」
不味いですかそうですか。まぁ仕方あるまい。日本食には勝てんさ………そうでなくても代用品だらけだし。
………………はぁ、仕方あるまい。
「………分かった。だが今はそれで終わりにしておけ。その代わり酒保で何か買ってやるから」
途端に、
「はぁ、現金なやつだな。………そういう訳で、副校長閣下。僭越ながらこの後酒保の場所を教えていただきたく」
「ええ、無論構いませんよ。何なら私が案内しましょう!」
ええ……………それでいいのか副校長。
※
同年同日 同刻
陸軍航空士官学校 食堂
ターニャたちが和やかに(?)談笑していた一方で。
「……………ぐええ、血の味しかしねぇ」
「えれぇ勢いで叩き落とされたもんなぁ…………あ、歯が」
「くそぅ…………楽しそうにしやがって。こちとら飯半分だぞ」
別のテーブルでは、先ほど見事にぶっ飛ばされた
そこへ、もう一人馬鹿が追加される。
「…………よぉ、てめぇら」
ターニャに真っ先に噛みつき、呆気なく倒された男である。最後まで粘っていたのも彼だったが………
「…………くはははは!イカした顔になったじゃねぇか穴吹!」
穴吹、と呼ばれたその男。見ると、なるほどとんでもないことになっていた。
鼻にガーゼ、頭に包帯、両頬には絆創膏、まぶたは腫れ上がり、おそらくかなり見えづらいだろう。
一見すると、死にかけの重病人にしか見えない。しかも、先ほどまでの反骨心も叩き折られているようだ。
「……………ありゃあ、なんだ。上坊のおっさんでもあそこまでやばくねぇぞ」
ぽつりと、穴吹が言う。それに、ヴィーシャの洗礼を受けた面々が苦渋の顔で頷いた。
「…………あんな化けモンが、大使館附武官?おいおい、どんだけやべーんだよ帝国ってのは…………」
「あの二人いりゃ皇軍壊滅だろ…………なんてもん呼んだんだよ政府のアホは」
「あんな幼女いねぇよ…………帝国の作ったロボットじゃないのか?」
散々な言われようである。が、事実ターニャの“制裁”により、彼らの闘志がすっかり消えてしまったのも確かだった。
それを、打破するかのような大声が響いた。
「貴様らッッッッッッ!!それでも良いのか腑抜けのタマ無しめッッッッ!!あんな小娘どもに侮られたままでは、皇国男子末代までの大恥ぞッッッッ!!この溢れ出る皇国魂さえあれば、必ずや打ち勝てるのだッッッッッッ!!」
立ち上がり、眦を上げ叱咤激励する一人の学生。だが、それを見る目は冷ややかだった。
「なーに言ってんだこのアホは。訳のわからん精神論抜かすな黙ってろ」
「いの一番に堕とされた間抜けが、よくもまぁ偉そうに喋れんな。ぶち殺すぞ」
罵詈雑言の集中砲火。しかし彼は構わず続ける。
「黙れッッッッッ!!この敗北主義者どもッッッッ!!フフフだが諸君、まだ間に合うぞ?皇国魂を汚さずに済む方法が、まだ一つだけ!!」
されど仲間達は取り合わず、食器を片付け始めてしまった。が
「いいのか?!このまま負けたままで!!俺は知っているぞ、あの小娘を打ち倒す唯一の方法を!!」
ぴくり、と馬鹿達の耳が動いた。……………本当か?
風向きが変わったことを悟った扇動者は、ニヤリと勝者の笑みを浮かべる。
「…………ここは、場所が悪い。河岸を変えようじゃないか」
※
同年同日 午後
陸軍航空士官学校 練兵場脇
「……………それで?言ってもらうじゃねぇか。有るんだろ?上手い作戦とやらが」
誰もいない練兵場。その影で、コソコソと怪しげな男達が密談をしていた。
「ああ、無論さ。………戦術の基本だ、何も正面から馬鹿正直に突っ込む必要なぞないのさ」
「…………!まさか」
「ああ…………………側面への奇襲こそ、最適解だ」
…………………………それから数時間後
「うーむ、まさかとは思ったが、本当に我々も寮で寝る羽目になるとは」
「幼年学校を思い出します!」
確かに、帝国を思い出す………この皇国陸軍は、基本的に帝国の軍制度を模範としているため、寮の作りといい、いろいろ帝国に似ているのだ。
まぁ、ターニャにとってはだからなんだ程度の思いしかないが、ヴィーシャにとっては感慨深いものがあるのだろう。
「では消灯するぞ」
「はーい」
二人部屋である。副校長から平謝りされたが、別にターニャもヴィーシャも特に不満はなかった。たとえ二人部屋だったとしても、帝国時代よりはるかに上等な環境な訳であるし…………………
そして、二人は就寝する。
…………………………………
………………………
……………
……
「………おい、本当に大丈夫なんだろうな?!」
「何ィ?!貴様この期に及んで何を言うか!!」
「だ、だって…………これ、明らかにダメな奴だろ!!」
天井裏を、ひそひそ声でうろつく複数の影。無論、例の馬鹿達である。正確には、その中でも特に選抜された少数の
「………いよぉーーし、ここだ」
先頭を突き進んでいた扇動者、坂川智が言った。しかし、この後は一体どうするのだろうか?
「お前、まさかここを蹴破ってとか言い出すんじゃねぇだろうな」
「何馬鹿なこと言っているんだ。そんな訳ないだろ。……………これを、こうして」
取り出したのは、なんと千枚通し!
「…………おいこの馬鹿野郎」
「なんだ鼻血野郎」
「お前!!こんなもんあってどうすんだよ!!穴でも開ける気か!?」
「そうに決まってるだろ!!頭使えアホ!!」
「なんだとてめ」
どったんばったんおおさわぎ!………数分後
「…………………はぁ、はぁ、こんなくだらねぇことしてる場合じゃねぇぞ」
「そりゃ、そうだ……………よし、やるぞ」
そういって、坂川は静かに穴を開ける。嫌な沈黙が続き、全員の脂汗が大変な事になってきた時
「…………………っしゃ!開いたぞ!!」
そこから覗き込めば、なるほど確かに。………って
「……………これ、犯罪だろ」
「何を今更。そもそも俺はあんなクソガキ対象外だ。ただ、ぶちのめすのみ!!」
そう吐き捨て、坂川は宝珠に魔力を込める。憎き幼女を指差し………
「ふふふふふ………安心しな、殺しはしねぇ。もっとも、やった事ねぇから加減なんぞ分からんがな!」
「ちょ、おま」
「死ねェェェェェェェェェッ!!!!」
小規模の貫通術式が、ターニャ達に迫るッッ!どうなるターニャ、どうするターニャ!!
to be continued……………
待て次回!!というクソな引きでした。許して土下座
飯は…………少なくとも帝国の飯はヤバいと原作にしょっちゅう出てきますが、じゃあ皇国………というか戦前日本の軍隊ってどうだったんでしょうね?バリエーション豊富で、極めて豊かだったらしいですが。
あと、ヴィーシャ今回こんな感じですが、しかし米は食べれるのか?そりゃ食おうと思えば無理やりにでもいけるだろうけど…………
愉快な馬鹿達も、なんかこんな事になっています。当初はもっと良い感じにする筈だったんですが??あれ??
次話は…………なんか段々固定化されてきたが………………今日の深夜、あるいは明日になってすぐあたり、かな?
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